145 トラウマ対策会議
真幸side
「みなさん!おはようございます!!では作戦会議を始めましょう!!!!」
現時刻 8:00 自宅に揃ったメンバー達がリビングに集合して、それぞれが資料を手に持ってびっくりしてる。
伏見さんは完徹&早朝エナドリをキメているため、かなりのハイテンションだ。そりゃ驚かれるだろうな。
俺は魂を分けて、片方が徹夜明けでも片方の体が寝ていたはずなんだが……伏見さんの説教が長くて精神的に疲れてる。
清音さんの膝の上にいる八房のもふもふが目に染みるな。触りたい、もふもふしたい。
「ならぬ。我をもふもふせい」
「颯人はもふもふしてないだろ。みんな真剣なんだから静かにしてくれよ」
「むぅ……同じ黒毛だというに」
「芦屋さん、もふもふしたいんですか?!」
「すいません、大丈夫です。……なんか前にもこんなやりとりしたな?」
「狐遣いの伏見が可愛い狐を呼んで差し上げようと思ったのに!?いいんですか!?今なら黒毛にして差し上げますよ!!」
「テンションが怖いから、あとで頼みます。……みんな資料読めたかー?」
声量がバグってる伏見さんとは対照的に、静かな頷きを返す仲間達。
そして、全員の視線が一点に集まる。テーブルの端っこの、やけに暗い一角へ。
アリスの横にいる真っ黒なマスク、フード付きパーカー、スキニーパンツ姿で座ってるマガツヒノカミ……はいつも通りなんだが。
その横に同じ格好をして、神様が二柱座ってる。マガツヒノカミよりも深くフードをかぶって、顔はほとんど見せていない。
遠隔で会議参加するんじゃなかったのかと突っ込みたい。俺はなーんも聞いてないぞ。アリスはなぜ満面の笑みなんだ。
「あの、さっきから気になってたんですがどちら様でしょうか?昨日はお会いしてませんよね?すごく黒いですね」
「えっ、あっ、あー、ええと」
「清音さん!こちらは私のマガツヒノカミの一つが実体化した神様ですっ。
今朝顕現できたので!その横にいるのは月読殿ですよー」
「えっ!?そ、そうなんですか?だから真っ黒なんですね。月読殿って、月読命さん?の事ですか?」
「そうです!ちなみに
天照殿は高天原のお仕事が忙しいので来られませんが、ええと、ええと……
「なるほど……」
そう言うことか。いや、どっちにしても月読の助けが絶対に必要だったから良いんだけどさ。
……清音さんの反応を見てくれよ。
顔が全然見えてないのに、ずっとアイツを見てる。本神は下を向いたままだけど、唇が震えてるのが見えた。
気持ちはわかるぞ。大好きな人の声を直接聞けてるし、さっきからずっとずっと梔子の香り(ベリーハッピー気分)がしてるんだもん。
清音さんは記憶を取り戻してないけど、ずっと探してた人を見つけちゃったんだ……完全に喜んでる。
まだ気配が赤いから『純粋な好意』の範囲内だし、封印は解けなそうだけどさ。ヒヤヒヤしてしまう。
どーするんだよこれぇ……。
「と言うことで、新規メンバーの助っ人さんと共にやって行きましょう。
昨日芦屋さんと話し合った結果、僕らは
アッー!?…………これ、もしかしなくても作戦発案者の俺のせいか!?
