〈炎天の魔女〉

第10話 快晴なり

 照りつける日差し。吹き荒れる熱風。果ての見えない砂漠。


 そんな大陸にも国はある。国があるということは人が住んでいるということ。


 人間は魔力や気を持たないのにも関わらず、時として類稀たぐいまれなる能力を発揮する時がある。


 飛び抜けた順応性こそが彼らの強みなのだろうと、ジュード・フレイボルダは思う。


「だから、アタシは人間が大好きだぁぁぁぁぁっ!!」


 元気溌剌にして明朗快活。有り余る元気を声に変えてハッスル。間違えた、発する。


 周囲には誰一人いないので、どれだけ叫ぼうと誰にも迷惑は掛からない。


 ただひとつ問題があるとすれば──気温だ。


 炎を司る神・フレイボルダに生み出された彼女は、炎の他に熱も操作できる。


 が、能力の仕組みを理解できていない彼女は感情を昂らせるだけで周囲の気温を上げてしまう。自分で制御できないのだ。


「暑いぜぇぇぇぇぇッ!」


 ちなみにジュードは胸と腰に布を巻いているだけの涼しげな格好をしているが、その恩恵は無いらしい。


 興奮することで気温が上昇し、その熱に当てられてさらに高揚するという連鎖反応。


 ジュードが魔女であるために、その暴走を止められる者は人間界に存在しない。


 ──ただ一人を除いて。


『ジュード……聞こえとるんやろジュード。今すぐ戻ってきぃや。話がある』


「この声、親父か!」


 脳内に直接響くフレイボルダの声を聞き取り、ジュードはその場で跳躍した。


 ただ跳ねただけではない。足から炎を噴射し、その推力で飛行を可能にしたのだ。


「今行くぜぇぇぇええっ!」


 青空の下を、ジュードが目にも止まらぬ早さで飛び抜ける。


 その姿が国の名物になっていることなど、彼女は露ほどにも知らない。


 知らないからこそ自分を見上げる人間など気にも留めずにぼやく。


「……つーか、頭ん中に直接話しかけてくんのやめてくんねえかな。気持ちわりぃんだわ、アレ」

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