スライム狩り②

 町を出てすぐの森。その森の入り口に着くなり、ククリは人差し指と親指で輪を作る。


「あっ!いましたよ!」


 そしてその輪を覗き込みながら、遠くを指差しそう叫んだ。


「あん?どこよ。全然わからないんだけど」

「ほら、もっと向こうです。あの木の影のとこ」

「お前、視力ヤバイな。マサイ族かよ」

「マサ……?いや、昨日言ったじゃないですか。ボクのスキル・鷹の目ホークアイは遠くまで見渡す事ができるんですよ」

「そういや、言ってたような……。ま、いい。さっさと片付けようや」

「そうですね。では、こっちです」


 脱兎の如く駆け出したククリの後を俺は追う。日課である裏山での修行が功を奏し、体力面についての不安はない。


「!!」


 ククリが指差した地点に近づくにつれ、徐々にスライムの姿が鮮明になっていく。


「なるほど、アイツが」


 大きさはバスケットボールより一回りは大きいか。やや黄緑がかった半透明の球体が、プルプルと体を揺らしながらそこに佇んでいた。


(まるで意思を感じないな。まあ、ゴブリンよりかは斬ることに抵抗は感じないが……)

「1、2、3……よし!全部で6匹いますよ!」

「1匹多いが構わんだろう」


 ククリに目配せをすると俺は速度を上げる。そして、木々の合間から飛び出すと手前にいるスライムを切り伏せた。


「よし!」


 異様な感触に、内心では嫌悪感を感じる。まるで豆腐を包丁で切るような手応えの無さ。いや、もっと粘着質な何かに纏わりつかれる感覚。


「うぇ。まあいい、次の……」

「ゲンさん!駄目です!」

「あ?」


 ククリの呼び掛けに俺は振り向く。するとそこには、今しがた真っ二つにしたはずのスライムがうねうねと蠢いていた。


「危ねっ!」


 次の瞬間。スライムは体の中心から粘着質な水の塊を吐き出した。俺は咄嗟に身を捩ると、その水鉄砲をかわしながらスライムとの距離をとる。


「なんだ、あれ?」

「スライムの吐き出す酸です」

「ヤバいのか?」

「いいえ。お肌が荒れる程度です。でも、顔や頭にだけはは当たらないように気を付けてください」

「その心は?」

「粘膜や毛根が死滅します」

「やっぱヤベェじゃねえか」


 咄嗟に頭を擦りながら、俺はククリに問いかけた。


「それよりなんだ、アイツ!再生しやがったぞ!?」

「そりゃそうですよ。スライムは打撃・斬撃は無効。魔法攻撃しか有効打がありません。だからゲンさん。アイツには魔法を……あ」

「……知ってんだろ。俺、魔法使えないって」

「すいません。忘れてました。……テヘ」


 ぺろりと舌を出したククリに、不覚にもときめく。可愛いな、くそが。

 だがこれで、テラスさんの受付での態度にも合点がいった。


「じゃあなにか?俺、今日は役立たずか?もう帰っていい?」

「いや、全く打つ手無しと言うわけじゃありません。スライムはあの体のどこかに『核』と呼ばれる特殊な鉱石を隠しています。そしてそれを破壊できれば再生することはありません」


 彼女はビー玉程の円を指で作ると、それを指差した。


「まさか、そんな小せぇの?」

「はい。その上スライムと同色で外からは視認できず、核の場所も個体ごとに違います」

「雑魚だって聞いてたのに……いきなり厄介な仕事クエストにあたっちまったな」

「すみません!ボクもできる限り魔法で応戦しますが、さすがにあの数は……」


 初日に見せてもらった魔法には、タメのようなものがあった。つまり、魔法が有効とはいえ囲まれればそのタメを作る余裕さえ失うワケだ。


「仕方ねぇ。前衛は俺に任せろ」

「何か策があるんですね!」

「ああ。要は核が切れれば刀でも問題ないんだろう。なら、核に当たるまで切り続ければいい」

「えぇっ!?そんな無茶苦茶な!」


 無茶苦茶だろうがやるしかない。見えない弱点を突くための圧倒的手数。……久しぶりにやるか、を。

 そう決心すると、俺はスライムに向かって刀を握り直した。

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