冷や汗をかきつつ伏見さんの目を見ると、深ぁく頷かれてしまった。
「お、俺は月読に時間操作の術を教わる予定だったんだが。何も一緒に行動せんでも良いんじゃないか?」
「ダメです。時間操作の術はとんでもない難易度なんですよ。
いくら芦屋さんでも疲弊は免れません。この場面であなたの力を消費し続けるのは危険です」
「そうかもしれんけど……」
「あなた以外に習得出来るとすれば颯人様、もしくは天照殿となります。現行トップスリーの神様達の属性を混ぜてしまうのは危険でしょう。
それぞれが大切な役割をお持ちで、本来はその領分を侵してはならないんです。芦屋さんはよくご存知ですよね?」
伏見さんの説明を聞いて、納得せざるを得ない。
天照、月読、颯人を含めて神様達は生まれた時に大切な役割を持ち、それを侵食することは出来ないんだ。
階位が高ければ高い程任された役割の精度が高く、トップの座は変えられない。誰かに頼ることもできず、役割を分担することは叶わない。
だからこそ頂点の神は孤独を抱えてしまう。颯人に関してはちょっと色が違うけど、天照や月読がイヤでも持たなければならなかった寂しさはこれが原因だ。
月読は月・夜を統べる。昔の日本は太陰暦……太陽ではなく月の運行を用いていたため、
俺みたいな新人神様なら何かを司る超常に、術を教わって真似できても天辺にいる神様の熟練度には達しない。
だから一柱しか持ち得ない術を習得する事が許されてるんだけど……ダメだったかぁ。
今回は外敵の動きや中務も絡んでくるだろうから確かに危険度が上がっている。国護結界を保持している俺の力は、温存すべきだろう。
時を止めるのは月読本神に頼むしかないってことだ。そして、月読が動くなら依代である白石は必ず同行しなきゃならない。……仕方ないな。
「じゃあ、月読。忙しいとこ申し訳ないんだけど時間操作を頼む」
「……応」
アレ?月読までうるうるしてるけど、どした?ほっぺが真っ赤だな。
「月の兄は其方に『頼む』と言われたのが久々なのだ。さぞ嬉しかろう」
「ソ、ソウデスカ」
颯人に不機嫌そうに呟かれてしまった。依代やってくれてた時代を思い出したのかな……なんだか胸が痛いぞ。
「さて!ではすでにネタバラシされていますが、それぞれの出自に合致する事件を担当していただきますよ」
「うん、事情がわかってる人が担当の方がいいだろうし。えぇと……」
資料をペラっとめくり、担当が空欄になってる部分を見て胸がちくりとする。
白石の担当は、一番最後にすべきだな。そこまでにどうにか清音さんが育つようにしなきゃ。
「実はどこから行くか決めてないんだ、みんなの意見を聞きたいと思って。空欄の部分はちょっと訳ありだから、最後にしたいんだが。どうかな」
「「「「「「「………………」」」」」」」
「月の兄が時を止めるに限りはない。焦らずとも良いのだぞ。
皆、とらうまと向き合うべき時が来たと言う事だ。
三百年の間に、自己がいかに成長したか確認する作業になる。そのように落ち込むことはない。其方達は結果を出しているだろう?」
颯人の優しい言葉に、沈んだ顔をしたみんなが頷く。いや、一柱だけ顔がピカピカしてる神様がいるぞ。
「ほな私から行ってもええ?私はとうの昔に乗り越えてるしな!」
「そうね♡妃菜は一人でちゃーんと向き合って戦ったもの。」
「一人じゃなかったやろ?飛鳥が居てくれたから向き合えたんや」
「妃菜……♡♡♡」
「はーい、いちゃつき禁止です。色んな意味でー!とりあえずとっかかりの事件としてはいいと思いますけどー」
「僕も、色んな意味でアリスに賛成です。これが仕合わせであるならば、一つ解決すれば次に導かれるでしょう。」
「確かにそうだな、みんなもそれでいいか?」
全員の了承をもらい、月読だけを残して白石が音もなく姿を消す。
「……あっ……」
「す、すみません。まだちょっと顕現するのが難しくて。清音さん……気になります?」
「いえ、あの……はい」
おおう……白石が消えた瞬間に清音さんから悲しみの香りがする。気配を見ても濃紺カラー(悲しみ深し)だ。
そぉんなにかぁ。
くぅ、たまらん……。
「どこかでお会いしたことがあるような気がしてました。そんな事無い筈なんですけど。
また、お会いできるんですよね?アリスさん」
「会えますとも。……ずっとそばに居ますから、大丈夫ですよ。頑張って顕現できるようにしますからね!」
アリスの言葉に小さく「はい」と応えた清音さんは目がキラキラしてる。
これは……白石の声を少しでも聞いたらアウトな気がするなぁ。
彼女が眠っている間、結界を張るためになら会えるけど……起きてる時にも本当は沢山会わせてあげたい。しかし頻繁だと危険だし、かわいそうだ。
なんだろうな、このロミオとジュリエット感。
まるで颯人を反魂した時に感じたみたいな、焦ったくて切なくて悲しいけど嬉しい気持ちが手に取るようにわかる。
……あれ。それって……どう言う事だろう。いや、違うよ。
アレは相棒と引き離されたからだっただけだし。……違うよな?
「ふっ、これはとてもいい修行になる。其方にとっても、清音にとっても、皆にとってもな」
「………………ハイ」
颯人に耳元で呟かれ、俺は両手で顔を隠すしかなくなった。
━━━━━━
「よし、鬼一特製卵焼きが出来たぞ」
「こちらの煮物も冷めましたからお弁当箱に詰めましょう。僕の特製じゃないですけど」
「伏見は味付けが独特なんだから詰めててくれよ」
「……むぅ」
「あれ?菜箸どこやったんや?妃菜ちゃんの八幡巻きが詰められへんやんか」
「妃菜、今持っていくわー」
「あ、ついでにティッシュ持ってきてや、飛鳥」
「はーい♡」
「あちち、あちち!ご飯炊けたぞー」
「芦屋さん!御飯釜は私が持ちますから!」
「そうですよー、ご飯ひっくり返したら困るんで星野さんに代わってくださーい」
「酷い」
「其方は漬物を切ってくれ。我は胡瓜を所望する」
「はいはい」
「累は人参さんがいい!」
「おぉ、累はすっかりお野菜好きになったなぁ。いい子だぞぉ」
「えへへぇ」
現時刻11:30 月読が時間を止めて、みんなでお弁当を作成中。これから九州に遠出するからな。天災があるって言うならご飯調達も厳しいだろうし。
わちゃわちゃしながらみんなで思い思いのおかずを作って、それぞれ好き好きにお重に詰めている。
俺たちは一緒に住み出してかなり長いから、何も言わなくてもうまく連携できる。みんな料理が得意だから、食べるのが楽しみだな。
……伏見さんは、鬼一さんが言うようにちょっぴり独特な味付けをするんだよな。真子さんによく怒られてたっけ。
俺は糠床からきゅうり、にんじん、茗荷、茄子の漬物を取り出して洗い、キッチンペーパーで水分を拭き取っていく。
颯人が好きなきゅうりと、累が好きな人参は多めに切っておこう。
「凄いですね、皆さんお料理うますぎませんか?」
「ふふ、長年の経験だよ。清音さんは料理得意?」
「料理は微妙です。何しろ貧乏で、もやしと豚肉くらいしか食べてなくて。お米は炊けますが」
「あー、そうか。じゃあそのうちみんなで交代しながら教えるよ。料理はできたほうがいいだろ?」
「はい!ぜひお願いします。昨日のご飯もすごかったですけど、今日のお弁当も豪華ですね。」
「食の楽しみは人生の楽しみ、って言うしね。神様だから別段食べなくてもいいんだけど、食べ物からは自然の霊力をもらえるし。いいことづくめなんだ」
「ほぇー、そうなんですか。霞を食べてるのかと思ってました。……でも皆さんおトイレはしませんね?」
「あぁ、全部力になっちゃうから排出はされない。清音さん……任務時はちゃんと配慮してるから、心配しなくていいよ」
「アッ、恐縮です。スミマセン」
「謝る事無いだろ、人間だもの。
言い忘れてたけど……新しいスーツ、似合ってる。カッコいいな」
俺の背後で包丁さばきをじっと見つめていた清音さんが、ニコッと笑顔になった。
神継の制服である黒いパンツスーツに白いワイシャツを着て、ピカピカの神継一年生仕様だ。
ちなみにネクタイはまだ支給されていない。その辺りの判断は鹿目のお仕事だから、倉橋くんが監視の目をつける予定だ。
ネクタイを渡す役目は、白石にお願いできたらいいな、なんて思っている。
神が降りた時点で支給されるのが通常だけど、清音さんの場合は元々守護神としてついていた八房をおろしたから、ちょっと例外なんだ。
真神陰陽寮の監視役である鹿目から『もう大丈夫』と言われるまではこの状態だな。……すごく懐かしい。俺も、最初は白シャツだった。
「芦屋さんもこのスーツを着てお仕事されてたんですか?」
