経験の差②
「その田舎臭ぇ剣術も、俺のスキルの前じゃあ何の意味も無いってことを教えてやるよ!」
「……あぁ?」
二回り近く歳が離れているのにタメ口。まあ、これはいい。仕事的にはあっちが先輩だ。
素直に敗けを認めない強情さ。これもまあ、いい。あの年頃なら珍しいことじゃない。
だが、鞍馬心眼流を。親父が受け継ぎ、俺が人生を捧げて身に付けた剣術を馬鹿にした。……これは駄目だ。なればお灸を据えねばならない。調子に乗った若造に。
「おい。カイル……だったか?スキルだかなんだか知らないが、そんな付け焼き刃。俺には通用しないことを教えてやる」
「ハッ!オッサン。こいつを食らっても同じことが言えるかなっ!」
カイルの一振り。しかし、それは明らかに攻撃範囲外だ。だが、長年の修行と山籠りで研ぎ澄まされた感覚が俺の身体を右方向へと引っ張った。
「っ!?」
次の瞬間。光る刀身から放たれた斬撃が、俺の肩を掠める。
「斬撃が……飛んだ?」
「剣豪のスキルはこんなこともできるんだ。だが、よく俺の『
「……飛ぶ斬撃の正体は、風か」
肩から流れる血を指で掬うと、俺は呟いた。
「オラオラオラ!」
安全圏から、カイルは次々と風の刃を飛ばしてくる。しかし、俺は既にヤツの攻撃を見切っていた。
運足と体捌きを駆使することで、ヤツの飛ぶ斬撃は虚しく空を切る。
「どうした?空振りばかりして。……とんだ剣豪様だな」
当たらないにしても、この距離を詰めるのは至難の業だ。何か大きな隙が欲しい。そう考えて発した安い挑発に、カイルはまんまと乗ってきた。
「あぁ!?ぶっ殺すぞ!!」
「殺す!?受付のお姉さん!今殺すって言いましたよ!あの人!ボク聞きましたもん」
「あらあら。駄目ですよ、カイルさん。安全第一でお願いします」
カイルの発言にククリとテラスさんが注意を促す。だが、頭に血が昇っているヤツはそれが耳に入ってはいないらしい。
「これが俺の必殺剣だ!受けてみな!」
そう言うなり、カイルは剣の刀身に手を翳す。すると彼の回りに渦巻く風が、より一層その力を増していく。
「風の魔法を付与した。……スキルと魔法の合わせ技。どっちも使えねえオッサンには出来ねえ芸当だよ」
風を纏い光る剣を振りかぶると、ヤツはそれを一気に叩き下ろした。
「魔法剣!『
先程までとは比にならないサイズの斬撃がこちらに向かって飛んでくる。だが、如何に大きかろうが射程が長かろうが、結局は剣の軌道の延長線上でしかない。で、あるならばヤツの初動さえ見ていればかわすことは容易である。
「なっ!」
「相手を崩さずに大技を出すなんて愚の骨頂だ。なぁ?剣豪様」
最小限の動作で嵐刃をかわすと、俺は一気に距離を詰める。そして繰り出すのは、鞍馬心眼流最速の居合・飛切りだ。
「二度目。喉を裂いた」
「くそっ!」
往生際悪く、再び喉元に突き付けられた刀を払いのけると、カイルは一歩下がる。それを追いかけるように、今度は俺が刀を振り下ろした。が、当然これはヤツの剣に防がれる。
「遅い」
すかさず俺は自らの刀の
「三度目。顎を砕いた」
寸止めされた柄を見て動きの止まったカイルの足を刈り、その場へ転ばせる。そして今度はその脳天に刀を振り下ろした。
「四度目。頭をカチ割った」
「この!」
苦し紛れに掴みかかるカイル。俺はその腕を掴むと、柔術の要領で軽く捻り上げる。そして相手の背後をとると、首に腕を回して締め上げた。
バックチョーク。裸絞め。競技や流派によって様々な呼び名があるこの技。だが、共通している認識が一つある。それは、完璧に決まったこの技からは逃れられない、ということだ。
「ぐ………ぎ、ぎ」
「五度目。首を……あん?」
俺が五度目の宣告をする直前。既にカイルの意識は深い闇に落ちていた。
「ちょ、ゲンさん!?やったんですか?
「やってねえよ。気絶してるだけだ」
意識の無いカイルを静かに地面に下ろすと、俺はテラスさんの方を見た。
「あ、あの~。これ、合格でいいスよね?へへ」
「はい。カイルさんはアカシアのギルドでも指折りの実力者です。彼に勝ったのなら、我々には文句のつけようがありません」
何はともあれ、これでようやく職にありつけたと言うわけだ。
俺はその事実に舞い上がり、ククリと共に年甲斐もなくはしゃぎ倒すのだった。
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