第2話 傅役の決定
吉田郡山城 毛利隆元
1555年10月:
陶との戦は我ら毛利の大勝であった。父上が暴風雨の時に大胆にも舟を出して厳島に乗り込み、山から陶軍を奇襲したことで敵方は動揺。大軍であったこともあり、島から出ようとして舟が沈み溺死する者が続出した。その後、我ら毛利勢は敵を蹂躙。弘中三河守(
「殿、
「良い。通せ。」
小姓は頭を下げた後、内蔵丞を呼びに行った。しかし、内蔵丞が私に目通りを願うとは一体何事だろう。そう考えていた時、
「粟屋内蔵丞にございます。殿、此度は夜分遅くに申し訳ございませぬ。」
「それは良い。して、何用か?」
「はっ。実は
あややから?一体何事だろうか。心当たりは全く無いのだが。
「其方の参った理由はよく分かった。して、その言伝が如何なる物か聞いてもよいか?」
「はっ。では御耳を拝借致しまして、(小声で)『徳鶴丸は今後の情勢も踏まえて誰を傅役としてほしいか考えがあるらしいため、傅役をお決めになる際はあの子の意見もお聞きになっていただきとう御座います。』とのことで御座います。」
内蔵丞から聞いた内容は非常に興味をそそられるものであった。本来いくら徳鶴丸より年上の子といえども傅役は父が決めるもの。それを子が意見するなどあり得ぬことである。しかし、徳鶴丸はそこら辺の
「分かった。では徳鶴丸の考えとやらを聞かせてもらおうではないか。そうあややにも伝えよ。内蔵丞、大義であった。下がって良いぞ。」
「はっ。では、失礼致しまする。」
内蔵丞を下がらせた後、私は自室にて逸る気持ちを抑えられずにいた。さて、徳鶴丸が私の想像をどれだけ超えるか見物だな。
吉田郡山城
1555年10月
此度は
「おおこれは飛驒守(国司元相)殿、随分と早う御座いますな。」
「何、
「それは
「さよう。確か
そう言って会話に入ってこられたのは備前守(
「皆の者、面を上げよ。此度は徳鶴丸が自身の傅役に誰を据えるべきか考えがあるようだ。そこで、皆には徳鶴丸の意見を真剣に聞いてもらい、疑念があるようなら容赦なく彼にぶつけて欲しい。」
驚いた。辺りを見回すと皆同じような反応であったわ。しかしあのお方のために殿がこれほどの場を用意するとはな。余程の実力がお有りなのであろう。内蔵丞(粟屋元種)殿や
「皆様方が疑問や不信を抱かれていることはご
平伏された徳鶴丸様に儂らは動揺してしまった。先ほどのお二方も厳しい視線はどこへやら、呆然としてしまっておるわ。ちらりと上座を見ると大殿は満足そうに笑っておられるな。その謙虚な徳鶴丸様の態度に満足されたということか。
「さて、これから私の考えを述べるわけで御座いますが、私は自分の傅役として最もふさわしいのは熊谷伊豆守(熊谷信直)殿、香川五郎左衛門尉(香川光景)殿お二人だと愚考致します。」
この後、儂らは徳鶴丸様に度肝を抜かれることとなる。
<後書き>
今回もお読みくださりありがとうございます。ここからは作者のコメントを書いていきたいと思います。
1.粟屋元種
史実において元就、隆元、輝元の三代に渡って仕えてきた方。主人公が尾崎局におねだりして、
2.一体何事だろう?
毛利家において重役を担う元種が何の前触れもなく自分の部屋を来訪する。隆元視点では余程のことが起きた、何だ?と判断するのも仕方ないかなと思います。
3.「はっ。では失礼致しまする。」
絶対内心で「え~?認めちゃうのマジ?」ってなってるけどそれを
4.国司元相
史実において第13代将軍の足利義輝から「鈴の槍」の免許を得たという猛将。100歳まで生きたとも言われる方なので、そこから拙作では「若いもんに負けてたまるか!」「隠居なんてせんぞ!生涯現役だぞ!」というキャラにしましたw。そして永遠に家督が譲られないことに鬱憤が貯まっている元武さん36歳w。
5.みんな驚いた
会社で例えると上司の息子(3歳くらい)が会議に出席しているようなものですからね。しかもその子が主体となって意見を述べるという。
6.平伏されて皆動揺した
内心で「あれ?自分また何かやっちゃいました?」とつぶやく主人公が厳ついおじさんたち(毛利家臣)を動揺させておりますw。当時の感覚では考えられないことですからねw。元就さんも内心は苦笑中。
7.熊谷信直と香川光景
彼らを選んだ理由は次話で描きます
それではまた次回もよろしくお願い致します。
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