106⭐︎追加新話 出雲神議

「では、今回の出雲神議かむはかりはここまでとなります。

 この後調印式、舞の奉納と行事が続きますのでお茶と軽食をご用意しております。式典中は飲食禁止となりますので、十分水分を補給してください。お疲れ様でした」


 伏見さんのアナウンスが終わり、出雲大社の拝殿に集まった神たちが一斉にほっとした様子でため息をついた。


 

 

 現時刻 神有月10日 10:00 出雲大社にて出雲神議が終了。これから調印式、お祝いで舞を奉納して今回の式次第は終わりとなる。

 

 本来は七日間出雲に滞在するんだけど、今回は人間式の会議を採用した。お酒も禁止して粛々と進めたおかげで十時間ほどで終わってしまった。そう、真夜中から始めたからな……0時から始めるからぶっ続けで若干疲労している。

 

 元々年一回行われていた出雲会議は全国から神様が集まって、神事かみごとを決めるためのもの。神事というのは人の手が届かない超常の全てを差配することを指す。

 

 具体的に言えば高天原の運営に関しての人事異動とか、役員の選定とか。全ての生きとし生けるものの命の動き、天候をどう動かす、誰を成仏させるとか誰が転生するとか、台風を防いだりする役割の順番決めとか……要するに神様が一年どう仕事する?という内容を話し合うのが目的なんだ。


 今期から高天原で国津神のメンバーに仕事をしてもらうからその人員発表、海外との国交を担う外交員を定めたり、これからの世の中を具体的にどうやって運営していきますか?な会議で……。


 内容的には元人間として『神様ってそんなことまで差配してるの?』と言う感想を持った。


  

 主導は天照・オオクニヌシノミコト・魚彦で、議案の採用不採用、現行での改善点を話し合った。

神様たちはみんな真摯に向き合い、緊張感が漂っていてピリッとした空気だったな。無事終わって良かったよ。


 式次第とは別で慰労会があり、舞の奉納の後飲み会になるんだけど、それも楽しみだ。知り合いの神様たちも妖怪たちも沢山いるし……お酒、飲んじゃおっかな。




 会議の司会進行と、相変わらず飲み物を担当してくれているのは伏見さん。今日はお父さんの是清さん、お母さんのさくらさん、真子さんも全員でお茶を淹れてくれてる。

 

 稲荷神たちや狐がみんなにお茶を配ってほっと一息、今日もぬるめのお茶からスタートだ。



 

「ピーッ!!!はい、だめですよ!勾玉をお渡しになる方は、今後真神陰陽寮を通してヒトガミ様へお渡しするように!先ほど決まったばかりでしょう!」

 

「くっ!?」

「お話ししたいのにぃ……ダメ?」


「ダメです。きちんと記録しておかなければなりませんので。お渡しする時に直接お会いになれますから、我慢してください!」


「……しょぼん」

「わかったぁ……」



 

 部屋の端っこで笛を吹いて神様二柱を捕まえてるのは……弓削くんか?

 

 スーツ姿で働いてくれてるんだけど、凛々しい顔つきになったな。髪の毛は相変わらず金髪だけど、綺麗に一纏めにしている。

 清潔感があってかっこいいぞ。勾玉攻撃を防いでくれたんだからあとでお礼しに行こう。管理もそろそろ限界だったし、本当に助かるよーー。


 

 今日は真神陰陽寮のみんなが主軸で警護をしてくれてるんだ。重役たちがみんな演目に出るから、研修学校の生徒たちも手伝ってくれている。

 

 人間の機関からは警察や自衛隊、SPの方達も揃い踏みだ。出雲大社には今国中の超常が揃ってるからなぁ……警護はもうものすごいことになってるんだ。


 

「ヒトガミ様、神様たちが隙あらば勾玉を渡そうとしているので、控え室へお連れしますっ」

「お、桜庭さんだ!今日は三人じゃないのか?」

 

「はい、桜庭です!みんな来てますよ、舞手の方達を誘導するようにとのことですので!早速参りましょう」

 

「そうか、ありがとう」


 

 

