第2週目 握り寿司

木之本がカセットコンロを学校に持ってきてしゃぶしゃぶをするという狂行から早7日が経ってしまった。


今日も1時間早起きして特製の卵焼きとキャベツの千切せんぎりと焼いたソーセージを米の隣に詰め込んで出勤、先週と全く同じメニューを作ってしまった…ルーティーン化する前に別の弁当も作らなければならない。


例えば…魚だ、ココ最近魚を食べてない、久しぶりに食べたいものだ、鮭など買ってみようか…


そう思考をめぐらせているうちに校舎へ到着、するや否や先週の衝撃映像がフラッシュバックした。

今週は何を持ってきてしまうんだ木之本、先生は不安で仕方ないよ。


職員会議を済ませ教室に入り「ハイみんなおはy…」


刹那せつな


教室にあるはずのない異質な物体が目に飛び込んできたせいで思考が3秒止まった。


風呂敷ふろしきだ…デカい風呂敷ふろしきがランドセルロッカーの上に乗せられていた。なにかタライのような形の物を包んでいる。


もうこれを置いたヤツの心当たりしか無かった。


俺「うんよし木之本だな!!今度は何を持ってきた!?」


木之本「『寿司桶すしおけ』です。」


俺「いやそんなナチュラルに言われてもそうかぁ『寿司桶すしおけ』かぁとはならないから!!先生初めて聞いたよソレの名前!!」


寿司桶すしおけ」とは、寿司を盛り付けたり中で酢飯を作ったりする平たいおけのような入れ物の事で、回らないタイプの寿司屋の職人でもない限りまず持っていない代物シロモノである。


恐らくランドセルに入らないので手下げで持ってきたのだろう。

カセットコンロの時も衝撃を受けたが、よわい10歳の少年がまさか寿司桶すしおけを知っている上に学校に持ってくるとは夢にも思わなかった。



木之本「安心してください先生、今回は火使いませんから」


俺「そうなんだけどそうじゃないんだよなぁ」


木之本「今回はデカめのお弁当箱ということにすればギリセーフなんじゃないですかね」


俺「一応ギリの自覚はあるんだね木之本君?まぁいいや出席取るよーまず青名あおな〜」────


──給食の時間…

俺はまた嫌な予感がしていた

寿司桶を持ってきたってことは中身は酢飯で間違いなさそうだが、まさかランドセルにラップで刺身を入れてきたりしていないだろうか…

まだ小学4年生だ、鮮度の概念を知らなくても不思議ではない、やりかねない。

さすがにそれはマズイぞ木之本、常温で生魚なまざかなを約4時間放置はマズイ…


と思いきやベランダの扉をガラガラと開け、そこからクーラーボックスを出してきた。

校舎は5年ほど前に改装しており、環境に配慮したソーラーパネルだとか、雑巾を引っ掛けたり校庭を眺めたりするためのベランダがある。


そういう事かぁ〜


俺「じゃない!!2つもでかいモン持ってきてたのか!!」


木之本「はい、大変でした、夏休み前かと思いました」


俺「朝見かけた先生方も誰か止めろよ」


沢「木之本はちょっとした有名人だからなぁ、今日何作るか聞いてくるくらいじゃねぇかな」


俺「他の先生方も公認……?」


俺が四面楚歌しめんそかを感じている間にも木之本は余りの机を繋げてカウンターを作り寿司桶とネタを並べるスペースを確保して一貫目を握り始めている


木之本「はい、ヒラメおまち」


と呟きながら自分で醤油をつけて食べている

初めはさっぱりとした白身から食べる常識を知っているのか、通い慣れた食い方をしている


俺「さてはなかなかイイトコの子か木之本…?」


気づけばみんな椅子を並べて見た目は本格的な回らない寿司屋だ


沢「大将俺マグロ!!」


青名「わたしエビ!」


年久ねんげ「ウニくれ!」


子供らしいラインナップだ、こうでなくちゃな小学生の食う寿司は


クラスメイトの注文を受け、手際よく寿司を握ってはみんなが差し出した弁当箱のフタに乗せていく


木之本「先生はいかがなさいましょうかい?」


俺「あー…タイを頼むよ木之本…」


木之本が握ったタイは程よく脂が乗って新鮮で、酢飯の温度もちょうど良く職人顔負けだ、

しばらく魚を食べていなかった俺にはウマすぎるタイだった。


また共犯になってしまった、しかしあの輝く目をみたら怒る気も失せてしまう、他の生徒たちもみんなイキイキしてお昼を楽しんでいる、こんなクラスの担任になれて良かったのかもしれないとさえ思える。


しばらくして給食の時間は終わった。


俺「また食うの忘れた…晩飯に持って帰るか…」


木之本「ご一緒にガリはいかがですかい?」


俺「今日は貰っておこうかな大将…」

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木之本くんのフリーダム弁当 イヨ君 @iyokun

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