92 幸せな仕合わせ
「真幸!」
「真幸くーん!!」
「ごふっ!?」
痛い。相変わらずタックルされる見た目なのか俺は。
「はあぁ、真幸くん!ずーっと触りたかったんだからね!!」
「月読ではないが颯人がいないのは久しぶりだしな……む?」
「チッ。颯人の奴……」
ニコニコ顔で抱きついて来た二柱が眉を寄せてクンクンして舌打ちした。
……なんだよ。
「颯人の匂いがする」
「クソっ……」
「へ?そんなに?お香はいつものやつ……あれ、そう言えば颯人が戻ってから炊いてないかも」
今は颯人がそばにいるから移り香か?倉橋君が颯人の香りを模して調合してくれてたから、そんなに変わらないはずなのに。
颯人の匂いってもしかして独特なのか?
(妙な言い方は止めよ。魂を交わしたのだから、同じ匂いになるだろう。しかも、我は元々香を炊いていたわけではない)
(えっ?そうなのか?!じゃあ全く同じ体臭になったって事?)
(そうなるな。これは神避けに有効かも知れぬ。一部の対象に限られるだろうが)
(ふぅん……)
颯人の匂い、俺……好きだから。少しだけ嬉しい。白檀の香りだと思っていたけど違ったのか。
あんなにいい匂いがしてるなら、ちょっとはオシャレになれるかも知れんし、悪くないな。
「あ、あの、そろそろ宜しいですか?」
「あぁ……すまぬな、神々廻」
「気に食わないけど仕方ありませんね」
俺のニヤケ顔に微妙な顔で告げて、正宮の石段へと天照達が先導してくれる。
後ろについてきてくれる神々廻さんは苦笑いになってしまったぞ。
天照達といた時、お香じゃ反応しなかったってことは倉橋君が調合を失敗してたのか?もしくは神様の鼻だとちょっと違うように感じるのかな。はて。
「参拝の後、正宮の内部へご案内いたします。そこで祭事を行いましょう」
「んー……うーん、はい」
社の内部で仮契約をやるとして……俺は二柱を下ろした時血の涙が出てたし、吐きはしなかったけど体の中身全部が出そうだった。大丈夫なのかなぁ。
五重の垣根に護られて、どっかりと建った
生木のまま何色にも染められていない社は、やさしい気配に満ちていた。
鳥居を拝し、敬礼してくれた警備員さんに笑顔で応えて潜り抜け、さらに
ここを汚すのは良くない気がするんだけど……うーんうーん。
敷地内には白黒の河原石がびっしり敷き詰められてる。石は踏み分けるのに一苦労するくらい大きい。握り拳くらいあるぞ。
ごりごり踏むたびに転びそうになるから、白石が手を掴んで支えてくれた。
白い石は
「白石……」
「ん?何だ?」
思わず考えが口をついてしまって、傍にいる白石が返事を返した。
御白石と清石は天地を表し、陰陽を表す。そうか、ここでやった方がいいって事?そうじゃない。ここでやるからこそできる事をやればいいって事だ……!
「なんでもなーい」
「何だ?やけにご機嫌だな」
胸が脈打って、ワクワクしてくる。
白石は、天照の依代である俺から月読を渡して仮契約するんだ。これこそ神様の仕合わせじゃないか?
出会いも偶然のはずだし、伊勢神宮での神降ろしだって最初から決まってたわけじゃなくて、急に決まったんだぞ。
陰陽がそろい、力が満ちているこの場は他の神社では揃わない条件ばっかりだ。
白石はきっと、いつか正式に月読の依代になる。俺みたいに魚彦を完全に譲り受けて、俺の助手としてずーっと一緒にいてくれるのは間違いない。
俺と繋がって、いろんな要素が動いて……今までのパターンからしてもこれは正しい道のはずなんだ。
この状況を作ったのは白石だと思う。神宮を清める、御白石と同じ意味を持つ人なんだよ。
ハッピーな気持ちになって、るんるんしながら歩く。こんなにアゲアゲな気持ちでいいのかと疑問に思ってしまうが、高揚するのが抑えられない。
運命の巡りが嬉しかったことがあったとして、いつも苦難が伴った筈なのに今回は幸せなことばっかりだ。
「なんや、真幸がえらい上機嫌やな」
「あのテンションはまずい気がします」
「巫女舞のテンションより高いな」
「芦屋さん、ハラハラさせないでください……」
伏見さん達が立ち並んで、不安げにつぶやいてる。
大丈夫。今日はそう言うのじゃない。俺と白石はデステニーなんだ。出会うべき人だったんだ。ハッピーすぎる。
俺は、今度こそ間違わずにいられた。
(白石は伏見と同じくそなたに必要で縁深い者だろうな。登仙は白石と伏見から始める事としよう)
「うん、そうしてもらおう。出雲に行く前に高天原だな♪」
(本当に大丈夫なのか?……ご機嫌すぎやせぬか)
「んふふ」
ニコニコしながら
「私はここまでです。ご案内できて、光栄でした」
「神々廻さん、ありがとうございました。あの……手を、ちょっと拝借しても?」
「えっ?はい」
はてなマークを浮かべながら差し出された手をとって、甲を撫でる。
少し荒れた手先……これは繰り返す日々を粛々と勤め、一生懸命働いてる人の手だ。
神々廻さんは本当に優しい人だな。俺がここに来るまでにずっと転ばないように気を配ってくれたり、風が強い場所で体を守ってくれたり、落ちてくる木の葉を避けて、足元に段があるときは必ず声をかけてくれた。
なにか、お礼がしたい。
「真名を神々廻早苗、かの者を守り給え」
何となくやって来た自分の前世……松尾芭蕉の句碑と同じく、意識しない程度の力を入れてポンポン、と叩いた。
冷たかった手のひらに血が通って血色が良くなってくる。
女性は冷え性の方が多いけど、神々廻さんは結構酷い部類だと思う。夏の盛りにこんなに冷たいんだもん。
「わぁ……爪の先まであたたかいです」
「うん、冬になると大変でしょう?これで大丈夫だと思います。効果が薄くなったら、またやりにきますね」
「ありがとうございます」
お互いに笑顔を交わし、神々廻さんの手を離して正宮に向かい合う。
さて、まずは参拝だ。
いつのまにか移動していた天照が真正面に立って、満面の笑顔で見つめてくる。傍に立った月読はまだ拗ねてるな。
あぁ、内宮に社がある神様も揃い踏みだ。
菊人形みたいな見た目の双子ちゃんは
五十鈴川の神様、
七五三の着物みたいにカラフルな可愛い着物を着てるのは、内宮の神域四方を守っている
そしてかなり久々に会ったな。偉丈夫姿で髭を扱きながら
その横に同じような笑顔をたたえた
キラキラしたお花だらけの着物を着て、派手派手だな。明らかに気合が入ってる。
サクヤを見て颯人が唸ってるけど、俺も唸りたい。
高天原ではすでに全柱旧知だ。サクヤは颯人が言うようにめちゃ細かくて、お局さんみたいなんだよ。
わかるよ、その気持ち。すごく。
「真幸、早く参拝を済ませなさい。この後の祭事のために私達が集まっているのですよ」
「はいっ、かしこまりました。早急にいたします」
早速お小言をいただいてしまった。
背筋を伸ばして二拝、二拍手、一拝。
天照、いつもお仕事お疲れ様。やっとここに来れた。遅くなってごめん。ちゃんと参拝できて嬉しいよ。
これからもよろしくお願いします。
「真幸……吾と
「永遠かどうかはわからんけど」
「……酷い……」
「ごめんて……」
真正面に立った天照の頭をくりくり撫でる。この前魚彦達と抱き合ってた時も遠くから見てたから触るのは久しぶりだ。昨日も触ってないし。
月読が横から頭を突っ込んでくるから二人をワシワシ撫でると嬉しそうにしてる。
…ワンコみたい。かわいい。
「では祭事と参りましょう。天照大神の名の下に私共が斎主を……」
ワシワシされてる二柱を見ながら微妙な顔で神職さんが歩み寄ってくる。
それを遮って、天照が眉を釣り上げた。
「吾の名ではない。真幸が依代の立場を譲るのだ。
先ほど五十鈴川では全身を清めた。
タキマツリノカミと共に天雫も降らせたゆえ主導は真幸がやる。そなたらは引っ込んでおれ」
「し、しかし……」
あらら、内宮の神職さん達がすんごい渋い顔になったぞ。
天照が怒るなんて珍しい。月読も腕を組んで、眉を寄せる。
おわー、しかめ面だ。こりゃ完全に怒ってるな。
「あのさぁ、国護結界って何のために張ったのかわかってるよね?