 ざわざわしている会場の中で、演目参加のメンバーが続々と部屋を出ていく。イベントやりますよって感じの雰囲気が醸し出されて、ワクワクしちゃうぞ。

 

 会議は浄衣での参加だったから、袖の裾をついついと引っ張って桜庭さんが俺たちを誘導してくれる。


 

 現在お邪魔している拝殿は古い建物のように見えるが、昭和三十年代に建て直されている比較的新しいものだ。参拝者の祈祷、祭事、奉納行事を執り行う大切な場所だな。

竣工の六年前くらいに火事で消失してしまい、戦後ではなかなか大きな規模の再建築だったらしい。


 大きなしめ縄が名物だけど、拝殿よりも神楽殿のしめ縄の方が有名なんだって。

拝殿のも十分立派で、作るのは相当大変だろうと苦労が偲ばれけど。


 


 ピカピカの廊下の先に、控え室の扉が開かれている。

その扉前でしかめ面をしたツクヨミと白石が佇んでいた。



「いっ……てぇ……」

「あぁ、もう。なんでこんなになる前に魚彦に治療をお願いしなかったのさ!この後演目まで合流できないんだよ?

 うわ、豆が完全に潰れてるじゃん」

 

「大したことねぇだろ、芦屋の努力に比べりゃ」

 

「比べるものじゃないでしょ。そもそも比較するなら、人を選んでくれなきゃ困るよ。

 直人の負担が大きいのはわかってたけど、ここまでとは思わなかった。ごめん」

「月読のせいじゃねぇ。ギリギリ笛の合格ももらえたんだ、あとは本番やるだけだ……し……」



 ふーん、なるほど。死ぬほど努力して手の豆が潰れて痛い思いしてたのに、ずっと舞の練習で顔を合わせてた俺に隠してたのか。ふーん。

 腕組みをしている俺に気づいた白石が「やべっ」て呟いてるけど、何でだよ。俺が回復してあげればいいだけなのにさ!


 

 苦笑いを浮かべたツクヨミが避けてくれて、俺は早足で近づき白石の手を取る。 

指の節一つ一つに至るまで豆ができて、何度も潰れたそこからお肉が露出してる。


 こんなになって……相当痛かっただろうに。


 


「白石?なんですぐ言わなかったんだよ」

「……だって、俺だけ必死すぎて恥ずかしいだろ?」

「ばか、何言ってんだ。一生懸命に努力してる人の何が恥ずかしいんだよ。」


「すまん、先送りにしてたら言い出せなくて。がむしゃらにやってれば不安に溺れなくて済むだろ?俺も気がつかないうちにこうなってた」

「そっか……。結構皮膚が捲れちゃってるから痛いかも。月読、支えてやって」


「うん。直人、泣いてもいいよ」

「泣くかよ。芦屋、頼むぜ」

「うん」



 颯人と一緒に白石の傷に治癒を施す。癒術の痛みは、術の熟練でだいぶ軽減できるようになったけど……皮膚の再生は細胞分裂を早めているから成長痛のような痛みが出てしまう。

 

 傷が深ければ深いほど痛いし、しばらくジンジンするだろうけど今の状態よりはマシだろう。


「…………」

「もうちょいだからな」

「うん」



 

 白石が涙目で傷が治るのを見てる。颯人が神力のふりかけをかけて、俺がふーふー息を吹きかけるたびに傷が塞がっていく。

 最後に浸出した体液を拭き取って、完了だ。



「しばらく痛みが残ると思うから、痛み止め飲んでおくんだぞ。魚彦にもらったやつ、まだある?」

「今朝飲んだので終わっちまった」

 

「そんなに痛かったなら、次から早く言って。ほら、俺の使っていいから」


 胸元から取り出した痛み止めを手渡して握らせると、はにかんだような笑みが浮かぶ。




「母ちゃんみてぇ」

「白石のお母さんか。……そんなに似てる?」

「見た目は違うけど、世話焼きなところは似てるな。いつもなんか食い物出してくるし、いつでも心配してて、俺が無茶すると何も言わなくてもわかってくれた。……ありがとな」


「うん……頑張ってくれるのは嬉しいけど、もう無茶しないでくれよ?これからもずっと一緒に仕事するんだからさ」

 

