目指すはアカシア②
「なら、先ずは準備をしねーとな」
俺はククリに習って横転した馬車の積み荷を漁った。唯一の持ち物だった木刀は折れ、衣服も血や泥にまみれている。またゴブリンみたいな
(行商人の馬車だと言ってたな。武器なんかを取り扱ってると助かるんだが。或いは護身用の道具とか)
ひっくり返された荷物を探ると、中から一本の剣が見つかった。
「こりゃあ……」
片刃で反りのある剣。形だけ見ればほぼ日本刀と同じ作りに見える。
ククリの格好や、馬車の積み荷からこの世界の文化は西洋寄りだと推察できる。故に武器も西洋刀ばかりだと思っていたが……。
「コイツなんかどうだ?」
「おっ。中々お目が高いですねぇ、ゲンさん」
「あん?そうなのか?」
「はい。その剣は東の大陸で主に造られている特殊なモノらしくて……。今回の商売の目玉だって行商人の方も言っていました」
「ふぅん……それは、ちょっと気が引けるな」
そう言いつつ、刀を鞘から抜いてみる。
(滑りは悪くない。居合は問題なくできそうだ)
そのまま二、三回振ってみたが、そいつは驚くほど手に馴染んだ。
「握りもいい。よし、その行商人には悪いがコイツを拝借しようかね。あと、適当に着替えさせてもらうか」
俺は血塗れの稽古着を脱ぐと、売り物であろう布製の服を引っ張り出した。だが、それを見たククリが声を上げる。
「ちょっ、なんで急に脱ぐんですか!」
「なんでって……着替えるんだから当たり前だろうが」
「でも、もっとこう。木の影に行くとか」
「あぁん?いいだろ別に。男同士なんだし」
「っ!……それでもデリカシーが無さすぎです!」
「何を言うか。俺はデリカシーが服を着て歩いていると言っても過言じゃないほど……あっ、今は服着てないのか。じゃあもう俺はデリカシーそのものってことで」
「もういいですよ!ほら、アカシアに向けて出発しましょう!」
先程までの怯えはどこ吹く風。スタスタと歩き出したククリの後を俺は慌てて追いかけるのだった。
結果的に言えば町に着くまでの間、モンスターに遭遇することはなかった。ククリ曰く、この林道は比較的安全な道であり、さっきみたいな襲撃に会うのはレアケースらしい。
(確かにあんなのが頻繁に出るんじゃあ、商売上がったりだろうしな)
正直拍子抜けだったが、代わりに町までの道中、ククリから様々な話を聞くことができた。
まず、このシルウァヌス大陸とやらの文化レベルや政治的思考は、俺の居た世界でいう16、7世紀頃のものに近いらしい。ま、歴史の勉強なんて高校卒業以来してねえから正しいかわからんが。
「どうです?ゲンさん。何か思いだせそうですか?」
「ん~む。すまん、まだみたいだわ」
別世界から来たとかいうトンデモ話を誤魔化す為についた記憶喪失という嘘。その嘘をコイツはすっかり信じてしまったらしい。
(……ちょっと罪悪感が)
その罪悪感を逸らす為、別の話を振る。
「ところでククリは魔法使いとか言ってたが、どんなことができるんだ?」
「ボクですか?そうですね~。例えば……」
歩みを止めると、ククリは手にした杖の先を空に掲げた。
「……ハァ!!」
「うぉ!」
次の瞬間、杖の先に拳ほどの火の玉が現れた。そしてククリの掛け声と共に空に向かって飛んでいったのだった。
「ふぅ。今のは炎属性の魔法です。他にも幾つか使えますが」
「すげぇじゃねえか。……でもそんなことが出来るならなんでさっきはゴブリンに使わなかったんだ?」
「ハハ。それがボク、実戦って殆どしたことなくて。急に現れたモンスターにビックリしちゃったんです。魔法には集中力が必要なのに……」
「なるほどねぇ。まあ、次あんなのが来たら今度は援護射撃頼むぜ。前衛は俺が何とかするからよ」
「ふふ。それは頼もしいです。でも、その必要は無さそうですね。……ホラ」
そう言ってククリは前方を指差した。
林道の木々が少しずつ減り、見通しが徐々に良くなってくる。そんな俺の視界に飛び込んできたのは、歴史の教科書で見たような古めかしい町並みだった。
「さあ、着きましたよ。ここがアカシアの町です!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます