高天原 国護会議
128 高天原で会いましょう
真幸side
「颯人……」
「おはよう、我の花。朝だ」
「おはよ。んんー……」
腕を伸ばしながら瞼を開けると、見慣れた顔が俺の目覚めを待ってくれていた。
いつ見ても隙のないイケメンの造形を眺めながら、眠りからの覚醒を待つ。
窓の外に広がる海から届く波の音、風が木の葉を揺らす囁き、小鳥が囀る声が耳に届く。
ふかふかであったかい布団の中、自分の体はいつもの通り颯人の腕の中。何百年経ってもこのスタイルは変わらない。
昨日の夜、俺は感情のままに白石に怒った。本人の苦悩とか、相手を大切に思ってるからこそ動けなくなっちゃってるとか、全部をちゃんとわかってるのに歯痒くて……あいつ自身が切ない思いをしてるから苦しくて仕方なかった。
俺が勝手に思って感じただけで、白石には悪くないのにさ。
守りたかった人達をたくさん失ってしまったのは俺が力不足だったからだ。
白石の事や今回の事件でくよくよしてたって何にもならない。俺は俺のできる事をやるしかないって思ってはいるんだけど、中々整理がつかなかった。
自己嫌悪でジメジメしてたら、子供みたいにして寝かしつけられた。颯人こそ、全部をきちんとわかってるから甘やかしてくれたんだ。
ずっと傍にいて、支え合える相棒の颯人がいるから俺は幸せだ。白石にも月読がいるけどさ。俺たちとはちょっと違う関係だし。
寂しい思いをした分、幸せを知ってほしい……なんて生意気にも思ってしまっている。
布団の中で動くと、寝巻きがいつもより熱い。普段なら颯人の体温のほうが高いのに、今日は何だか冷たいような?
それがとっても気持ちよくて、恥ずかしいけど、今朝は離れ難い。
「颯人、もう少しだけくっついてていい?」
「いいに決まっているだろう。朝からどうした……?今日は甘えん坊か。大変良い日になりそうだ」
「うーんうーん?わかんない。無性に颯人に触りたいんだ」
颯人の胸に顔を寄せて、心臓の音を聞く。とくとくと耳に響く穏やかな音は、左手のリングから伝る振動と重なって身体中にその脈動を伝えてくる。
はぁ……気持ちいい、幸せ。
「む……其方、もしや熱があるのではないか?体温が高いぞ」
颯人が顔を覗き込んでくる。……アレ、そうなの?
「そう言われると感覚が過敏な気がする。音とか、触覚とかがやけに鮮明に感じるかも」
「ふむ……痛むところはないか」
「ないけど、なんだかふわふわする」
「其方があそこまで怒るのは珍しいと思っていたが、具合が悪かったのか。気づかなんだな……すまぬ」
「ほぁ……べ、別に謝んなくていいだろ」
「仮にも我と
「うぬ……ぬぅ……」
別に、体調が悪いとか、自分で本来気づくべきだし。管理が甘かったのかも。思い当たる節がなくても『体調不良』と自覚した途端体が重たくなる。
颯人の大きな手が額、首に触れて唸り声が発せられた。
「魚彦を招ばわるとしよう。本当に熱があるではないか。これは良く無い」
「えー、なんでだー?神様になって熱を出すとか……
「あぁ、そうだった。懐かしいな」
俺は、人間の体が寿命を迎えて神様の体に完全に乗り換える時……有り余る霊力をうまく移せず、死にかけた。
高熱が一ヶ月近く続き意識が朦朧として、何を言ったのか正直覚えてないし何を聞いたのかもわからない。
目が覚めたら颯人の腕の中に子供がいて、
その時の俺の気持ち、わかる人は居ないと思う。心の整理もつかないまま、颯人との関係性が変わらないまま……既成事実だけ出来てしまったんだから。
神様特有の『
『占いで子供作るとか、倫理的にいいのか?』と思ってたけど、自分がやってしまうとは。
ちなみに俺の意思が【良】と判断されたから、俺の子と言う扱いらしい。この辺りはよくわからんけど、颯人が自分の結い紐が混じってんだから
ちなみに占った内容は颯人が内緒にしている。何を確かめたんだろうな……。