「わかった。お前もだぞ?」

「ふっ、はいはい。お互いな」



 白石は、結構笑顔が多くなったな。月読もそうだけど、二人してニコニコしてるのをよく見かける。

なんか嬉しいもんだな、こう言うの。



「んふ……んふふ。」

「ぬ……真幸?またご機嫌モードではあるまいな……」

 

「颯人ぉ!俺、頑張るからな!調印式も、神楽も、ぜーんぶ精一杯やろう。今日は絶対いい日にしなきゃ!」

 

「……応」


 眉毛をモニモニさせている颯人と苦笑いの白石、月読の顔を順番に眺め、みんなで控え室の扉を潜った。


 ━━━━━━


「アリス、そっちの白粉取って」

「はいっ。紅はどうしますか?」

「唇がこーんなに赤いならいらんやろ。グロス塗っとこか」

「はーい!」

 

「ほっぺも桃色やし、ほんまに可愛いわぁ……お人形さんみたいや」

 

「憎たらしいほどお肌ツヤッツヤやし、唇プルプルやし……はぁ。下向いてー。アイライン引くから動かんでな」

 

「ハイ」


 俺は今、妃菜、アリス、真子さんに囲まれてメイクをしてもらっている。

 

 会議の前に自分でやったお化粧は『なんも塗ってへんのと同じ』と評されてしまった。

 だって、あんまり派手な顔してもあれだろ?会議だし、かしこまった場だし。……ナチュラルメイクは簡単じゃない、と思い知ったところでお化粧を直されています、はい。



 

 俺は調印式があるから、あんまり派手にはできないけど……手に持った鏡を見ていると、仕上がりの綺麗さに驚いてしまう。

 

 俺ののっぺりしたへちゃむくれ顔が立体的に見えるし、血色が良くなって、光と影がバランスよく配されていて、美人になったような気にすらなるぞ。

 すごいな……絵も上手なんじゃないのかこれは。


 

「まあぁ……なんやの、このまつげ。マスカラ塗るだけ無駄やん。長いしようさん生えてんなぁ。真幸、今度は上向いて」

「ハイ」

 

 妃菜がメインのメイクアップ担当なんだが、俺が何時間もかかって引いたアイラインを一発でサッサと描いてる。目の下にも何かしなきゃならんのか……うーむ。



  

「かんざしはどうするんや?イナンナ」

「装飾品はピアスの金があるし、なんもいらないよ!

 新神楽は動き回るから、髪の毛をハーフアップ、内巻きで毛先巻いて……サイドバングに後毛出そっか。あとは結び目に花差す感じでどぉ?」

 

「ほー、いいセンスしとるな。真幸がやるのは私らの舞とはだいぶ違うし……そうしよ。バングの毛は太巻きでええやろ?38ミリで行こか」


「せやな、結ぶ前にミックス巻入れよ。髪の毛細いからボリューム出しとかんと。コテは細いのもあっためとくで。

 何はともあれ、先に全体像見た方がええんちゃうか?衣装がわからんとお花の種類決められへんやろ」

 

「確かにそうですね。術で着替えるとしても真幸さん自身が脱ぎ着の仕方を覚えてないといけませんし。一度確認しましょう!」


「ハイ、ソウデスネ」




 女の子たちが使っている単語がわからない。

 唇をテカテカするのはグロスというらしい。初めて知った。38ミリってなんの事?ミックス巻きって、コテってなんだ??


 

「芦屋さん、やりながらぜーんぶちゃーんと教えたるから。普段の髪結は颯人様が綺麗にしてくれはるけど、こういう時に学んでおくんやで」

 

「そうそう。お出かけするときもおしゃれして欲しいですからねー」

「……ぷっ、そないな顔せんと。慣れればサッサとできるから大丈夫や」



 妃菜に笑われたけど、テーブルの上の道具はもう……知らないものだらけだ。

 女の子って、大変だな。



 

「んじゃ、男どもは最後のリハしてこようぜー。颯人さん、行きますよ」

 

「……今少し眺めていたかった」

 

「芦屋の目の前でそんなじっと見てたら邪魔ですから。はい、シャッキリして!」

「白石にぞんざいにされたような気がする」

 

