108 ⭐︎追加新話 解呪と奉納舞
「式典のご参加お疲れ様でした。この後奉納舞となります。みなさま、是非舞台のお近くへお越しください」
伏見さんのアナウンスと共に舞台の上に
式典様式でち遠くにいた観客たちが舞台に押し寄せて、キャッキャし始めた。
オンステージってか、ハハハ。
現時刻 12:30 俺たちは舞台の奥に椅子を用意してもらって、腰掛けた。手を握りっぱなしの颯人が大袈裟に顔をのぞいてくるから、プイッと顔を背けた。
「真幸……怒っているのか」
「ふんっ」
「すまぬ。虫除けのつもりもあったのだ。調印だけでは微妙な気持ちを抱く者もいる。目眩しにもなり、確たる物として証が欲しかった」
「…………」
颯人の真剣な声に思わず振り向き、ちろっと目を合わせる。
わかってるよ。颯人は俺の妙なわがままに文句一つ言わず、気持ちが変わらないままそばに居てくれる。俺のことばっかり考えてるって、知ってる。
指輪の事だって、他意がないとは流石に思わないけど……嬉しかった。
伏見さんたちが身につけてくれている勾玉と同じ物なんだから。
そして、颯人ともお揃いの何かがずっと欲しかったんだ。結い紐もそうだったけど……神器として指輪が相棒の証だって言うなら、そうしたいとは思う。
「真幸……機嫌を直してくれぬか。どうすれば許してくれる?」
「別に怒ってないよ。みんなお揃いで俺の神器を身につけてくれてるんだから。さっき、勾玉のネックレスを見せてもらったんだ。……すごく嬉しかった。」
「本当か?頬が膨れていたではないか」
「そりゃ話して欲しかったけどさ。こう言うのはみんなに見せたいものじゃないし」
「あぁ……二人きりならば許してくれたのか。すまぬ」
「そ、そそそうじゃなくて!もうこの話は終わり!…………ありがとう。颯人の音が聞こえるのはすごく安心する。みんなと、颯人と繋がってるのは、本当に嬉しい」
「そうか」
颯人の笑みが目に染みる。あんまり見てると変な気持ちになりそうだからやっぱり顔、見ないでおこ。
俺はつい泣いちゃったけど、お化粧大丈夫かな。鏡がないから気になる。
準備でパタパタ走り回っていた真子さんと目が合うと、こっちにやってきてくれた。
「真子さん、俺泣いちゃったんだけどお化粧大丈夫?」
「大丈夫やで。ウォータープルーフやから。泣いても汗かいても絶対落ちひん。一応目の下だけちょこっと触っとこか」
「そうなのか?ありがとう。」
袖の袂から白粉のコンパクトを取り出して、ちょいちょいと目の下に触れてお直ししてる真子さんの後ろでみんなが次々と物を運んでいる。
……それにしたって、なんでみんなニコニコしてるんだ。俺をチラッと見ては「んふ」と笑いを落としていく。
「あーあ、颯人様からあんなサプライズがあるなら先にしておけばよかったわ。私からもサプライズ、あるんよ」
「ぇぇ……」
「そんな顔せんと。私のは喜んでくれると思うで?」
不敵な笑いを浮かべた真子さんが、準備中のみんなの前で柏手を打つ。
背筋を伸ばして瞼を閉じて、小さく呪文を唱えた。
「
「え!?もしかして口寄せ……??」
「ほう、真子はそちらの才能があったか」
「そういえば、こないだ言ってたな。憑依体質っぽいって」
真子さんの様子に気づいているのは伏見さんだけだ。俺たちは舞台の一番奥にいるから、観客達も気づいていない。
ふわふわ漂う怪しい紫の煙……真子さんがガクッと首を項垂れて、硬直する。
な、なんかガチで降りたっぽい。……誰を喚んだ??
『ん、あーあー。本日は晴天なり』
「……うわ、よりによって……」
『うぉっ!?眩しい!やべ、地上が久々すぎて目が開かん。……ま、真幸か…?』
顔を上げた真子さんは、俺によく似た笑いを浮かべてる。目がしょぼしょぼだけど。
はぁーーー、そりゃ今回の式典が終わったら『こんな風に実を結んだぞ』って報告するつもりではいたよ。でも……マジかぁー。
「はぁ……お久しぶりだな、親父」
真子さんの姿のまま、ぼんやり蘆屋道満……親父の姿がダブる。
こんなところでこの前まで怨敵だった人呼び出しちゃダメでしょー……。伏見さんが慌てて走ってきて、目の前に立って隠してくれる。これは……伏見さん……知ってたな?