誓自体をやるのは、颯人は初めてじゃない。その昔天照としたことがあるんだ。
俺と颯人の結い紐を形代に霊力を注いでできたから、神様として我が子が生まれた。
相棒のままで、男女のアレコレもなし、出産もせず俺は子持ちになったと言うわけだ。
大切な颯人との子が可愛くないわけもなく、俺たちにも仲間にも溺愛されて子供はスクスクと育った。
ただ、真子さんをはじめ仲間たちの喜びようを見て『相棒です』と言い張るのは辞めようかな、と最近ようやく思うようにはなった。突然やってきた赤ちゃんに、みんながびっくりするくらい喜んでくれたんだ。
大村さんにも、伏見のお父さん、お母さんにも赤ちゃんを抱っこしてもらえたから……そのほうが良かったと今では思う。
ぼーっとしながら颯人を見つめていると、下がった眉毛がさらに下がる。
あぁそうだ、魚彦を呼ぶんだっけ。
「どうした?喚ぶのも辛いか?」
「あ、あの、魚彦が心配するだろ?内緒にしたらだめかなー、なんて」
「ならぬ。其方の不調は深刻な問題だ。見逃してやれぬ」
「えー……わかったよ……」
布団の中で小さく『魚彦』と囁く。
しっぶい顔をした魚彦が枕元に現れて、額に手を置かれた。
「颯人、よく言った。なぜワシに秘そうとしたのじゃ。眷属なのじゃから見ればすぐにわかる。ワシを思うてくれるなら素直に頼ってくれ」
「……ごめん」
「体調不良は些細なことでも必ず伝えるのじゃ。真幸はよくよく反省するように。次は許さぬぞ」
「はい、もうしません」
「うむ、よろしい」
ようやく笑顔になった魚彦が布団の中に手を入れて、聴診器を当ててくる。
金属部分をあらかじめあっためてるから、肌に触れても冷たくない。魚彦は優しいな……。
相変わらずの声にホッとしながら診察を受ける。魚彦はお仕事が落ち着いてからはずっと俺専属のお医者さんみたいにしてくれてるんだ。
俺の子が可愛がられるのを見て幸せそうにしてくれた。……いろんな目的は達してるし、誓は悪い事じゃなかった……よね?
「何じゃ、まだ誓の事を気にしておるのか?」
「だって……俺は元人間だし。倫理観的に疑問は拭えないよ」
颯人と魚彦が目を合わせ、首を傾げる。
「もとより赤子が欲しかったのじゃろう?」
「……そ、そ、そそそそれはその」
「女子なら出来ることがある、と言っていただろう」
「なっ!?何でそれ知ってるんだよ!?寝てたんじゃないのか!?」
「ふ、我は寝ていても其方の寝言まで全て聞こえている」
「ナニソレ怖い」
「はーやれやれ。どちらにしてももう出来てしまったものは戻せぬし、あの子のおかげで周りが幸せなのじゃから良しとしておくれ。そう悩む必要もないじゃろうて」
「……魚彦が、そう言うなら」
笑顔で頷いた魚彦は聴診器をしまって、首の脈を測り出した。魚彦に触られてると何だか安心するな……。
「白石は早う決心できればええんじゃがなぁ。清音と何度離ればなれになっても、結局同じ結果になるんじゃから。
……思い人と悲しき死別、と言う傷を知る者は少ない。あどばいすは難しいのう」
「そうだねぇ。パターンは違えど、星野さんが追体験してるけどね」
「葬式の時の事はあまり思い出したくないのう。あまりにも酷い苦痛じゃった。
鬼一が言った『生まれ変わりを待てばいい』と言う言葉に救われておったな」
「うん……」
星野さんは、奥さんの最期を看取った後に仙人になった。
俺たちの中で一番最初に結婚して幸せに暮らしていたけれど、元あずかりの奥さんは『人として死にたい』と言い……彼はそれを受け入れた。
ざっくりした括りで言えば、星野さんも颯人も白石も似てる気がするけどさ。颯人は芭蕉さんに対しては恋じゃなかったらしいし……微妙に違うんだ。
星野さんはお互いを思い合っていたし、白石は憎しみを受け取っての死別で、片思いのままだったから。
大切な人の死の痛みは、俺も思い知ってはいるけど。
俺たちは長く生きて時代を超えて、たくさんの人を見送ってきた。
伏見さんの予見通り、それはそれは辛い出来事だった。
病気としての治療はできても、寿命を伸ばすには仙人にならなきゃいけない。仙人になるには、自分の意思でそう選ばなければなれない。選んでも、なれない人もいる。
真子さんはヤンキー時代から長年付き合っていた方と結婚して、お子さんを産んで、今は仙人となった。真神陰陽寮の社長と伏見稲荷大社の神職をずうっとしてくれている。
思えば、彼女も旦那さんとお子さんを見送っている。
伏見家の是清さん、さくらさんは寿命をまっとうして亡くなった。もう会えないと思うと、今でも泣きたい気持ちになる。
二人が亡くなった時に、俺があまりにも悲惨な状態になったからさ。見かねた真子さんが仙人になる事を選んでくれたんだ。
本当は旦那さんと一緒に、人として寿命を迎えようと思ってたのに。俺のせいでそれを変えてしまった。
三百余年の時の流れは、本当に重たい。心にいろんなものを積み重ねてるから、いつか崩れそうで……少し怖いよ。
胸元にいる累がナマズちゃんのお守りを差し出してくる。累も優しいな、俺の気持ちを感じてくれたんだな。
装飾がはげてしまったナマズちゃんは、物悲しい。
これをくれた大村さんも寿命で亡くなっている。彼は『生まれ変わったら見つけてください。この国と、ナマズちゃんを頼みます。また会いましょう』と言って亡くなった。
大村神社の跡を継いだのは弓削くんだ。大村さんは独身だったから。
彼に降りた神様は蛇の神だから、大村神社の巳の杉は居心地が良かったそうで……俺がしたお説教の思い出を忘れたくないから、なんて言ってくれてた。
その弓削くんも自分が依代となった神様を別の神継に引き継いで亡くなり、その子孫たちが大村神社にいる。
大村さんも弓削君もその系譜に生まれてくるんじゃないかな、なんて思ってるけど。
人の生まれ変わりは予測できないし、見つけるのも中々難しいから、巡り会うには時間を要する。
白石みたいにすぐに出会える、と言うのは絆が相当深くなければできないんだ。
「うーんむ、これはうぃるす性の風邪などではない。『
「えっ!?ま、まさかもう能力開花しちゃったのか?」
魚彦が頷き、胸元から巻物を出す。シュルシュルとそれを解いてモノクルをかけ、文字をなぞった。あれはウチの家系図だな。
「血脈としては
あの子は恐ろしいぞ。能力的なべーすは真幸で、一つ目覚めれば全てが次々と顕れるじゃろう」
「あちゃー……まずいな。いや、好期とも言えるのか?本格的にどんぱち始まりそうだし、主戦力になってくれそうではあるよね」
「そうじゃな、しかし目覚めには時がかかろう。いくつ目覚めるかわからぬが、終いの頃には其方達のように勾玉を交わさねばならぬ。人として全ての力を有するのは無理じゃ」
「そうだよなー……そうだよなぁぁ」
「それとて先の話だろう。白石ならば覚悟を決めてくれる。真幸もそう信じているだろう?」
「うん……白石はきっと清音さんを大切にしてくれる。二人で幸せになってくれる。そう思ってるよ」
颯人と魚彦にニコニコしながら頭を撫でられて、ホワホワして目を瞑った。
俺の子孫は殆ど人としての生を全うしている。可愛い孫達、玄孫、その後の子達も。
神になるとすれば人の世で生まれた命だと、清音さんが初だろう。俺の子は俺以上に頑固な子だったからさ。
『両親が神ならその血を現世に広げたほうがいい。同じ匂いが増えて、母上の存在をごまかせます』なんて言ってた。俺のことをとっても大切にしてくれるんだ。
男らしいし、見た目が颯人にそっくりなんだぞ?カッコ良すぎる。
ええ、はい、俺の初子は
今は高天原で天照にべったりくっつかれて働いてる。そのうちあの子の力も借りることになるだろう。今回の事件はそう容易く終わらないはずだから。
「一つ力の目覚めの時期に、熱を出すようじゃの。始祖となるその者がこのように共鳴するのじゃ。清音は後日、白石とでえとするんじゃろう?」