「颯人様、はよ、はよはよ。今しか時間が取れないんですから、しっかり合わせておかないとなんですよ!」

 

「むぅ……伏見まで……」




 目の前に椅子を持ってきてお化粧の様子をニコニコ見ていた颯人が、みんなに連れられて部屋を出ていく。

 

 ふんわり残香が漂って、思わずニヤけてしまった。



「ニヤけてるなぁ。颯人様から自分の匂いがするん、お気に入りなんやな」

 

「……ま、まぁね?相棒だしね?」

 

「やれやれ、相変わらず仲良しですこと」


 


 ニヤけてたのがバレた。仕方ない。

 椅子から立ち上がり、イナンナがどさっと床に置いた木の箱から衣装を取り出す。


「おわぁ……!スケスケはスケスケやけど、これは……!!」

 

「どーお?下は白衣びゃくえに、白い袴にしたからさ。いっそ真っ白にしようかと思ったけど、どうしてもこの可愛い桜色を入れたくてグラデーションにしたんだよね!

 色打掛ほど重たくならないし、無駄に持ち物増えないし……装飾品もなくていいっしょ?可愛くなーい?」

 

「か、可愛いっ!!これ、どうなってるんですか!?ふわふわの透明な布に、桜の花弁がびっしりついてる!」

 

「すごいわ……全部立体にしたんか?お花も半透明やんか。せやからこんな綺麗な色なんやな」




 薄い羽衣を広げたイナンナは満面の笑みを浮かべる。羽衣は大きく広げると一枚の肩巾ひれなんだけど、ふわふわの透明な糸で編まれた素材に、同じ布で作られた桜たちが立体的に散らばっていた。

 

 それが裾に向かってグラデーションのように密集していって、わずかに染められた桜色が綺麗に発色している。 

 紫がかったピンクがとっても上品で、散り際の桜を思わせる切ない色だ。


 光に透けてキラキラしてるのは布の特性なのかな。これで動きが入ったらどうなるんだろう。



「フッフッフ。これ、全部極薄のオーガンジーなんだ!桜の花も一体化してるし、一枚布で織り上げたんだかんね!」

 

「えっ!?こ、これを織ったんか!?こんな立体にできるん?!!」


「妃菜っち、桜の根元見てみ?縫い糸の色がつくのが嫌だし、後から縫い付けると一体感が出ないからさぁ。

 裾の方なんか地獄だったわ〜!!いちいち織り目一つ織るたびに花びら部分だけ糸を足して少しずつ立体に作ってさ、それの繰り返しぃ」

 

「じ、地獄すぎるやろそれ……すっご……すっごいわ!こんなん見た事ない……」



  

 こ、こ、この立体桜を、一目ずつ織り込んだって事?しかも手織りでやったの?

 

 織った人の手数を考えると、本気で地獄じゃないのか。ふわふわの布を手渡されて震えてしまう。


 なんて柔らかい布なんだろう。こんなに長くて桜が山ほどついてるのに、軽くて持っていないみたい。

てっぺんの方まで花びらが配されて、羽衣だけでいいって言われても納得のできる華やかさだ。



 

「いやー、天照っちは天才だよ。アタシと同じスピードで機織りできるとか思ってなかったしぃ」

「え゙っ!?イナンナが織ったのか!?た、天照も??」


「そだよ!上手ーくできたっしょ!?」

  

「上手すぎるでしょ……こんなに綺麗な……すごい」



 もう言葉にならない。イナンナの得意げな顔、今日は当然だと思う。これを手作りで作るなんて本当に尊敬するしかない。

……ま、待って……これ使うの、俺だよな!?




「あっ、ちなみに打ち掛けもございまーす。同じ素材だけど、こっちはちょこっと透け感弱めでー。乳白色で作りましたー」

 

「きゃー!!可愛い!」

「あっ!こっちもキラキラしてるやんか!」


「打掛はオーロラ系のクリアな糸を乳白色に重ねておりまして。このように裾を翻すとキラキラするのであります!

