鞍馬心眼流②

 俺はこほんと咳払いをすると、彼女の方を見た。


「簡単にいうとだな、鞍馬心眼流は俺達『鞍馬家』のご先祖様が発案し、今日こんにちまで受け継がれてきた剣術のことだ」

「ほぅほぅ」

「んで、心眼流は主に三つの技術から構成されている。居合を中心とした『抜刀ノ型』、無手で相手を制する『無刀ノ型』、刀を使った『一刀ノ型』。ま、こんなとこだな」

「へぇ~」


 ククリは頬を赤くしながら、再び酒をあおる。


「なんかよくわからないけど、すごいんですね~。でもゲンさん。お弟子さんとかはいないんですか?」

「あん?」

「だってその『クラマシンガンリュー』っていうの、代々受け継がれてきたんですよね?なら、ゲンさんも誰かにその技を教えてるハズですよね?」

「……無論だ。俺は道場を開いて、三人のガキ共に剣術を教えていた」

「え?でもゲンさん、『無職だ』って言ってませんでしたっけ?」

「ぐっ!」


 こいつ。酔っぱらいの癖に痛いところを突く。仕方が無しに、俺は本当の事を話した。


「あ~、いや。ガキ共に教えはしてたんだが、そいつら殆ど道場には来なくてな?だから毎日俺ぁ一人で鍛練をしてたんだよ」


 加えて、実業家だった祖父の遺産を食い潰しながら生活をしていたと言いかけ、口をつぐんだ。我ながら下らないプライドだとは思うがしょうがない。ククリも大人になったらわかるハズだ。


「そーなんれすねぇ。……あっ!なら、こーいうのはろーれすかぁ!?」 


 次第に呂律が回らなくなってきたククリが、テーブルをドンと叩いた。


「ここでも道場を開くんれすよ!ゲンさんの技があればB級冒険者にらって勝てるんれふから」

「おいおい、何言って…… 」


 その時、天啓来る。


(確かに!現代社会より、異世界こっちの方が殺人剣である鞍馬心眼流を必要とする人は多い。つまり、次世代にこの技を継承させることができる)


 親父が死んだ年、俺は誓ったんだ鞍馬心眼流を必ず途絶えさせないと。


(童貞の俺に子供は期待できん。なら、この技を必要としてくれる世界でたくさんの弟子をとろう!)


 若干アルコールで考えが纏まらない。だが、この時の俺にはククリの言葉が、とてつもなく妙案のように聞こえたのだ。


「そうか……。そうだな。……それしかねぇ!」

「そうれふよ!!」

「なら先ずは!鞍馬心眼流の有用性をアピールするのが先決だ!明日からのクエスト、張り切っていくぞ!ククリ!」

「はい!お供しまふ!」

「そうと決まれば、もう一発乾杯だ!……え~、我が鞍馬心眼流の更なる躍進を祈念しましてぇ」

「「乾杯!!」」


 こうして楽しい夜は更けていく。そして翌日。俺とククリが揃って二日酔いになったのは言うまでもない。

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