僕と兄上を同時に降ろして、颯人を合わせて
「普段なら月読を諌める所だが、吾も同意見だ。まさか全身に清めをさせるとは思わなんだ。
たかが挨拶が遅れただけで何を拘る?そもそもの話、真幸はそなた達に何度も手紙を送っていた。
在清が言伝をしていたにもかかわらず、一度たりとも返事をしていないだろう」
天照と月読に言われて神々廻さんも含め、神職さん達がしょんぼりしてる。
うーん、口を挟んでいいものか……。
「芦屋、いいぞ」
「白石……いいのかな?」
「何を躊躇ってんだよ。いつもの調子でやれよ」
「白石は知らないだろぉ」
「大体聞いてるっての。ほら、困った時の伏見さん」
白石が肘で脇腹を突いて、俺の顔をぐりっと伏見さんに向ける。
視線の先でスーツ姿の伏見さんが微笑んで頷いた。
伏見さんが言うならいいか。うむ。
「天照、月読。そこまでにして」
ぷんすこしてる二柱と神職さんの間に立って、二柱と手を繋ぐ。
「何でさ!」
「其方が侮られているのに、腹を立てぬ理由などない」
「神職さん達は侮ってなんかない。俺の案内をしてくれた神々廻さんだって、とっても親切にしてくれたよ」
「だからって、迎えが巫女一人とか……」
「月読、違うだろ?お迎えに来てくれただけでありがたいんだよ。俺は別に偉くなったつもりもないし、裏公務員から始まった仕事を成しただけ。
神職さん達が何千年もここを守って、毎日一生懸命仕事をしてるの知ってる筈だ。そんな言い方はそれこそ巫女さんを侮ってる」
「……そう、だけど」
「そなたは何も思わぬのか。吾を想うなら、吾の大切な依代にも礼を尽くして当然なのだぞ」
天照が珍しく食い下がってくる。
いつも聞き分けがいいのに……珍しいな。
天照の頬を撫でて、怒りで上がり切った眉毛を両手でニョキ!っと引っ張って真っ直ぐにする。
天照はそんな顔しなくていいの。
「俺のこと大切にしてくれるのは嬉しいけど、悪い捉え方しちゃダメ。悪意があったとしても、それを受け取らなければ悪意にはならない。
神様の極意だろ?受け取る側が意図を変えてあげるだけで、みんな幸せになるんだ。天照なら知ってる筈だ」
「吾の社で嫌な思いをしてほしくない」
「大丈夫だよ、嫌な思いなんかしてない。ここに来てから気分がとってもいいんだ。スキップしながらここまできたんだぞ?
天照も月読も、とっても大切にされててすごく嬉しかったよ。俺に降りてくれた神様が大切にされてるんだから」
「……そう、か…」
「僕は納得できない。真幸くんがどんなに辛い思いしてたのか神職達は知らないんだ。僕たちが真幸くんを殺しかけた事すら、知らないんだよ。現世に降りるべきじゃ無かったかもしれないって……ずっと、思ってた」
「月読?どうしたんだよ、そんな顔して」
月読が俯いて、ポタポタ滴をこぼす。
んー、ぬー、仕方ない。
正宮の前に腰を下ろして、月読を引っ張る。おとなしく月読が腰を下ろして、胸元に縋り付いてくる。
「なんか思い詰めてるな?」
「毎日、君を見てた。幸せそうに笑う顔が可愛くて、健気で、儚くて……綺麗だった。真幸くんをそうしているのは颯人だろ?僕なんか君に迷惑かけてるだけだもん。今日も失敗したくなかったのに……」
「ずっとそんな風に思ってたのか?」
「……ぐすっ」
「そっか、ごめんな月読。俺と天照のお手伝いしてくれてるのに、ちっとも俺と話できてないもんな。俺は依代として失格だ……」
「そ、そんな事ない!何でそんな事言うの?!」
月読が顔を上げて、真っ赤になった瞳でじっと見てくる。
月読の目は白と黒が混ざった灰色なんだ。颯人と天照の間の色。陰陽が混じったそれはとても優しい色だ。
何百万年と言う月日を、兄のそばで支えて来た神様が優しくないわけない。
俺が知らないところでたくさん苦労して来た筈なのに、文句一つ言わずに働いてるんだから。
俺は、ちゃんと尊敬してるよ。
「ううん、俺が悪かった。もっと早く伊勢神宮にきてご挨拶していれば、神職さん達にも、天照にも、月読にも嫌な思いをさせずに済んだんだ。ほんとにごめん」
「そ、そんなの無理だったでしょ!颯人が目の前で喰われて、たくさん傷ついて、ずっと閉じ込められてたじゃないか……その前だってずっとずっと忙しくて、限界のままで働いてた!
アリスにちゃんと寝てるって言ってたけど、疲れなんか取れたことないでしょ!颯人が毎日そばにいないと、倒れちゃうくらいだったんだよ!!」
「おー……それは内緒にしてほしかったな。伏見さんちからずっと見てたのか?」
「うん……大村さんのとこでは傷だらけの鬼一を見て唇噛み締めすぎて血が出てた。
香取神宮でトメさんにわざとお酒呑ませろーなんて言って話をしやすくして。
北海道では星野にどうやったらわかってもらえるかずっと考えてた」
「ヘトヘトになってるのに、家に帰るふりして、仕事した場所をこっそり見に行ったり。山や川をお掃除したり……眠いのに目を擦りながら、沢山、沢山手紙を書いてたのも知ってる。
僕と颯人しか知らない筈だよ。君は自分の努力を隠すのが上手いんだ」
突然の暴露大会になってしまったぞ。……あっ、伏見さんからものすごい視線を感じる。仕方ない、後で叱られよう。
月読がずーっと俺の目を見てる。
溢れる雫は俺を思ってくれてる、綺麗な涙だ。
何でこんなに可愛い神様なんだろうなぁ。俺のことずっと見てたのか?
それでも好きになってくれたんだな。
「確かに大変だったけど、その結果として月読が俺の元に来てくれたなら幸せだと思うよ。
俺は月読の仕事を直に見ていないし、知らない。でも、一つだけ見て来た。
高天原にあった書類に、月読の印がついてない書類が一枚も存在してないんだ。
天照の印も勿論沢山あったけど、月読はもっと膨大な量の書類を捌いてる」
「いつの間にそんな事してたの……」
呆然とした月読の涙を唇で掬って、おでこにキスする。月読が自分のおでこを手で抑えて顔が真っ赤になった。
「俺が見て来た月読の仕事はとっても丁寧で、しっかりしてた。一生懸命にやって来た足跡しか見れないけど、月読だって自分の努力を隠すのが上手いじゃないか。
現世よりも早い時の流れの中で、成した仕事がどれだけなのか……想像する事も叶わない」
「……」
「本当にすごいよ。心から尊敬してる。
俺の気持ち、わかるだろ?まだこの仕事を始めて、二年目の新米と比べるのも烏滸がましいけどさ」
「…………真幸くん」
月読が震える手を差し伸べてくる。
その手を迎えて両手で握り締め、お互いのおでこをくっつけた。
「俺のとこに来なきゃよかったなんて、言わないで。おかあさんに「産まなきゃよかった」って言われたのと同じ気持ちになるじゃん。さびしいだろ」
「あ…ぁ…ごめ、ごめん……」
お互い抱きしめあって、頬を擦り寄せる。月読の事、本当に大切に思ってるよ。
ヤンデレだって別にいい。
いつでも一生懸命で、まっすぐで、働き者で、ひとを助ける事を、苦労する事を何とも思わない月読が大好きだ。
「僕、真幸くんに会えてよかった。生まれて来て、本当に良かった」
「ふふ、大仰だな……」
背中をトントンしてると天照も寄り添ってくる。かわいいなぁ。颯人も含めて愛おしい三兄弟だ。
死ぬほど苦労してるのにさ、ずっと優しいんだ。俺だって、生まれて来て良かったって、出会えてよかったって思ってるよ。
「はー、なるほどな。芦屋はいつもそんな感じなんだな」
「何だよ。白石呆れてるだろ」
「呆れてはいるな。お前は口に出す事全部がブーメランだとわかってねぇ。
困った奴だよ、まったく」
白石が歯を見せてにっ、と笑う。
そんな顔初めて見たな。
「……おほん」
「はっ。サクヤが怖い顔してるぞ月読」
「早く終わらせよ、うん」
「あやつの説教は吾とて嫌だ」
「サクヤさんはどんだけなんだ。天照にまで言われてるぞ……。さて……切り替えてやるぜ。
月読。俺が、お前さんの愛情の行き場を教えてやる。契約してくれ」
「白石くん……」
「直人でいい。名前で呼ばせるのはお前だけだ。俺の名前は芦屋も呼ばせないからな」
「なーんでだよ」
「尊敬の対象には名前なんか呼ばせねぇし、呼ばねぇ。伏見さんと同じだ」
「むー……」
白石が俺と月読、天照を引っ張って立たせる。全員で頷き合って、立ち並ぶ。
「よし、じゃあやりますか。神職さん達、すみません。サクッと終わりますのでいいですか?神様喚びますけど……」
「はい!どうぞ!もちろんです!!」
「芦屋さん、認識阻害の術を張ります。人が集まって来てしまいましたから。本当にサクッとお願いします」
「あっ、ごめん……まじか」
早朝参拝の人たちが、垣根の向こうから鈴なりになって俺たちを見てる。一般の方もこんな朝早くから来るんだな。しゃーなし。
「さて、やるぞーい!白石の霊力補助で大盤振る舞いだ!」
「は?待て……何する気だ」
伊勢神宮に集まった神様達が手を繋ぎ、伏見さんたちが端っこでそろって柏手を打つ。念には念を、石橋は叩き壊すんだよ、白石。
「魚彦、暉人、ふるり、ククノチさん、ラキ、ヤト、赤黒……天照も頼むね」
いつもの「応」の声と共にみんなが姿を現す。金色の光に包まれて、みんながニコニコしてる。
「颯人」
「応」
「それから、勾玉をくれたみんなにもお願いしよう。手が空いてる子達はみんな来てくれるか?白石に力を分けてやってくれ」