 羽衣の透明な糸は光をよく弾くし、羽織った時の相乗効果で太陽光だとめちゃくちゃ上品になんだからねっ!真幸ぃ、さっそく着てみてー」

 

「アワワ……あわわわ……」



 乳白色のキラキラ打掛を纏い、袖を通す。……裾がめっちゃくちゃ長いぞ。袖も結構な大きさの振袖で、襟元からお腹の下まで重みのある真っ白なシルクの襟が通っている。

 

 動いても脱げないように、胸の前で飾り紐を結び、桜がたくさん咲いた羽衣の肩巾をかけた。

 

 質量じゃなくて、心理的な原因でめちゃくちゃ重い気がする……。



 

「……ちょ、なんでそんな顔してんのwww眉毛下がりすぎワロタwww」

 

「こんなすごい衣装着て大丈夫か?俺、衣装に釣り合ってないんじゃ?」


「アタシの見立てが信じられないってのー?あっ、やべ時間ないぞ!髪の毛さっさとやっちゃお!!」

 

「イナンナ、いい仕事やったで!わー、サクサクやらんとあかん時間や!」

 

「ああぁーお花、お花!!ええとええと……どないしよ!?妃菜ちゃん、どれがええ?アリスも見てや!」



 

 イナンナも妃菜も、真子さんも慌て出した。確かに時間がギリギリだ。

衣装が汚れないように形と合わせをしっかり確認して、元の浄衣姿にもどしておこう。


 服をツン、と触って衣替えを行い、椅子に座るとアリスがじっと見つめてくる。ほのかに微笑んだその顔は、いつになく穏やかだ。

 

 

「必要ないんじゃないですかね。お花は」

 

「アリス……?」


「わたし、颯人様が真幸さんのことをお花だとおっしゃる理由がよくわかりました。真幸さん自身がお花なんですから、このままでいい気がします。

 舞台の位置番近くで、あのお姿が見られるなんて夢みたいです。練習頑張って本当に良かった」

 

「て、照れるだろ。……大丈夫そう?」


「はい、とってもお似合いでした。本当に楽しみです」

「アリスがそういうなら……うん。ありがとう」


 二人してニコニコしながら手を繋ぐと、お花を眺めてうんうん言ってた真子さんが一本だけ白いお花を持ってくる。

枝葉がついた、梔子の花だ。


 


「ま、可愛いお弟子さんがそう言うんならこれだけにしましょか。後ろから見た時にちょっと寂しいんよ。正面から見たらそりゃー可愛らしいお顔があるからええけどな」

 

「あっ、そっか……確かにそうですね、師匠!」

「ふ、師匠やて……。うふふ……」

 

「ちょっとー、花決まったんなら二人とも髪の毛手伝って!真子さんニヤニヤしてへんと手ぇ動かしてや!イナンナ、移動の籠呼んでもろてええかー?」

 

「はーい!みんな頑張ってねー!」


「あ、あっ!イナンナ!素敵な衣装にしてくれて、ありがとな!!」

「ウェーイ!!ちょー楽しみにしてっからねーーー!!!」




 イナンナがふわふわのお洋服を翻して走り去っていく。……伏見さんに散々チクチク言われてスケスケ加減はだいぶマシになってるけど、グラマーなラインが丸見えだな……。肌が褐色だから、ちょっとかっこいい。

 


「なぁ、真幸。おしゃれするんも楽しいやろ?女神なんやから、今後はちゃーんとするんやで?男だって言うても同じやからな?身だしなみってやつやんか」

 

「う……ハイ。努力します……」

 

「大丈夫よ、私らが手伝って差し上げます。これから先もずっと一緒なんやから」


「うん、そうだな。ずっと一緒だ」

 

「幸せですねぇ……とっても。わたし、ニヤニヤが止まりませーん!」



 みんなが可愛い笑顔を浮かべてるから、俺もニコニコしちゃうよ。女の子のオシャレは男よりずっと大変そうだけど……確かに楽しいな。

 

 優秀な先生ばっかりだから、しっかりお勉強させてもらおう。




「失礼します!そろそろ行けますか!?籠が……」

 

「お、伏見さん!男の人もメイクするのか……赤いアイライン、かっこいいねー」

「後もうちょいやで!」



 控え室に慌てた様子でやってきた伏見さんがドアから顔を覗かせて、細い目がカッ!と見開かれた。

 いつもよりもだいぶ目が大きくなったけど、どした?



