第1話③

コリル村の住民


「おーい、兄ちゃんずるい!

 それ僕のだよ」

「いいだろお前ばっかり食べ過ぎなんだよ」


 俺はカドラー・シュヴァルデン16歳田舎育ち。

 この村は平和だ。

 総人口は100人を下回る小さな村なお陰で皆んな仲がいい。

 俺もこの村で生まれ育ち、18になってからは本格的に親や叔父さん達の手伝いをしなければいけなくなるから、子供の中では俺が最年長だ。

 こう言う小競り合いも止めるのは俺の役割だ。


「どうしたんだ?リコ」

「兄ちゃんが僕の食べ物食べた」

「別にいいだろウチにあった物だ誰なってもんじゃねえんだから」

「そりゃ、そうだ……よし、俺がリコの欲しいもの買って来てやる

 だから泣くな、その後はヤマの家の方行って皆んなで遊ぼうぜ」


 俺は2人の間に入って肩を組んだ。

 俺はこの生活が大好きだ。

 この村の大人はみんな良い人でお金が無くても少しまけてくれたり、笑顔で子供が遊ぶのを見ている。

 うるさくてもあまり文句も言わずに、食べ物をくれる時だってある。


「うん!僕もエリちゃんに会いに行く!」

「ロイドも行くだろ?」

「……行く」


 ロイドも見た目は怖そうな感じだが、意外に遊びには積極的だし俺の事は聞いてくれるから何の問題も無い。

 平和な街だ。


 遊んでいると畑仕事してるおじさんや家の縁側に座ってニコニコしながらお茶を飲んでいる老夫婦もこちらを見ている。


「ちょっ、おい、そっちは言っちゃダメだ

 仕事してるから」


 追いかけっこで、エリが畑仕事をしてる敷地に入りそうになる。俺が言ってもこっち向いて余裕そうな表情だ。

 俺はそこで少し早く走って追いつこうとする。


「カドくん遅いよ〜」

「そこは使っちゃダメだって」


 俺が言ったのも束の間、畑に足を踏み入れてしまい、そして収穫時期も近いこともあってか、そこそこ怒られた。

 相手が子供だったおかげなのか、おじさんも我に帰ったらすぐに許してくれた。


 その後は俺の話もちゃんと聞いてくれた。

 元から聞いてくれれば泣く事もなかったのに、


「鬼ごっこはやめて、家の前で遊ぶか!」

「……うん!」


 ヤマの家の前でチャンバラごっこで遊んだ。

 俺はチャンバラごっこになるといつも敵役をやる羽目になる。


「えい!」

「とりゃ!」

「いやぁ!」


 子供達の振りは何とも可愛く、遅い。

 俺は一時期、都会に出向いて冒険者として活動した時期があった。

 そこで俺は頭角を見せ、たくさん声をかけられたが、全て断った。


「俺に一回でも当ててみな!」


 俺は悪役を徹底的に演じる。

 小さい子らは最初に向かって来たせいで疲れていた。すると次の強敵と戦う事になる。

 小さい子には手加減をしないと行けない疲れがあるが、こっちは真剣にやらないと人数も多いからすぐにやられてしまう。


「今回こそ負けないぞ!」

「みんな突撃ーーー!」

 

 俺からは魔法はできるだけ使わない様にしてあげる。

 一応この世界の人は魔力適正はあるが、この村では使えるノウハウを持つ人が全然おらず、最初の才能で覚えた1つのみしか使えない人が多い。

 

水球ウォーターボール!!」


 ワドラスという少年が魔法を使って来た。

 それを俺は空を舞い、避ける。

 

「ダメだ魔法使ったらあっちも使っちゃうだろーが」


 ロイドが怒る。

 それでもワドラスは水球ウォーターボールを使うのをやめない。

 相当練習していることが伺える。

 避け続ける事は容易く、等級も低い水魔法だが、精度の高い攻撃を撃ち続けている。


「使わないから大丈夫!」


 その言葉に反応したのか、ヤマが遂に動いた。


「何でそんな余裕なんだ?

 どうしてお前ばかり才能があるんだ!」

「うぉっ、どうした急に」


 何か琴線に触れてしまったのか、こっちの話を聞いてくれない。

 

「俺も少し前に出稼ぎに行った

 出身聞かれて、行ったらお前の名前ばかり!

 どうしてこの村にお前みたいな才能がいるんだよ…」


 この村では、若い男子は冒険者になって稼ぎに行くのが義務となっている。

 そこでヤマは俺のせいで余計な期待を持たれて勝手に幻滅されてすぐに帰って来た。

 それでも、この村では珍しい攻撃系の魔法を使える。


「本気で来いよ!

 周りの言ってたカドラーの力を見せてくれよ」


 そう言うと、残りの5人が一斉に俺に向かってくる。

 

「カドくんを倒すぞー!」

「ヤマが本気だ!」


「頑張れ〜ヤマちゃん」


 疲れも取れたのか、小さい子達はヤマの応援をしている。

 完全に俺は悪役って訳か、

 そうなったら俺も少しは本気を出さねばならん。


 俺はギアを上げる。

 さっきまでは悪らしく、堂々としていたけど、今は本気だ。

 しっかり、攻撃を極限まで引き付けて、伸び切ったタイミングで避ける。そして、カウンター。その動きはまるで悪役では無く、勇者の様に、


 綺麗に4人を片付け後はヤマ1人となった。

 

 すると諦めたかの様に、チャンバラを置いた。


「……ごめん、カッとなってさ、羨ましかったんだ

 俺は出稼ぎに行くタイミングでこの村から離れようと思ってたんだ」


 俺はその言葉を噛み締めて、とびきりのネタにした。


「おいおい、みんなヤマがこの村から出ようとしたんだってよ!ありえないよなわざわざ危ない方に行くなんて」

「えーヤマちゃんいなくなっちゃうの?」


 みんな声を揃えて驚いた感じ、だが、1人のヤマが良くしてる女の子が泣き出しそうな顔をしている。

 それを優しく撫で下ろす。


「大丈夫、俺はずっとここにいるから……安心していい」

「うん!ずっと一緒!」


 そう言って、女の子はヤマに飛びつき、それを持ち上げて抱き抱える。



 こんな平和が続けばいい、時に喧嘩もして、それでまた仲が深まって大人になったら静かに自分達の子供を見守る。

 そんな平和な日々が永遠に続いてくれれば良かった。

 


 突如として、平和な村に悪夢が訪れる。


「きゃーーーー!!!」

「逃げろ、火事だ!」


 

 少し離れた家が炎上していた。

 この村の家は全て木造建築、消火しないとすぐに燃え広がってしまう。

 しかし、少しずつでは無く、こんな一瞬にして燃え上がるなんて事があり得るのか?

 

 そんな事を考えている間に畑に燃え広がり、少しずつヤマの家に火が近づいてくる。


「僕が魔法で消火しに行ってくる!」


 さっき俺に水魔法を使った男子が火に向かって行った。


 俺はその瞬間に嫌な予感がした。

 急速に燃え上がる炎、そしてあいつの水魔法、どう考えても力不足だった。


「ダメだ!逃げて!」


 しかし、話を聞いてくれない。

 自分がやるしか無いと言う責任感なのか、水魔法を覚えてしまった者の使命なのか、食いつく様に水魔法を使う。

 少しは火も消えるものの、このペースでは消えるはずがなかった。


 そして更なる悪夢がまた訪れる。


 大きな音と共に、自分達がいた目の前が爆発した。

 そこには消火活動を頑張っていたワドラスがいたはずだ。

 爆発の煙が消えると、ワドラスの姿無かった。


 俺とヤマはその現状をただ見るしか出来なかった。


 ロイドに他の動けそうな子達の避難をさせ、俺達は何が出来るか、その場で考えていた。


「なあ、どういう事だよ、何だよ……あれ意味分かんない」

「でも間違い無い……あれは絶対に」


「「異世界人」」


 俺は空を飛んでいる人間の姿を見た。

 普通の人間は空を飛ぶなんて、出来るわけがない。

 しかし、異世界人は我々、人間とは違う生物だという事を知っている。

 人間には出来ない力は異世界人だと容易く出来てしまう。

 村を荒らすなんて、この世界の人間には出来ない、しかし、異世界人は無かったかの様に荒野にしてしまう。


 俺は何も出来なかった。

 ただここでみんなと生きていたいだけだったのに、子供達と笑っていたかっただけなのに、

 

「痛いよう」


 後ろで女の子が泣いている。

 大人達は自分の子供を守りたいが力が足りない。

 異世界人の前では目の前の自分のことで精一杯だ。仕方のない事、だから、預けられて任された俺が必ず守らなければならない!


「大丈夫!絶対俺が守ってやるから」

 

 また爆発が来た。

 俺はここに立ち止まっている人の前に立ち、防御魔法で周りを囲う。


 とてつもない威力、もう着弾しているのにまだ押されている。少しでも気を抜いたら破られてしまう。


「お、俺だって!」

「……ヤマ」

「もう爆発は弱まってる、これくらいなら俺でも大丈夫だ!

 このままじゃ少しずつ村が燃やされちまう

 この村のを守れるのはお前だけだ、だから行け!」

「それだと……」


 俺はこの爆発の威力をまだ感じている。

 ヤマでは到底防ぎきれない威力がまだ残っている事もわかっている。それなのにどうして、俺を向かわせるのか分からなかった。俺がここにいなくなったらヤマ達は死んでしまうのに。


「どうして、」

「どうしてじゃねえ!

 さっき逃げた人達はもう死んだ!

 生き残ってんのは俺達だけなんだよ」

「………!!!」

「もう、みんなで生きるとか言ってられる状況じゃねえ、そんな事言ったら、みんな死んじまう

 こいつらは俺に任せろ!

 だからお前だけでも、この村で1番強いお前なら一矢報いることが出来るじゃないか」


 しかもまた第二波が来た。

 これはさっきより弱い。


 そこで座り込んでた子供達が、俺に向かって、


「「カドお兄ちゃん、負けないで」」


 そう言って、ニャミーとミファー俺に回復魔法をかける。


「異世界人なんかに負けないでね!」


 タロは俺に身体強化魔法をかける。


「準備は……出来たな、カドラー、異世界人をぶっ殺してやれ、そして、この村を救ってくれ」


 ヤマは最後に俺の背中を叩く、俺は同時に防御魔法から外に出て、爆発を方向に走って行った。

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