178 富士の麓の広域浄化


清音side


「真幸、喉は渇かぬか?水を飲むか?」

「――――」

「抱えていても口移しなら……」

「――!」

「これは看病だ」

「――――……」

「確かに病ではないが、何もかもをしたい。いっその事、風呂も共にすれば良いと思うのだが」

 

「………………」

 


 現時刻 7:00ちょうど。颯人様に抱えられたままの芦屋さんは両手で顔を覆ってガックリしている。そうですよね、昨日からずっとこんなですもんね。

 

 大怪我を治療した後、颯人様に抱きついていた芦屋さん。当初は大怪我を負った彼の無事を確認できて、ほっとして。その様子に皆さんも和んでいましたが……声が出ない、力が何も使えない不安と、颯人様が怪我をしたと言う事実の直後で、彼女は颯人様から離れられないでいた。


 その状態を大変喜ばれた颯人様は、芦屋さんを甘やかし始めて……今、この現状だ。

お二方ともお互いを心配してのことだから口を出せずに居ましたが、伏見さんがついにと言った様子で颯人様の着物の袖を掴んだ。 


 


「颯人様、いい加減にしてください。芦屋さんが嫌がってます。これ以上看過できません」

 

「む……」

 

「そうっすよ。あからさまに『いやだ』って言ってるし。風呂が心配ならドアの前で待ってりゃいい。累も件も赤黒もついてんだから、颯人さんは少し落ち着いてくれ」

「そうだな、伏見と白石に賛成だ、流石にやりすぎだと思う」


「むむ……」



「なーんであの人たちは真幸さんの言うことがわかるんですか?伏見さんならともかく、白石さんも、鬼一さんも理解してますよね?」

「アリス……読唇術どくしんじゅつって、知ってはる?唇の動きで言葉を読むんや」

「えっ!?まさか妃菜ちゃんも出来るんですか!?」


「私は無理やけど真実の眼があるし」

「そうね、私達には視えるわね」


「そんなぁ!ずるいです!!」

「アリスさん、何もわからないのは私とあなただけですよ……」

 

「星野さん、白石さんに今晩読唇術とやらを習いましょう!!絶対覚えるんだからっ!」

 

「そう一朝一夕に行けるんでしょうか」

 

「やるしかありません!芦屋さんとお話ししたいですよね!?星野さんはわからないとダメですよね!?恋バナ仲間なんですからっ!」


「たしかに、仰る通りです!やりましょう、アリスさん!」

「はいっ!!!」

 

 


 がっしり握手をしたお二人。その仲間に私も入れて欲しいのですが。

伏見さんにわかっても不思議はないんですね。新参者の私もそう思ってしまいました。

  

 富士山本宮浅間大社に朝からまたお邪魔して、陽向くんと女神になった天照さんから事情を聞きまして。また、カップルが増えました。

 昨日帰ってこなかったと思ったらそぉんな事になっていたとは!!!驚きましたがめでたい事ですね。


 皆さん仲良しですねぇ。厳密に言えば芦屋さん達はまだカップルではないそうですが、見た目はどのペアよりもくっついている。

 昨日帰ってから颯人様に抱きかかえられたままの芦屋さんは、いつもなら嫌がるのに……珍しく自分からくっついてるんですよ。


 

 天照さん達も結局手を繋いでるし。くっついたばっかりの照れ照れした感じですし。……くっ、一帯の空気は甘ーーーい感じになっています。


 私はロンリー神継です。いいなー羨ましいなー。



「清音、ぼーっとしてねぇでこっち来い」

「は、はいっ!」




 私は着なれない巫女服姿で、白石さんに呼ばれて駆けていく。眉を顰めた彼は私のおでこを突いた。


「痛っ!?なにするんですかぁ!」

 

「そんな痛くしてねぇだろ。巫女服を着たら走るな。所作振る舞いにいつも以上に気をつけろ」

 

「そうだな、其方は転ぶやもしれぬ」

『颯人、そう言うこと言わないの』


「「…………」」

「何だ、奇怪な顔をしおって」

『颯人が俺の声真似までするからだろ……普通にしてくれればいいのにさ』



 

 私と白石さんで顔を見合わせ、微妙な気持ちになる……そう、颯人様は声真似をして芦屋さんの言葉を伝えてくれるんです。

 ありがたいんですけど、ありがたいんですけどーー!!!


「パペットマペッ……」

「清音、やめろ」

 

「だって、白石さん!腹話術じゃないですか!?」

「そこはいっこくど……」

「それとは違いますよね!?」


「…………そこまでにせよ。伏見の顔が怖い」

「「ハイ」」



 こわーいお顔の伏見さんはため息をつき、パンパン、と手を叩く。

 

「はいはい、夫婦漫才はいいですから芦屋さんは広域浄化の指南をお願いします。事務員の皆さんは水源の浄化をさっさと終わらせて下さい」


 はーい、とお返事された妃菜さん、アリスさん、星野さんとそれぞれの依代である神々が転移で水源地へと移動して姿を消した。


 


「伏見さん、あの……」

「どうしました?」

「…………」


 伏見さんの着物の裾を握り、私は口を噤む。その様子を見た彼に、肩をポンと叩かれる。


「大丈夫です。芦屋さんが先生ですよ?必ず成功します」

「で、でも私、やったことありませんよ。ピンポイントの浄化がやっとできるようになった所だったのに……」


「あなたは以前も浄化をされて、その様子を僕は拝見しています。全く問題ありませんでした」

「そうなんですか!?あ……記憶がない時のお話です?」

 

「えぇ、そうですよ。いつかきちんと思い出します。忘れていたとしても、出来る確証がありますから」



 自信満々に言われてしまい、私は着物の合わせをギュッと握る。

伏見さんは微笑みを湛えたまま狐に変化し、皆さんの後を追って水源地へと転移して行った。

 

 清め祓いなら、星野さんが依代を務めるハラエドノオオカミを主体にすべきではないだろうか。

 どうして……私なんだろう。祝詞を必死で覚えたばかりの、未熟者なのに。


 芦屋さんがやるお仕事の代わりができるのだろうか。




 はぁ、とため息を落とす。暖かい手のひらが私の手を握り、芦屋さんのおそばへと引っ張っていく。

 白石さんの手、おっきいな……。


「清音はできる」

「白石さん……」

 

「そんな顔すんなよ、芦屋にも同じことを言ってみろ。結局納得できねぇぞ?」

「ええぇ……納得できないんですかぁ」


「そうだ。あいつに散々習ってわかっただろ。俺も傍で聞いてて思ったが、あいつは本能的なもので生まれ持った勘や才能で理解してる」

「確かにそうですね……」

 

「智慧の神が後からつけた、難解な理屈を理解したのも、その勘をなんとなくわかってんのもお前だけだぜ」

 

「……とりあえずやってみろ、と」

「そう言う事。てかそれしかねぇよ、星野には無理だった。もう失敗してんだから何度でもやり直せばいい」


「ぐぬぬぬぅ……」



 

 ニカっと爽やかな笑顔を浮かべた白石さんは、私の手をポンポン、と叩いて背中にビシッと檄をくれた。

 背筋を伸ばし、私は絶大な力を持っていながらもそれを行使できない……切ない思いを抱えているだろう芦屋さんに向き合う。


 颯人様に抱えられたまま手を差し伸べられて、今度は彼女の手を握る。私よりも小さな手は、ふくふくして柔らかいのに、指の付け根には硬いマメの痕が感じられた。



 

 私は、芦屋さんに沢山のものを習っている。武術指南の時にこの方が使っていた竹刀は、持ち手が真っ黒になっていた。

 血や汗が染み込み、マメを作ってそれがつぶれるまで鍛錬された証拠だろう。

専用の竹刀は神力が漂うほどに使い込まれ、弓もまた同じだった。


 何もかもを受け継がせてくれようとしている芦屋さんは、自分が苦労して得た全てを惜しみなく私に与えてくれる。


 チートと言っても過言ではないほどに素晴らしい師匠は、私の世界を一変させた。陰陽師としてはまだ一人前には遠いけど、一歩前進はできたと思う。




『清音さん、大丈夫。俺も、最初はなんだかんだ悩んだけど結局……ちゃんと出来たんだからさ』

 

「芦屋さぁん……」

『んふ、そんな顔しないで。一人じゃないし、俺も、颯人も、白石もいるでしょ?』

 

「そうですけど、そうですけど!!私なんかが、日本一の山がある大切なこの地を浄化していいんでしょうか」




 ニコニコしてる颯人様と目線を交わし、芦屋さんは笑みを深める。手招きされて、額をくっつけ……口がぱくぱく動いた。

 芦屋さんの吐息で……声が聞こえた気がする。


『大丈夫、大丈夫……怖くない。必ずできる』

「…………はい」


 私、これを言って欲しかったの。芦屋さんの『大丈夫』は魔法の言葉だ。私の師匠は、私のことを本当によくわかってくださっている。

 颯人様も、わざわざ訳さないでいてくれたのはこれを感じさせてくれるためだろう。


 声になんかならなくても……芦屋さんならそのうちお仕事できてしまいそうだ。きっと、きっと、そうなるだろう。


 綺麗なお声が恋しいけど、絶対取り戻すって皆さんも心に決めていたし……わたしも、もちろんそう思っている。

 だから芦屋さんが苦しい今、少しでも役に立ちたい。白石さんが見てるから、気合い入れて頑張らなきゃ。




「うむ、良い貌だ」

「颯人様もありがとうございます。ちゃんと、優しいお声が聞こえた気がしました」

「そうか」




 芦屋さんと手を握ったまま大社の湧玉池に足をつけ、その冷たさにびっくりしてしまう。

 さ、寒いです……。

 

「清音、水に足が触れていればよいのだ。中に入れずに出来るだろう?」

「あっ、そうか……わかりました」 



 足を水中から抜き出して、そうっと水面に爪先から載せる。水紋が広がり、足が水面の上をしっかり踏み締めた。


「ウッソだろ、もうそれできるのか!?」

「清音はとてもよい弟子だ。我が教え、倣った真幸がまた教えたのだ。物覚えも良く、理解できればこうしてすぐに会得する」


「マジっすか……」

「あれ、これ私ドヤ顔していい所ですか?」

「うむ、よろしい」

「ドヤァ……」


「なんかムカつくんだが。俺は結構苦労したんだぞ、水の上に浮くの……クソぉ」



 白石さんは憎まれ口を叩きながらも素直に喜んでくれている。彼の笑顔をもらって、心の中が暖かくなる。


 ほんわりした気持ちを抱えながら颯人様、芦屋さんと共に池の中心に立つ。


 池の水は中の水草がはっきり見えるほどに澄み切って、絶えず清い水が湧き出している。これは、神継たちの食事になったり、神様へのお供物になったり……この土地の人たちの命を繋ぐ生命の水。

 これを枯らしてはいけませんね。



 

『まずは柏手から。姿勢を正して胸の前に手を掲げて、少し合わせをずらして叩く』

 

 芦屋さんの声色で颯人様が喋り、私は頷いて柏手を叩く。

自分でもこんな音が出せるんだな、なんて思えるほどに凛としたはくが響き……ふわりと風が起こった。


『八房とアチャを喚ぼう。八房は清音さんを支えて……アチャは力の広がりを水源に導いてくれ』

「八房、アチャ」


「応!」

「キュイッ!」




 わんこ姿の八房と、青い鱗を輝かせたアチャを顕現して……目を瞑る。

 芦屋さんは私の肩に手を置き『じゃ、始めようか。富士山周辺の広域浄化だ』と囁いた。

  


 

  ━━━━━━



 風が優しく吹いて、私の髪を揺らす。体が芯から冷たくなって、顎から冷汗が伝落ちた。


『音が低いな。やり直し』

「はいっ」



 私はもう一度柏手をたたき、くじけそうになる心を叱咤して……お腹に力を入れる。

 もう、何度目のやり直しかわからない。芦屋さんは柔らかな微笑みを湛えたまま私の祝詞にダメ出しを続けていた。



 池の淵に立って心配そうにしている白石さんと、月読殿。皆さんが言った通り、芦屋さんは本番では絶対に妥協しない。本気の芦屋さんはきっと、誰よりも厳しい方だ。

 

 これは、練習ではなくこの地を清めるためのお仕事だから。私もきちんとした形で成功させたい。



 

『鼻から息を吸って、吐いて……八房、もうすぐ霊力が途切れるよ。そしたら神力を注いであげてね』

「アゥン……わかった」


 八房は私の足元でくるっと丸まって、頬を擦り寄せてくる。アチャは小さな翼をはためかせ、私の祝詞が成功するのを待ってくれている。



 芦屋さんのアドバイス通り、鼻から息を吸うと湧玉池に讃えられた水から、周りの自然から力が集まってくる。

 それを口から吐くと、甘い香りがした。

 

 祝詞と言うものは、本当に奥深い。知識では賄いきれない何かが……隠れている気がしている。


 芦屋さんにそう聞いたら頭を撫でてくれたし、伏見さんは『懐かしいですね』と言っていたから間違いではないのだろう。


 


 もう一度息を吸って、喉を震わせて出てきた言霊は今までとは違う精度に練り上げられている。

 あまりにも力を込めすぎて、くらりと眩暈がした。


『八房』

「応!」



 芦屋さんの言葉に応えて私の足の甲に八房の額が触れ、そこから溢れんばかりの神力が注ぎ込まれる。

 血管が膨張したような感覚が訪れて……体が一気に熱くなった。


 吐き出される祝詞の音がぶれて、息が途切れてしまった。



『もう一度最初から』

「はい」




 芦屋さんの声は聞こえないけれど、私の五感は研ぎ澄まされて、呼吸の加減で音が聞こえるようになってきた。これが、颯人様の感じている物なのだろうか。


 もりの緑が鮮やかになり、枯れ木のはずの桜には花が咲いているように見える……。

完全にしょんぼりしていた白石さんは、ソワソワしてる……月読殿が抑えていなければ、こっちに走ってきてしまいそうだ。



 私、これでやっと……ちゃんとできる気がするの。今までの祝詞は富士の麓の土地神や、精霊たちに私の心が馴染むまでの準備だったかもしれない。

 ここのものに……触れたい。水に触りたい気持ちが抑えきれない。

 

 水上から降りて水の中に腰まで浸かる。冷たい水はなぜか暖かく、体の中に染み込んでいく。


「キュイッ!」

『うん、いいよアチャ。このまま引っ張ってくれ』




 芦屋さんに撫でられたアチャが水の中に潜り、私の言霊を引っ張って水が湧き出す地中に潜った。

 目を瞑って、祝詞を続けるとアチャの視界が共有される。


 土の中を抜けて……ちゃぽんと富士の伏流水の流れに乗り、水流を遡って泳ぐ。




「ここだ……」


 目の前に突然現れた、黒い魔法陣。私はそれを指先でなぞり、文字が消えるのを見つめた。……思っていた通り……これは使える。

 

 ――ずっと、思ってたの。呪いによって生まれたものって……消すしかないのかな?って。

 龍の血が含まれているから、水源地にいるはずの龍たちが魔法陣に捧げられて、被害が起きている。でも、龍は……ちゃんと生きてるから力をもらえる。


 それなら、書き換えて今後も使えるように守りにして仕舞えばいいんじゃないかと思ったんです。





 アリスさんが依代を務める神様は、マガツヒノカミ。わざわいをつかさどる神様は、昔々の人によって祀られて……福をもたらしてくれる神様になった。

 芦屋さんの眷属であるなゐの神様も、元は地震の神様だ。でも、今や地震から守ってくださる神様になっている。


 私たちが暮らす日本は自然災害がとっても多い。それでも挫けず、めげず、諦めずに……全部を壊されたとしても必ず復興を成し遂げて、全てを取り戻す。

 

 私が小さな頃から言われていた、武士というものは……『勝つ』ことが大事なのではなく『克つ』ことが真髄なのだ、と言う事。耳がタコになるほど言われたその言葉が浮かんでくる。



 そうだ……私、お父さんに朝から晩までずうっとそう言われてた。忘れていたことが浮かんできて、嬉しくなってしまった。

 口の端が勝手に上がり、魔法陣の文字をルンルンしながら書き換える。


 誰が相手でも、最後は自分との戦いなの。正義も悪も、自分の中に全てある。それに克つためには、まず自分との戦いに勝たなければならない。

 

 大丈夫、私は諦めが悪いんです。このまま絶対に成功させてみせますからね!

 


『面白いな……これはとてもいいぞ。もう一度柏手を打って』

「はい」



 大きく手を開くと、私の体に沿って銀色の光がほのかに灯る。……これ、どこかで見たような。



 自分の思考を打ち消すようにパァン!と清冽な音が響き、視界が真っ暗に染まった。



 ━━━━━━


「……こいつ、ヤベーな。呪いの魔法陣を守護に変えやがった」

「いやはや、芦屋さん以来の鬼才ですよ。鈴村はすぐに追い越されますね!」


「伏見さん酷ない!?……待って、私も鬼才って事ちゃうん?伏見さんは私のこと類稀なる才能の持ち主やと思ってたんか!?」


「…………黙秘します」

「それじゃ認めてるのと同意だろ。事実としてそうだった。鈴村は自分で作ったやり方で神降ししたんだぜ?しかも魚彦殿をだ。お前さんも端からフツーじゃねぇよ」


「鬼一さんに褒められるんは嬉しいわ〜!フィジカルに霊力が振られた鬼一さんも結局そうやんか。大器晩成やったし」

 

「うるせぇ、どうせ成長が遅かった男だよ。……はぁ。身の回りが天才ばっかりってのはキツい。アリスもそうだろ」

 