「ありがとう?伏見さん」
「いえ。まさか今とは思いませんでした。大丈夫です、聞いてましたから」
「やっぱ知ってたんかーーーい」
『元気だったか、息子殿』
「親父はブレないな、少しは動揺してくれよ。……うん、元気だよ。そっちは?仲良くしてるの?」
はにかんだ笑顔を浮かべた真子さんは、声が親父で、顔の作りは本人のままだから違和感すごい。山盛りマシマシだ。
『仲良くはしている。某が謝りたかったお前の母は、すでに成仏してた』
「そっか……すれ違っちゃったんだな。三人で喧嘩してないか心配したんだ。二人でいられるなら、よかった」
親父がしょぼくれた顔して手を差し出してくる。それを握って、何とも言えない気持ちになった。
手の感触は真子さんの手なんだけど、その中に大きな手のひらを感じる。
不思議な感覚だ。これが口寄せ……。思わずにぎにぎしてしまう。
「真子さん、これから舞があるんだけど大丈夫なのかな。親父はすぐ帰っちゃうのか?」
『いや、真子の口寄せは本人が意識の主導権を握ってるから』
「この通り自在に入れ替われますー」
『だ、そうだ。俺もこんなのは初めて見たが、伏見家の血脈からすりゃおかしくはないだろ』
「コワッ。腹話術みたいなのやめろください」
「確かに不気味ではあるな……」
声色がころっと変わるから、ちょっと怖い。でも、そっか。お祝い事を親父に見せてあげられるんだ。
「俺たちの奉納舞見ていけるのか?」
『あぁ……見ていっても、いいか?その……』
チラッと上目遣いで颯人を見て、気まずそうにしてる。
対して颯人は柔らかい笑みを浮かべ、真子さん……の中にいる親父と握手を交わした。
「お久しぶりです。道満殿」
『えっ、あ、お、お久しぶり……です』
颯人が敬語なんだが。何が起きた?そしてなんだか営業スマイルだな。
妃菜の親御さんに席を案内しておもてなししてる飛鳥をチラッと見てる。……あー、そう言う感じ?
「そう畏まらず、あなたは真幸の父なのですから。我の父も同然なのですよ」
『……うーん……いや、ちょうどいい。某は颯人さんと、真幸に謝りたくてここに喚んで貰ったんだ。真子の体だから土下座はできんが。
……本当に、申し訳ないことをしました』
深々と頭を下げた親父の手を握りしめてぽんぽん、と叩いた颯人は営業スマイルから自然な笑みに戻った。
……颯人も、親父を許してくれたのかな。
「真幸を送り出してくださったのは、間違いなくあなたです。過去の事は忘れて親しくしていただきたい」
『うぇっ?うー、あー……はい。颯人さん、某の息子をよろしくお願いします。……幸せにしてやってください』
「えぇ、確かに承りました」
「ちょ、おい!承るなっ!結婚するんじゃないんだからな!」
「ふふ、同じような物だろう。これはとても良い、外堀を埋められる」
「……ぬー、むー……」
颯人の得意げな顔に困惑する蘆屋親子の図。なんなんだこれは。
颯人の手が親父の手を俺に渡してくる。仕方なく受け取って、じいっと親父を眺めた。
『真幸、今更言う事じゃないとは思うが……ごめんな、大変な思いさせて。
お前の中にあるトラウマは某のせいだ。お前に何も残せないまま某は地獄でのうのうと暮らしてる。……本当に、すまない』
親父のしょんぼり顔をじっくり見てふと気づいた。ここまでちゃんと顔を合わせたのは初めてかもしれん。
全体的にハの字にパーツが配された顔は、男としては若干便りなさげだ。庇護欲を刺激される。なるほど、これは作りの問題は抜きにしても、可愛く見えてしまうのかも知れない。
母が俺に刻んだ過去がプラスされたら、余計にそうなのかもな、と客観的には思える。
うっかり具合も、口調も、知らないうちから俺達はよく似てたんだ。
親父に出会えたのが、もし《普通の家庭》だったら。誰にでも「よく似た親子」「お父さんにそっくりね」って言われていたかも知れない。
それに照れて、「似てないもん!」とか言ったりしてさ。きっと仲良く暮らして、気のおけない友人のような親子になれたんじゃないだろうか。
だが、そんな過去はどう願っても訪れない。俺の中の経験は無くならない。
汚れてしまった体も、心も、全てが呪力として体に燻っている。これが現実だ。
