第44話 一体何が起こっているのだ?…~アルフレッド視点~
今日は王太子殿下とレイチェル嬢の婚約発表パーティー。もちろん、僕たちも全員で出席予定だ。
着替えを済ませ、クリスティーヌの部屋の前で待つ。すると、ゆっくりとクリスティーヌが出て来た。
僕の瞳の色に合わせて、青いドレスを着たクリスティーヌは本当に美しい。
「お待たせてしまったのですね。ごめんなさい。今日のアルフレッド様、とても素敵ですわ。きっと今日の参列者の中で、一番カッコいい事でしょう。いいえ、参列者だけでなく、今日の主役でもある王太子殿下よりもずっとカッコいいはずですわ。こんな素敵なアルフレッド様を狙う悪党がいるかもしれません。私が必ずアルフレッド様をお守りいたしますので、どうかご安心を!」
クリスティーヌが僕を守るか。彼女はいつも、僕を必死に守ろうとしてくれている。でも僕が、クリスティーヌを守りたいのだけれどな…
「ありがとう、クリスティーヌ。今日はたくさんの貴族が来るから、どうか僕から離れないで欲しい。いいかい?絶対に離れてはダメだよ」
「ええ、もちろんですわ。今日はカリーナ殿下もいらっしゃるでしょうから、厳重警戒で行きましょう」
カリーナ殿下か。そう言えば最近大人しいな。もしかして僕の事を、諦めてくれたのか?その瞬間、ニヤリと笑うあの女の顔が浮かんだ。
いいや…
あの女が僕を諦めているとは思えない。ただ、今日は自分の兄の大切な婚約披露パーティーだ。さすがに何か仕掛けてくることはないだろう。
「アルフレッド様、どうされましたか?もしかしてカリーナ殿下の名前を出してしまった事で、嫌な気持ちになりましたか?申し訳ございません」
可愛いクリスティーヌが、なぜか僕に謝っている。
「違うんだ。ちょっと考え事をしていて。さあ、そろそろ行こう」
既に待っていた義両親と一緒に、馬車に乗り込んだ。正直僕は、王宮にはいい思い出がない。でも、クリスティーヌが傍にいてくれるからきっと大丈夫だ。
王宮に着くと、今日の会場でもある大ホールに案内された。既にたくさんの貴族たちが集まっている。クリスティーヌが僕から離れない様に、すっと腰に手を回した。そんな僕に気が付いたクリスティーヌが、僕にすり寄って来る。やっぱりクリスティーヌは可愛いな…
大丈夫だ、もうクリスティーヌが僕から逃げる事はない。きっと大丈夫。だって今日、レイチェル嬢は正式にカロイド殿下の婚約者になるのだから…
しばらくすると、主役でもある2人と、王族たちが出て来た。そして貴族一同が見守る中、2人が婚約届にサインをした。
「皆様、今この場を持ちまして、カロイド・ディア・サムリン殿下とレイチェル・ディスティーヌ嬢が正式に婚約したことを発表いたします。カロイド殿下、レイチェル嬢、おめでとうございます」
「「「「「おめでとうございます」」」」」
貴族たちから歓喜と大きな拍手が送られる。クリスティーヌも嬉しそうに拍手をしていた。どうやら完全に僕の取り越し苦労だった様だ。よく考えてみたら、2人は令嬢同士。もしかしたら僕に隠れて、恋の話をしていたのかもしれない。令嬢たちは、そういった話が好きだと聞くからな。
特にレイチェル嬢は、次期王妃になる事が決まったのだから、色々と不安な事も多いだろう。でもそれならそうと、僕に話してくれたらよかったのに…さすがの僕も、そこまでクリスティーヌを縛り付けたりはしないのにな…
そんな事を考えているうちに、パーティーが始まった。
「アルフレッド様、私たちも踊りましょう」
嬉しそうに僕の手を握り歩き出したクリスティーヌ。音楽に合わせてゆっくり踊る。こうやってクリスティーヌと踊れるだなんて、本当に幸せだな。
その時だった。何やら猛烈な視線を感じる。ふと視線の方に目をやると、そこにはカリーナ殿下がニヤニヤしながらこちらを見ていたのだ。その姿を見た瞬間、一気に体が凍り付くのを感じた。
怖い…またあの女が僕を…
「アルフレッド様、大丈夫ですか?とにかく一度お休みしましょう」
僕の異変に気が付いたクリスティーヌが、すぐにダンスをやめ、近くの休憩スペースに連れて行ってくれた。僕は一体何をしているのだろう。あの女を見ただけで、こんなに動揺するだなんて。でも…あの女の目…
「アルフレッド様、どうか落ち着いて下さい」
ギュッとクリスティーヌが抱きしめてくれる。その温もりが温かくて落ち着く。
「ありがとう、クリスティーヌ。すまない、急に取り乱してしまって」
「私の事は気にしないで下さい。カリーナ殿下に恐怖を感じたのですよね。大丈夫ですわ、どんなことがあっても、あなた様は私が守りますから」
クリスティーヌ、君は僕にとって女神の様な女性だ。彼女がいるだけで、僕の心はこんなにも穏やかになれるのだから…
しばらく僕を抱きしめたあと、ゆっくりと離れたクリスティーヌ。
「もう震えも止まったようですね。そろそろ殿下やレイチェル様に挨拶に行きましょうか?」
「でも、まだ沢山の貴族に囲まれているから、もう少し後にしよう」
もうちょっとだけ、クリスティーヌと2人きりでいたいのだ。
「分かりましたわ。それではもう少しゆっくりしましょう」
すっと僕の隣にクリスティーヌが座った。そんな彼女を、ギュッと抱き寄せる。
「よろしければジュースをどうぞ」
メイドがジュースを手渡してくれた。せっかくなので頂こう。クリスティーヌと一緒に、ジュースを頂いた。
その時だった。
「ぐ…」
ジュースを飲んだクリスティーヌが、急に苦しみだしたのだ。
「クリスティーヌ!一体どうしたのだい?」
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