113【閑話】陰陽師名家の因習 その2

加茂side



「どういう事?加茂さん、お仕事辞めちゃうのか?」


 私がキッチンペーパーを握りしめた手の上に、あたたかい手のひらが重ねられる。

 真剣な眼差しを受けて、誤魔化せないと悟った。


 芦屋さん、私はあなたみたいに幸せにはなれないんです。きっと、この家に生まれた時からそう決まっていたから。

いつか言わなきゃならないなら、言ってしまうしかない……カナ。


 


「体の具合が悪いの?それとも」

「私は健康ですよ。実家から、昨日お見合い写真が届いたんです。」


「お見合い写真?け、結婚するってこと?」


 

 

 呆然とした芦屋さんが、力を込めて私の手を握ってくる。彼の小指に巻かれた赤い結い紐と、薬指の指輪が触れる。

 私も、それを好きな人から貰いたかった。今は相棒でも、あんなに思い合っているんだから二柱はきっと結婚されるだろうと確信してる。本当に……羨ましい。


 もっと早く私もお仕事の大切さに気づいていたら、もっと早くにあなたに出会えていたら、変わっていたのかもしれないけど。


 

 ううん、そんなこと考えても仕方ない。

 

私は、私の運命を歩いていくしかない。彼に出会えたのは正しく奇跡そのものなんだから。

 将来の計画を立て直したのはその奇跡のおかげだし、だからこそ私は絶望せずに済んでるんだモン。



 

 

「加茂家では、30歳までに決められた人と結婚して『最低でも五人は子供を産む、加茂家の中から力の強い人同士が結びつく』という決まりがあります」

 

「相手の人は?知り合いなのか?」

 

「いいえ。お相手の方は40過ぎてますから。私は声も聞いたことがありませんよ」

「加茂さんは23だろ?まだ時間はあるんじゃないのか?」

 

「おかげさまで強くなってしまって、目をつけられました。当主の呪いがあるので逆らえないんですよ」

 


 ハッとした芦屋さんが私の体を注意深く見て、ズボンの裾を捲って私の足首に刻まれた紋を見つけ、眉を顰める。


 


「……近親婚をしなければ死ぬのか」

「流石ですね、見ただけでわかりますか」

 

「うん……加茂さんは、それを望んでるの?俺にはそう見えない」



 

 昏く沈んだ瞳からびっくりするほどのキラキラした眼差しが向けられる。

 

 どこに……そんな色を持っていたの?

 颯人様が一度現世を去ってから、あなたの目は昏く染まったはずなのに。戻ってきても、ずっとそのままだったのに。


 


「ソダネ。私、倉橋君が好きです」

 

「……そうだったのか」

 

「はい。でも、私みたいな重たい家系を背負ってる人が倉橋君とお付き合いなんかしちゃいけないですよ。

 倉橋家は加茂家よりもだいぶマシですから。無理やり結婚することもないし、 倉橋君は末っ子で外に出られます。真神陰陽寮で功を立てて、独立が決まっていますね」


「倉橋君のこと、ちゃんと知ってたんだ」



 芦屋さんはカゴに梅を置いて、私の肩に手を回し、そっと撫でてくる。

柔らかくて小さな手に撫でられて、胸が痛くなって、体が震えてくる。

 

 この人に触れられると、どうも自分の弱いところが剥き出しになってしまう。

だめ、落ち着いて……優しい気持ちに導かれてはいけないの。



 


「加茂さんが、どうしたいか聞かせて。俺は加茂さんが思う通りになるよう、手伝いをしたい。

 これから先もずっとずっと神継として働いてもらいたいんだ。倉橋君と弓削君と三人で主核として動いて欲しいって思ってる」

 

「……そうできたらいいけど、無理です」

 

「そんなの聞きたくない。加茂さんが仕事が嫌だって言うなら仕方ないけど、そんな顔してないだろ。

 教育係になって、喜んでたじゃないか。この子達もみんな加茂さんの背中を見て、慕っているんだよ。心から心配してくれてる」


 


 芦屋さんに促されて、桜庭ちゃんたちに目を向ける。三人とも眉を下げて、しょんぼり顔だ。

 人一倍感受性が強い子達だから、笑ったり泣いたり忙しい子達なのに……それを堪えて私をじっと見ていた。


 一緒にご飯食べて、夜中にグループ通話したりして。女の子友達がほとんどいなかった私に楽しい時間をくれた。

最後まで教育係としての勤めを果たしたいけど、どこまでできるかはわからない。


まっすぐな視線に耐えきれず、目を伏せる。



 


「加茂さんは、倉橋君のどういうとこが好きなの?」



 私の手を逃してくれないまま、彼は自分の言葉を言霊として発し始めた。

 

 芦屋さんの頭の中では、今どんなトークスクリプトが展開されているんだろう。

神鎮めは対話であり、説得であり、その人を思ってやるお仕事。

芦屋さんが私の説得を始めてしまった。


 

 彼は授業の中で自分の感情を全て省いて神鎮めのやり方を教えていた。

 

強めの言葉で発言していたけど、彼がやってきたお仕事を、その結果得られた信頼や平和な世の中を見て、私を心配そうに見つめる瞳が計算されたものではない事は分かりきっている。



 

 ようやくお仕事がひと段落して、やっとゆっくりできてるのに、私の事まで背負おうとしないで。

あなたが背負っているものを、これ以上増やしたくない。

 だけど、だけど……言霊が強くて、私を想ってくれる気持ちが丸ごとぶつかってきて、息もできない。


  

「俺は加茂さんの事を見てる倉橋君が、どんな目をしてるのか知ってるよ」

 

「倉橋君の目?」

「うん。君がそれに気づかないわけがない。知ってるだろ?ちゃんと、分かってる筈だよ」



 

 優しい声色、ゆっくりとした口調が私の心ごと彼の手に包まれて行く。

あぁ……この人はこんなふうにして、いろんな人を救ってきたんだ。

 

 私、もう踏ん張れない。ダメだ。

 でも、このまま身を委ねたら芦屋さんはきっと大変な思いをする。

でも、話したい……楽になりたい……幸せに、なりたい。


 頭の中がぐるぐるして何も言えなくなってしまった。芦屋さんが私の額に額をくっつけてくる。

どうして、この人はこんなに可愛い事してくるの?どうして、こんなに優しいんだろう。



 

「倉橋君は結構ミーハーだよね。俺と颯人が二人きりでいてもいつの間にか覗き見してるし、言葉遣いは大人だけど慌てん坊で、一生懸命になり過ぎて失敗する事がよくある」

 

「んふっ、ソダネ」


「俺に対してもそうだし、身の回りの女性に対してもすぐ赤面するし、なんて言うか純朴少年で、子供っぽいかなぁ……」


 

 思わず、顔を上げて芦屋さんの目を見る。わかってるのに……これが作戦だってこと。

 

「でも、あの……優しい人です。ずっと私のこと助けてくれるし、大人でかっこいいところもあるし……」

「……ふふ、そっか」


 

 私が口にした言葉を引っ込める前に芦屋さんが微笑む。

心底嬉しそうな顔されて、言いかけた言葉を引っ込めるタイミングを失って、揺らいだままの気持ちをがっしり掴まれてしまった。


 ……もう諦めるしかないみたい。

彼の組み立てたルートには、逃げ道がないんだモン。

 



 

 

「倉橋君は、加茂家のこと全部知ってて。私が引っ込み思案で考えが口に出ないことも知ってます。

 いつでもどこでも、どんな時でも必ず話しかけてくれるし、私が意見があるのに言えない時は先回りして発言できるようにしてくれる。

 私の頭の中が見えてるみたいに感じます。今の、芦屋さんみたいに」

 

「俺は頭の中見えないけど」


「わかってますよ。あなたは心の動きが見えてる、感じてる。私の逃げ場をなくすために話してたでしょ。

 なんなら、お見合い写真のことも知ってたんじゃないですか?……だから、今日ここに呼んでくださったんでしょう」

 

「加茂さんもなかなか成長したな」


 

 お互いニヤリ、と笑う。三人娘ははてなマークと慌てた顔、青ざめた顔とさまざまな様子だけど静かに見守ってくれてる。

 ピーチクパーチク普段はうるさいのに、こう言う時は三人揃って口を噤むんだよね。本当に優秀な後輩だ。


 


「そう言ってくれるなら嬉しいけど、ダメですよ。私は死にたくないので。

子供を産みさえすれば自由になれる。その後、神継に戻る計画です」

 

「加茂さんが五人も産まなきゃいけないって事は年数も要するし、好きじゃない人とそう言う事をしなきゃいけないだろ。やだよ、そんなの許さないから。絶対ダメ」


 

「そう言うの……初めて聞いた」

 

「加茂さんは知らないだろうけど、俺は我儘でいじっぱりで頑固なんだ。

 アリスの話、聞いただろ?俺が伏見さんに頼んだんだよ。人に頼んで我儘言ったんだ」

 

「聞きました。家系から除籍したくせに元に戻そうとして、伏見さんと星野さんがキレたって。

 でも、あれは芦屋さんと白石さんが『裏で色々やってた』って倉橋君が言ってました。

我儘じゃないですよ。アリスさんは本当に嬉しそうにしてたモン」



 

「バレてたの?倉橋君も中々やるね」

 

「ふふ……安倍家はうちと似たようなものですけど、なんか抜けたところがあるんです。おそらくされた事を何も分かってません。先祖譲りですよね、あれ」

 

「否定できないなー。まぁ、うん。そう言うことだ。ほんでさ、この呪いは俺一人でも解呪できるし、もう伏見さんに念通話で動いてくれるように頼んじゃったからね。キャンセルは承りません」


「……でも」


 

「加茂さん。好きな人と結ばれない行為って本当に辛いんだ。子供が生まれたとして、愛せたとして……加茂さんはずっと苦しむことになる。

きっと、その後で倉橋君と結ばれようとなんてしないだろ?」

 

「…………」

 

「俺は伏見さんと陰陽師名家のひっくり返しを企んでるからね。

 でも、お見合い写真が来たって事はすぐにでも動かなきゃならない。

 俺の過去だって知ってるだろ……俺のために、あるがままに望んでくれ。あんな思いする人を見たくないんだよ。……お願い、加茂さん」



 


 俯いて、瞬く。

ダメだ、あんなに……頼ってはいけないって思ってたのに。私はもう、頼らざるを得ない。芦屋さんは、最初からずっとそういう人だった。

 


「俺は冷たい人なんだ」とか、「腹黒いんだ」とか言いながら見放したり諦めたりしてくれない。なんでも自分のせいにしちゃう。

 ここで頼らなかったら私じゃなくて、芦屋さんが傷ついてしまう。

 

 いつか私たち問題児にしてくれたように……また、助けようとしてる。自分を差し出して、私がそれしか選べないようにして。


 自分の膝の上に雫が落ちて行く。

何も考えられなくなって、ポタポタ落ちる雫と一緒に口が勝手に喋る。


 


「倉橋くんは仕事が忙しくて、夜遅くになって『あー疲れたな』ってぼーっとしてると必ずお迎えに来てくれる。あったかいお汁粉毎回持ってくるんですよ。

 失敗して、落ち込んでてもそう」

 

「うん……それから?」

 

「それから……報告書書くのが苦手でたくさん山になって泣いてた時も、ピンチになって死んじゃうかもって思った時も、私が『どうしよう』って思った時は必ず来てくれるんです。毎回、お汁粉持って」


「んふ。お汁粉か、倉橋君っぽい」

 

「ソダネ。本人が何にも言わないから、お礼が本当に言いづらい。

 なんで毎回お汁粉なの?って聞いたら『女性は甘いものが好きでしょう?加茂は女性ですから』って言うんですよ。

 わけわかんない。女の子だと思ってるなら頭撫でたり、手を繋いで欲しいのに」


 

「大切な人だから、簡単に手出しできないんだよ。本当に、大切な人だからなんだ」

 

「……うん……私、いつのまにかお汁粉が好きになってました。

 疲れた時にいつも飲んでいた物を買えなくなって、お汁粉ばっかり飲んでる。ずっと頭の中から離れなくて、お汁粉のことしか考えられなくなっちゃった」


「そっか、いつの間にか好きになってたんだな」

「ソダネ……」



 

 そう。お汁粉だけじゃなくて、倉橋君のことが気づいたら好きになってた。

  

 ピンチの時に駆けつけられるのなんて、傍にいたからに決まってるのに。

私よりもいろんなお仕事を任されて、目の下にクマを作ってることもあったのに。

 

 どうやってかはわからないけど、必ず私を助けに来てくれる。


 だから、本当は倉橋君が私のことを女の子として好きだって想ってくれてるのも知ってるの。



 


「魚彦、赤黒」

「「応」」


 二柱を顕現した芦屋さんが私の周りで柏手を打ちながら結界を張り始めた。

 

 教育係なのに。こんな風に泣いて情けないな……。

桜庭ちゃん達は興奮しながら芦屋さんの展開した結界を眺めて触って、分析し始めてる。

 

 面白い子達だな、この子達は倉橋くんがしてくれたように手を引っ張るんじゃなくて、手を添えてあげるだけでいい。最後まで成長を見守ろう。

 人を尊重するって、そう言う事だと思うから。芦屋さんみたいに……なりたいから。

 



「ふーむ、加茂家は昔から変わらんな。これは人柱がおるぞ」

「そうだねぇ。呪詛返しもしなきゃダメかな。効果軽減しないと厳しいか。呪紋を改竄しよう」

 

「あるじさま、共連れの術もあります。家系の女の子達が危ないです」

 

「そしたらそこのことわりから外そうかな。

 今はまだ、加茂家の女性みんなを一緒に外す事はできない。内密に動いて、しばらく倉橋君と駆け落ちしてもらわないとだね」

 


「芦屋さん……」

 

「倉橋君も呼ぶよ、解呪中にちゃんと話してね。少し時間がかかるから。……颯人」

「応」



 芦屋さんは解呪のために術式を煉り始めて、颯人様とともに倉橋君が転移して来た。

倉橋君は、すごく怖い顔してる。



 


「我を先に呼ばぬのは何故だ」

「颯人なら言わなくてもわかってくれるからだよ」

 

「ふむ……?ならば良い」



 颯人様と手を繋ぎ、芦屋さんが私の足首に触れて解呪が始まる。

 

 呪いを解くって、結構大変な筈なんだけどな。私だけ解呪されると他の家族もみんな道連れで死んでしまうから。

理を外すだなんて、事もなげに言うけど芦屋さんにしか出来ないだろう。


 私だって何度も試したけど……こんな満面の笑顔でされてしまうと、どうしていいかわからない。


 


「触れても、いいですか」

「そう言う時は、何も言わないで触って欲しいな」

「すみません」



 しょんぼり顔の倉橋君が横に座って、そっと手を握ってくる。


「なんか『最初から聞いてました』って顔してるね」


「聞いてました。颯人様が聞かせてくださったんです。

 私が男らしくないばかりに、辛い思いをさせてしまったと反省しています。……お汁粉もありませんし」

 

「ぷっ……私、別にお汁粉マニアじゃないよ」


 

「でも、好きになったんでしょう?それならずっと好きでいてください。私があなたに一生あげますから」

 

「……お汁粉で終わらせないで、ちゃんと言って。そうじゃないと私が決心できない。私はずうっと我慢してきたんだから。好きになっちゃダメ、ってずっと……」



 


 倉橋君が瞬き、下がった眉毛を持ち上げてキリッとした顔になる。

芦屋さんとは違う、颯人様とも違う、身の回りの人たちみんなとは違う……優しいだけだった眼差しの中に、何か強いものが顕われた。

 

 男らしく攫ってくれればいいのに、なんてずっと思ってたんだよ。そう言うとこ、ちゃんとあったんだね。


 

 倉橋君と同じものが自分の心に生まれたのを感じる。

 

 私は倉橋君を待ってた。倉橋君も私を待ってた。それじゃあ、ダメだったんだ。


 自分で踏み出さなきゃ、自分で欲しいって伝えなきゃ。こう言うのはダメなんだよね、きっと。漸く分かった。


 


 

「加茂の事が好きです。私と結婚してください」

「……マイナス100点」

 

「なっ!?何故ですか!?」

「もう少しちゃんとこう、工夫してよ。語彙力ないモン。テンプレ禁止」

 

「ぐぬ……うーむ?」


 思い悩む倉橋君を見て、なんだか笑えてしまう。私が先に伝えてもいいよね?


