一番弟子①
「すまねぇ、ククリ。俺が下手打たなきゃあ、お袋さん達に楽させてやれたのに……」
「だ、大丈夫ですって!ホラ!思ったより高く売れましたし!」
ククリは金貨の入った布袋を顔の高さまで持ち上げると、にこりと微笑む。だが、その優しさが俺の自尊心をグサリと刺した。
「はぁ……」
遡ること数十分前。無事スライム五匹の討伐を終えた俺達は、その報告をしにギルドへと戻っていた。
「これ、スライム五匹分の核です。あと、コイツの買い取りってしてもらえます?」
討伐クエスト等で手に入れたモンスターの素材はギルドで買い取って貰える。ククリからその情報を聞いていた俺は、ダメ元でテラスさんにジュエルスライムの核を差し出した。
「一、二、三……はい。確かに五匹ですね。お疲れ様です。それから買い取りということですが……えっ!?」
真っ二つに切られたジュエルスライムの核を見たテラスさんの顔から笑顔が消える。
「もしかして、ジュエルスライムの核ですか?……本来ならば、多少の傷があったとしてもうちのギルドでは支払えない程の価値がある素材です。しかし、こうも見事に割れていると高額での取引は難しいと思います」
「みなまで言わんでください」
「もう全部言ったんですけど?」
眉間にシワを寄せる俺を見て、テラスさんは咳払いをした。
「こほん。一応、奥の方で査定をしてきます。ですのでお二人はあちらにお掛けになってお待ちください」
いそいそとカウンターの奥へと向かう彼女を見送ると、俺とククリは促されるままにベンチへ腰を下ろす。
「あ~。やっぱダメそうだなぁ」
「元々スライム討伐がメインだったんですから。幾らで売れても、それはおまけってことでいいじゃないですか」
「でもなあ。やっぱ魔法だよ。魔法が使えねえとダメだったんだよ。大体こちとらアラフォー手前まで童貞貫いてんだ。魔法の一つや二つ使えたっていいじゃねえか」
「さっきから何を言ってるんですか?」
そんなくだらない話をしているうちに、テラスさんは戻ってきていたようだ。
彼女は手を上げると、こちらに向かって手招きをした。
「クラマ様、クルール様。査定の方が終了いたしましたので、こちらへどうぞ」
「ありがとうございます。……で、どうでした?」
「はい。ジュエルスライムの核は主に富裕層向けの装飾品に使用されます。ですので普通はこのような状態の物には値段が付かないのですが」
そこまで言うと、彼女は手にした核の断面をこちらに向けた。
「このように切断面が非常に美しい状態となっております。これならば、使用用途は限られますが多少の価値は見込めるかと」
「マジすか!?」
「はい。やはりクラマ様は素晴らしい剣の腕前なのですね。我がギルドとしても羨ましい限りです」
「いやぁ、なんのなんの!まあ?剣術にはちっとばかし自信はありますけど?はっはっは!」
などと美人の受付嬢相手に調子こいてたのが先ほどまでの俺だ。
「もおー、元気出してくださいよ。売値がついた時はこれでもかってくらい調子乗ってたじゃないですか」
「やめてくれ。自覚はあるが人に言われるとキツイ」
ギルドでのやり取りを思い出し、ため息を吐く俺をククリが肘でつつく。
「だってよぉ。俺が斬らなきゃ百倍くらい高く売れてたんだろ?
「逆に考えれば、元々超が付くほどの高級素材だったんですから。百分の一になったってそれなりの金額ですよ」
そう言い終わるや否や、ククリが俺の背中をバシンと叩いた。
「さ、反省は終わりにしましょう。目的地に着きましたよ」
「おお!中々活気があるな」
大勢の人間が行き交う大きな広場。店を構え雑貨を売る者や、路上に座り込み武器や防具を売る者もいるようだ。そう、そこはアカシアの西に位置する、大きな市場だった。
「さっ!せっかくボク達が初クエストクリアで稼いだお金なんです。実りのあるお買い物にしましょうね?ゲンさん」
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