日の本一の山の麓で
173 痺れを切らしたお局神
現時刻 7:00 まだ、もうちょっと寝てたかった。
早起きして、今日は静岡県、
実は、今までみたいに『事件解決に行かなきゃ!』と言う勘が働かず、今日行くか悩んでいた所だったんだが。痺れを切らしたサクヤこと、
今日は倉橋君がまたもやドライバーで車で先見としてやって来たんだけど。
……仲間達も後から合流する予定はある。でも……大きな二の鳥居の下で仁王立ちしてる、キラキラ着物を着たサクヤが怖い。遠くから見てもズモモモ……って具合の不機嫌オーラを纏っている。
みんな、来ない方がいい気がするんだけどな。あとでメッセージしとこ。今日は事件の何某かが動く気がしないし。
「わ、私は……車でお留守番してましょうかね!」
「倉橋、逃げるんですか」
「そう言う訳じゃ……いや、すいませんが逃げたいです。サクヤ殿の顔が怖いです。行きたくないです」
「伏見さん、人数は減らしたほうが説教の数が減る気がするんだ。必然的に長さも短くなるんじゃないか」
「…………なるほど。倉橋、ハウス」
「犬扱いやめてくださいっ!」
倉橋君は車にそそくさと戻っていく。今日は伏見さん、俺と颯人、鬼一さんでお邪魔する事になった。倉橋くんは脱落だ。
いやはや、颯人も鬼一さんも嫌そうな顔してるぞ。
駐車場からてくてく歩いていくと、ふわりと一陣の風が舞い、目の前にニニギが現れた。おい、その表情でいいのか。
「おはよ……。てか、ニニギまで顰め面なの!?奥さんでしょ!?」
「真幸……其方に対してもあの態度なのだぞ。夫は尻に敷かれるものだ」
「そうなの?」
「そうだとも」
ニニギは一緒に祀られてるはずだが、なんでこっち側のメンバーなんだ。ワケ分からん。
「遅いですわ、おはようございます」
「サ、サクヤ……おはようございます。遅くなってすみません」
「さっさといらっしゃい。待ちくたびれておりましたのよ。姉上もいらしてますから」
エッ?イワナガヒメも?何でだ??
ツカツカと近づいて来たサクヤは俺の手を取り、引っ張って大社の中へ入っていく。慌てて朱塗りの鳥居に頭を下げ、不機嫌な顔をしたサクヤと共に奥へと進む。
なんか、変だな。ニニギを見ても何も言わないし。いつもなら一人一人に挨拶して、ながーーいお説教から始まるのに……無言のままだ。
背後を振り向くと、颯人、伏見さん、鬼一さん、ニニギは固まって離れて歩いてる。おいっ、俺を生贄にしたな!?
「あなたは、こう言う時いつも参拝するのでしょう?」
「はえっ!?あ、うん。神社仏閣では参拝させてもらうのがいつものパターンだけど……いい、かな?」
「いいわ、付き合います。神となっても同じ神に敬意を表す、あなたの行いに水は差しません」
「そ、そう?ありがとう……」
富士山本宮浅間大社は、右手に富士山を望みながら参拝できるんだ。とっても気持ちいいところだなぁ。
ここは富士山本体を御神体とした
主祭神は
サクヤが主祭神だから、桜が御神木とされていて境内には五百本以上の桜が奉納されている。
創建は大同元年、西暦806年に
千二百年の歴史を持つ由緒正しき社だな。
田村麻呂さんはすごい人なんだ。彼は……諸説あるけどかの清水寺の建立もしているらしいし、四代の天皇に仕えて征夷大将軍を二回もやってる。
征夷大将軍は武家の棟梁の事だ。一説には毘沙門天の生まれ変わりなんて説もある、偉丈夫で筋骨隆々ないでたちで世の中の平和を守って来たらしい。
……そういえば、会った事ないな。今日会えたりしないかな。
