56 真神陰陽寮 発足
『ご報告です。中務は現在警察に勾留されています。陰陽師営業課、あずかりは全て掌握済み。10:30からの国会中継で秘密結社の代表として出張りますので、私たちの勇姿をとくとご覧ください』
「お疲れ様、伏見さん。りょーかい。てか国会に出るの?」
『出ます。懇意の議員さんから改案を出していただくんですよ。提案、検討、決議と形式上の議会に通す手続きを行います。
おそらく今日はまだ決議には至りません。CMはもうバンバン流れてますし、テレビ番組にも生出演します。後ほど組織の概要共有をしますので、ノートパソコンで裏公務員達とオンライン会議ソフトを繋いでおいてくださいね』
「すごいな。俺何もできなくてごめん……」
『お気になさらず、適材適所ですから』
「うん……」
現時刻8:30 いつもの朝練と朝ごはんを済ませ、妃菜、鬼一さんと安倍さんがうちのダイニングテーブルに座ってお茶を飲んでる。累は俺の膝の上だ。
今日はみんな私服だ。安倍さんと妃菜の二人で色違いのワンピースを着てる。そう言うの初めて見たな……。鬼一さんはTシャツとカーディガンに黒パンツで綺麗目系ファッションだ。
いいな、かっこいいなぁーー。
俺は普段着持ってないから黒ワイシャツとスラックスです、ハイ。流石にネクタイはしてないけど。……お洋服、買おうかな。
安倍さんは昨日の晩にご飯を沢山食べて、早めに就寝したから顔色が随分良くなった。
伏見さんと俺が電話で話してるんだけど、後ろで是清さんの声がしてる。東京に来てるんだな……会いたい。
『念の為マンション外に警備がいます。いいというまで引きこもっていてください。芦屋さんが我々の頭だと中務は知っています』
「そりゃありがたいけど、頭は伏見さんちだろ?」
『いいえ。公表はしませんが芦屋さんの名前で納得しているんですよ、みんな』
「何でだよ。神社庁の人たちとか会った事も話したこともないぞ」
『あなたが訪れた所の全ての神職、神様から伝わっていたんですよ。
政府関連には仕事を見ていた自衛隊、警察官、一般の方からも知られています。警察や議員の反応を見たでしょう?
全て芦屋さんが理由なんです。適材適所と言いましたが、そのお陰ですんなり行ったんですよ。誰に聞いても『芦屋』の名は殆どの人から出て来ました』
「えぇー?俺はやる事やってただけだし。あずかりは伏見さんがいるからいいとして、裏公務員達も反発なかったの?」
『ありません。自覚がないのも困りものですね。同じ課の陰陽師がどれだけあなたに助けられた事か。問題児三人組も家の権力を振るってくれていますよ。
芦屋さんが為した事が、全てを結実させているんです』
「そっか、ありがたいけど、なんか、うん……」
ソファーに座って、颯人と魚彦に挟まれて、膝の上に累を抱えて縮こまる。
そんな風に言われると恐縮するしかなくなるだろ。倉橋君が昨日言ってたのはそれか。
伏見さんから結社の話を聞いて、「僕も頑張りますから!絶対役に立って見せます!!」って顔を真っ赤にしてた。
俺はまだ彼に優しくできてないのにさ。力を貸してくれたんだな……。
『さて、私は最終打ち合わせに行きますので』
「うん……伏見さん、頼んだよ」
『はい!お任せください!では』
通話を切って、みんなでソファーに集まりテレビをつける。
妃菜がお茶を淹れなおして、鬼一さんがノートパソコンを立ち上げた。
映画でよく見る司令本部みたいだな……。何だかワクワクしてきた。
「なぜなに陰陽師!日本の皆さんこんにちは!わたしは皆さんにこの国の真実を告げる
〝
のマスコットキャラクター、
「おーーい、待て。何だその名前!」
裏公務員になって初めて見た『なぜなに陰陽師』のDVDキャラがテレビのCMに出てるんだが……名前どうした。おかしくない?
「
「
「俺の名前隠す気ある?ないよね?」
「良いではないか。とても気分がいい」
「そうじゃのう。ワクワクするのう」
ええい誰かツッコミ役は居ないのかっ!
