二回戦〜最終戦

「では、次はこの皿にしましょうか」

 そう言いながらアリアは二枚目の皿に手を伸ばす。

「さっきのはマロンクリーム……いや、ペーストか? のマンジュウだったが、これはなんだ?」

 饅頭をひとつ取りながらリゲルが質問を口にすれば、アリアはにこっと微笑みを返した。

「これはレモンクリームの饅頭です。マロンは裏ごししたペーストをベースにしてましたが、こっちは完全にクリームですね。本当はペーストにしたかったんですけど上手くいかなくて」

「レモンクリーム……という事は……」

「当たりは激酸っぱいやつです」

「なるほどな」

 続けてサルガスが皿から饅頭を取り、皿がエルナトとシリウスの前にやってくる。

「……」

 残り三個、どれを取ろうか──エルナトはしばし逡巡した後、これにしようと手を伸ばしかけた時。

「僕はこれにします」

「あっ」

 取ろうとしていた饅頭を先にシリウスに取られ、思わず声を上げた。

「あ、すみません。これ取ろうとしてましたか」

 それに気付いたシリウスが謝ってくるが、エルナトが何か言うよりも先にアリアが口を開く。

「これは早い者勝ちなので仕方ないですね。さ、エルナトさんはどちらかを取って下さい」

「……はい」

 エルナトは仕方ないと割り切って別の饅頭を手に取り、残った最後のひとつをアリアが取って。

「それじゃ……せーの!」

 アリアの声に合わせて全員同時に饅頭を口に入れる。


「ん、今度は普通のマンジュウだったな。レモンクリームも甘酸っぱさがちょうど良い。……少し皮も入ってるか?」

「はい、風味を出すために細かく刻んだ皮も少し入れてます」

 ぺろりと食べたサルガスが呟いた言葉に答えながらアリアは全員を見回す。先程当たりを引いたサルガスと違い、誰も「酸っぱい!」と騒がなかったからだ。

「……酸っぱいの食べたの誰です?」

「あ、はい。僕です」

 まだ咀嚼している口を右手で覆いながらシリウスが左手を上げた。

「……酸っぱくないですか? 通常饅頭五個に対してレモン一個でクリームを作るところを、レモン十個分の果汁を濃縮して作ったレモンクリームなんですけど」

「やり過ぎでは」

「いやさっきの激渋マンジュウを考えるとあり得る」

 リゲルのツッコミにサルガスが先程の激渋饅頭の味を思い出しながら言葉を投げる。

 一方、シリウスは饅頭を完全に飲み込んでから口を開いた。

「確かにものすごく酸っぱいですけど、まぁ何とか……ただ、今すごく紅茶が飲みたいです」

「あ、そうですね。エルナトさん今回は紅茶を……」

「判りました」

 アリアの指示にエルナトは紅茶をカップに注いでシリウスに手渡す。

「有難うございます」

 そう言ってシリウスは紅茶を一気に飲み干したが、その後に「すみません、もう一杯下さい」とおかわりを要求していたので騒ぎはしなかったがやはりキツかったらしい。


「……じゃ、最後の皿ですね。こっちは当たりが激辛饅頭ですが……それ以外はチョコレートガナッシュの饅頭です」

「極端だな……」

 苦笑いを浮かべるリゲルに対し、アリアは若干困ったような笑みを浮かべた。

「お菓子の饅頭で辛いのって基本ないので専用で作るしか……あ、中身は辛さをとことん追求したチリソースです」

「……どうせ当たるならそれが良かった……」

 辛い食べ物が好きなサルガスがぽつりとこぼす中、各々饅頭を取り──

「せーの!」

 アリアの掛け声に合わせて同時に口に放り込む。その瞬間。


「辛っ!!!」

 アリアが声を上げてその場に蹲って咳き込んだ。


「アリア様!」

「最後は主催者に当たったか」

「自業自得とはこの事だな」

 エルナトが慌てて駆け寄る一方、リゲルとサルガスは小さく笑みを浮かべてアリアを見ている。

「げほっ、げほっ……うう、最後に引くとは……エルナトさん、ミルクセーキ取って下さい……」

「は、はい!」

 むせながらも指示を出してきたアリアにエルナトはすぐに立ち上がり、飲み物を置いているテーブルへ走った。


「大丈夫か?」

「口の中以外は大丈夫です……」

「大丈夫じゃないだろそれ」

「アリア様! どうぞ!」


 リゲルも加わって会話しているアリア達を見ながら、サルガスはシリウスの近くにスッと移動する。

「ガナッシュ結構甘かったですけど大丈夫でした?」

 視線はアリア達へ向けたままでシリウスが横に来たサルガスへ声をかければ、その相手は「ああ」と短く返事をした。

「その前に強烈なやつ食わされたからな。問題ない」

「それなら良かったです」

「…………」

 さらりとした返しをしてきたシリウスに、サルガスは少し口を閉じてから視線を向ける。

「……お前、どれが”当たり”か判ってただろ」

「…………」

 シリウスは一瞬サルガスをちらりと見やった後。何も言わずに視線をアリア達へ戻した。


「過保護過ぎるのは嫌がるんじゃないか、アイツ」

「……まぁ、バレなきゃ良いんですよ」


 ミルクセーキ二杯目を飲んでようやく落ち着いたアリアと、その横にいる二人を見ながらシリウスは小さく笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

饅頭ルーレット 伊南 @inan-hawk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