「そう。でも今日熱が出てるなら週末まで会社を休み……休まないか……」
「其方の血を濃く顕しているのだから休まぬだろうな。今までの子孫とは段違いだ。霊力も、顔も、考え方もよく似ている。
昨晩言ったように、虫避けに白石が仮の結界を張れば良い。我がしているように」
「そうだな、そうするか。早速伏見さんにお電話だ!」
スマホの電話マークを押すと、相変わらずトップに君臨し続けている伏見さんの名が現れる。それをタップして、耳に当てた。
━━━━━━
「頬が赤いですよ、本当に大丈夫なんですか?ゆっくり寝てて欲しいんですが」
「伏見さん、あきらめた方がええで。今回招集したんが真幸やからな。休むにも休めんし、サクッと会議して終わらせるしかないねん」
「熱だけってのがせめてもの救いだな」
「熱だけでも本来は救いじゃないですけど、主に限っては否定できませんね」
伏見さん、妃菜、鬼一さん、星野さんに見つめられて俺はホワホワしながら微笑む。俺の事心配してくれてるんだ。相変わらずみんな優しい。
熱があっても他が具合が悪い訳じゃないし、誰かに感染らないなら今日やるべき事をやっとかないと。
今回の事件はかなりの死者が出てしまった。次の被害を出さないためにも、早急に話し合わなきゃならないからな。
現行の国護結界は日本列島の海岸線に沿って、包み込むようにその糸を巡らせている。それを海上にまで広げて安全マージンを取るためには、うるさい隣国達にも話しておかなきゃならん。
他にも色々と今の甘い考えを捨ててもらうつもりで、今日は高天原に国護りの責任者達を呼んだんだ。
「芦屋さん!!熱があるって聞きましたよ!!!大丈夫ですか?」
「倉橋君は本当に音量下げて。熱があるなら大きい声出しちゃダメ。感覚が過敏になるんだから、耳が痛くなっちゃうでしょ」
「すみません……」
真神陰陽寮の
「真子さんが調合したお薬です。会議中は保つと思います。警察からの報告があり、少し遅れるそうなので……私からお渡しして欲しいと言われました」
「皐さん、ありがとう。なんのお薬?」
「気付薬です。熱が上がるとボーッとしますから、それをキリッとさせますよ」
「ほほぉ、ありがとう!では早速……」
白いパラフィン紙に包まれた粉薬を受け取り、中を開けると飲みやすいようにオブラートに包んである。こういう細やかな気遣いが真子さんらしいな。
「準備よし」
「お……颯人、水の蓋まで開けてくれたの?」
「うむ」
「わー、ありがとう」
オブラートに包まれた薬を口に入れて颯人に手を差し出すと、それをガッチリ掴まれて顔が近づいて来る。
おーい、嫌な予感なんだけどー。なんでペットボトルに入った水が減ってるんだー。
「
「
「
「漫才かっ!……チューくらいええやん」
「仕方ありませんよ、子供がいても相棒のままですから」
「誓なんてあるからいけないんですよ。いや、あんなに可愛い子なんですから、あって良かったのでしょうか……ううん?」
「皆さん揃ってそっち側に行くのやめてください。鬼一さんを見習ってくださーい」
「俺は何も見てない、聞いてない」
「ゴクゴクゴク」
「むぅ。我が熱を出した時は口移しをしたではないか」
「ぶっ!な、何言ってんだよ!あれは看病だから……」
「これも看病だ。無茶を止めずにさぽーとするとしたのだから、褒美をくれてもいいだろうに」
「ほ、褒美とかいうなし。水用意してくれてて助かりました」
「はぁ……今日は熱だけとはいえ具合が悪いのだ。あまり心配させてくれるな」
「ハイ、肝に銘じます」
颯人に本気で心配顔されたらなんも言えないだろ。
颯人は誓の時色々酷かったから……あれをされたくないなら黙るしかないんです。
「父上、往来ではそのような事をお辞めくださいと何度も申し上げましたよね」
「来ていたのか。久しいな、我が子よ」
「来ますよ。天照の助手ですから」
久しぶりの声にパッと振り向く。
