ママはつらいよ

NADA

「危機一髪」

ハッとして目が覚めた


今、何時?


目覚まし時計に目をやると、もう朝の7時を過ぎている

飛び起きると、慌てて階段を下りてキッチンへ


え?嘘?


お米が炊けてない

昨日の夜確かにタイマー予約をしたはず


落ち着け

落ち着いて考えれば何とかなる


冷蔵庫を開けて、使えそうなものを探す

今日は娘の幼稚園の遠足

お弁当作りのためにいつもより早起きする予定だった

それなのに、あと30分で家を出る時間……


オワタ……


頭の中が真っ白でフリーズしている

母親になってまだ四年

元々料理は苦手でお弁当作りはさらに慣れていない


諦める?


いや、楽しみにしている娘のことを考えると休ませるなんてできない

とにかく娘を起こして、着替えさせる

あと、15分位でお弁当を作らなければ、幼稚園のバスに間に合わない


やるしかない……!


娘の朝食用の8枚切りの食パンを取り出すと耳を切り落とす

マヨネーズを塗ってスライスハムとチーズ

次はケチャップを塗ってソーセージ

超高速で動き回る

次はジャム、次、ピーナッツバター


合間に冷凍ポテトとパスタをレンジに突っ込む

サランラップで食パンをクルクル巻く


クルクル、クルクル


自分の目が回りそうになる

心臓は起きた時からバクバクしている


クルクル、バクバク、クルクル、バクバク……


ぐるぐる模様の食パンサンドを一口大に切り分けてお弁当箱へ詰め込む


間にレタス、パスタとポテトも詰めてっ

炭水化物祭りかよっ

水筒、おしぼり、お箸、よしっ


よっしゃー!何とかなったー!

…って、あと5分!


娘の髪を3分で結ぶと、自分の着替えは1分


起きたままのボサボサ頭で顔も洗わずにマスクと眼鏡で家を飛び出て、ダッシュ!!

娘の手を引っ張って全力で走っていくと、バスがもう来ていた


ハァ、ハァ、危機一髪、間に合った……


娘はバスに乗り席に座ると笑顔で手を振っている


いってらっしゃーい、と手を振り返すと一気に力が抜けた

まだ心臓がドキドキする

ハァーーーッ、と大きくため息が出た

自分の格好の酷さに恥ずかしくなり、急いでバス停を離れた


疲れた……


でも、遠足へ行く娘のお弁当が間に合ってよかった

安堵の気持ちで足の力が抜けてよろけた

お母さんの朝は、たいへんだ


「毎日が戦いだよ…本当に…」


玄関のドアを開けながら、呟いた

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ママはつらいよ NADA @monokaki

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