第3話 迷宮

「よーし、じゃあ張り切って攻略していこー!」

 麻桜まおうさんのテンションが高い。

 対して、俺のテンションは最底辺だ。決して顔には出さないが……


「ここは伽羅きゃらのホームダンジョンだろ、頼りにしてるぜ」

「ホームダンジョンと言っても、この前迷宮ダンジョン再構築リビルドが起こったばかりだから、どれだけ変化があったことやら」


 とは言うものの、再構築リビルド後にダンジョンの構造を決めたのは俺だ。そう簡単に攻略されるわけにはいかない。


―― 迷宮核ダンジョンコアが破壊されると死亡します。


 そう、ダンジョンが攻略されるとは、迷宮核の破壊、すなわち【迷宮管理者】の死だ。


「お、二層目から罠とは殺意が高いな」

「ちょっと白くん、楽しいからってわざと踏みにいかないでよ」

 飛んできた矢をあっさりと掴んでいる。

 しかも、次々と的確に罠を踏みに行ってやがる。夜通し配置を考えた俺の苦労を返してくれと言いたい。


 そもそも、どうして俺がコイツらと一緒にダンジョンに潜っているのか。


「そう言えば伽羅きゃらくん、この前の迷宮再構築の時もココにいたんだよね。迷宮討伐したパーティとも知り合い?」


 おそらく、コイツらは知っている……。【迷宮管理者ダンジョンマスター】が存在することを。


「いや、知ってはいるが知り合いじゃない。あの日は……最下層でそのパーティとはすれ違ったな。で、再構築が起きたのはその後だから、あのパーティが迷宮核を壊したんだよな?」

 聞きはするが迷宮核が壊されたのは知っている。


 なぜなら、迷宮核の破壊、それは、新たな【迷宮管理者ダンジョンマスター】の誕生を意味するからだ。

 迷宮核が破壊された時、近くに居た者の中から適正のある者が【迷宮管理者ダンジョンマスター】に選ばれる。

 そうして迷宮ダンジョンは生き延びていたのだ。

 迷宮攻略パーティの解散率は何故か高く、攻略時のスキル取得有無が不和を生んでいるとも言われていたが実情はこの仕組み故だろう。


「ふーん、じゃあ、伽羅くん再構築の時は迷宮核の近くにいたんだ」

 周囲の気温が下がった気がした。


「次で五階層目、通常であれば階層ボスも居ると思う。二人とも準備は良いか?」

 まあ、準備もへったくれもないだろう。ここまで俺はおろか、真神も空気のようなものだ。

 ここまで、麻桜さんが文字通り鎧袖一触ですべてのモンスターを片付けている。

 白い鎧に身を包んだ【守護者ガードナー】は一切後ろへとモンスターを通していなかった。


 このダンジョンは現在十五層、元の十層より増築したとはいってもまだまだランクは低い。このままでは迷宮核が発見されかねない。

 油断しているであろうここらで何とかする必要があるだろう。


 見る限り、麻桜さんはCランクを超える。対して真神は索敵や罠回避等の斥候系には目を見張るものがあるが一切戦闘は行っていない。

 二人を分断することができれば勝機がある。


「五階層のボスだろ。強くてもたかだかFランクダンジョンの階層ボスだ。彩花がいれば問題ない」

「もう、白くんってば! すぐそう言って油断する。再構築がランクが変わっていないかの調査も頼まれてるんだから真面目にやってよ」

 プンスカという擬音が背後に見えるような緊張感のなさのまま五階層へと足を踏み入れた。


 下りた先には広い一本道が続いていた。


「これは、ボス部屋一直線コースかな?」

「いや、先の方に何匹かのモンスターの気配がする」

 真神の言葉が終わらぬ内に前方にウルフ系のモンスターの姿が見えた。


「おお、ワンちゃんだ。白くんたちはゆっくりで良いよ」

 言うなり麻桜さんは走り出していた。


「ちょっ、彩花待て、この階、罠が多いぞ!」

 慌てて追いかけようとする真神の足元で小さく音がする。


―― カチッ


「ちっ!」

「白くん!」

 足元から魔法陣が広がる……

 振り向く麻桜さんの姿を見つつ、俺たちは転移した。


「まさかこんな上層に転移トラップとは油断した」

 転移先は何もない小部屋の真ん中だった。モンスターの姿は見当たらない。


「ダンジョンである限り出口があるはずだ。手分けして探すぞ」

 壁に向かう真神の後を追い、足元の窪みを踏んだ。


―― プシューー


 石床の隙間から白い煙が一斉に吹き出す。


「これは……、催眠ガス……か……、アタリだったみたいだな……」

 前方でドサリと倒れる音がした。


「貴方達がこのダンジョンに入らなかったら良いクラスメイトになれたのに……。知っていましたか、【迷宮管理者ダンジョンマスター】に状態異常は効かないんですよ……」

 薄っすらと見えてきた真神を見下ろし、取り出したナイフを振りかざす。


「良く知っているよ」

 そんな声が聞こえた気がした。


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