颯人のすぐ傍までスタスタ長い足で歩いてやってきた彼は、颯人そっくりのイケメン顔で、颯人と同じ位の身長で……その神様が両腕を開いて笑顔を浮かべた。
「母上」
「
颯人とは違う匂い。俺と同じで、嬉しい時に香る梔子の香りが包み込んでくる。
颯人が仕方なく手を離してくれて、体ごと抱きついた。俺の方が背が低いから腕の中に包まれてしまう。あぁー、おっきくなったなぁ。
「かわいい、かわいいなぁ。陽向に会えて嬉しい」
「ふ……あなたの方が可愛いです。僕も母上が恋しかったですよ。
あなたはいつまでも変わりませんね。今日は熱があるのでしょう?無理しないでください」
「うん、天照にこき使われてないか?ちゃんと食べてる?」
「母上が送ってくださる冷凍のおかずを毎日頂いていますよ。天照にもあげません。母の愛は今のところ僕が独占していますから」
「今度から二柱分作ろうか?」
「いいえ、お忙しい中で煩わせたくありません。たまにつまませてあげているのですから、お気遣いなく。あなたがご健勝であられるのが一番です」
陽向は目を細めて俺の顔を見つめ、頬を撫でてくれる。笑顔が眩しくて大切な俺の息子。
名前は、咲陽の文字をもらったんだ。
神様として生まれたから最初の一年しか赤ちゃんやってくれなくて、あっという間に大人になっちゃったけど。俺にとってはずーっと可愛い子供だ。
伏見さんが一番面倒を見てくれたから伏見さんみたいな喋り方で、性格的には颯人をもうちょいきつめにした感じらしい。俺には甘々で颯人と変わんないけど。
「全然会えないから寂しかった。たまにはうちに帰ってきてよ」
「すみません、仕事に夢中になってしまいました。今日は難しいですが、近いうちに帰ります」
「ほんと?待ってるからね」
「はい。母上、具合が悪いなら今晩こちらに泊まられては?僕のお家に来たらいいでしょう」
「それがよい」
「天照は手元が怪しいのですからダメですよ。あなたはご自宅にお帰りください」
「……ぬぅ」
「ならぬ」
「颯人!なんでだよ!」
陽向に抱っこされてたのにヒョイっと持ち上げられてしまった。颯人のほっぺを引き伸ばして抗議を示す。もちもちほっぺめ……親子のふれあいを邪魔しないで欲しい。
「其方は我にもせぬ顔を陽向にするではないか。嫉妬の対象だ」
「なぁんでだよ!自分の子にヤキモチ妬いてどうすんのさ」
「其方の好みの顔、其方の血が入った事で我よりも美しい姿であるのだ。無条件でそのようにうっとりするのに妬かない訳がない」
「父上、熱に浮かされた母上を大切にして下さいませんか。くだらぬ焼き餅など焼かず、早く打ち合わせを終わらせますよ」
「……そうしよう」
颯人がため息をついて、天照は苦笑い。陽向は俺の頭をひとなでして会議室に向かって行く。
「陽向君のせいで僕達の仕事がありません」
「あかん、牛蒡の騎士言われてもしゃーないやん」
「ツッコミ役すら危ういです」
「星野、別に必要がなけりゃ突っ込まんでもいいんだぞ」
「鬼一さんのいう通りですよー。皆さん漫才師じゃないでしょ?さてさて、陽向くんのいう通り早く終わらせましょう。芦屋さんに寝てて欲しいんですからー」
牛蒡ならぬ五芒の騎士と当時名付けられたみんなと、アリスが渋い顔をしてる。
白石は清音さんのとこに行ってて不在だから、今日は俺がしゃっきりしないとな。
会議室に入る前に颯人と若干揉めつつ、床に下ろしてもらってみんなでお揃いの正装に変える。黒の着流し、白い羽織。俺と颯人の神紋付きの制服だ。
襟を整え、気を引き締める。……今日は怖い顔しなきゃだから。
「うむ、良い顔だ。倉橋夫妻の薬が効いたな」
「うん。なんかこう、背筋が伸びるな」
「無理をさせるのは嫌なのだが……」
「大丈夫だよ。さ、行こう」
『応』と仲間達に返事をもらい、気を引き締めて会議室に足を踏み入れた。
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