眼ノ宮ハルヒの憂鬱

Cランク治療薬

眼ノ宮ハルヒの憂鬱

 永遠の視力をいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話しだが、それでも俺がいつまで視力矯正なしなどという想像上のスーパーマンを信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じていなかった。そんなこんなな賢しい俺だが、宇宙人や未来人や超能力者がこの世に存在しないのだということに気付いたのは相当後になってからだった。そんなことを頭の片隅でぼんやり考えながら俺はたいした感慨もなく高校生になり――、眼ノ宮ハルヒと出会った。

 奴が立ち上がり――ああ、俺は生涯このことを忘れないだろうな――後々語り草となる言葉をのたまった。


「ただの人間には興味ありません。この中に眼鏡の宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上」


 さすがに振り向いたね。

 長くて真っ直ぐな黒い髪に眼鏡つけて、クラス全員の視線を傲然と受けとめる顔はこの上なく整った目鼻立ち、意志の強そうな大きくて黒い目を以上に長いまつげが縁取り、薄桃色の唇を固く引き結んだ女。えらい美人がそこにいた。

 そしてある時何か魔が差してしまったんだろう。気が付いたら眼ノ宮ハルヒに話しかけていた。


「曜日で眼鏡変えるのは宇宙人対策か?」

「いつ気付いたの」


 路傍の石に話しかけるような口調でハルヒは言った。

 そう言われればいつだっただろう。


「んー……ちょっと前」

「あっそう、裸眼には興味ないわ」


 俺が裸眼なのには訳がある。

 ある日突然俺の部屋にオマケのように、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいたのだ。

 俺の枕元の眼鏡は無情にも親の敵かとでも言わんばかりに割られていた。意味が解らん。


「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし」

「なにす」

る、と言いかけた俺の目先を見えない指が通過、眼球をめくろうとしてくる。


「この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた対有機生命体コンタクト・・・・・用ヒューマノイド・インターフェース。それが、わたし」

「さきっぽだから大丈夫」

「おいおい大丈夫じゃねーぞ。入らないからね。そのサイズ入らないからね」

「ユニーク……」

「ユニークじゃねぇから! 普通だから!」


 部屋にあったちょっとここで言っていいのか分からないローションを全身に塗りたくり始める。


「コンタクト装着液じゃないからね」

「私の役目は観測だから」

「いや見るの俺だからね。この場合」

「大丈夫寝ている時はどこかにいるから」

「それ眼球の裏にあるやつ!!」


 そんなこんなで最近は裸眼なのだ。掛けている眼鏡を飛ばしどこに落ちてくるか分かっているかのような場所でピタゴラスイッチのように掛け直す未来人みらくるさんと、ランドルト環を見分けれる超能力者cイズ見ドツキとともに少ない視力大いに視力矯正する団を作るのは、また別のお話。


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