第1話⑤

 しかし、1人の影がまだ動いていた。


(……くそ、間に合わなかった、ヤマ、タロ、ニャミー、ミファー)


 俺はあいつがさっきより格段に強い魔法を唱えているのが見えた。が、それを止める空を飛んでいるため、魔法が届かなかった。


 しかし、完全に終わったと思ったのだろう。あいつは地上に降り、歩いて帰ろうとしていた。

 恐らくずっとは空を飛んでいられない、又はあの一撃を撃ったせいで魔力が無くなっているかのどっちかだ!

 一か八か負けたら死ぬ、逃げても死ぬ、生き残る為には勝つしかない!!


「………!!!」


 俺は無言で涙を流しながら、右手に魔力を乗せて全体重、全勢いを乗せた一撃を食らわせる。

 倒せないのは分かっている。

 でも少しだけは削った。


「何?まだ反乱軍が生き残っていたのか」

「………!!!」

「な、何だ、こいつは」


 マドリックは少し子供の俺を舐めていたのか、一方的に俺が攻撃を当てる。


「……くも

 …よくも!俺達の村を!」

「何だ、村の1つ壊されて何を……」

「黙れ!

 お前は俺の全部を、奪った!

 大切な家族を!親友を!全部!」


 俺は怒りに任せ攻撃を繰り返す。

 流石に感情むき出しの攻撃は途中からは読まれ始め上手く当たらない。

 しかしそこでさらに感情的にはならない。

 マドリックの攻撃はまだ本気ではない、落ち着いて全部完全に避ける。


「お前はここで死ね!!」


 俺が前に勢いよく飛び、上から下に叩き落とそうとするが、ようやく目が覚めたのか、マドリックはバックステップで攻撃を回避する。


 俺は勢いを止める事をしない。

 そのまま地面に拳が突き刺さり、衝撃波の様な物で地面を揺らす。


「身体強化!!」


 俺の才能、「強化魔法」しかしこれは普通の強化魔法とは

 似て非なるものだ。

 

 タロが俺に使ったのは一般的な身体強化で、肉体を強化して自分の最大値を出せる様にする魔法。(コリル村でよく見る術)

 言わば、力を100%出せる様になる。


 そして俺のは特殊な身体強化、強化と言っているが、実際は破壊だ。

 肉体に強烈な負荷をかける事で自分の「限界を引き上げる」魔法。

 100%を200にも300にもする才能の中でトップクラスに強い技で、唯一異世界人に自力対応が出来る最強の魔法と言われている。

 しかし、破壊と言うだけあって、ずっと強化出来るわけではない。

 時間が経てば、体が動かなくなる。


 俺で言えば5分が限界だ。

 だから5分で片付けなければならない。


「俺はアンダーマインを好いてはいない、だから無駄に勝てない相手には挑まなければ良いと思っていた

 それでも人には戦わなきゃいけない時が時がある……それは大切な人を奪われた時だ!!」


 足に力を入れると足から地面が壊れる。

 それ程までに強力で諸刃の魔法。

 

「おもしろい!!面白いぞ!

 初めて、戦っていて死を実感する、一体何者だ」

「黙れ」


 俺は瞬間移動したかの様な動きで一瞬にしてマドリックの目の前に到着そして、右手に魔力を込め渾身の一撃。

 

 内臓を破壊したが、あいつの回復魔法は異常だ。

 すぐに完治しやがった。

 倒すには即死攻撃しかないと言う事か


「ここで倒すには惜しい人間だ、下界にもこんな有力な者がいたとは、俺はマドリックだ

 この世界を統治する者、そしてお前が心底憎んでいる異世界人だ

 提案をしよう、飲んだら命は許してやろう

 俺の手下となれ!」

「ならない」


「では、俺も本気を出し、お前を倒さないとな!!」


 さっきまでの動きが嘘だったかの様に俺の移動速度よりも早く、マドリックは移動する。

 そして、爆発魔法を何発も撃ち続ける。

 しかし、避けながらで威力はあまりない為、俺は全て真正面から受ける。

 体から血が流れようとも関係ない、俺はただ、こいつを殺すと言う信念で動いている。



しかし、、、、


「ここまでだな」


 さっきまでの弱魔法は布石で次の一撃はかなり重い攻撃、そして俺はそれに気づかずモロに攻撃をくらい、倒れてしまう。

 

(……くそ、異世界人にはやはり届かないのか)


 三途の川が見える。

 その先には先に死んでいった俺の家族に親友がいた。

 焼け野原になった村も綺麗に復旧していた。


 俺を除いて楽しそうに遊んでいるのが見える。

 

(もう少しだ、もう少しで俺もそっちに、いく、から、な、)


 そう、俺が橋に一歩足を踏み入れた時、ピタッとみんなの遊んでいたのをやめ、橋の手前にヤマ達が立った。


「何やってんだ、カドラー、諦めるのか」

「カドお兄ちゃん、頑張って、まだこっちに来ちゃだめだよ」

「負けるな!俺達の英雄」

「カドお兄ちゃんは悪役だろ?」


 1人の少年が余計なことを言う。

 しかし、それをタロは跳ね返す。


「違うよ!カドお兄ちゃんは俺達のヒーローだよ

 絶対に負けない」

「……頑張れよ」

「それじゃあカドくんに聞こえないよ!

 頑張れ!って兄ちゃんも応援してるよ!」

「う、うるせー」


(……聞こえてるっての)


 俺はリコとロイドのやりとりに少し笑みをこぼす。


「ありがとう、私達の為にここまでしてくれて、大好きだよーー!!」


 エリの大きな可愛い声も聞こえてきた。

 その大きな声にみんなが呼応する様に


「頑張れーー!!!」


 幼く甲高い少女達の声に、少し声に変わりし始めた低い少年声が全て俺の所に届いた。




 そして、、近くにヤマの姿が見える。


「そう言うことだ、みんな応援してる

 俺からもだ、頑張れよ!ヒーロー!」


 俺はヤマの手を掴もうとするが一歩引かれてしまった。


「俺には触れないぞ」

「……そ、そうだな」


 少し恥ずかしくなったが、俺はみんなに見せる様に右手を握りしめて高々と上に突き上げる。

 最後まで戦い抜く。

 結果がどうであれ、後悔のない様に、みんなに誇れるお兄ちゃんになる為に!!

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