みんなを顕現して、白石に触れる。
すごいなー、清めの効果が浸透して、神力の消費はほとんどなく勾玉をくれた仲間達が次々と現れる。うん、これが正解だ。やっぱりそう。
平将門さんにカマイタチ……あっ、箭括麻多智さんは茨木ぶりだな。塚原卜伝さんに、那須与一さんもきてくれたのか。鬼一さんが目をキラキラさせてる。
九十九川の神に小天狗もいるし、銀座の神やトメさんも来てくれた。
社の前が満杯だ。んはは、大騒ぎだなこりゃ。
「おま、こんなに!多すぎだろ!!」
「そぉかー?さて、仕上げに俺の神力も一つ」
冷や汗ダラダラの白石が、初めて神域に命を突っ込んだ俺みたいに銀色でキラキラし出した。んふ、ごめんちょっと楽しい。
人差し指で白石にチョン、と触れると銀色の光が七色に輝き出す……こんなもんかな。
「俺の眷属である月読を譲渡し、次の依代として白石直人を指名する。月読」
「うん」
月読が神様のスタンダードスタイルでヤンキー座りになり、正座で座った白石の顔を見つめた。
「仮だからね」
「わーかってるよ。早くしろ」
「僕に愛のなんたるかを教えてくれるんだよね?この気持ちの行き先も」
「あぁ。任せておけ」
月読の問いかけに、白石が力強く頷く。
「真名を白石直人。仮の主として僕の神力を与える。勾玉は真幸くんにあげたから、今は与えないよ。覚悟して」
「……わかった」
月読が白石に触れると、俺たちの力が根こそぎ引っ張られる。
あっ、ヒコが倒れた。神ゴムにから出てきたみんなも姿が消えて戻っていく……あーあー……。
パタパタとみんなが倒れ込み、残ったのは俺と天照、月読と白石、颯人だけ。
「ひーきっつぅ……腹の中が全部出そうだ……」
「真幸くんはもっと大変だったよ。早く強くなってよね」
「はいはい、そうさせてもらいますよ。俺は芦屋の助手なんだ。
月読にも、学ばせてもらうぜ……」
月読が消えて、白石がパタリと倒れ込む。
天照と颯人と俺でじっと観察……うむ、大丈夫そうだ。
「ふぅ。これで一仕事終わったな。おや、神継たちは意識があるようだ」
「ほぉ……驚いたな」
「えっ!?ホント!?」
伏見さん達は膝をついてるけど、すぐに立ち上がってこっちに近寄ってくる。
おーーー!!!すごーーーーい!
「はぁ、はぁ……白石は生きてますか」
「生きてるよ、伏見さん。すごいな、ヒコ達も気絶してるのに」
「ここでぶっ倒れたら真幸に『強くなった』と証明できんだろ」
「せやな、正直気絶しそうやけど」
「あ!すいません、わたしは余裕でーす♪」
「アリスさん……」
顔色が悪いけど、星野さんも何とか意識を保ってるな。アリスはピンピンしてる。
やばーい、俺テンションが下がらん。
「んふふ、んふふ……わー!今日は何てハッピーな日なんだ!これはもうみんなで宴会するしかないな!
お酒飲んじゃうぞ!おつまみはおかげ横丁で買ってくる?出前はここまで来てくれる!?伊勢海老食べちゃう??」
「ま、真幸の抑揚がおかしい。我も知らぬぞこのような……」
颯人が困惑しながら抱きしめてくる。
胸元に顔を押し付けて、ぎゅーっとしがみついた。
俺、すごく幸せなんだ。
幸せの後に、本当に不幸が来ないんだ。嬉しくて、仕方ないんだよ。
「……真幸」
「っく……隠して、はやと」
「あぁ……」
颯人が羽織でくるんで、腕の中に隠してくれる。
涙が止まってくれない。
でも、こらは俺が知ってる悲しみや苦しみや、悔しさ、やるせ無さが元じゃない。
幸せな涙なんだ。みんなが居るから、颯人がいてくれるから……こんな風になれた。もう誰も無くさずに済むんだよ。
「……我も、幸せだ。其方の涙が愛おしい。これから先は、ずっとその色に染めてゆこう」
「うん…うん……」
体を丸めて颯人の中に収まって、満ち足りた気持ちで瞼を閉じた。
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