第45話 真神陰陽寮発足 その2
『
『はい。議長、先刻提案した新設組織のトップをお呼びしております。ご紹介してもよろしいでしょうか』
『許可します』
『ありがとうございます』
国会議事堂内を写したテレビ中継をポテチ齧りながら見てる。のり塩美味しいデス。
現時刻10:50。びっくりするほどつつがなく議事が進み、誰も彼もが押し黙ったまま予定調和で進んだ。
根回しは完全に済んでるのか…伏見さんどうやったんだ?やはり政治のことはわけわからん。
伏見さんが言ってた懇意の議員さんは、左近さんて人。四十代くらいの壮年議員さんが何度も名を呼ばれて裏公務員についての説明やら、中務の悪行やら、真神陰陽寮の説明やらがされて行く。
中務は政治家さん達をいいように使っていたんだな。与党も野党も一致団結してるの初めて見たぞ。政治家みんなが被害者っぽい。
わざと災害起こしてお金をせしめてるし、国護結界の要を壊したのも証拠が山程あがっていた。
「新組織、真神陰陽寮の伏見是清さんと管理事務の息子さんです。彼らは元々一千年以上前から代々神に仕える、伏見稲荷大社の方です」
伏見さんと是清さんがお揃いのスーツで提議者の議員さんの横に立ち並ぶ。
カメラがズームして、画面いっぱいに2人が映った。
「おっほー。かっこいいな伏見さん!」
「良いスーツ着てるな…仕立てたのか?」
「ネットでも盛り上がってんで。糸目最高!やて。…伏見さんもモテるんかな」
「妃菜、糸目の男は一定の女子ウケがいいのよ。胡散臭いのはミステリアスに見えるし、口を開けば丁寧な喋りでさらにファンが増えるわ。キャラ萌えってヤツよ」
「そんなもんなん?…私とは趣味が合わんなぁ」
「妃菜は童顔で目つきが怖くて、優しいのに厳しくて、謙虚で真面目で頑固で可愛い物に目がない人がいいのよね♡私もよ♡」
「飛鳥とは気ぃ合うなぁ!んふふ!」
「それは特徴だけで聞いていると…芦屋さんに似ていませんか?スマホケース可愛いですね」
「あ、安倍さん!ナマズちゃん可愛いだろ!あっ、こっちのお菓子も美味しいよ!柿の種にチョコがついてるやつなんだ!!食べてみて!」
「えっ!?柿の種は知ってますが…チョコ…美味しいんですか?」
「美味しいよ!累も食べるか!?」
(たべる!)
冷や汗をかきつつ、俺の手から柿の種チョコをもぐもぐ食べてる累を見てホッとする。
安倍さん鋭いな…い、いや、もう違う人かもしれないしな。
「私はそんな簡単に諦める女ちゃうで」
「…ソウデスカ」
「しぶとい小娘だ…」
「面白いのぅ。
颯人が妃菜を睨んでるけど本人はどこ吹く風だし、魚彦がそれを見て面白がってるし。安倍さんも鬼一さんも生ぬるい感じの眼差しをよこしてる。
気まずいの極みパート2だ。
テレビだ!テレビを見て沈黙するしかない。
「左近君、私から質問をいいかな」
「えっ…議長がですか?」
「すまん、どうしても聞きたい。伏見稲荷大社が元の方なら、狐さんがいるのではないかと…。いや、おほん。超常を見せて欲しいのだ。体験していない方もいるだろうしな」
質疑応答を重ねてそろそろ終わりかなー?と言うところで議長さんがほっぺを赤くして発言してる。狐ちゃん見たいのか?気持ちはわかる、うん。
「議長さん可愛いもの好き仲間かな?」
「大村さんといい、真幸といい、可愛いもの好きは男ばかりか…はぁ」
「日本はそう言う国なんか?おもろいな」
伏見さんが微妙な顔をしながら手のひらをふうっ、と吹いて狐をぽこぽこ喚びだす。議長が黄色い声を上げて立ち上がり、スーツ姿の怖い顔した議員さん達が狐ちゃんを恐る恐る触っている…何コレ。
「伏見さんのあれは式神なんかな…管狐やったっけ…真幸の式神はどんななん?」
「俺のは通信のために運ぶだけだから鳥さんだよ」
「え、見たい。見してや」
「そうだ!この前見せてもらってないぞ」
「式神…わたしも見てみたいです」
陰陽師…いや、コレからは神継か。三人に言われて渋々鳥さんを生み出す。心臓を抑え、両手で包み込んでそれを開くと中から金色の小鳥が現れた。
「…金色か」
「尻尾長いな。鳳凰ちゃうの?これ」
「将門の鎮めでも思いましたが…芦屋さんこそ現人神になりつつありますよね。金色の光を人は生み出せないはずです」
「えっ?そうなの?」
鳥さんは鬼一さんの方に飛び乗り羽繕いを始めてる。…鳳凰だったのかきみは。
本当はシマエナガをイメージしたのに、できなかったとか言えない。もふもふが可愛いよな、シマエナガ。
「元々霊力は色がなく、式神を作ったとしてもせいぜい自分の属性、五行の色しか出ません。水は青、木は緑、とか…」