胸の奥の切ない気持ちを押し込めて、口角を意識して吊り上げる。こう言う時は笑顔が一番いい。自分にも、相手にも。
俺、そう言うのはちゃんと自分で乗り越えたいから……謝る必要なんかないよ。
「親父を恨んでなんかないよ。千年すれ違った二人が幸せにしてくれなきゃ困る。俺は自分で何もかもを乗り越えたいと思えるようになったんだ」
「……そう、か」
「うん。親父が知らなかった家族の愛ってやつをさ、教えてあげられる未来が来るかもしれない。そしたら、
俺が颯人に教わったものを、ちゃんと返せるようになるまで待っててくれ」
しょぼくれた親父の目からパタパタと雫が降り注ぎ、秋の日差しが宿ってキラキラしている。
あぁ、俺はもう、ひとつちゃんと乗り越えてたんだ。親父に優しくしてあげたいと思える。綺麗な涙を素直に嬉しいと感じられる。
「親父はちゃんと残してくれてるよ」
『……何を?』
親父の手を握ったまま、自分の胸をそっと抑えた。
「俺と言う命を」
『…………』
優しい風が吹いてくる。白檀の香り。颯人の匂いだ。今は自分からも香る、二人だけの匂い。
颯人に出会えたのも、親父のおかげだ。俺は、ちゃんと感謝できてる。
『真幸が生まれて来て本当によかった。某の子供として生きてくれて、ありがとう』
「……うん」
親父の言葉を噛み締めて、ただ頷く。
いつか、おかあさんに言われた言葉の塊が
生まれたことを嬉しいって言ってくれた。親父が喜んでくれるなら、俺は本当に救われる。
最後の解呪は、親父がしてくれた。伏見さんが後ろ手に手渡してくれたハンカチを受け取り、親父の涙を拭く。
真子さんもお化粧してるから、そーっとそーっとしないとな。
チラッと振り向いた伏見さんが微笑み、辺りを見渡した。
「そろそろ舞台が整います」
「伏見さん、ありがと。親父、大人しくしてるんだぞ」
『うん』
「……私は、道満のやった事を芦屋さんがどうやってひっくり返したのか。どう言う結果になったのか……本人に見てもらいたかったんよ。
芦屋さん、あんたにようさん喜んでもらえるようにサプライズが山盛りやからな。楽しみにしててや!」
真子さんの表情に戻った瞬間に不吉な事を言われたんだが。式典にサプライズを仕込むんじゃないよ。全く。
細目の伏見姉弟が微笑みを残し、居なくなる。目の前に現れたのは舞衣装を身につけた男衆だ。
あれっ!?水干姿から、引きずるほど長い裾が特徴の、
冠を被り、耳の上に馬尾毛で作られた
伏見さんが一列に並んだ舞手達の前に立ち、目の前で自分の衣をツンツン触って変化させた。
……えっ?人間でもできるのそれ?すごいな。
「ふっ。僕はもうすぐ登仙を果たしますよ。絶対に白石より先にして見せますから」
「伏見さんならできそうだな。楽しみにしてるよ」
満足げな顔をして、伏見さんが頷く。
ザワザワしていた観客達が口を閉じ、シーンと静まり返った。
「では、これより奉納舞を始めます。
一の座 『
「ヒトガミ様、祝福をいただけますか?東遊にて、この場をこと
「……はい」
自分の手を差し出し、受け取った伏見さんが手の甲に額をつけて、舞手達が頭を下げる。
……むぅ、うむ。神様ってのは、頭を下げられることが本当に多い。自分がするならいいけど、受けるのはちょっとな。
凛々しい笑みを浮かべた伏見さんが手を離し、みんなが配置についた。
長い裾を上手に蹴り上げて捌き、四方に片膝をついた四人の舞手は伏見さん、白石、星野さんと倉橋くんだ。
全員が緊張した面持ちで、始まりの音を待つ。
東遊、片舞は何種類かある舞いのうち『駿河舞』のみ舞う方式だ。
明るく軽やかな曲調で、清少納言が枕草子に『一番好きな舞』とまで書いている。題材としては駿河の
ちなみにあのキリッとした衣装は近衛官人の正装だ。これで男の人が舞ってたらそりゃかっこいいし好きになるよな。
衣装は白地に
……俺もワクワクしている。みんなが十割マシでイケメンに見えるぞ。
――や…… 有渡浜に――
おわ……大村さんと真さんが歌なのか!低く、地上に響き渡るように歌い出した二人の声、フツヌシノオオカミの笏拍子がタァン!と被さり、羽田さんの琴が重なってくる。
アレ……アレ?!あの二人、指輪してないか??