それはさておき。浅間神社って全国各地にあるけれど、富士山にあるここは『鎮め』の意味合いがとても強い場所だ。
富士山の噴火を抑え、歴史に名だたる将軍たちの祈りを受けてその功を輔けたとされている。姫神の水徳で世を平和にしてくれてるって感じ。
元々富士山への参拝をする人はこの大社で禊をし、登っていた。今でも表口の登山口はこの大社の先にあるらしい。
そう、富士山に登るのは登山じゃない。『参拝』なんだ。8合目から上は神域・奥宮の境内とされ、山頂には社がある。
日本一の富士山は、神の住まう宮なんだよ。だからゴミを捨てちゃダメだぞ。
ながーーい参道の脇にはツツジがたくさん植えられて、春にはのどかで気持ちいい場所だろう。お花見に来たい場所だ。お日様の光を受けて暖かい風が吹いて、ぴよぴよ鳥が囀ってるぞ。
真っ白い一の鳥居をくぐると、左手に源頼朝像がある。鎌倉幕府を開いたばかりの彼は、ここで狩の大会…規模がデカすぎる
十万人規模の狩とか、獲物が間に合ったのだろうか?心配だ。
そこからさらに奥に進むと、太鼓橋がかけられた鏡池がある。さすが有名な水源地だ、池の水も澄み切ってる。
太鼓橋を渡り切ると、広い道路があり、正面には楼門が現れる。ここで流鏑馬神事が今でも行われているんだ。
……俺、馬は乗れないんだよな。乗ってみたいって言ったら、颯人にダメって言われた。『落ちたら困る』って。
そこまで運動音痴じゃないと思うけど。
大きな道の端には桜がたくさん植っていて、ここは桜の馬場と言われている。今は冬だから、黒い枝葉が青空に寂しげだ。
「春に、またいらっしゃい。ここの桜は見事なのです」
「これだけ植ってれば人気の花見スポットだろうね。楼門を背景に、桜の花がきっと綺麗に映えるだろうな。
綺麗な大社だね、サクヤにぴったりだ」
「おほん。まぁ、ええ。そうでしょうとも」
ほんのり頬を朱に染めたサクヤは、俺の手を握ったまま楼門をくぐる。先へ進むと……丹塗りの社が現れた。
朱塗りよりもやや黄身が強く、オレンジっぽい色彩なんだけど、渋い。かっこいい。華やかにも見えるし、落ち着いても見えるし、青空にこの色が映えて本当に綺麗だ……。
手前に拝殿を置き、奥に本殿があるんだが、本殿は二階建ての建物で『二重の楼閣作り』または『浅間造り』と言う、他にはない珍しい造りだ。
これはさっきの楼門と一緒に徳川家康さんが寄進したらしい。関ヶ原戦勝のお礼だったらしいけど……戦国大名たちはみんな、ここに来ていたんだ。
武田信玄が寄贈した枝垂れ桜、信玄桜なんてのもあるんだぞ。
よし……拝殿に到着だ。中からトテトテとイワナガヒメ、オオヤマツミノカミがやってくる。やぁ、と手をひらひらしてくれるけど……まずは参拝だっ!
丹塗りの社は落ち着いた空気を醸し出し、しめ縄の上の木鼻には龍が彫られている……また、龍神に出会うのかな?
少なくとも清音さんが来るまでは事態が動かないと思うんだが。
「託宣ですね、芦屋さん」
「んあっ!?そ、そうか。ごめん、ぼーっとしてた。空気が綺麗で気持ちいいからぼうっとしてた。ピリッとした感じじゃなくて、ほんわかしていてのどかで気持ちいい大社だな」
「伏見の言う通り、託宣だろう。清音が来るまでは気を抜いてもよい」
「たまにはゆったりしてもいいって事ですか?しかし、サクヤ殿が怖い……」
「鬼一、サクヤ殿は地獄耳ですよ」
「おほん」
サクヤの咳払いに背筋を伸ばした俺たちは揃ってお賽銭をそうっと入れる。……何で颯人とニニギまでやるんだ???
