第4話 エピローグ

①----------告白----------


(今度はきっと・・・・一馬君は真理を選ぶ)

のっこの言葉が頭をよぎる。

でもこの煩わしい胸の甘い疼きも「私の本当」だ。退くなんて無い。


         ◇◇◇


学校を休んでいた一馬から部に顔を出すとの連絡があった。五日ぶりに一馬に会える。そう思うだけで翔子の胸は弾んだ。


部室棟を見上げると、窓から顔をのぞかせる一馬が見えた。

胸の奥、トクリと心臓が高鳴る。


「おーい、せんぱー・・・あ」

声を張り上げ呼びかけようとするが思いとどまる。

遠くを見つめる一馬に閃くものがあった。


慌てて、肩にかけたケースよりカメラを取り出すと。構えレンズを覗き、ピントを合わせる。


すると思った通りの絵が飛び込んできた。「シャッターチャンス!」心の中で叫ぶ。が、しかしその一馬の瞳を見た瞬間、同時に黒く重い何かが胸の奥に沈殿していくのが分った。


「いいよ~先輩・・そのまま」


翔子は唇を小さく噛みしめるとシャッターを切った。手ごたえはあった。この写真を早く一馬に見せたい・・でも・・


次の瞬間、翔子の足は駆け出していた。頭の中はぐちゃぐちゃだった。


旧校舎部活棟の階段を駆け上がると部室の前に立つ、弾んだ息を整え、数瞬の逡巡を重ねると意を決し、ドアを開けた。


部屋の中央に一馬はいた。微動だにせずジっと机の上に目を落としている。

翔子は視線を足元に落とすと、


「翔子頑張れ」と小さくつぶやいた。


そして勢いよく顔を上げると「お疲れさまですっ!」と精一杯の笑顔で言った。


一馬は翔子に向き直ると、「うん、お疲れ」と手を上げ応える。


その一馬の表情は穏やかで、瞳の色はどこまでも優しかった。


思わず、一馬から視線を外す。だが、その視線の逃げた先、机の上に置かれた額に目が止まってしまう。


【危険だ】


見てはダメだと直感が告げていた。

だが、それに反し、翔子の口は「それ見てもいいですか?」と発していた。


一馬は黙ったまま写真の入った額を翔子の前に差し出した。

写真を見た瞬間


「あ・・・」っと思わず声が漏れる。


同時に張りつめていた感情の糸がぷつりと切れた。


自分は人前で泣くことなどない人種であるとそう思っていた翔子であったが、

涙腺からとめどなく流れる涙をせき止めることは出来なかった。


「ひっく・・・・・ひっく・・・先輩は「卑怯」です」


「ははっ・・・うん、ごめんな、ありがとう」

そう言うと一馬は翔子を抱きしめた。


「え」

その時、部室の入口の方から小さく声が聞こえた。

一馬が慌てて振り向くとドアの前、目を見開く真理の姿があった。


真理は一馬と目が合った瞬間、弾かれるように廊下へと走り出る。


「真理!」


一馬が必死の表情でそう叫び走り出すのを翔子の目は捉えていた。

今ほど「決着」が付いたのは翔子の理性、だが「決着」の付かないその気持ちは気が付けば一馬の背中に向かって「先輩っ!」と、ありったけの「名前のない気持ちを込めた声」をぶつけていた。


②----------プロポーズ----------


「真理!」そう一馬が二度目に叫んだのは中庭だった。

その中央にある噴水の前で真理は立ち止まる。


「はぁはぁ・・やっと追いついた。真理、走るのは速いんだよなぁ。ははっ」

「・・・・・走るのはって、私がそれだけの人みたいじゃない」


そう強がり振り返った真理の瞳には不安の色が浮かんでいた。

だがそれは間も無く、安堵のそれへと変わる事になる。

一馬の瞳はあの時と全く同じ色をしていた。


一馬は一歩前に進み出ると写真の収められた額を真理へと差し出した。


その瞬間、真理の目が大きく見開かれる。

そこに映るのは二十歳前後と思われる一人の女性。

喜びとも驚きともとれる表情でぐっと涙をこらえる女性の肖像だった。

「どんな・・・いいことがあったのかな?この人に」

「それは・・・」

fin

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未来カメラ 白鷺弓子 @kawaguchi_akihiro

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