第9話 貴女に捧げる決意
──ビィステリア王国国王、レオン・クラウス・ヴェスティーツァは誇り高き獅子の獣人だ。
この国において、獅子の血を引くということは王族の証。
百戦錬磨だったという初代国王の名を継いだレオンは、その名と血に恥じぬよう鍛錬を重ねた。
そして今日。自身の鍛えに鍛えた技を振るうことになるはずだった。
しかし、神の使いたるナバルに命じられたのは撤退。渋々承知した彼だが、今その胸中には苛立ちが渦巻いていた。
ただし、その矛先はナバルではなく自分自身。
撤退自体にレオンが思うところは何も無い。国を守る戦で王が死んだとあっては目も当てられなくなる。
苛立ちの原因は撤退後。安全圏と思い込み、避難した街での出来事だ。
「俺が、もっと早く到着していれば……」
周囲に散らばった護衛達の亡骸、その傍らで屈辱に歯噛みするレオン。
辿り着いたのは、数日前にイラルドの住人を避難させた街。しかしそこは、魔族の手によって阿鼻叫喚の地獄と化していた。
魔族は住人を避難させた時より早くからこの国に到着していたと見るべきだ。それに気付けなかったのは、敵が地中に潜んでいたからである。
つまり、ナバルと対峙した〈練魔十騎〉とやらが陽動。こちらに攻めてきたものが本隊ということだ。
「そうでもなければこんな数動かすものか、クソッ」
レオンが斬った屍の数は五十は下らない。同行者達の奮戦も含めれば百程度はいただろう。
その数を相手に彼は戦った。戦い、傷つき、血を流し、それでも立ち上がってまた戦った。
しかし、それは自分だけではなかった。レオンの護衛達もまた、同じところで戦っていたのだ。
彼らの死は周囲の状況を把握し切れていなかったレオンの不始末。もはや、償いの方法さえ分からない。
「俺はこれから、どうすれば……」
「頭を抱えている暇があるなら立ち上がれ、レオン」
女々しく泣き言をのたまう国王へ、唐突に不躾な言葉が投げかけられる。
そんな不敬が許されるのはこの国に一人しかいない。
「魔女、殿……」
兜の脱げた重い頭を上げ、声の主を視界に入れる。
美しさを閉じ込めた琥珀の瞳と、目が合った。
「魔女殿……?」
ふと、ナバルの異変に気付く。常に隙の無いように見える彼女が、今は酷く疲弊しているように見えたのだ。
その小さな違和感から、レオンは察した。
彼女も自分と同じように戦っている。敵以外の何かと、今も。
しかし、ナバルの目から光は失われていない。
「……ならば、俺だけが足踏みしている訳にもいきませんな」
百戦錬磨でなくてもいい。
孤高である必要も無い。
ただ一人頂点に君臨するのが初代だった。しかし、自分は違う。
「……民に支えられ、民を支える。俺はこれから、そんな王を目指したい」
それが今のレオンにできる、精一杯の償い。
散った者を想い、生きる者を見る。
「お前ならきっとなれる。私も一人の民として、お前を支えよう」
このように、決して他人に弱みを見せない彼女のために。
誰かが支えてやらねば。放っておいては砂のように崩れ去ってしまいそうな魔女のために。
「……では、共に参りましょう。残党狩りです」
彼らの戦いは、まだ始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます