出雲神議

103 ⭐︎追加新話 奉納舞の特訓

真幸side


「では、結婚……ごほん、調印式の手順はそのような形で行いましょう。準備期間は短いですが、目一杯華やかに、厳かに、歴史に残る一日としましょうぞ!」

 

「そうですね、真神陰陽寮も全員でしっかり練習をします。けっこ……おほん、調印式代表を務める芦屋さんの補佐としてしっかり仕事させていただきます」


  

 現時刻 現世0:00 出雲では神有月、他の地方では神無月目前。正確に言えば、今年は十一月一日〜三十日までがその期間だ。

 今日は颯人、伏見さん、白石とオオクニヌシで最終打ち合わせ中。ここは真神陰陽寮の会議室だ。

 

 と言うかさ。いちいちおかしな単語が出てくるのをそろそろ突っ込んでいいか?神々が協力し合うという『調印式』の話なんだよな?結婚式の話じゃないだろ??

 何百回でも言ってやる。

 俺たちは『相棒』なの!!!!!


 


「お前ら、芦屋の目がマジだからそろそろやめとけよ。現世のテレビを入れるとなれば神々の面々は皆顔を隠す必要性があるんじゃねぇか?」

 

「そうだ、特に真幸の面が割れるのは絶対に阻止せねば。いつものように事実を捻じ曲げて伝えられては……たまったものでは無い」



 白石と颯人の苦い顔に、伏見さんがニヤリと嗤う。


「僕が手を回していないとでもお思いですか?新しく設立した国営放送局のお披露目でもあるんですよ」

 

「えっ!?そんなの作ったの??」

 

「はい。撮影に使用するカメラには仕掛けがしてあり、神の姿には全て認識阻害術が自動でかけられます。他のテレビ局には下ろしません。勝手に使えないように処理しますし、切って貼った時点で無駄になりますよ。」

 

「なんだよ、身内ってことか?心配して損したぜ。

 現地の結界は大人数で張るし、外からは盗撮なんか無理だろうな。一般人は入場できねぇし」

「伏見殿は現世の人を統べるおつもりなのか……?出雲の長としては悩ましいのだが」 

「そう言うことは事前に話してくれぬか。伏見のさぷらいずはそろそろ洒落にならぬぞ」


 

 

「んふ……じゃあ、そう言うことで問題は解決だな。式次第についてはツッコミどころが満載だけど、時間がないからもうこのまま行こう。

 さてなー、みんながどれだけ苦労するのかちょっと心配だな……」

 

「ふ、舞についてはさぞ厳しい指導となるだろう。伏見と鈴村は良いとして、他の面々は相当苦労するのではないか」


「白石は神器を下されたばかりですからねぇ……真子にも僕にも泣かされるでしょうねぇ」

「クソッ……完璧にやってやるからな!俺は泣かねぇぞ!」


  

「白石と鬼一さんと星野さんは泣かないかもしれんけど、倉橋くんは泣きそう」

「あれは……うむ……加茂がいるのだ、少しは堪えるのではないか?」

 

「そうだといいけどねぇ、倉橋くんは根性あるけど感受性が豊かだからさ。

 大変で泣くっていうより、いろんな思いを抱えて泣きそうなんだ」


「「「あぁ……確かに」」」


  

「そのように苦労されるのならば私も差し入れに参りますよ!真幸殿の舞が見れるのですから!」

 

「いや、オオクニヌシは出雲の警備を担当するんだから来ちゃダメだろ。合間を縫って真さんと大村さんがそっち行くって言ってたし。手を抜くと真さんは怖いと思うよ?普段が穏やかだから余計に」


「……ソウデスカ」



 

「浄真殿は神としては新米ですが、鬼軍曹としては歴が長いのですから、お気を付けてください。僕はもう……何回泣かされた事か」

「ふ、伏見殿が!?……私も泣かされるのでは??」


「真さんはちゃーんとやってたらすーごく優しいぞ。アリスだってそう言ってたし」

「……『ちゃーんとやる』のラインが普通の人には『死ぬほどきつい』ということをご存知ないんですよ、芦屋さんは」

 

「なんだよー。できないなら死ぬほど努力しなきゃダメだろ?それこそ普通の事じゃん」


「鬼軍曹同士なら問題ねぇんだな、なるほど」

「本当に、気をつけます……」



 呆れ顔の白石としょんぼりしてしまったオオクニヌシ。今回はお世話になった人たちがみんな勢揃いだから、北海道の時お祭りみたいな感じかな。ものすごく楽しみだ。


 


 トントン、とノックの音が聞こえて扉が開く。緊張した面持ちの倉橋くんが水干姿で現れた。おー、似合ってるなー。白の水干と黒指貫袴に赤の袖括り、菊綴という赤黒のボンボンがついてる。かんなぎの舞衣装だ。本来はほうと呼ばれる物を着るんだけど、重たすぎると警備が手薄になるから動きやすい衣装になった。

 

 

「失礼します!お話し中すみません、講師の皆様がご到着されました!」


「おや、早いですね。こちらも一区切りつきましたし、ここまでとしましょうか」

「そうしましょう、ではまた後ほど」

 

「オオクニヌシ、またなー」

「はいっ!!」


 


 元気な返事をもらい、遠隔通信を切る。そのうちパソコンを渡して動画の通話になるそうだけど、オオクニヌシは頻繁にしそうだな。まぁいいか。


 

「芦屋さん、あのう……お客様がいらしてますよ」

「えっ?!誰?約束あったっけ?」

「いえ、あの……高天原からお越しのイナンナ様です」


 廊下を足早に歩き、微妙な名前を聞かされた。……なんでイナンナが来た?


 

「なんでも舞衣装にクレームがあるとか」

「なんでだ!?アイツ貴賓だろ!?」

「その筈ですけど、海外の神様も協力関係にあるんだから『考慮しろ』とかなんとかおっしゃってます」

「ヴァーーー……果てしなくめんどくさい!!」



 なんだかわからんけど、波乱の予感だ。ため息をつきつつ、体育館の扉を開けた。


 ━━━━━━


「…………」

「真幸さん?早く練習しないとなんですから、さっさと始めましょうよっ!」

「いや、うん……はい」



 体育館の広ーいフロアに座る、たくさんの人達。舞をするメンツはわかるよ。でもさ、明らかに数がおかしい。

 真神陰陽寮の研修学校の子達はいいと思う。見学しておけば自分がやる時にも勉強になるし。……おかしいのは神様の数だ。勾玉をくれた神や妖怪、全く知らない柱達がひしめき合って、全校集会並みの数なんだが。


 ステージ上に立ったウズメはなんだか興奮しきってるし、頭痛がする……。

 とりあえずやるしかない。煌びやかな舞衣装を着たメンバーを眺め、マイクの電源を入れた。



「えー、今日から神有月に出雲会議、調印式にて行う舞の練習が始まります。

 楽器の演奏はすでに合格レベルとのことで、それぞれの演目に合わせて指南役がつきます。

 じゃあ、まずメンバーの紹介から。」


 


 懐から一枚の紙を取り出して端から読み上げる。敬称略で行くぜぃ。


 

 総監督 アメノウズメノミコト


演奏 大村神社・大村、栃木の山神・浄真、樽前山神社・前崎、鹿島神宮の神職数名、香取神宮・フツヌシノミコト、羽田


演目:『東遊あずまあそび片舞かたまい

舞手 伏見、白石、星野、倉橋

 

『刀舞』

舞手 鬼一、ヒノカグツチ


『浦安の舞』

舞手 鈴村、在清、真子、加茂


『神舞』

演奏 魚彦、暉人、ふるり、ククノチ、ラキ、ヤト、平将門

舞手 天照、月読



『新神楽』

演奏 白石、伏見 

舞手 颯人、芦屋


「――以上となります。東遊あずまあそびの責任者、指導者は伏見さん、巫女舞の責任者は妃菜と真子さんです。総監督は全部を一気に見てツッコミに行くそうですのでよろしくどうぞ。ウズメ、なんか一言言うか?」


 ウズメにマイクを手渡すと、メガネがギラリと光る。目が怖い。

 

 

「はーい!総監督のアメノウズメノミコトです!いいですかー、みなさん。

 全ての舞の創始者である私の前で、無様な舞を舞えば地獄を見せますよー♪必死こいてガチでやれ!!!!

 一日目はある程度の形にならなければ寝られませんからね♡時の巻戻しが得意な神を呼んでおりますので!以上でーす!!」


 


 シーン、と静まり返った体育館の中。全員が青い顔をして俺を見上げてくる、

 すまんけど、俺は今までの型を組み合わせた新しい舞をするからな、助けてる余裕はないんだ。許してください。


 

「あの……み、みんな、頑張ってくれ。大丈夫、神様たちがこんだけいるんだから手伝ってくれるよ。きっと」


 ウズメの言葉に恐れ慄いた神々が竦み上がっている。……ここに来ちゃったんだからしゃーなし。役に立ってもらおう。


 さて!俺も気合い入れて頑張るぞー!



 ━━━━━━



「だ・か・ら!!巫女と同じ衣装じゃ意味ないんだっつの!シン神楽なんでしょ?!うちが考案した衣装使ってくれりゃいいだけぢゃん!」

「イナンナ……シンはやめろ。あのな、見にくる人の数だってすごいし、ちゃんとした式典の場に、こんなスケスケハレンチ衣装で出れるか!!」


「なんでよ!?アタシの国では正式な衣装だっつの!ひらひらふわふわの布でチラチラ見えるのがいいんぢゃん!!乳はステータスなんだかんねっ!」

 

「ばっ……ぬぬぬ……日本の厳かな儀式でこんな服着ないんだよ!俺の貧相な体見たって困るだろ!?」 

「なんでよーーー!真幸の乳なら天下狙えんのにさぁ。色もいいし、形もいいし!」

 

「天下なんか狙いたくないし、ステータスもいらないの!!」 

 


 舞の練習がしたいです、はい。イナンナがやってきたのは俺と颯人の衣装をこれにしろ、と作って見せにきたらしい。

 確かにみんなと同じ衣装じゃまずいだろうとは思うけどさ。持ってきた服が問題だ。颯人のはまともなのに、どうして俺のだけ……こんっなスケスケの布で、裸同然じゃないか!!絶対拒否、断固拒否!!



 

「真幸の肌を露わにするのは賛成できぬ。下手をすれば集まった神々が荒神に堕ちるぞ。

 しかし、そなたの好意を無碍にはすまい、この衣装は我が買い取る」

 

「えー。そんなにかぁ……しゃーない、そしたらカレピにあげるよ。そのうち役に立つっしょ?」

「そうだな、何百年後かにはな」


「おいっ!買いとるな!!カレピじゃないの!……はぁ……。でも、そうだな、衣装は変えないとダメか。

 ウズメが言うには『原初の衣装』もしくは『最新の衣装の融合』って言うことで、色打掛ではどうかって言われてたんだ」

「……!?色打掛……!!」


「なんだよその反応?クシナダヒメは仙女の服である『漢服』みたいなやつでいいんじゃないかって言ってたんだけど、颯人がダメだって言うんだ」

 

「な、なんで?それもいいぢゃん、ひらひらしてて可愛いし」

「それ故にだ。すでに骨抜きになった輩が複数いる」


「……な、なるほど?中々厳しいな。色打掛ってことはカレp……真幸の顔コワッ。颯人っちは紋付袴?」

「紋付袴では体の動きが流れぬ。狩衣に薄衣を纏う予定ではあった」


「ふうむ……うーん。てかさ、件の舞を見せてくんね?それじゃなきゃちょっと考えづらいじゃん?」



「なんでイナンナが衣装担当になってるんだよ。いつの間に……」


「ゴラァ!!白石!鬼一!手先が固すぎる!!照れてんじゃねぇ!!そんなもんで優美が表現できるか!舐めんな!!」


 

「……ひぇっ、ウズメが怖い」

 

「あれは舞に関しての始祖だからな、直に教わった真子が巫女舞の師範になったのはそのお陰もあるだろう。伏見自身が舞えるのも同じ理由だ」

「……あれはそうならざるを得ないな……」


 ウズメの怒号を受けて白石と鬼一さんが青ざめている。が、がんばれー!!



 

「アリス、一拍鈴鳴らすんが遅い。1.2.3.4の1で鳴らすんや。鈴を鳴らす時同時に鈴緒を離すんはやめたほうがええで。だらしなくなる」

 

「せやな、鳴らしてから離してや。あと、浦安の舞は伸びやかさが命なんよ。あんたの伸び切らん手先と足先、ストレッチしよか」

 

「はい、すいません……」

「アリスさん、頑張ってください……」

「加茂さん……ぐすっ」


 女の子メンバーではアリスが集中的に指導を受けている。伊勢神宮から駆けつけてくれた神々廻さん、演奏で合格をもらっている羽田さんも補助でついてくれてるんだけど……みんな心配そうにしてる。

 加茂さんは巫女舞もできるのか?て、ことは倉橋くんもできるんだな、なるほど。


 それぞれのグループをかき分け、伏見さんと月読がやってきた。すごい満面の笑みだな。


 


「はいはい、真幸くんが舞うなら僕が笛やるよ」

「僕は太鼓をします。練習させてください」


「一人称僕同盟がやってきた。伏見さんは舞の方大丈夫なの?」

「変な同盟を作らないないでください。僕は合格をもらいました」

「流石に優秀だな……よし、じゃあやりますか。颯人」

「応」



 とりあえずの衣装チェンジで打ち合わせ通りの真っ白の打掛に着替えた。本番ではこれに桜の刺繍をしてもらう予定だったんだけど……イナンナが絶対変えてやる、ってギラギラしてるからどうなることやら。……あれ?これ白無垢に似てるような……?あれれ?

 いやいや、まずはやる事やってから考えよう、そうしよう。

 

 長い袖を整えて顔の前に据え、さらに長い裾を捌き、颯人と手を取って膝をつく。


 

 

 とんとことん、と伏見さんの太鼓の後に涼やかな笛の音が響き渡る。

 月読ー!!笛うますぎじゃないのかー!?視界の端で白石がますます苦い顔をしてるぞー!!


 音を拾いすぎると動きがおかしくなるから、颯人の動きに合わせて立ち上がる。

 足捌きだけで距離をとりつつ手を離し、追いかけっこのようにくるくる動き、両手を振りあげ扇を開いた。長い袖がふわりと浮いて、颯人の微笑みが目に映る。


 なんだか、社交ダンスみたいだな。巫女舞って、手を繋ぐことはないんだけど……今回の象徴としてのお仕事は結びつきであり、和合であるから接触は必要だろうとウズメが考えた舞の型になっている。

 現代のダンスなんかも学んでいるから、ちょこっと斬新だとは思うけどしっかり舞の原型を持つ彼女が作った神楽舞はとても綺麗で静かで……花びらがハラハラと舞い、水面に落ちてその波紋が広がるような美しさがある。


 体を反転させたりするからとにかく足捌きが難しくて、最後の方はくるくるしてばっかりだからトランス状態になりそう。

 巫女が神様に降りてもらうのに原始の舞はこう言うのが多いけど、俺がそうなったらまずいからな。颯人が手を携えるたびに虚から連れ戻してくれる。


 颯人と二人だけの世界で、颯人に手を握られて……夢のような時間だ。



 くるくる回転が終わり、抱きしめられて舞いが終わる。……もう少し、こうしていたかった。

 名残惜しい気持ちのままお互い一礼して、息を吐いた。

一拍おいて、見物していた神様たちからわぁっと声が上がって拍手が起こる。……は、恥ずかしいだろ、やめてくれよ。


 


「……ぐすっ、ひっく」

「ずびっ、すんすん」

「ぐしゅつ、ぐしゅっ……」

「おわー……思ってたより激しいな……うーむうーむ……」


「月読と伏見さんはなんで泣いてんの?倉橋くんはいつの間にそこにいたんだ。……イナンナはもう衣装描き始めてるし」

「ふ、仕方ないだろう。さて、ウズメよ。何か指南は?」

 

「…………」



 腕を組んだウズメまでもがいつのまにか目の前に佇んでいる。倉橋くんもだけど気配を消すのやめてほしい。

 眉間にめちゃくちゃ皺が寄ってるんだが。そんなにひどかったか?



「何か足りないんですよね……いや、お二方の舞に言う事はありません。今のレベルが保てる程度の練習でいいでしょう」

「おぉ、そりゃ良かったよ。ほんで何が足りないんだ?」

「音です。今の演奏じゃ物足りないんですよね」

「音……?」



 

 こくり、と頷いたウズメが懐から紙を数枚取り出した。床に並べて、それを順番に指で辿る。


 これは、独特な方式で描かれた神楽の楽譜だ。正直に言おう、何が書いてあるのかさっぱりわからん。ふくらせめとかTの逆向きの記号、数字に――√みたいな線が書いてある。……これ見て演奏するの?白石の速記用の字に似てるな……。


「ん……。あっ!?あーーー!!!」

「ひゃっ?!び、びっくりした……どうしたんだよぉ」



 ウズメが突然叫部から飛び上がってしまったじゃないか。颯人が笑いながら肩をポンポンしてくる。

 そ、そういう突然のアクションがちょっと弱いだけだからなっ。別に怖くなんかないぞ。



 

「すみません。これ、リズム的に何が足せるかなって考えてたんですが〝咲いた桜〟の拍子そのままなんですよ!曲をそっくりそのまま変えて歌を足しましょう!!!」

 

「……誰が歌うのさ」

 

「そりゃ舞を舞う方ですよ。特に真幸さんは楽器の音を拾うと調子がおかしくなるでしょう?颯人様とお二人でデュエットされてください」

「…………………………」


 あのくるくるをしながら、俺が歌うの?この歌はだな、伸ばしの音が多いんだぞ?わりかし息を乱さないようにするの、辛いんだぞ??〝さくらさくら〟じゃなくて〝咲いた桜〟の昔の歌の方が好きだけどさ。


 

「それは良いな。其方の歌は子守唄しか聞いたことがない」

「そりゃそうでしょ、普段祝詞しかやってないんだから。子守唄って、よく覚えてるな。風邪引いた時の話だろ?」

 

「あぁ……我が其方を想っていると確信した時だ。忘れるはずもない」

「そ、そうですか」


 


「闇堕ちすルからヤメテクダサーイ」

「月読様!?若干瘴気がでてます!落ち着いてください!!」

「あっははwwウケるww惚気で荒神になるなしwww」

「イナンナ、草生やすな」


「だってwwぶほほwwはぁー……てかさくらって歌にするなら、桜の刺繍を入れるって話もデステニーじゃね?いいぢゃん、そうしなよ。

 アタシもそっち方面で考えるわ。衣装担当の神様達と話してくるから、また後でね!」

「スケスケはやめてくれよな」

「ワハハ!!がんばりまーす!!」



 しゅるん、と音を立ててイナンナが消えた。……何を頑張るんだ。衣装担当の神様こそ頑張ってくれ。スケスケを回避してほしい。




「うーん、ちょっと歌だけ一回聞きたい。周りがうるさいから一旦休憩にしましょう。羽田さんのお琴で一度歌ってもらえます?笛と太鼓は楽譜を変えますから」

「羽田さん琴弾けるのか……すごいな」

「あの子の音は相当熟してますよ!年相応……」


「おほほほ、私が呼ばれた気がしてまいりましたわ」

「ヒッ!?」

 

「年が、どうかいたしまして?うふふ……」

「な、なんでもありません!!う、うら若き美人の名手にちょっと手伝ってほしいなーって!!言っただけですよ!!」



 羽田さんもか……音も気配もなく現れるの怖いよ。ウズメが本気で震えてるぞ。確かに熟練してはいそうだと思う、うん。


「とりあえず、みんな休憩してもらって歌を歌いましょう」

「そうしよう。みな、浮き足立っているようだ。新しい物のはじまりはきっと良い効果をもたらす。……心配せずとも良い」


「うん……」



 颯人に頬を撫でられて、肩の力が抜ける。全部お見通しなのは頭の中を見てるから?それとも……。

 

「我の視界に其方がいないという事がないからだ。目が勝手に追うのだから仕方ないだろう?」 

「んぐ……う、うん……」


 


 俺は逸らすぞ。なんか、そういう目つきはちょっと刺激が強いんだ。ただでさえ舞衣装でかっこいいのに……ぼんやりしてしまう頭をシャッキリさせたくて、ペチペチ叩くと「こら」と突かれた。


「なんかむしゃくしゃしてきました」

「わかりますよ、ウズメさん」

「僕もわかる……」



 珍妙な組み合わせのメンツに言われ、羽田さんは小さく吹き出している。

和やかにいけばいいんだけど。俺もワクワクしてきてしまったぞ。


 妙な熱気をはらんだまま颯人と手を繋ぎ、羽田さんの琴の音を待った。

 

 

 

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