経験の差①
訓練所は想像の倍は広い場所だった。その上、朝イチに来たということもあって、誰もいない貸し切り状態だ。
「では、訓練にはあちらをお使いください。全て刃を落としてあるので」
ウェーブのかかった長髪を揺らしながら、テラスさんは訓練所端にある物置を指差した。そこには様々な武器が立て掛けてあるようだ。
俺は鞘に納められている日本刀に近い形の剣を。カイルは両手で扱う両刃の剣を手にした。
「じゃあ、改めて。俺の名前はカイル。よろしくな」
「え~、クラマ・ゲンです。お手柔らかに」
「ま、オッサン。ヤバくなったらすぐに降参しろよ?何せ俺のスキルは『
なるほど、わからん。故にとりあえずの愛想笑いを浮かべた。
「じゃあテラスちゃん!開始の合図を頼むよ!」
「はい。……両者構えてください」
その掛け声でカイルは剣を抜き、両手で構える。
(何をしてくるかわからん。なら、初手はこれで行くか)
対して俺は鞘ごと刀を腰から抜くと、まるでそれを杖を握るかのように構えた。
「それでは、……始め!」
テラスさんの合図と同時にカイルが飛び出す。
「オラァ!」
力強く振り下ろされた一撃。俺はその攻撃を手にした刀で捌く。
(この動きは剣術のものじゃあない。杖術だ)
――杖術。文字通り杖を使う武術であり、元々は武器を持った相手を制圧する為に発展した技術だ。特に防御的な立ち回りを得意とし、昔は護身の為に身に付ける者が多かったらしい。
そして
「チッ!ちょこまかと!」
両手剣での重く鋭い斬撃を、俺は最小限の動きでいなす。
「気を付けてください!剣豪のスキルは剣を装備した者の身体能力を飛躍的にアップさせるんです!」
俺達の戦いを見守るククリが叫ぶ。その言葉に俺も合点がいった。
(理屈はわからんが、スキルとやらにはそんな効果があるのか。どうりで素人臭い動きのくせに剣速が速いわけだ)
しかし、身体能力が向上しているとはいっても、結局は人間の範疇。その攻撃にはパターンが存在する。
ニ度目の振り下ろし。俺はそれに合わせて、カイルの剣の腹を柄で軽く叩いた。それによって力の流れが変わり、ヤツは大きく体勢を崩す。
「今だ!」
杖術で捌き、即座に居合へと転じる。これが
「……!!」
「勝負あり……で、いいですよね」
カイルの喉元に突きつけた刃を鞘に仕舞うと、俺は決着の合図を促す。それを聞いたテラスさんは、驚きながらも頷く。
「は、はい!勝者、クラマさ……」
「ちょっと待てよ!」
その宣言を遮ったのは他でもない。目の前の冒険者・カイルだった。
「今のは違う!油断しただけだ!」
一方的に言い放つと、ヤツは俺を突飛ばしバックステップで距離をとった。
「スキルもねぇオッサンがまぐれで調子こくんじゃねえ!」
「いや、でも青年。社会のにでたらそう言うの通用しないよ?……まあ、おじさんはほぼ無職みたいなモンだったけども」
「うるせぇ!テラスちゃんの前で恥かかせやがって!『剣豪』の本領、見せてやるよ!」
明らかに剣の間合いではない遠間から、カイルは剣を構える。そして、次の瞬間。ヤツの手にした剣の刀身に、謎の光が集まりだした。
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