「ほーん…なんだろねぇ。よくわからんけど最近神様顕現するとみんな金ピカの粉がヒラヒラするよ。颯人だけ七色だけど」
「七色は流石にわかりませんね…見たことがありません」
「顕現時にその人の色が出るってことは、真幸は金属性なんか?」
「金属性なら黄色だ。輝く色をそもそも人は纏えやしない」
三人と飛鳥に見つめられて何とも言えない気持ちになってくる。そんなこと言われましてもー。俺も何も知らんしー。
テレビでは国会中継が終わり、またもや真神陰陽寮のCMが流れ続けていた。
「芦屋さん、神様食べたり…しました?」
「えっ!?」
「体内に勾玉取り込んでます?」
「はっ、あ、あの…ハイ」
安倍さんがなるほど、と小さく呟き考える人のポーズになる。
…人って考える時顎触るもんなのね。
「神様食べたと言うか…普段魚彦が作った紙タバコ吸ってるよ。あれ紙を巻いて止めるのにペロンて舐めて糊付けするだろ?それじゃない?」
「確かにそれはありますね。でも経口接種しませんでした?」
「経口…あっ、あー、してるな。初任務の時だ。颯人が『力が足りぬ』とか言って血を舐めさせられた」
「懐かしいな…あの頃のしょっぱい真幸もまたよかった」
「儂も見たかったのう」
「私は知ってるわよ♡しょっぱいというよりはやさぐれって感じだったけど♪」
「なんや飛鳥知っとるん?!見せて欲しいねんけど!」
「いいわよぉ〜♡」
何でだー。モサくてしょっぱい俺なんか見ても仕方ないだろ!今もたいして変わってはいないだろうし。
神降ししたのが千住大橋だったから飛鳥も知ってたもんな。記憶を共有したりできるのかな…。
ビールタポタポのお腹で神降しした、公務員をクビになったばかりのやさぐれ男は微妙だと思うんだけど。
「神様の体は神力の源泉です。体液などの経口摂取は相性が悪いと死ぬ可能性もありますが、相性が良ければ神力の浸透が良くなり寿命が伸びて…最終的には、神に近い存在になり得るそうですよ」
「えっ、何それ。俺危ないもの飲まされた?待って、髪の毛も?」
「髪の毛は…芦屋さんは伸ばされてますしご存知だと思いますが、力を貯める貯蔵庫です。人だけでなく妖怪も神様もですよ。
体液、髪を摂取したなら神様になる下地になるでしょう。勾玉を飲まれているならもう仮にも神様と言えるかもしれません」
「……おい」
颯人も魚彦もぷいっとそっぽを向く。知ってたな。俺を改造人間にする気か。
「颯人」
「…すまぬ」
「魚彦も知ってたのか?」
「すまぬ。そうじゃ」
「何で?なんか理由があるだろ?二柱が訳もなくそんな事するはずない。俺が偉くなるの散々嫌がってるの知ってるし、俺が考えてることは筒抜けだしな」
二柱がしょんもりしながらのの字を書き出した。
「真幸が死んでは困る。我は
「わしもじゃ。ただ人であるはずのお前さんは元々神力を宿しておる。そんな人間は今まで生きてきて殆どおらんしのう」
「生まれながらに神力を宿しているのは元々現人神なのだ。神が人としての姿をとっているに過ぎぬ。
過去にも酔狂な神がいた。輪廻に還り、人として生きたいと願い…生まれ変わりを続けている。それと変わらぬのだ」
「フーン…」
颯人と魚彦が目を逸らし続けてる。なんか変だな。俺と一緒にいたいと思ってたとして、颯人はわからんが魚彦は俺に聞かず俺の意思を無視してそんなことしないはずだし。
颯人の神器達が言ってた託宣の話が原因かもしれない。痛い目を見るってのが死ぬ程なのか、颯人と離れた時点で死にかけるのか、わからんけど。
でも、俺は元々人じゃなかったのか。だからこんな体で生まれたのかな。
何となく、自分の出自に納得がいくような気がする。
「芦屋さん…?」
「んぁ、あぁ…まぁいいや、それは。もう起きたことだし気にしてもしゃーない。」
「真幸は神様と子供にゃとことん甘やかしだな」
「鬼一さん、そーんなことないぞ。俺は冷たいやつなんだ」
「ハイハイ。わかったわかった」
「何だよぉ。鬼一さんまで…」
微笑みを浮かべた鬼一さんが優しい色をたたえている。妃菜も、飛鳥も、颯人も、魚彦も…。
「いいなぁ、芦屋さん…。ここはあったかいです。羨ましいです」
「安倍さんも仲間だろ?これからは寂しい思いしないよ」
「こうなれるのは芦屋さんだからです」
「そうかなぁ?」
「神様もみんな芦屋さんに夢中ですし」
「俺の生まれが人でないならそれが普通なのかもよ?」
「違いますよ」
安倍さんがきっぱり言い切って、アイスコーヒーを一気飲みして、たん!とテーブルに置く。…ど、どした?
「神も人も同じです。同じ種族だからって好き合うとは限らない。惹かれるのは人となりや、その人がやってきた事がどんなだったかなんです。生き様に惚れるんです」
「おおう…?」
「わたしは寂しがってばかりでした。欲するだけで、与えもせずただ与えられるのを待ってたんです。だから何も持ってないんです」
雫の溜まったグラスを握り締め、うん、と1人頷いた彼女の目には柔らかい光が灯っている。
「わたしも頑張ります!」
「なんかわからんけど…元気になったならよかったよ」
累がニコニコし出した安倍さんをじっと見てる。俺の服をギュッと掴んで…どした?
「累…?」
(累は真幸がいい。ずっとそばにいる)
「どうしたんだ、急に…あっ、そういえば…」
安倍晴明が先祖なら、累を生み出したのは安倍さんなのでは?
「安倍さん、累の事知ってる?」
「え?事情はお聞きしましたよ?」
「12天将に関係あるんじゃないかと思ったんだけど」
「確かにそうかもしれませんが…残念ながらわたしはまだ式神を生み出せる能力はありません。…だとしたら…その…」
「蘆屋道満か…」
安倍さんが頷く。累は胸元に縮こまってぎゅうぎゅう抱きついてくる。
「累は誰にも渡さない。俺と一緒に楽しく暮らして行くんだから…大丈夫だよ」
(ほんとう?)
「うん、累が嫌だと言うまで一緒にいる」
(言わないもん。真幸がいい。大好き)
しがみついてくる累が可愛くて、胸が苦しい。誰が生み出したとしても俺は累を手放す気なんてない。俺に力があると言うなら、現人神って言うんならきっとそうできるはずだ。
(俺も大好きだよ、累…)
涙を浮かべながら微笑む累の頭を撫でて、ぎゅうぎゅう抱きしめあった。
━━━━━━
「ただいま戻りました!」
「お邪魔します」
「伏見さん、是清さんもお疲れ様!かっこよかったよ」
「いやぁ、照れますな」
「芦屋さんに言われると格別ですね」
「うん、それで、ちょっと座ってお話しようか」
「「…ハイ」」
現時刻14:00。伏見さんと是清さんが帰ってきた。…自分のお家に帰らずこっちに来てるけどいいのかな。皆んな居るからまぁいいか。
何となく察してる2人にお茶を出し、ソファーに座ってもらう。
「お疲れのとこ悪いんだけどさ。あのね、マスコットキャラの名前なに?役員ならいいけど会長?随所に伏見ぱわー感じたんだけど?俺が死んだら崩壊するからな、って真子さんにガチで言われたんだが、そうならないように社長固辞したよね?」
「「ハイ」」
「真幸…仕方ないだろ。陰陽寮ってのは実力社会だ」
「せやで。腹括りや」
「社長…さんですよね。伏見さんまでそんな感じなんですか…」
リビングのダイニングテーブルに避難した皆んながなんか言ってるけど知らん。せめてキャラの名前は変えてくれ!