二拝、二拍手、一拝。あぁ、この感じ……久しぶりな気がする。どこに行くにもこうしてやって来たんだ、このリズムが戻ってくるとホッとする。
サクヤ、参拝させてくれてありがとう。やっぱり基本のきの字から始めないとダメだな。慌てて事件に振り回されて……みんなを怪我させてしまった。
ここから先は、そうならないように頑張ります。
しっかり拝して頭を上げると、またもやサクヤが手を差し伸べてくる。
どうしたんだろう……?こんな事初めてなんだけど。あんまり手を握ったりする神様じゃないのに。
「……真幸、信玄桜に参りましょう」
「ん?はい。あ、すぐそこにあるんだね。江戸彼岸桜なのかぁ……お手植えで信玄公が植えられて、今は二代目だったかな。来月には咲くの?」
「えぇ、そうよ。3月には見事な花ぶりを見せてくれる。枝垂れの枝に触れなさい」
「えっ!?御神木だろ?触っちゃダメでしょ」
「人間は触ってほしくはないわね。木が痛むから。大丈夫よ、あなたが触れるように結界を張ってあります」
「そ、そうなの?じゃあ……」
風にそよめく枝垂れの枝に触れると、ほんのり桜の香りがする気がする。優しい匂いだ……指先に触れた枝は柔らかく、何だかあったかい気がするぞ。
「江戸彼岸桜の花言葉は『心の平安』ですわ。まずは心を落ち着けて、次はこちらです」
「はぇ?あ、あぁ……」
「
「は、はい」
「富士の山に降る雨雫、そして雪解け水がここに湧くの。毎秒3600リットルも湧く、力のある水源よ」
「ほ、ほー……そうか。富士山の伏流水は無事なんだな。てことは、ここが水源の神田川も無事なんだね」
こくり、と頷いたサクヤは俺の手を引っ張って……池にじゃぶじゃぶ入っていく。な、何で!?何事なの!??いい子は絶対真似しちゃダメだぞ!!!
「サクヤ!?何して……」
「水から力を得るのです。冬だから暖かく感じるでしょう。夏には冷たく、冬には暖かく……富士の霊水がここを清めるのですよ。山頂に上がる際、古来はここで禊をしたのよ。それに倣いなさい」
「奥宮まで行くのか?」
「行きます。転移で行けばあっという間よ。そこでは霊水を飲むの」
「……わかった」
サクヤはずっと真剣な顔だ。これは、俺の話をニニギに聞いたのかな。それで、なんか……ぱわーをつけようとしてる感じ?
「足先と、手先、口を濯げばいいわ」
「うん」
湧玉池の淵ではみんなが呆然として俺たちを眺めている。サクヤの綺麗な着物が濡れちゃってるぞ。
「サクヤ……ニニギから聞いた?」
「今、その話はしたくないわ」
「そっか。じゃあ霊験あらたかな富士山に参拝をさせてもらって、日本一の富士の山から街を眺めようかな」
「……えぇ、そうしてちょうだい」
サクヤの密やかな声は、僅かに震えている。俺は胸の中が暖かくなって……口の端が勝手に上がる。
俺のこと心配してくれたんだな、それで大社に来いって言ってくれたんだ。
主祭神が案内してくれるなんて有りがたいことだ。素直にサクヤに従って、暖かい水で禊を済ませた。
━━━━━━
「まったく、いつまでたっても社に来ないと思ったら……色ボケでしたか」
「ハイ、すみませんでした」
「サクヤ、そこまでになさい。真幸が可哀想でしょう。ようやく区切りがついたのですし、高天原でニニギに話を聞いて……」
「姉上は口を挟まないでくださいまし。私は真幸に説教をしたいのです」
「……説教をしている時間のほうが無駄だと思いますわ、私は。妹であるあなたを蔑ろにするつもりはありませんが、私は真幸がとても大切なの。
あなたの旦那様に聞かされたお話を知らないはずがないでしょう。気遣いなさい」
現時刻9:30 山頂に参拝を済ませて、本殿の中でお茶をいただいている。神様しか入れないここは、出雲大社のように亜空間になっていて畳敷の広間になっていた。
香しいお香が焚かれ、外の光をふんだんに取り入れて明るい室内……穏やかなはずの空気は一触即発の様相だ。
イワナガヒメまで珍しく怒ってる。ふわふわのロングヘアーを揺らしながらやって来て、俺を挟んで座り……サクヤを睨みつけていた。