(羽田とフツヌシノオオカミは祝言をあげるそうだ)
(なっ!?い、いつの間に!?)
颯人の話に驚きを隠せないんですけど!?いや、でもそうなりそうな感じは確かにしてた。耳にお揃いのカスミソウを飾っている。
わぁ、ラブラブじゃないかぁ……あとでお祝いを考えないといけないな。
――駿河なる
前崎さんの太鼓、鹿島神宮の神職さん達の篳篥・高麗笛の音が一気に音を奏ではじめて、厳かな舞が始まった。
舞手が足を踏み鳴らし、袖を振り上げる。
駿河舞もそうだけど、神様への奉納舞は基本的にとてもゆっくり動く。袖振りの華やかさと足捌き、体全体と腰、膝を使った動きで形成されている。
男性が舞う神楽は、体幹のしっかりした人が舞うととても美しくて優美だ。
総監督であるウズメは両手を握り締め、祈るようにして舞台袖から見守っていた。
大丈夫、四人ともしっかり舞えてる。観客席の最前列ではイナンナがカメラでバシャバシャ撮影して、女神達がキラキラした顔でみんなを見つめている。
あっ!星野さんの奥さんも来てたのか!……ちょっと待って、赤ちゃん抱いてるんですけど!?
(は、颯人!あれ星野さんの子じゃないのか!?)
(そう、見える。我も知らなんだ。真子のさぷらいずは恐ろしいな……)
(そこはサプライズするものじゃないだろ!?あぁ、もう!!)
くっ!!ちいちゃい赤ちゃんがじーっと目線を送ってくる。まんまるほっぺがとろけちゃいそうだ。天使?天使なの??可愛い……。
(あとで祝ってやろう。名を贈ると約束していたな)
(ハッ……正直忘れてた。え、これ演目終わったら頼まれる流れ?)
(間違いない。そのために連れてきたのだろう)
(うぅ、嘘だろ……ヤバい……)
四方をくるくると回り、舞い続けた星野さんが観客席に近づく。
奥さんのあの笑顔見てくれ!星野さんもすっごい泣きそうな顔してるんですけど。
正直演目が頭に入ってこない。自分の舞が頭の中から吹き飛びそうだ。
きっちり九分弱の舞が終わり、舞手がはけていく。嘘だろ、もう終わってしまったのか。観客席から起こる拍手が恨めしい。
「続きまして 二の座 浦安の舞」
舞はオオクニヌシノミコトが司会進行なんだな。アナウンスの後、巫女舞の千早を身につけた女性陣が静々とやってくる。
伏見さん達と同じように俺たちの前に並び、真子さんがニヤッと笑って手を差し伸べた。
「ヒトガミ様、素戔嗚尊殿に舞を捧げ奉ります。幾久しく、この国をお守りください」
「………………ハイ」
くっそぉ……みんなしてニヤニヤして!!もぉ!!!