「鬼一、俺を見ろ。あと、星野もだ」

「ぐすん……」


「て、天才だからっていいってわけじゃありませんよー!?私だって苦労してますからね??」

「アリスが言うとシャレにならねぇぞ」

 

「アッーーー」


『ごめんな、俺の親父のせいで』

「あ、あ、芦屋さん!違うんです!!私はそんなつもりじゃなくて!!」


「真幸はからかってるんやで、そんな慌てんでもええの」

「…………ひどいっ!!」

「アリス、行け!やっちまえ!」


「白石さん、あなたも巻き添えです」

「や、やめろ!俺は颯人さんに怒られるのは嫌だ!」

「問答無用!!」



 たくさんの笑い声が聞こえて、幸せな気持ちで目が覚める。頭の下がやけにふわふわして柔らかい、そしてあったかい……いい匂いがする。

 これは……梔子の香り?それから白檀のような香りが漂ってくる。


「わふっ!!清音!」

「キューーーイ!!」


「わわわ……八房とアチャですか!?うぷっ!ちょ、息が止まる!」




『タックルされるのも継いだんだな、うん』

「妙なものも余さず継いでしまったのか……可哀想に。我の因子は全くないな」

 

「僕が持っていないものをちゃんと持ってますね、清音さんは。いいなぁ、母上にそっくりな見た目ですしー。見た目が母上なら僕が女の子になったのに……」

 

「陽向は自覚がないのか、そうか。そなたは汁物を持つと転ぶし……」

「天照は黙っててください!」




 瞼をゆっくりあけると、皆さんがかわるがわる覗き込んでくる。芦屋さんに膝枕をされて、颯人様がそれを抱えて……笑顔のシャワーを浴びているみたいだ。


「清音、うまくいったぞ。お疲れさん」

「あ、ほ……んとうですか?白石さん」




 神様のスタンダードであるヤンキー座りで白石さんに顔を覗かれて、頰が熱くなる。胸が勝手にドキドキして……お顔が眩しくて仕方ない。

 カッコいいな……。


 

「水源を掘り返すまでもなくお前が全部貫通しちまったからな、手間が省けた。視界がおかしかったり、だるかったりしねぇか?」

「何も、ありませんけど……ひゃっ!?」


「………………え?」




 白石さんが私の手を握ろうとして、ピリッと何かを感じて手を引っ込める。

 な、何が起きたの?


「身体がこのように輝いているのだから、神域に魂が入っているのは確かだ。昔のようにしてやらねばならぬ」

『そうだねぇ、俺も懐かしくなっちゃった。清音さん、お家に帰ってご飯たくさん食べるよ』



「え?どう言う????ご飯???」

 

「そうですよ、清音さん。あなたは広域浄化で神域に魂を突っ込みかけています。このままだと神になるか死にます」

 

「えっ!?ぶ、物騒ですね!?」


「伏見さんは意地悪言わな。まったく。真幸もこうなったことあるんよ、本当に懐かしいわ。ご飯食べれば大丈夫やで」

 

「私はそれ知らないんですけどー……とりあえず、清音さん……あそこで暴れ狂ってる龍神を鎮めていただけますか」




 アリスさんが指差した先、そこには真っ黒な瘴気と、時々見えるキラキラした鱗。芦屋さんの象徴は黒い龍ですか……颯人様カラーですね!


 

「また龍神さんですねぇ」

「しかも宝玉の気配もちゃんとあるぞー?早く終わらせて、オレも飯食いたい」 

「キュッ」

 

「そうですね、ではさっさと鎮めてお家に帰ってたらふくご飯を食べましょう!!!」



 首を傾げたままの白石さんがもう一度手を伸ばしてくる。それを握ろうとすると、腰までゾクゾクとくすぐったい気配が走る。

 

「……な、何が起きてんだ?」

「白石さん、触らないでください!なんか、ヘンなんです」

「なんでだよ!?あ、くすぐってーのか?……ツンツン」


「んひゃっ!や、やめ……っ!」

「…………すまん、悪かった。許してくれ、二度としない」




 突かれるたびに変な声が出てしまって、白石さんの顔は真っ赤に染まった。

 芦屋さんに縋り付くと、彼女は眉を顰めて白石さんを追い払ってくれる。


『白石のエッチ』

「………………」

「いや、そこは否定せねばならぬところだろう」


「颯人さんに二回言われた気分なんだが!!別にそう言うんじゃねぇ!!」




 白石さんの叫びを聞きつつ、芦屋さんに抱きしめられて……私は胸のドキドキを抑えるように自分の胸をそっと抑えた。


 



 

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