くそぅ、男ばかりだから助け舟が出してもらえない。オオヤマツミノカミも含め、颯人たちはみんな部屋の端っこで気配を消してお茶を飲んでいる。
颯人と離れてるから恋バナできるかなー、なんて思ってたんだが。当てが外れてしまった。
「イワナガヒメはどうしたのさ。大丈夫だから、落ち着いて」
「いいえ、今日という今日は妹と言えど我慢なりませんわ。サクヤは今回救っていただく身なのよ。そこまで横柄に振る舞うのはおやめなさい」
「姉上には私の気持ちなど分かりません。あなたは一生独身で、気ままに生きているのですから。
……いいですわよね!しがらみもなく、ご自身の力だけで生きて行けるなんて!」
サクヤは手に持った瀟洒な扇を畳に打ち付け、膝を抱えて蹲る。
これはちょっと流石におかしいな。サクヤは口煩くても、こんなふうに癇癪は起こさない筈だ。
「サクヤ?もしかして具合が悪いのか?」
「放っておいてちょうだい!私はなんともありません!」
「俺の目を見て……ゆっくり息を吐いて。唇が真っ青じゃないか」
顔を上げたサクヤは頬が赤いのに、唇が真っ青だ。肩が震えて、瞳に涙が滲んでいた。
「癇癪を起こしてどうした?何があったのだ」
「ニニギ、抱っこしてあげて」
「うむ……」
慌ててやって来たニニギが手を握っても、それを振り解き……パタパタと涙をこぼして本格的に泣き出してしまった。
「は、颯人……」
「何某かの術ではない。動揺しているのだ。心のうちが揺れている」
いつの間にかそばにいた颯人があぐらをかいて座り、サクヤを覗き込む。彼女は颯人を睨みつけて、畳に爪を立てた。
「颯人様はどうしてそんなに冷静でいられるのです!?あなたの花が常世に連れて行かれるかもしれないのでしょう!!
真幸は、この国を守って来た。幸せに暮らして、子供を産んで、ずうっとこの国で生きていくのが望みなのよ?!
どうしてこの子ばかりがこんな目に遭うの……どうして……」
「サクヤ……其方……」
「う、うっく……真幸、お願いだから行かないでちょうだい。私は厳しいことばかり言う意地悪がどうしても辞められないの……姉上みたいに優しくできないの!!でも、でも……あなたを失いたくない!」
「うん……へへ、そっか。嬉しいな、サクヤにまでそう言ってもらえるなんて、想像もしてなかったよ。俺だって行きたくないんだ。ここの桜をまだ、見てないからな」
「そうよ、私とお花見をしましょう。美味しい御膳を作るわ。だから……」
「ありがとな、サクヤ。俺のために早くこいって言ってくれたんだろ?ごめん、こんな風に悲しい思いをさせて」
「真幸……」
錯乱してしまって乱れた髪を撫でると、サクヤが抱きついてくる。
背中に回った両手が冷たくなってる。濡れたままの着物の裾が触れて、小さな足先の血色が失われていることに気づいた。
いつも綺麗好きで、おしゃれな神様なのに。それに気遣えないほど必死になってたのか。
サクヤを抱きしめると、胸元で嗚咽が落ちる。本当に苛烈な神様なんだな。ニニギに浮気を疑われた時、
感情の波は荒く、激しく、厳しい柱だ。でも、その分愛情深くて……颯人の
文句を言いながら天照と月読に『女の子に対しての気遣いがなってない!』と啖呵を切ったのは……もう懐かしいほど昔のことだ。
「俺はまだそうなると決まったわけじゃないよ。みんなも沢山調べてくれてるし、例えそうなったとしても悔いはない」
「ダメよ!常世に行ったらもう会えないでしょう?私はあなたよりも長く生きているけれど、そんな話は噂すらないの!どうなってしまうか、何もわからないじゃないの」
「うん、まぁ、そうだなぁ……」
「真幸と会えないなんて耐えられない。まだ、仲良くお茶も飲んでないし、お洋服の着せ替えもしてないし、お食事会もしていないわ。
クシナダヒメたちと良く女子会をしているでしょう?私もしたい」
「んふ……かわいい。いつも俺のためにお説教してくれてるのは、ちゃんとわかってたよ」
「うそ。私の事なんて、誰も好きじゃないもの。姉上もあの子達も、あなたも……」