「伏見さん、マスコットキャラの名前だけでも変えて欲しいんだけど」
「任せるって言ったのにぃ」
「ぐっ…そりゃそうだけど…」
「僕は一生懸命働いたのにぃ。さげぽよ」
「…ぬ、ぬぅ…何でそんなギャルみたいなのっ!」
是清さんはお茶を飲んでポヤポヤしてるし、伏見さんも拗ねながらお煎餅齧り出した。…俺も言いたいだけだってわかられている気がする…くそぅ。
「はぁ…まぁいいや、もうどうにもならんし。お腹空いてる?」
「芦屋さんのご飯を食べたくて、ぺこぺこにしてきました」
「わ、私もご相伴に預かりたいです」
「わかった。オムライスだけどいい?」
「「はい!」」
累を抱えたままキッチンに向かう。
お昼に作ったチキンライスをチンして、卵を冷蔵庫から取り出す。
バターも使おう。疲れてるだろうし甘い物も出すか…この前もらった生クリーム大福があったな。冷凍してるから先に出しとこう。
「芦屋さん、累ちゃん預かりますよ」
「おぉ?安倍さん…大丈夫?」
「実はその、抱っこしたかったんです。かわいいので…」
「そうだろうそうだろう。累、いいか?」
(ちょっとならいいよ)
「んふ、ありがとな」
累に手を伸ばした安倍さんが両手で抱きあげて、上手に抱っこしてくれる。累も不安がってないし大丈夫そう。
「抱っこうまいね。下の子がいるの?」
「いえ…陰陽師の家系は子供がたくさんいますから、慣れてるんです」
「そっか」
冷蔵庫から卵を取り出し、牛乳とマヨネーズを入れて溶きほぐす。
サラダ油とバターをフライパンに入れて、火をつけてゆっくり溶かして行く。
「卵にマヨネーズ入ってたんですか?」
「そうだよー。オムライスの時はちょびっと入れると固まりやすいんだ。お酢でもいいけど、マヨネーズはコクが出るからね」
「へぇ…」
感心した様子の安倍さんがじっとフライパンを見てる。お料理するのかな?
バターが溶けたら卵液を流し込み、少しかき混ぜて放置。
縁が白くなったところで菜箸で端っこから真ん中に向かってはさみ、真ん中に固定してフライパンを回す。
「わ、わ!すごい!フリルみたい!」
「んふ。ドレスドオムライスっていうんだよ。半熟にできるしこうやって…お皿に移しても破れにくい。」
焼き上がった卵をチキンライスに乗せ、またフライパンに油を入れる。
「油とバターを使うのはどうしてですか?」
「油がバターの焦付きを防いでくれるからだね」
「なるほど…なるほど…」
「あ、ケチャップが少ないな…トマトペーストあったっけ…」
オムライスに乗せるにはちょっと足りないケチャップは作っちゃえばいいのだ。
トマトペーストを取り出し、オリーブオイルとバジルとお砂糖、味の素を入れる。残り少ないケチャップを混ぜて完成だ。
「ケチャップって作れるんですか!?」
「簡易的だけどね」
「すごい…いつからお料理してるんです?手慣れてますね…」
「いつから…うーん…わかんない。人が作った物を食べたのは、小学校上がってからだからさ。給食って美味しいよねぇ。あれがなければ俺もちゃんと育たなかったろうな。背が低いのは安倍さんみたいに一食しか食べなかったからなんだ。」
「……そう、なんですね」
「そそ。成長期は食べないとね。安倍さんも、これからはたくさん食べるんだぞ」
「はい…」
冷蔵庫に入れておいたキャベツとピーマンを混ぜたサラダもどきを乗せて、ドレッシングを垂らす。
あとはチキンライスと一緒に温めておいたスープをお椀に入れればオッケーだな。
「芦屋さんも、色々あったんですね」
「そうだねぇ」
「それでもこうして…正しく生きている」
スープをお椀に注ぐとホカホカの湯気が漂う。コンソメ独特の香ばしい匂い。
昔はお湯に溶かすなんて知らなかったから、そのまま齧ったこともある。しょっぱいんだよなこれ。
「正しいかどうかは分からんけどさ。そうありたいとは、思うよ」
「はい…」
「伏見さん達にご飯取りに来てって言ってくれる?お盆がなくて持ちきれないんだ」
こくり、と頷いた安倍さんが累を俺に戻してパタパタリビングに走って行く。
颯人が降りた、河川敷で初めて会った時のびっくりした顔。
将門の首塚で再会した時の絶望に満ちて、何かを諦めていた顔。
それとは違う笑顔がよく浮かんでる。もう、大丈夫かな。
(真幸、甘いの食べたいな)
「ありゃ、お腹空いたか?」
(いいにおいする)
「匂い嗅ぐとお腹空くよな。じゃあイチゴ食べよっか」
(うん)
「オムライスができたと聞いて馳せ参じました」
「いい匂いですね…」
「お、来た来た。オムライス持つから他の頼んでいいかな。汁物持つと転ぶんだ俺」
「あー、やりそうですね」
「否定できないです、すみません」
「自分で言っといて何だけど酷いよ」
出来立てのご飯に夢中な2人に微笑み、冷蔵庫から苺を取り出した。
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