「………………」

「伏見さん、女子の支度終わっ……」

「「……」」


 


 ドアから同じようにして白石と鬼一さん、星野さんがひょっこり顔を出す。

眦にお揃いの赤いアイラインを引いてる。舞化粧がよく似合ってるなぁ。

 

 ……全員固まってるけど、なんでだ?


「天女か?」

「いや、女神だろ」

「比喩じゃなくてその通りですけど、それにしてもお綺麗ですね」

「芦屋さん……可愛らしいです」 


 呆然としたみんながやってきて、じーっと見てくる。やめろ、誉め殺し良くない。顔が熱いだろ。



 

「褒めすぎだよ、やめて。颯人は?」

 

「先に籠に乗って現地に向かいましたよ。……本当にお綺麗です。芦屋さんがここまで化けるとは」

 

「あはは、メイクさんがすごいからね。お化粧で化けれるなら良かったよ」

 

「……突っ込む暇ないから颯人様にあとは任せるやで。

 よっし!できた!!!ちょっと立ち上がって、くるっとしてみて!」


「颯人に任せる??はーい」



 妃菜に手を引かれて立ち上り、くるっとターンする。お花もしっかり刺さってるから動いてもびくともしないぞ。

 

 くるくるした髪の毛はどうやったんだ……?あの棒でどうしてこうなるんだろう。ふわふわの髪の毛がくすぐったくて思わず笑ってしまった。



「ほんまに綺麗やな……」

 

「妃菜たちが綺麗にしてくれたんだろ。ありがとな」

「うん……」

 

「あぁ、そうだ……みなさん、一応ご報告しておきましょう」


 


 伏見さん、白石、鬼一さん、星野さん、妃菜、アリスが目の前で膝をついて胸元から何かを取り出した。

鈍いシルバーの……勾玉?これ……もしかして。


 

「これ、俺の神器じゃないか?」

 

「そうです。芦屋さんが颯人様に下した玉鋼です。イケハヤワケノミコト殿が鍛冶場で叩いているうち、託宣が下りました。

 精霊が宿っているそうで、僕たちに分けるようにと。勾玉の形にしていただいて、全員で同じように首に下げています」


 お揃いのシルバーの鎖にペンダントトップみたいにして、玉鋼の勾玉がぶら下がっている。あの塊がこうなるのかぁ……。て言うか託宣って、なんだそりゃ。


 


「玉鋼に精霊が宿ってるのか??みんな依代の神器持ってるのに、いいのかな」

 

「いいんです!誰にも文句は言わせませんからね!芦屋さんの神器をいただけたことは、とてもとても光栄で、嬉しかったです。

 一生の宝物です……本当にありがとうございます」



 伏見さんがぺこりと頭を下げて、同じようにした仲間たちが笑顔を浮かべる。

 

 胸が、ドキドキする。心臓が脈打つたびにあったかい物で溢れて、満たされていく。

 じわじわ体に広がっていく幸せな気持ちが、指先まで痺れるように熱を灯した。

 


 

「そっか、なんか……俺も嬉しい。みんなと繋がる何かがあるって、こんなに嬉しい物なんだな。」

 

「ふふ……後でもっと驚きますよ。颯人様の神器がまだありますからね」

 

「あ、そうだ。何にしたのか聞き忘れてた」



「ふんっ。私はもろてないけどな!」

「ま、真子さん……ごめんて」

 

「ええねん。それは芦屋さんの手下の証やから。わたしはお友達って地位やからな!!」

「手下じゃないだろぉ……」



「真幸ー、早よせんと遅刻やでぇー」



 若衆姿のふるりが顔を覗かせる。

 そうだった!!ギリギリなんだからっ!!!



「よし!みんな行くぞぉ!!」

「「「「「「応!」」」」」」

「はいはい、みんな駆け足!はよ、はよはよ!!」



 真子さんに追い立てられて、みんなで走り出す。

 

 ――さぁ、ワクワクの式典の始まりだ!



 

 


 

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