第12話 紅刃、駆ける

 どこまでも続いていると錯覚してしまいそうな砂漠を、ひたすら真っ直ぐに進む黒衣の青年。


 かぶり物は無く、黒い髪に砂が付こうと気にも留めていない様子だ。


 男が彷徨う理由はただ一つ。託された使命のため。


 その使命を彼に与えたのは永遠の忠誠を誓った主であり愛人でもある女性だった。


 男には、彼女のためなら火や水の中にだって飛び込む覚悟がある。死ぬのだって怖くない。


 まあ、命まで捨ててしまったら悲しまれそうなのでやりはしないが。あくまで心意気の話だ。


「嗚呼、会いたい……」


 ふと遠くにいる愛人の可愛らしい顔を思い浮かべ、感傷に浸る。


 見る者を吸い込む赤い瞳。彼女の高貴さを表す金色の美髪。そして、自信に満ちあふれた勝気な表情。


 その場にいたら思わず抱きしめてしまいそうだ。


「……とは言え、公私はわきまえないとな」


 想像で愛人成分を補給した青年は、気を取り直して大地を踏みしめる。


 ──と。


 青年の視界の端に、先程まではなかったはずの太く長い何かが映った。


「なんだ、あれ……?」


 気になって視線を寄越すと、それは天へと昇る筒のようだった。


 さらに目を凝らしてみると、その筒状の『なにか』は、を追うように伸びている。


「あの追われてるのが人だとしたら……不味いな」


 名前も知らない誰かの危険を察知した青年は故意に指を切り、


「──【紅血剣コウケツケン】!」


 垂らした血で剣を形作ると、正義感のままに駆け出した。

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