ここは地獄か異世界か③
ガツン!!という鈍い感触。化け物の攻撃を咄嗟に木刀で受け止めた衝撃が全身に響いた。
「ゲッ!?」
次の瞬間。棍棒の一撃を正面から受けた俺の木刀が、手元からポッキリと折れてしまった。
「ギギィーー!」
俺が得物を失ったと見るや、目の前の化け物は途端に威勢を取り戻す。そして目を血走らせながら、力任せに棍棒を振り回しながらこちらに突進してきた。
(嬉しそうにしやがって……。だが、興奮し過ぎだ)
人間の頭蓋をかち割るのに、棍棒の質量と硬度ならば軽く打ち下ろすだけでこと足りる。だが、こいつはそんなことお構い無しに大振りを繰り返す。
(無駄が多い。おかげで読みやすいが)
必要以上に大きなバックスイングから化け物の攻撃の軌道を予測する。そして、反撃のタイミングを伺った。
(1……2……3……。ここっ!)
大きく振り上げた右手に合わせて化け物の懐に潜り込む。
その技の始動は、柔道の背負い投げによく似ていた。
振り下ろされる化け物の腕を取ると、その力を利用して相手を投げ落とす。そして、地面に叩きつけると同時に、取った腕の関節を極め全体重を預ける。
パキン、という乾いた音。
それだけで化け物の肘関節が破壊されたことは容易に想像がついた。
「鞍馬心眼流無刀ノ型・
「ギャアーー!」
「三匹目……」
肩で息をしながら振り返る。そこには、先ほど吹き飛ばした二匹がヨロヨロとこちらを睨み付けながら立ち上がっていた。
(まだ戦意はあるか。……なら)
俺は大きく足を上げると、目の前に転がる化け物の折れた腕を何度も踏みつける。
「ギ、ギャアーー!ギィーー!」
野生動物を追い払うのに、命まで奪う必要はない。彼らは人間のように、意地やプライドが無いぶん理に聡い。それ故、こちらと争えば損をするとわかれば、深追いはしてこないはずだ。
(さあ、痛い思いはしたくないだろう?)
仲間の叫び声が引き金となり、二匹の化け物は踵を返して逃げていく。目の前の一匹も片腕を引きずりながらも、鉄砲玉のように飛び出していった。
「……ふぅ。なんとかなったかぁ」
噴き出す汗を稽古着の袖で拭う。そして、思い出したかのように馬車の傍らに座り込む美少年に声をかけた。
「あ~、大丈夫か?……ハロー?ボンジュール?ニーハオ?」
「――。―――!」
「やっぱ通じねえか。……ん?」
必死に言葉を伝えようとする少年が何かを差し出す。それは水色の宝石のような物が埋め込まれた首飾りだった。
「これを、俺に?」
思わず手に取る。すると、不思議な事が起こった。
「あの、どうですか?ボクの言葉、わかりますか?」
さっきまでわからなかった少年の言語。それが、まるで魔法にでもかかったように理解できるようになっていたのだ。
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