初めての就活①
翌日。俺はククリに連れられて、アカシアの中央に位置する冒険者ギルドを訪れていた。
「ほぉ~、立派なモンだな。こいつぁ羽振りが良さそうだ」
「ギルドの存在は治安維持なんかにも一役買っていますから。色々国から補助なんかも出てるみたいですよ」
「なるほどね」
他愛もない会話と共に俺達はギルドの扉を潜る。
「あちらが受付だと思います」
施設の奥を指差すククリに従い、俺は小さく頷いた。
「おう。あそこで冒険者登録とやらができるんだな?」
「はい。……あの、一人で大丈夫ですか?ボクもついていきましょうか?」
「心配すんなって。こちとらいい大人だぞ。それにこういうのは一人づつってのがマナーだ。お前は後ろで順番待ちしときな」
彼女にそう告げ、俺は勇んで受付に向かう。
「あの、すんません。冒険者登録ってのを……!?」
その時。
(こ、この職員……。女だ!それもかなり美人な!!)
産まれてこの方、剣の修行に明け暮れる日々だった。俺の生涯は『青春』なんてものとは無縁な、灰色の37年間だった。無論恋愛経験など皆無。つまり、俺は……童貞だ。
「はい。ご用件をお伺いいたします」
考えがまとまらないうちに、受付の女性がこちらを見る。
「あ、あの~。……いや、へへ」
「?」
言葉に詰まり、とにかく俺はヘラヘラした。だってしょうがないじゃないか。普段女性とする会話なんて、近くのコンビニの店員に『あっ、袋いらないです』っていうくらいしかないのだから。
「なにやってるんですか、ゲンさん!」
モタモタとする俺を見かねたのか、後ろからククリがやってくる。そして受付の女性の方を見ると、速やかに要件を伝えた
「ごめんなさい。ボク達、冒険者登録がしたいんですけど」
「はい、かしこまりました。では幾つか書類にご記入いただきたいので、少々お待ちください」
受付の女性はそれだけ伝えると、カウンターの奥へと歩いていった。
「いい大人とか言って。全然ダメじゃないですか」
「いや、よくよく考えたら俺。異性と話したことあんまなくってさ。変に緊張しちまったよ」
「……ボクも女なんですけど?」
むくれるククリの顔を見て、俺自身も不思議に思う。
「確かに……。でもお前の場合、男だと思ってた時間の方が長いし、もう緊張しないのかもな」
「なんですか!ソレ!ボクは女の子じゃないとでも言いたいんですか!?」
「いや、そうでなくて……」
ククリに詰め寄られたその直後。先程の受付女性が二枚の紙を手に戻って来ていた。
「お待たせしました。ではこちらにご記入をお願いします」
知らない文字のハズなのに、何故か読める。不思議な感覚だった。それもこの、ククリがくれた魔法石とやらのおかげか。
「紙切れ一枚書きゃあ就職か。だいぶ簡単なんだな」
「冒険者は危険な仕事ですからね。怪我による引退は日常茶飯事だし、最悪死亡もありえます。きっとその人手不足を補う為にも登録のハードルを下げてるんですよ」
「ほーん。じゃ、さっさと書くとするかね」
そうして手元の紙に視線を落とす。
名前や年齢。過去に冒険者としての活動はしていたかなど、簡単な質問が幾つか記載されている。だがそんな質問に混じって、良くわからない項目が二つだけあった。『魔力』と『スキル』そこには現代日本の履歴書には絶対に書くことのない項目が記されていた。
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