一番弟子②

 武器に防具、装飾品。あらゆる物が並ぶ店先を俺達は歩いた。


「ふ~む、やっぱ西洋刀が主流か。防具もあんまりしっくり来ねぇんだよなぁ。重いと技が鈍るし」

「なら装飾品はどうですか?ほら、あれなんかゲンさんにお似合いですよ?」

「ああいうチャラチャラしたモンは好かん。俺は機能美重視だ」


 ククリが指したピアスのような物を指先で玩びながら、俺は辺りを見回す。


「それより薬草とか欲しいな。アレのおかげで傷も早く治った訳だし」


 異世界に来た際に負った頭の傷。それを思い出しながら俺はククリに尋ねた。


「なら道具屋ですね。えっと……」

「ちょいと、そこのお兄さん方」


 道具屋を探そうとした俺達の背後から、突如としてしわがれた老人の声が聞こえてきた。


「うぉっ!!」

「へっへっへ、失礼。ところであんたら、『奴隷』はいらんかね?」

「あん?奴隷?」

「ちょっ!ゲンさん!こっちへ!」


 奴隷はいらないか、等とよくわからないことを宣う小汚ない老人。その声に耳を貸そうとした俺の袖をククリが強く引っ張る。


「なんだよ」

「奴隷なんてよしましょうよ。あんまり良い目で見られませんって」

「……だよな」


 ――奴隷。人間でありながら、その人権を無視し、所有物として扱われる悪しき風習。

 ククリの反応を見るに、異世界こちらでも同じ意味合いで使われているのだろう。


「……じゃ!おじいさん。ボク達、先を急ぐので」

「そうだな。あんまり金もないし」


 それを聞くなり、その老人は俺の手を取ると顔を間近に近づける。


「そ・れ・な・ら!こちらの商品!最後の売れ残りですのでお安くしておきますよぉ!?」


 彼が指差す先には、みすぼらしい姿の少年が虚ろな目で空を眺めていた。

 年の頃は10歳程。黒くボサボサの髪は肩よりも下に伸びている。


(あんな子供が……)

「働き盛りの童がたったの1500Gゴールド。どうですか?ん?」


 ニコニコと営業スマイルを近づける奴隷商人を押し退けると、俺はククリに耳打ちをする。


「おい。確か宿屋が一泊400Gだろ。奴隷の相場は知らねえが、人一人の値段にしちゃあ安すぎねえか?」

「そうですね。多分あの子、まだスキルに目覚めてないんじゃないかな?」

「スキルに?」


 確か、こちらの世界の住人が持っている特殊な能力のことだったか。


「はい。スキルもその人の価値を決める指標の一つですからね。高いお金を出して買った奴隷が、後々ハズレスキルに目覚める。もしくは主人に反抗できるほどの強力なスキルを得る。……そんな事態を避けるためにも、奴隷はスキルに目覚めてから買うのが普通なんです」

「詳しいな」

「一般常識ですよ」


 俺達の会話を聞いていたのか、奴隷商人は笑顔を張り付けたまま何度も頷く。


「そのとーり。いやぁ、流石はお兄さん方。……わかりました。1300でどうでしょう?まだ若いですから、荷物持ちに小間使い。スキルが無くてもお釣りがきますよ?」

「……」


 スキルが無いと奴隷は売れない。つまり、あの少年はスキルに目覚めるまで、この生活が続くわけか。

 憐れみの目を向ける俺に気付いているのか、いないのか。少年は魂が抜けた様にじっと虚空を見つめている。


「どうしたんですか、ゲンさん?早く行きましょうよ」

(いや、一時の感情に流されるな!これから同じ様な奴隷を見かける度に買うのか?)


 ブンブンと頭を振り、半端な情けを振り払う。だが、後ろ髪を引かれる思いがあったのだろう。次の瞬間俺は、変なことを口走ってしまった。


「なあ、ククリ。やっぱ道場やるには、弟子が必要だよな?」

「え?はい、まあ」

「あの少年、弟子に取らないか?」

「は……ええ!?」

「なんか、こう。剣術の才能がある気がするんだよなぁ。アイツ」


 無論、嘘だ。俺に他人の才能を判断する目など無い。それは、ただ目の前の少年を助けたいという偽善が生み出した虚しい嘘だということを、俺だけは知っていた。


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