手に手を重ね、真子さんがおでこにそれをくっつけて……祝福を渋々授ける。
立ち上がった舞手達はアリスを先頭に舞台へと進んでいく。
左手に檜扇をもち、顔の横に掲げて……鮮烈な赤を宿した袴を翻し、お淑やかに歩く様はとっても綺麗だ。
みんな頭に金色の冠をつけ、髪の毛を後ろで一括りにしてるんだけど、結び目には俺と同じく梔子の花をさしている。
冠の下には桜の花簪をして、連なる薄い金属の板が動きに合わせてシャラシャラと音を立てていた。
全員が膝を少し落とし、足先を後ろにを下げて正座で座る。掲げた扇を膝の上で閉じ、両手で胸の前に掲げて一礼。
すごいぞ!鈴緒の直しまでピッタリ揃っている。
もう一度扇を広げ胸の前に掲げると、無地だったそこに……クサノオウの花が黄色く浮かび上がって、観客席から静かな歓声が上がった。
なんだよ、もう。なんでだよ。
今日は俺のための式典じゃないだろ。サプライズしすぎで俺のウォータープルーフとやらが負けたらどうするんだ。
颯人に手を握られて、浮かんできた涙をどうにか引っ込める。たららん……と琴の音が舞いの始まりを告げた。
――
浦安の舞は、古語で『浦』はこころ・『安』は安らぎを意味する。浦安の舞は平和を願うための神楽だ。
浦安というのは日本を形容するときに使われる言葉でもあり、心が穏やかで安らけく、美しい国という表現でもある。
前半と後半で舞手の持ち物が変わるのが特徴的で、檜扇の
これも約10分程度の舞だ。
歌詞にある通り、朝凪のように穏やかな平和を神に祈るという意味が込められている。
扇を閉じては開き、袖が捲れないように振り上げてはおろし、くるっと回る。……うん、大丈夫。アリスも加茂さんも完璧だ。
妃菜と真子さんの舞が完成しすぎていてみんなそっちに注目してるけど、一生懸命な二人の姿を見て思わず口の端が上がる。
一つ一つの所作は直線的だけど、妃菜と加茂さんの動きは柔らかい。真子さんとアリスの動きは凛々しい。
誰が師匠か一発でわかる。四人の動きが揃っていて気持ちいいから、それぞれの特色が違っているのに調和して見えた。
四人が横並びに並んで、檜扇から神楽鈴に持ち替える。立ち上がって一拍目の鈴の音で、アリスから強烈な霊力が立ち上がって……あっ、これ、ヤバいのでは?
アリスの真横にいた加茂さんが霊力の波に傾ぎ、目線でそれを捉えた真子さんがすかさず支えている。
……アリスは気づいてないな、よかった。
四人が四方八方を鈴の音で清めていく。波紋のように広がる霊力を全員が強く発して、在清の力とバランスをとったようだ。
うーん、通じ合ってるな、すごい。
(ウズメの顔ヤバいね)
(ふ、案ずる事などない。真子がおるのだから)
(そうだな、真子さんがいるもんな)
鈴を鳴らすときの首をかしげる角度までしっかり揃い切って、舞が終わる。
もう一度檜扇に持ち替え、入場時と同じように顔の横に掲げてみんなが無事はけていった。
アリスの真っ赤に染まった頬と、一文字に惹き結ばれた『達成したぞ!』って表情に俺も満たされた気持ちになる。
よかったな……すごく良かった。
「三の座
うん、わかるよ。剣舞は激し目の音楽だし、舞手がめっちゃくるくるするからな。オオクニヌシノミコトから『三半規管』って言われるとなんだか違和感がある。
「そして、剣舞に引き続き神々の舞が始まります。続けてお楽しみください」
(あ、演奏担当が変わるのか……でっかい太鼓だな!?)
(暉人が叩くのだな。耳を塞いだほうが良いかも知れぬぞ)
(そんな事ある?いくら力持ちだからって……)
(見ていればわかる。其方には結界を張ってやろう)
うーん、そんなにか?
人間の演奏者と交代して暉人が大太鼓、魚彦が小太鼓、龍笛が月読、ククノチさん……
練習してる様子を見てなかったから心配だな。剣舞はずっと打ち鳴らしてるはずなんだけど……。
呆然としていると、真っ黒な浄衣を着た鬼一さんとヒノカグツチがやってきた。二人とも腰に刀を
烏帽子を被らず真っ白の鉢巻を巻いて、長いその裾を翻しながら目の前に座した二人。……怪我しない?大丈夫?
「心配すんな。刀にゃ保護用の術をかけてある。神々の舞で危ない目に遭わせたくないからな」
「……えぇ……?遭わせたくないってどういう事なの?」
「それは見てのお楽しみだ。祝福をいただけるか。俺たちは観客の心を鼓舞する役目だ」
「うん……」
伏見さんと真子さんと同じく俺の手を額につけて、鬼一さん達が颯爽と舞台に上がる。こっそり怪我しないように結界を張っておいたから大丈夫だろう。
それにしても、いつのまにかウズメが舞台袖から消えてるし、眷属達はみんな出払っている。赤黒が残ってるだけなんだが。
(其方の傍には我がいればよい)
(んー、うん、まぁ、うん。ていうか累はどこ行ったんだよぉ……お膝が寂しい)
(次が終わるまで待つのだ)
(次が終わったら俺たちの番だろ!?)
颯人が「あっ」て顔してる。あーーー。これは……なんか知ってるんだな。颯人もグルか!
(俺の相棒は随分秘密ごとが多いんだなー。俺は寂しいなぁー)
(むむ……む……)
思い悩む颯人をよそに、全員が配置についた。さぁ、剣舞の始まりだ!
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