幕間ー2

「艦長、まだ少し距離はありますが例の海賊たちが見えました」


「うむ、報告ご苦労。艦橋に上がるとしよう」


 コモエンティスと違い、自分と帝国に忠実な部下の報告を受けた私は、作戦が順調に実行されていることに満足しながら自室を後にした。


 艦橋に上がると、大いに不満があるといった顔のコモエンティスが敬礼してきたが無視する。


 そんなに不満があるのならば光導王国なり、私よりも上の立場の人間に全てぶちまけてしまえばよいものを、彼はだんまりを決め込むことにしたようだ。


 恐らく自分の将来を気にしてのことだろう。


 告げ口の様な真似をして、上層部からの心証を悪くしてしまえば、希望している本国への配属なんて夢のまた夢になってしまう。


 そもそも帝国臣民たる私ですらこんな僻地勤務なのだから、隷属民の血が半分でも流れる彼が私よりも先に本国へ配属されるなどあり得ないことだ。


 いや、絶対にあってはならないことだ。


 少々熱くなってしまった。


 今は非公式だが作戦行動中と言って差し支えないのだから、冷静にならなければ。


 今回の作戦はそれこそ本国へ戻る為に決行したのだから、失敗は許されない。


「誰か、双眼鏡を」


 予め言うのが分かっていたのか、気が利く部下がすぐさま双眼鏡を渡してくれた。


 やはり部下は有能な帝国臣民に限る。


 例え作戦の成否に関わらず本国へ帰れなかったとしても、隷属民との混血やそんな愚か者を慕う一部の馬鹿共は絶対に追い出して艦の乗員全てを帝国臣民にしたいものだ。


 まあ、焦らずともこの作戦が成功すればそれくらいの要望は上層部に聞き入れて貰えるだろうが。


 いや、それどころか、海賊共を騙す為に作戦成功の暁には光導王国の実権を握ると言ったのが本当になるやもしれん。


 マナライトの採掘量が国土面積の割りには他国に比べ豊富なこの国は条約によって縛り従わせるよりも、植民地にして直接支配すべきだと私は常々考えている。


 そのことを実績と共に上層部に訴えれば、意見が通って王国は正式に植民地となることだろう。


 そうなれば発案者たる私が総督に成れるのは間違いない筈だ。


 つまりはようやく狭く鉄臭い部屋共おさらば出来るのか。


 素晴らしい、実に素晴らしい未来だ。


 本国に戻るよりもよっぽどいいかもしれない。


 些細な失敗で出世レースから脱落した時はどうなることかと思ったが、結果的には良かったかもしれない。


 そんな皮算用をしていたモノッコは、突然の爆発音に驚き、腰を抜かした。


「な、何事だ! 誰か報告をせんか!」


「艦長、海賊船の一隻が爆発炎上しています!」


 落とした双眼鏡を渡しながらされた報告の真偽を確かめる為に、双眼鏡を覗くと、成るほど確かに海賊船の一団最後尾に位置した船が激しく燃えている。


 あの様子では誰も助からんだろう。


 別に隷属民がどうなろうとどうでもいいが、原因は気になる。


 大方馬鹿で無能の集まりのことだ。


 大砲用の火薬が誤爆したのだろう。


 だが、同じように双眼鏡で状況を観察していた部下のおかしな報告が新たな可能性を生み出す。


「艦長! 女が空を飛んでいます! それもかなりの美人で胸が大きいです!」


「何を言っとるのだ貴様! 寝ぼけているのか!」


 同じ帝国臣民と思いたくないふざけたことを言う部下を叱りながら、一応部下が見ている方に双眼鏡を向けると、彼が寝ぼけていた訳ではなく、本当に女が空を飛んでいた。


 確かに美人で胸が大きい。


「うん? ちょっと待て。あの女、見覚えがあるぞ」


 どこで見たのか思い出せないが、ここ最近絶対に見た様な気がする。


 ふむ、昼食後にいくつか甘い菓子を食べたのが不味かったのか、どうも頭がぼんやりとして上手く働かない。


 菓子は美味かった。


 よくよく考えてみれば知り合いに空飛ぶ人間なんていない、というかそもそも人間が空を飛ぶはずがない。


 恐らく魔獣か何かの類が偶々餌でも探している内に港へ迷い込んできたのだろう。


 この辺りに生息しているのかは知らないが、世界を見れば人間に似ている魔獣がいない訳でもないのだし、冷静に考えれば大して驚くことでもない。


 見覚えの原因はきっと、人間そっくりの見た目が故に誰か似た人物と勘違いしただけだろう。


「艦長、海賊船が一隻減ってしまいましたが如何致しますか?」


「一隻減ったくらい些細なことだ。奴らが暴れ出せば計画通りに主砲で派手に沈めてしまえ」


 今回の計画はコモエンティスとその一派以外の、一部の部下には通達済みだ。


 一応極秘裏に進めてはいたのだが、狭い船の中では隠しきることが出来ず、事情を知らない者やコモエンティスたちにも知られてしまったが致し方ないことだ。


「さて、奴らはどういう風に暴れるのか見ものだな。酒でも飲みながら楽しませてもらおうか。誰か、私の部屋から適当に持ってきてくれないか」


 程なく部下が持ってきてくれた酒を受け取ろうとした時、またも爆音が聞こえた。

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