第43話 取り越し苦労だった様だ~アルフレッド視点~

翌日から、僕はクリスティーヌを厳しく監視する様になった。もしクリスティーヌがあの女と逃げ出すのなら、きっとあの女と殿下が正式に婚約を結ぶ前だろう。


さすがに王太子殿下と婚約を正式に結んでしまったら、あの女とクリスティーヌが逃げ出すのは不可能だ。再来月の婚約パーティーまでクリスティーヌの動きを封じれば、もう安心なはず。


そんな思いでクリスティーヌを徹底的に監視した。ただ…僕は次期公爵になるために勉強にも力を入れないといけないのだ。時には義父上と一緒に、領地の視察に行く事もある。その時はメイドたちにクリスティーヌを監視させているが、不安でたまらないのだ。


そんな僕の不安とは裏腹に、特にどこかに出掛ける様子もなく、屋敷で大人しく過ごしているというクリスティーヌ。ただ、なぜか疲れているのか、少しやつれている様にも見える。


もしかして僕に内緒で、陰で動いているのか?一体クリスティーヌは、何を考えているのだろう。


彼女の事が心配すぎて、僕も眠れない日々が続いた。僕を心配したクリスティーヌが、相変わらず僕と一緒に寝てくれている。それでも不安で寝付けないのだ。そんな僕に、クリスティーヌが


「アルフレッド様、最近寝つきが悪いようですね。これはリラックス作用のなるハーブティです。寝不足は体に良くありません。しっかり休んでください」


そう言ってハーブティを飲ませてくれるのようになったのだ。そのハーブティを飲むと、無性に眠くなりすぐに眠ってしまう。しまった、今日も眠ってしまった!そう思い、翌日飛び起きるのだが、僕の傍で眠るクリスティーヌを見つけ、安心する日々。


いつの間にかクリスティーヌのお陰で、しっかり睡眠がとれる様になった。もしかしてクリスティーヌは、あの女と駆け落ちをするつもりなんて、ないのかもしれない。いいや、油断は禁物だ。もしかしたら、僕が油断したタイミングで、逃げ出すのかもしれない。


そう思い、公爵家の警備を強化した。万が一僕が眠っている間にクリスティーヌが逃げ出しても、すぐに捕まえられる様に…


そしてついに、あの女と王太子殿下の婚約披露パーティーの前日になった。今日も笑顔でハーブティを進めてくるクリスティーヌ。


「いつも美味しいハーブティをありがとう。でも、今日はいいよ」


もし彼女たちが逃げ出すなら、きっと今日だろう。今日だけは絶対に寝ないぞ!そんな思いで、彼女に伝えた。


「明日はレイチェル様と王太子殿下の婚約披露パーティーの日です。万が一アルフレッド様が寝不足だと大変ですので、どうか飲んでください」


笑顔でクリスティーヌがハーブティを進めてくる。どうしても僕にハーブティを飲ませたいのだな。でも、その手には引っかからないぞ。


「ハーブティは飲まないよ。そんなに飲みたいなら、クリスティーヌが飲んだらいいだろう」


プイっとあちらの方を向いて抵抗した。ちょっと子供っぽかったかな?もしかして、クリスティーヌに呆れられたのでは…心配になり、彼女の方を見ると


「本当に、困った人ですね。それなら私が飲ませて差し上げましょう」


クリスティーヌがハーブティを口に含むと、そのまま唇に温かくて柔らかい感触が。それと同時に、ハーブティが僕の口に流れ込んでくる。まさか、口移しで飲ませてくれたのか?初めて感じるクリスティーヌの唇の感触に、僕は完全に虜になってしまった。その後何度もクリスティーヌの唇を求めた結果、結局ハーブティを飲み切ってしまった。


しまった、クリスティーヌの罠に、まんまとハマってしまった。


一気に眠気に襲われ、そのまま意識を飛ばしてしまったのだった。



翌日


しまった!そう思って飛び起きたのだが…隣にはスヤスヤと寝息を立てて眠るクリスティーヌの姿が。よかった、クリスティーヌは僕の傍にいてくれのだな…安堵から彼女を強く抱きしめた。すると、瞼がゆっくり上がり、美しい紫色の瞳と目があった。


「おはようございます、アルフレッド様。昨日はゆっくり眠れましたか?」


「ああ、君のお陰でゆっくり眠れたよ…クリスティーヌ、僕の傍にいてくれてありがとう」


僕の言葉に一瞬大きく目を見開いたクリスティーヌだったが、すぐにいつもの優しい笑顔に戻り


「私はずっと、アルフレッド様の傍にいますわ。どんな事があっても、ずっと…ですから、どうか安心してくださいませ。私はいつでも、あなた様のものですから」


そう言って抱きしめてくれたのだ。


クリスティーヌはいつもと変わらない愛情を、僕に与えてくれる。もしかして僕の勘違いだったのか?


「さあ、今日はレイチェル様とカロイド殿下の婚約披露パーティーです。私は準備のため部屋に戻りますわ。アルフレッド様も、どうかご準備を」


そう言って部屋から出ていったクリスティーヌ。そうだ、今日はあの女と殿下の婚約披露パーティー。このパーティーさえ終われば、もうあの女は殿下から逃げる事は出来ない。


もう大丈夫なはずだ。

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