「そうだよ、最初は白いシャツ着てさ。モサモサの前髪にカサカサのお肌で、どんより猫背だった」
「えっ!?そ、想像がつきませんね」
「颯人にも鬼一さんにもモサイって言われてたよ」
「颯人様や鬼一さんが!?いやいやいや、何の冗談ですか!??」
「ホントだって。俺は何もかもを諦めて、オシャレの仕方も知らなかったし。今じゃこんなじゃらじゃらアクセサリーつけてるけど、ワックスの正しい付け方すらわからなかったんだよ」
「ええぇ……?」
俺は前髪の間から不幸ばかりを見ては拗ねて、人を見て自分の幸せに気づけず『いいな』って羨んでばかりいた。
今でもそう思うことはあるけど、身の回りが幸せだらけなことに気づけるようになったし、大人にはなれてるかな。
身につけるアクセサリーもいつの間にか増えてしまったなあ。
お祝いにもらった水晶のかんざしに、神ゴムはいつの間にか腕輪になってて。赤黒のピアスに、颯人とお揃いの指輪までつけてるし。
……オシャレ入門くらいはできてそうなもんだけど、正直わからん。
「颯人にはことあるごとに『半人前だ』ってしつこく言って、俺の尻を叩いてた」
「………昔は、仕方なかろう。其方は危なっかしかったのだ」
「まあねぇ、今ならわかるよ。颯人に苦労させてたな」
「そうだろう、そうだろう。成長せねば我の苦労は理解できまい」
「と言うことは、芦屋さんも私にそう言ってくださるんですね!?」
「えっ??言わないよ。清音さんは成長途中だけど、俺よりちゃんとした人だもん」
「師匠なんですから!厳しめでお願いしたいです!!」
「清音、それはやめておいたほうが其方のためだ」
「颯人様の言う通りだ。真幸の『厳しめ』っての、俺はお勧めしないぞ」
「鬼一の言う通りです。やめて下さい」
「伏見さんに賛成です、私もあまりお勧めしません」
「星野さんにまで言われてますねー」
「しゃーないやん、真幸の『厳しい』は倉橋くん達ボッコボコにしたんやから」
「アレはねぇ……そうねぇ……何とも言えないわねぇ」
「そ、そんなにですか?」
「みんなして酷くないか?俺はその人のために限界ギリギリを見定めてやっただけだぞ。お説教が含まれてたからだろ」
「いやいや、限界は超えてたやんか。真幸もやで」
「そうでしたね。いいですか清音さん。芦屋さんを本気にさせると、芦屋さん自身もギリギリまでやらかしますから。今回は人数も多いので、本気にさせないでくださいね、分散でお願いします」
「えっ?え……えー???」
「なんか不名誉な気がするぞ。酷いよ」
キッチンに戻ってきたみんなに取り囲まれ、清音さんがリビングに連れて行かれる。
そんなにかな。倉橋くん達はちゃんとわかってくれてたし、今でも俺はやって良かったと思ってるけど。
「其方が疲弊した故、皆が警戒しているのだ。わかってやれ」
「むー。颯人は止めなかったもん」
「それこそ其方のためだ。ああでもしなければ納得せぬだろうに」
「まぁ、そうだな。そう言ってわかってくれる颯人がいてくれて助かったよ。ありがとう」
漬物の切れ端を累の口に差し出すと、可愛く人参をぽりぽり食べてる。颯人にきもゅうりの切れ端を差し出した。
満面の笑みでそれを齧って、颯人と累が微笑み合う。
幸せな光景だなぁ。清音さんにも、いつかこんな気持ちを持って欲しい、なんて。
「だから、何なんだよ俺は……乙女か」
俺は自分にツッコミを入れて、ちょっとだけ熱くなった頬を押さえた。
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