鞍馬心眼流①

「かんぱーい!!」


 人々がごった返す大衆居酒屋。その端の席で、俺とククリは酒の入ったジョッキをぶつけ合っていた。


「いやー、さすがはアカシア。町の方は居酒屋の活気も違いますねぇ。ボクのいた田舎とは大違いですよ」

「そうだな。カイルの奴に感謝しなきゃな」


 ぐびりと一口、酒を口に含む。現代の物に比べ癖が強い香りと苦味。だが、不思議と嫌ではない。

 程よい疲労感を感じながら俺は目を閉じ、今日の事を思い出していた。




「…………はい、以上で手続きは完了です。ククリ・クルール様。そして、ゲン・クラマ様。これにてお二人は我がギルド所属の冒険者となりました」


 数刻前。俺達はB級冒険者とやらのカイルを締め落とし、無事冒険者としての実力を示したのだった。


「ところで、カイルとかいう人は大丈夫なんですか?ゲンさん」

「大丈夫なハズだが……一応加減して締めたし」


 こそこそと話す俺達を見てテラスさんがにこりと微笑んだ。


「大丈夫ですよ。カイルさんはああ見えて頑丈な冒険者ですから」

「はぁ……。なら、いいんですが」


 話半分に生返事を返す。だが、俺がそう言い終わらないうちに、後方から高笑いが聞こえてきた。


「はっはっは!その通り!」


 振り返るとそこには、目を覚ましたカイルが腕組みをして立っていた。


「おお……元気そうで何よりだわ」

「お気遣い、ありがとうございます。クラマの旦那」


 先程の生意気な態度はどこ吹く風。畏まった態度でカイルは頭を下げた。


「どうした?急に」

「いや、なに。対人戦でここまで一方的だったのは初めてなもので。まあ、俺なりのリスペクトってヤツっス」

「そうか。まあ、念のため病院とかは行っとけよ」

「はっはっは!お構い無く!」


 妙なテンションのカイルに、俺は若干たじろいだ。そんな様子を見てククリが俺の袖を引く。


「ゲンさんゲンさん。こんな厄介そうな人の相手をすることないですよ。それよりお祝いしましょう、冒険者登録成功の。ボクが奢りますから」

「えっ!いや、う~ん。いい年したオッサンが奢って貰うってのはなぁ……。だが、金が無いのも事実だし」


 頭を捻る俺の肩に手が置かれる。振り向くとそれは、カイルのモノだった。


「お二人で祝賀会っスか?なら、俺の行きつけの店を紹介しますよ。勿論、会計は俺にツケといてください」

「いや、それは悪いだろ?」

「構いませんよ!最初に突っ掛かった迷惑料みたいなモンです。ささっ!此方へ」


 そうしてカイルに導かれるまま、俺とククリはこの居酒屋へと足を運んだのだった。




「だが、なんか悪い気がするな。あのカイルとかいう若者にツケとくのは」

「え~。いいんじゃないですか?実際ウザ絡みされたわけですし」


 おかげで実力の証明ができたワケだが……。とも思ったが、情けないのでその言葉は呑み込んだ。


「ボク、あの人嫌いです。あんなにゲンさんのこと馬鹿にしてたクセに、負けたら態度をコロコロ変えて……」

「ん~。まあそうかもしれんが、個人的には嫌いじゃないなぁ。ああいう若者は」


 チビりと酒をあおり、話を続けた。


「普通はプライドが邪魔して、負けを認めれないモンだ。特にあの年頃の男子は。だが、あそこまで清々しいヤツは将来成功するよ。ま、あくまで俺の感想だがな」

「む~。そんなもんですかね?」


 納得できないとばかりにククリは頬を膨らませる。そして、注文したばかりの酒を一気に飲み干すと、とろんとした目でこちらを睨んだ。


「そんなことより、ゲンさんの話が聞きたいれす。なんなんれすか?その『鞍馬心眼流』とかいうの?」


 彼女につられるように、俺も酒をあおる。そして、意を決したようにククリの目を見た。


「そうだな。別に一子相伝ってワケでもねぇんだ。……聞いてくれるか?鞍馬心眼流について」

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