「そんな事ないよ。イワナガヒメも、俺もちゃーんとわかってる。男の人たちはこう言うの苦手なんだ、許してやって。嫌いなら呼び出されても来ないぞ?今回の事件は水源地に行けばいいんだから」
「……私の事、嫌じゃないのね?」
「うん、お説教は苦手だけどな。高天原で油物ばっかり食べさせられて、うんざりしてた時にくれたお粥とか、お漬物とか、忘れられないよ。俺が作るお粥はサクヤが作るのと同じ味付けなんだぞ」
「そ、そうなの?」
「うん。サクヤは温泉水を使ってただろ?だから塩は入れないで、お出汁をほんの少しだけ入れて。仕上げにお砂糖をちょびっと入れてただろ?疲れた時にあれはとってもいいんだよ。うちはみんなあのお粥を食べてる」
「ふぅん……そう。
「あれ、よく知ってるな?妃菜のも美味しいけど、体がおかしい時は必ずあれを食べてるよ。サクヤ特製のお粥は食べれば食べるほど素材の味を感じる、労りのお粥だから。サクヤの心が顕れてるんだと思うんだけどな……俺はあのお粥が好きなんだ」
サクヤを背後から支えているニニギがホッと息を吐く。うん、ちょこっと瘴気でてたから落ち着いてよかった。荒神落ちの気配があったし、水源を枯れさせている事件の背後がある以上サクヤにも影響がある筈だ。
「じゃあ、どこにも行かないで。真幸は私と仲良くなってちょうだい」
「はい。わかりました。イワナガヒメ、こっち来てくれるか」
「えぇ」
気まずそうな姉妹の手を取り、重ねて俺の両手で包み込む。颯人が熱を足して、温めてくれた体温を染み込ませて二柱の冷たい手を温めた。
怒ったり、感情が荒ぶると頭に血が登って体は冷たくなる。サクヤも、イワナガヒメも、本気で俺を思ってくれたんだ。優しい気持ちをもらえて、幸せだ。
「二柱は姉妹だろ?喧嘩するのもいいけど、サクヤの言い方はあんまり良くなかったな。確かにイワナガヒメは立身出世を成したが、この前ニニギに傷つけられた過去の傷を知ったんだ。
何も思ってないわけじゃないんだぞ」
「…………」
「そうなんですの?姉上」
「まぁ、そうね。もう過去の話ですけれど。私だって、純情な乙女だったのよ」
「申し訳ありません……私のせいですわ。知らずに無礼な言葉を吐きました」
「あなたのせいではありません。私自身の心のせいでもありますし……あとは、」
「そうだなー。ちょうどいい感じに原因がここに居るなぁー」
サクヤの背後に縮こまったニニギは『謀ったな』と言う顔を浮かべている。
すまんけど、利用させてもらいます。俺もこれでいろんな気持ちがスッキリしそうだし。
「いい機会ですわ、あの時のことをキッチリお話しいたしましょう。そう言えば、私の姉に謝罪はされていませんわね、あなた」
「……ハイ」
「いいのよ、サクヤ。真幸も言っていたけれど、あなたの出産の顛末を聞くと結婚しなくてよかったと思っているもの」
「そうですわね、仰るとおりですわ。真幸、あなたはどう思われますか?」
「アッ……飛び火して来た……」
「我は邪魔にならぬよう端に居る」
「颯人様、ニニギの次はあなたです。真幸がクシナダヒメとオオカムイチノヒメに、土下座した話を聞きましたわ。ご意見差し上げたいと思っておりましたの」
「……………………くっ」
冷や汗をダラダラ流した颯人とニニギが並んで座り、サクヤのお説教が始まった。俺はお茶を啜りながらイワナガヒメと寄り添い、肩をすくめる。
「イワナガヒメ、やっととっておきの服が見られたな。すごく似合ってて可愛いよ。……その上着、どこで買ったの?」
「あらっ、覚えていらしたの?ウフフ……これは通販で買いましたのよ。パーカーフードがついていまして……」
「真幸、姉上。他人事ではないのですよ。あなた方もお話に混じってくださいまし」
「「ハイ」」
サクヤの長い話に巻き込まれてしまった。それでも……いつもより目尻が赤く染まったサクヤが人のためにやってるんだと思うと、お説教も悪くない気がした。
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