 

 

「私も、倉橋君の事が好き。あなたの事だけを見てた。

 自分の気持ちを見ないふりするのは、もうやめる。だから、倉橋君の人生を私にください」

「は、はわわわ……」


 

「しゅごい、かっこいい」

「神継の女達は皆こうなるのか」

「どうやらそのようじゃのう」

「ぼ、ぼくドキドキしちゃった」


 


 足首を触ったまま芦屋さん達がつぶやいてる。確かにそうかも。妃菜さんも、アリスさんも、身の回りの女性はみんな強いモン。


「は、ぁ……か、加茂、あの」

「返事くれないの?」

「……!!」


 顔が真っ赤になった倉橋君が私のほおに触れて、顔を近づけてくる。

すごい緊張してるみたいだけど……うん。私、そうして欲しかったんだ。


 

 わずかに唇が触れて、すぐに離れた倉橋君が私をぎゅうっと抱きしめて、息を吸う。


「好きです!!!」

「うるさ。まぁいいか」

「くっ!?」



 颯人様が倉橋君に、「そのようなやり方は情けない、男らしくこう……」とか言い出して、桜庭ちゃん達は爆笑してる。芦屋さんと魚彦殿まで笑ってるし。



 

「よかったね、加茂さん」

 

「これからが大変ですよ。解呪、ありがとうございます。

 芦屋さん、私……倉橋君と結婚したいので、ご助力のほどよろしくおねがいします」


 抱えられたまま頭をぺこりと下げると、倉橋君が体を離し、私よりも深く頭を下げる。


「芦屋さん!すみません!!!わ、私からもお願いします!!!」



 

 胸が、ドキドキしてる。憎まれ口言ったけど……気持ちを込めて人に触ったのも、キスしたのも、好きだって言ったのも思ったのも、両思いなのも初めてなんだから。

ムードはないけど、倉橋君ぽいからこれでいいと思う。


  

 倉橋君と握った手から伝わる気持ちが切なくて、寂しかった心のうちがあたたかいもので満たされて行く。

 

 欲しかったものを欲しいと言えた事。それを当たり前にくれる人が、応えてくれる人が相手だった。それが嬉しくて仕方ない。

 芦屋さんのおかげなんだ……私、すごく頑張る。諦めたりしない。



「うん。倉橋君にはビシバシ働いてもらうからねっ」

「ハイ!!!」


 ビシッと背筋を伸ばした私の暫定旦那様は、柔らかく微笑んで手を強く握りなおした。


 

 ━━━━━━



「それで、どうなったんや!?」

「アー……加茂さんまでカップルなんですかー?スピード交際すごーい」

「はよ!はよ続きください!!」



 真神陰陽寮、神継達の喫煙スペースで簡易女子会が開かれてしまった。ここに出社するのも久々なのに、サボっていいのかな。

 

 先輩達は興奮してふんふん鼻息が荒い。

妃菜さん、アリスさん、真子さんに詰められて、私は仕方なく両手を差し出した。


 


「あっ!?指輪やんかっ!!!」

「はっ!婚約指輪!?」

「待って、反対にもついてるやん!?」


「はい。なので、加茂ではなくなりました。改めまして、倉橋 さつきと申します。夫ともどもよろしくおねがいします」



 

「一足飛びどころやない!先越された!!!」

「妃菜ちゃん、指輪そろそろ買いに行くべきじゃないですか?」

「せやな、あんたもさっさと登仙キメて結婚せな。次々追い抜かれるで」


 妃菜さんが頭を抱え、喫煙室の外で飛鳥さんが額を押さえて蹲る。

そうですね。早くしないと私の方が結婚式先になりますよ?


 


「はー。とりあえずおめでとうさん」

「ほんとですね!おめでとうございます」

「これでヤモメ候補が減ったな?おめでとうさん……でええんよな?」


 三人からお祝いの言葉をいただいて、私は力一杯微笑んだ。


「ソダネ」 

 



  




 




 

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