第4話 大脱走

 ある時、この国の王様と王子様が竜達の様子を見に来ることになった、とムシュカに言われた。

 竜は基本的に国王の所有物なんだとか。


 竜を操るのは竜使い。その竜使いの中で騎士になれたのが竜騎士。竜騎士はえある職業らしい。


 そんな立派な職場に、僕みたいな子供がチョロチョロしているのはよろしくないと、王様たちが来ている間はどこか見えないところに隠れて遊んでいるようにムシュカに言われた。


 ちなみに僕は竜使いではなく、もちろん竜騎士でもなく、ただ単に保護している子供ということらしい。確かに僕は竜に命令できない。


 どこか保護施設に僕を入れようかと言う案も最初のころ出たが、僕が泣くし僕の竜も怒るしで、諦めたと言っていた。


 そんなわけで、ただの子供の僕は格好いい竜騎士たちの演武とかも見られず、遠くの方で遊んでいた。でもちょっとは見たかったので、ぎりぎり見えるところで遊んでいた。


 しばらく暇を潰していると、うっかり王子様に見つかってしまった。


 なにをしている? と聞かれたので、そのままのことを話す。


 竜の頭に乗れる話もしたら羨ましがって、見たいと言ってきた。


 勝手になにかすると怒られるとしたので、ムシュカに話しにいくことにした。


 見つかってしまったことをムシュカに呆れられたが、王子がわがままをいうので、竜の鼻に乗るところを見せてあげることになった。


 これは他の人たちにも見せてなかったので、みんなぽかんとしていた。僕がお説教されているときの顔みたいで、笑えた。


 竜の頭に乗って(正確には鼻)笑う僕は神々しかったと、あとでムシュカに言ってもらえた。言葉の意味はわからなかったけど。



 でも困ったのはその後で、王子も竜に乗りたいとわがままを言い出した。さっきからわがままばかりで、この子はお説教されたほうがいいと思ったけど、だれもお説教しない。お父さんの王様も困った顔で優しく話すだけ。


 危ないんだよ、と僕が怒ってあげたら、みんなびっくりしてた。


 でも、危ないときに怒ってあげないといけないってお師匠様が言ってたよと言うことも伝えたら、王様がそうだな、と言って、さっきよりもキツめにしかったら、王子がとなっていた。






 違う日に、王子に遊ぼうと誘われた。同じくらいの歳の子と遊ぶのは初めてなので、楽しみだった。


 きれいな夕焼けが見れるんだと、大鷲ファルコンに乗せてもらって、崖の上の木の上で降ろしてもらった。その後用事があるから待っててと、僕をそのままにしていなくなってしまった。


 僕は気が付かなかったけど、それは王子のいたずらで、竜に乗せてくれなかった腹いせに嫌がらせをしたんだと後から聞いた。


 そのせいで、僕は史実に残るような出来事を引き起こしてしまった。






 僕が帰ってこないことに気がついたムシュカや竜使い達は、最初いつものことかと竜のねぐらをさがしたらしいけれど、どこにもいない。不思議に思って宿舎や訓練所、食堂や台所、ごみ捨て場まで探したけど、どこにもいない。


 これはまずいかもしれないと、竜をつかっての捜索(迷子探しに竜をつかうのは前代未聞だが、名目上は訓練の一つとしておいたらしい)をすることにしたが、その指示を出す前後から竜達の様子がおかしいかったようだ。


 竜使いたちの指示を全く聞かなくなる。

 特に僕の竜が一番荒ぶっていたらしく、特製の鎖もとうとうひきちぎり、竜全員が僕を探しに飛び立ってしまったらしい。




 これが後ほど史実に残る、『竜全頭脱走事件』




 これは、ムシュカやほかの竜騎士たちの責任問題になるところだったらしい。だけど、僕の竜にくわえられて戻ってきた僕の説明で、王子がやらかしたことだと判明した。そこからは更に大事になっては困ると、逆に事態をすみやかに収めるようにという方向になったらしい。大人はずるいと思う。時々お説教してることを途中で変える。


 王子はそのあとさすがにこっぴどく怒られたらしい。

 僕に泣きながら謝りに来た。

 僕もいたずらをするときはあるから、『いいよ』と言ってあげた。

 その時見た夕焼けはとてもきれいだったから、また一緒に見に行こうと約束した。


 王子とはもっと仲良くなれた気がした。




 全頭が探しに来てくれたことから、僕の評価が上がったとかで、扱いが良くなった。怒鳴る人はいなくなったし、ご飯もちょっと豪華になった。


 僕が全頭に命令を出すこともできるんじゃないかと、夢みたいなことを言っている人もいたけど、僕は僕の竜の言うことも聞かせられない。


 他の竜とも仲良くなったけど、命令なんてしないしできない。


 ただ、僕が困っていることがあると手伝ってくれることはあるので、僕の竜からの評価も上がったのかもしれないとは思った。

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