第3話 未来カメラ2
①--------------未来カメラの使い方----------------
---一馬の場合---
金曜日の放課後、一馬、真理、翔子は部室に集まっていた。先週話し合い、各々がこれはと思うものを「未来カメラ」で撮影し、この日に見せあうと決めていたのだった。
翔子は一馬、真理を順に見回すと
「ふふ、じゃあ、だれから見せます?」と悪戯っぽく笑った。
三人はお互いの顔を見合わせ、それぞれの出方を窺う。そんな様子に一馬はにやりと笑うと「では、先鋒は
すると画面には・・・「電光掲示板」に大きく数字の羅列が表示されている映像が大写しにされたのだった。それを見た瞬間、翔子が弾ける様に笑い出した。
「え、なに翔子ちゃん。何なのこれ?」
ぽかんとしている真理を他所に翔子はケタケタと笑い続ける。
「笑うな。大変だったんだぞ、渋谷まで行って」
「え、え、かず君、翔子ちゃんなんなのこれ?」
真理が情けない声を上げる。
そんな真理の様子を可愛そうに思ったのか翔子は「ふふ、宝くじの当選番号ですよ。先輩」とクスリと笑った。
「おう、今週中にこれでロト買えば10億手に入る」
「・・ええええええええっ・・じ、10億?・・か、かず君買ったの?」
「・・・馬鹿だな、俺がそんな事するわけ無いだろ?」
そう言うと一馬は徐にポケットから一枚の紙を取り出し、それをハンカチに見立て額を拭って見せる。
「ふふ、そうですよ先輩、一馬先輩がそんな悪い事するわけないです。」
そう言う翔子もポケットより一枚の紙を取り出すと、それをファンデーションのパフに見立て、頬を叩いて見せた。
「かず君、翔子ちゃん・・・・・」
◇◇◇
---翔子の場合---
では次は私行きますね。そういうと翔子は慣れた手付きでスマホを操作し、テレビに写真を映し出した。
画面左より桜の枝が張り出し、そして奥には雪を頂く富士山。
その中央、画面の左上から右下に向かい流線形のフォルムが美しい電車が走っている。
「うわ~かっこいい!新幹線?」
真理がその写真の完成度に感嘆の声を上げる。
「おしい!新幹線じゃないです」
「じゃあ、もしかして・・・・リニアだろう?」
今度は一馬がクイズ王よろしく、ポンと机を一叩きすると言った。
すると翔子は一馬を指差し、パチンと一つウィンクする。
「はい、一馬先輩大正解。走っていましたよリニア。拍手~パチパチ~♪」
◇◇◇
---真理の場合---
「じゃあ、最後は真理先輩ですね」
「うん、私は・・・これ」
真理はおずおずそう言うとスマホを操作した。画面に映し出されたのは一人のおさげ髪の女生徒だ。場所は背景からこの部室だと思われた。
眼鏡にお下げ髪の女生徒は頬を膨らませ、目の前にいるだれかに抗議している。そんな様子であった。
(・・誰なんですか?)
振り向き、そう尋ねようとした翔子の口からその言葉が発せられることはなかった。
それは後ろに座る一馬の目から一筋の涙がその頬を伝うのを見た為だった。
いつもは飄々とし、決して自分の弱みを見せないそんな一馬が泣いていた。翔子にとってこれは驚愕の出来事であった。
一馬は立ち上がると一歩、二歩、頼りない足取りでテレビへと近づく。そして画面の前まで来ると膝から崩れ落ちた。静かな部室には一馬の嗚咽のみが響いていた。
◇◇◇
②--------------のっこと翔子_過去カメラ----------------
「あ~、そりゃ、如月綾子先輩だね」
「如月綾子先輩?」
「うん」
「私達の二個上の先輩で・・一馬くんのカノジョ」
「・・」
「うちのガッコじゃ有名な話よ。知らないあんたはモグリなんだから。ふふ・・
学祭の時にね、写真部の部室の前で、一馬君が告ったの」
---のっこの回想---
人の流れの中、一人その流れに逆らうかのように。微動だにせずその女生徒は写真を見詰めていた。
のん子が横からのぞき込むとそれは女性と赤ん坊が座るその後ろ姿を捉えたもののようだった。
その時、ふと後ろに気配を感じ、振り向くとそこには同じクラスの堂本一馬がいた。
「あ、どうもとく」
呼びかけようとした。その声は最後まで発せられることはなかった。
彼のまなざしの真摯な色に思わず息を飲む。
手に一輪の薔薇を持ち、まっすぐ女生徒を見詰めたその瞳は、ただその時を待っていた。
やがて女生徒がゆっくりと振り向く。
一馬はスポットライトの中へと一歩進み出た。
ディフューズされたやわらかい光が照らすその中、その女生徒と一馬は真っすぐ見つめ合う。
一馬は静かに片膝をつくと、薔薇を差し出した。
彼女はじっと一馬のその一連の所作を見守るように見つめた。
差し出された薔薇にそっと手を重ね受け取ると
慈しむ様に薔薇を胸へと抱いた。
---のっこ回想_終---
「よく言うでしょ映画のワンシーンのようだって
一馬君カッコよかったんだから ふふ
あれはちょぴり焼けたな。遠くを見つめのっこが言った」
「それでその先輩の彼女は・・・」
「あんた知らないの?亡くなっているよ」
「あ・・」
それは翔子が半ば予想していた答えであった。一馬のあの様子、ただ事ではなかった。
「・・・ご病気?」
「うん、心臓の病気だった」
しばしの沈黙。
「言っておくけど真理は手強いわよ」
「・・うん」
「今度はきっと・・・・一馬君は「真理を選ぶ」」
「・・・」
「真理、去年の秋に一馬くんに告白してるんだ」
「え」
「小学生のころから一馬くん子だったし・・・それで一馬君もまんざらでもない感じだった。だから、てっきり私は一馬君は真理をって思ってた。
「でも、一馬君は綾子先輩を選んだ。・・・・・一馬君が先輩のご病気の事を知っていたかは分からないけれど」
のっこは目を伏せると静かに言った。
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