第29話 親友との再会です

「レイチェル様、お待たせしてごめんなさい」


急いで彼女の待つ部屋へと向かうと、レイチェル様が立って待っていてくれた。


「クリスティーヌ様、急に押しかけてごめんなさい。アルフレッド様は?」


「アルフレッド様は、父と一緒に今外出しております。さあ、お座りください」


レイチェル様が席に着くと、すぐにアリアがお茶を入れてくれた。


「アリア、今からレイチェル様と大切なお話をするの。申し訳ないのだけれど、出て行ってくれるかしら?」


私の言葉に目を大きく見開くアリア。


「しかし…」


「大丈夫よ。お願い」


「かしこまりました。私はお部屋の外で待機しておりますので、いつでもお呼びください」


少し不安そうな顔のアリアが、部屋から出て行った。よし、準備は整ったわね。ゆっくり深呼吸をし、レイチェル様の方を向きなおった。


「クリスティーヌ様、つかぬことをお伺いしますが、日本という国をご存じですか?“私はあなたと生きていきます”という漫画とか、知っていたりしませんか?」


ふいにレイチェル様がそんな事を呟いたのだ。やっぱりレイチェル様は…


「はい、知っておりますわ。今日頂いた和菓子、もしかして“安楽堂”の関係者の方ですか?私の前世の名前は、村上幸(むらかみさち)です。お店の隣に住んでいました」


「やっぱり…あなた、幸だったのね。私は市花(いちか)よ!幸、久しぶりね」


やっぱりレイチェル様が、いっちゃんだったのね…


レイチェル様が私に抱き着いて来た。私も彼女をギュッと抱きしめた。前世の親友で幼馴染のいっちゃんも、まさかこの世界に転生していただなんて…嬉しくて涙が溢れ出す。


「まさか幸が、あの悪役ヒロイン、クリスティーヌに転生していただなんて。急にクリスティーヌがアルフレッド様に優しくなっていたでしょう?もしかしたらクリスティーヌは、番外編通り、二度目の生をいきているのか?はたまた私と同じように、あの漫画を読んでいた子が転生したのか、どっちだろうって。だから日本人なら知っているお菓子を出して確認したの。それで幸は、いつ前世の記憶を取り戻したの?」


「実は12歳の時に、前世の記憶を取り戻したの。まさか自分が、悪役ヒロインのクリスティーヌに転生していただなんて、びっくりだわ。私ね、転生したと知った時、神様に誓ったの。絶対にアルフレッド様を幸せにしてみせるって!それが私の使命でもあるでしょう?それでいっちゃんは、いつから前世の記憶があるの?」


「私は物心ついた時からよ。ただ、レイチェルは漫画には登場していなかったから、最初は気が付かなかったの。そんな中、アルフレッド様のご両親が亡くなったって聞いて、そこでこの世界に転生したことを初めて知ったのよ。ただ、私は漫画にすら登場しない人物でしょう。正直倒れそうなくらいショックだったわ。それでも、何とかアルフレッド様を助けたくて、色々と考えていたの」


「そうだったの!だからにっくき悪役ヒロイン、クリスティーヌに冷たかったのね。分かるわ、私も自分をぶん殴ってやりたかったくらいだもの。いっちゃん、私、絶対にアルフレッド様を幸せにして見せるわ。きっと神様が、アルフレッド様推しを代表して、私に彼を託したと考えているのよ。お願い、私に協力して欲しいの!」


いっちゃんに頭を下げた。見た目は違えど、彼女は間違いなく親友のいっちゃんだ。前世では物心ついた時から一緒に過ごし、苦楽を共にして来た親友なのだ。


「もちろんよ!幸、私達でアルフレッド様を幸せにしましょう。私も自分の全ての人生をかけて、あなたに協力するわ!」


いっちゃんがガッチリ手を握り、笑顔で頷いてくれている。その姿を見た瞬間、涙が溢れだした。


「ありがとう、いっちゃん…実はね、カリーナ殿下がどうやら黒幕みたいなの。あの人、アルフレッド様にかなり執着している様で。彼を手に入れるために、自分の兄でもある王太子殿下を私に近づかせたのよ。きっとアルフレッド様を死に追いやったのも、あの女の仕業だわ!」



今まで溜め込んでいた思いを、一気に彼女にぶつけた。


「そうだったのね。確かにカリーナ殿下、なんだか胡散臭い気がしていたのよ。幸、もっと詳しく話して」


私は今までの出来事を事細かく話した。カロイド殿下は、妹のカリーナ殿下に頼まれて、私に近づいた事。カリーナ殿下は、アルフレッド様にかなり執着しているという事。そんなカリーナ様とカロイド殿下を避けたいのだが、中々うまくいかない事。


カリーナ殿下の執着心は異常で、アルフレッド様が彼女を相当怖がっている事。そしてカリーナ殿下は、アルフレッド様の不幸を望んでいるという事を、詳しく話したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る