第2話 天邪鬼一族の若・中学生になる
「久しぶり。」とサブが僕に抱き着く。今日は逃田中学校の入学式だ。サブの横にあの日、溺れかけのサブを助けた時に来た、大人の河童?あれ?待てよ。
僕は2人の顔をまじまじ?人間だ。僕の両親もサブのお父さんに挨拶。大人たちは保護者席へ何やら話しながら移動した。
「じゃ、ショウタ頑張りなさい。サブ君、ショウタのことヨロシクね。」
「はい。姐さん。」サブが僕の母さんに答える。
えっ?僕はサブに「サブ、君は河童じゃないのか?なんで人間の中学に?
それになぜ、母さんのことを姐さんって呼ぶんだ?」
「ショウタ、君は何も聞いていないのか?」
「何をだ?」
「僕ら一族は13才で大人だ。人間より少し早い。一人前だ。一人前になるとみんな人間の社会で学ぶ。その一歩が中学入学だ。僕ら一族の山には中学が無い。
みんな、ショウタのお母さん、姐さんを頼り東京に出てくる。それに今回僕は、つている。若と同じ年だ。なあ、若、ショウタ、ヨロシク。」
「待て、サブ、一族って若って?」
「ショウタ、本当に知らないんだな。おばば様も姐さんもどうして教えなかったのか。そうか、今日の入学式迄、待っていたってことか。僕が話そう。
ショウタ、僕らは天邪鬼の一族だ。一族の長はショウタのおばあちゃん。僕らはみんな、おばば様と言っている。そしてショウタのお母さんが姐さん。直系の天邪鬼だ。僕らは、おばばが、住んでいるあの山が陣地だ。それに天邪鬼の僕らには特殊能力がある。変身だ。僕らは元来、姿を持たない。仮の姿として人間の体に変身している。それに遠くへ行きたいときはカラスだ。カラスに変身する。あの山から東京まで1時間。カラスなら軽く飛べる。今日も朝から父と飛んできた。」
「毎日通うのか。」
「そうだ。しかし、便宜上、ショウタの家に居候。いとこの設定だ。なまじっか、嘘じゃないしな。」
チャイムが鳴る。放送「新入生の皆さん。体育館へ入ってください。」
僕らは体育館に向かった。ポケットの鈴が小さく鳴る。
サブが「ショウタ、その鈴、おばば様の鈴だな。」
「そうだ、あの日、サブと出会った日に山に入る前にもらった。」
「そうか。僕も持っている。我々一族は大人になるとおばば様から大人としての祝いでもらえる。5年前、小学生でもらえるなんて、ショウタすごいよな。」
「そうか?」
「それに鈴を持つと我々、天邪鬼は”光を友”に力を発揮する。」
「へえー、すごいな。どんな力だ?」
「それは知らない。今日もらったばっかりだし。逆にショウタは5年も前にもらったんだろう?何かなかったか?」
僕は考えたが特に思い当たるところはない。「無いな。」僕らは話しながら体育館入口に着いた。
入口でクラス表を見る。1-2組、僕とサブの名前があった。
体育館入場。一年は全部で5組。多いな。
体育館で僕らはクラスごと椅子に座った。僕の後ろはサブだ。校長先生の話がはじまった。直後、天井の小さなライトが揺れ出した。ライトがゆっくりとスローモーションに落ちてきた。”光だ。”僕はとっさに目の前の椅子を蹴った。生徒は左に転がる。ライトが落ちる。「ガッチャーン。」間一髪、直撃を免れる。が蹴られた生徒は何が何だかわからなずに床にのびている。先生たちが集まる。
ライトが落ちたことより僕が椅子を蹴り飛ばしたことの方に注目がいく。
多くの目の中に、黒髪の色白の切れ長の目の女子が僕を見ている。
チリン。鈴が鳴る。サブが獣のにおいがする。「キツネか?」
「たぶん。」僕はその女子をじーっと見返した。
「天野ショウタ。入学式が終わったら職員室に来るように。」厳しい先生の声。
初日から悪い生徒だと認識された。
サブが「ショウタ、あれは感謝されて、いいはずなのになぜ先生は怒っているんだ。人間は僕ら以上にアマノジャクなのか?」
「さあ、な。人間の考えることは、時々理解に苦しむ。」
入学式が終わり僕は職員室で厳しくしかられた。寝ぼけていましたの言い訳は通用しなかった。
僕は教室に戻った。サブの隣の席だ。「ショウタ、どうだった?」
「かなりしかられた。」
サブが残念そうに「そうか。大変だったな。」僕を気遣う。
そして僕の右の席にあの女子が。「サブ、ショウタ。」
「えっ?いきなり呼び捨てか。」
「気づいてるんでしょう。私がキツネってこと。」
サブが「そうだ。獣くさいぞ。」
「バッチン。」その女子がサブを平手打ち。先生が「稲荷、どうかしたか?」
「先生、山内君の顔に虫が止まっていたので叩いただけです。」
「そうか。じゃあ、問題ないな。」
僕は引いた。「えっ。」明らかに悪いのはこのキツネ女子の稲荷だ。
やはり人間は理解できない。天邪鬼以上に天邪鬼なのかもしれない。
稲荷が僕に「天野、あなたが若。天邪鬼でしょう。私達、変幻獣の間ではあなたの噂で持ちきりよ。天邪鬼の若が目覚めた。人間世界デビューとかでね。」
サブが「ショウタ。うれしいですね。人間はともかく有名人ですよ。我ら天邪鬼。」
稲荷が「山内、君は単純ね。有名人になるってことはみんなの標的にされるってことよ。これから悪いことが起こるたびに、すべてショウタのせいにされるのよ。人間の世界はサバイバル。人間に私ら変幻獣に天邪鬼。他にも妖精も神様も混在している。本当のサバイバルはこれからよ。楽しくなりそうね。」そう言って稲荷は前を向いた。
担任が前方ホワイトボードにこれから1年間のスケジュールを書き始めた。僕は先生を見ていた。左窓からボールが飛んでくる。ガラス窓を割り破片が先生にあたる寸前。
”光だ。”僕はとっさにカバンを投げようとしたが、先に稲荷がカバンを投げる。
間一髪。ガラスの破片は先生にあたらなかった。稲荷でかした。偉い。
先生はガラス窓の割れたボールと稲荷のカバンで驚いたようだ。
先生が「稲荷、カバンは?」「先生すいません。カバンを机にかけ直そうと、手が滑ってカバンが飛んでしまいました。すいません。」
先生は「稲荷、お前のカバンのおかげでケガをせずに助かった。ありがとう稲荷。」
稲荷が僕らの方をチラリ見て「先生どういたしまして。」と先生にニッコリ笑顔。
稲荷は小声で「感謝しなさい。さっきショウタがカバンを投げていたら、絶対、しかられたと思うわ。今日二度のお𠮟りはきついわよね。たとえ、先生を助けようとしたとしても。絶対にしかられたわよ。」
僕は腑におちないが。とにかくケガが無くてよかった。
こうして、天邪鬼の中学生活がはじまった。
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