「CMまで流れるんですか……凄いですね、いつから新組織の準備をされていたんですか?」
「安倍さんは知ったばかりだもんね。日数的には1ヶ月前後の出来事だよ」
「はぁぁ。それで国家公務員の一組織を覆そうとしているなんて……。伏見さんも凄いですし、芦屋さんも凄いですね」
「俺は何もしてないんだけどねぇ。多分、俺が知る前からずっと準備してたはずだよ。伏見さんちがすごいんだ」
「ふふ、そういう感じなんですね。伏見さんは相変わらず優秀な方なんだなぁ」
安倍さんがニコニコ笑顔でお茶を啜り、テレビをじっと眺めてる。そうだな、安倍さんは伏見さんとの付き合い長いんだから知ってるか。
「皆さんがトゥイッターで呟いていた通り、この世には神も超常も存在しています。なくしちゃいけない祠しか存在してないんだからね⭐︎絶対壊さないでね♪」
「我々
「元々『裏公務員』としての組織はありましたが、現代の中務はその役目を果たせず天変地異を起こし、皆さんは苦しい生活を余儀なくされてしまいました」
「しかし、真神陰陽寮はすでに仮の国護結界を成し、これによって天変地異は少なくなっているはずです。みんなも季節の息吹を感じてるよね!
これから先は、もっとそんな風に……あるべき姿へと日本が戻って行きます!」
だ、大丈夫かこれ。中務の名前だしてるんだけど!?でももう国会で審議をするくらいだしいいのか?
テレビを眺めていると、パソコンのオンライン会議画面に陰陽師達がログインしてくる。
「あっ、おはよう椎名さん。足の怪我治ったか?」
「おはようございます課長!もう治りました!先日はありがとうございました!」
「そりゃ良かったよ。篠崎くん、由良くん、長谷部くんもおはよう」
「おはようございます!」
「課長!こないだの案件解決しました!」
「おはようございます!土地神様からお土産もらってますよ!」
次々ログインしてくるから、おはよう何回言えばいいんだ?みんな元気そうだな。
全員が揃ったところで真子さんがログインしてきた。
「おはようさんです」
「真子さんおはようございます」
「お元気でしたか?巫女舞はマスターされたようで何よりですなぁ」
「は、はい……」
「弟子の出来がええからですわ、真子さん。本家本元とはちょーっと違いますけどぉ。やり方
「……チッ」
ちょ、何!?妃菜は何で突然抗戦的なの??何その笑い方????
怖っ!真子さん舌打ちした!!
「では皆様揃いましたので、新組織についてご説明申し上げます。メモは残さず覚えてください。防音結界を張り、神を顕現して音が漏れないようにご注意をお願いいたします」
全員が立ち上がって柏手を打つ。
俺も俺もー!
「真幸、ここは嫌と言うほど結界が張り巡らされてる。これ以上増やすな」
「せやな、まるで鳥籠やで。虫も入れるか怪しいわ」
「……しゅん」
ちぇ、なんだよ。みんながやってるから一緒にしたかったのにさ。でも、神様達も伏見さんも沢山結界張ってたもんな、そうだよな……。
「おほん、では概要説明を始めます。皆さんには昨日将門の首塚で成された、中務逮捕事件を知らせしております。よって、全てを把握済みと認識した上でお伝えしますので心してお聞きください」
「今日の国会では形式上の提案を行い、明日決議となりますが、改案・新組織設立・国家公務としての認定は事前に決定されていま。」
「各省庁からも協力承認を得て、既に宮内庁から皇室へも通達済み、広く国民の皆様に認知していただくためにCM、国会中継を流します」
「組織体系も後ほど皆さんには伝えます。役員は既に決定済みですので、口を挟まんでください。わかりましたか?芦屋さん」
「……ウェイ」
細い目のままなのに眼光鋭いのは何なんだろう。真子さん怖い。
「新組織の名前は、
我々の目的は【国家安寧】
超常を管理・平定し、神々と共に手を取り合い、この日本に暮らす皆さんをお守りする事です。
お給料もお仕事内容も今までと変わりませんが、庁舎は独立し新しく建立することになります」
へーなるほど……って、みんなして俺をじっと見ないで。俺も初めて聞いたんだからね。どーせ俺が建てるんだろ?わかってますよ。
「次に、組織内部役員をお伝えします。
まず監査、管理役会。
正式名称
会長・
役員・
これに神社庁の神職複数名が加わります。
営業員と兼務しながら、教育機関の講師としても尽力していただく予定です。名前の通り組織自体の監視、皆さんが円滑に仕事を為しているかをチェックします」
「……はぁ」
「ため息禁止ですよ、会長。続いて
社長・
副社長・
私達はあなた達が動けるようにお手伝いする総務の役目ですからお気軽に接してくださいね。続きまして……」
真子さんが次々に名前を呼び上げる。
ため息しか出ないですー。何だよ会長ってぇ。組織図で言うと社長より上になっちゃうじゃないかっ!もおぉ……。
しかし
神様を導く鹿の目っていうことかな。新組織として色んな名称を変えるみたいだ。
組織全体は『
大きく変わるのは国からだけでなく、一般の人から直接依頼を請け負うようになるらしい。
管理事務のあずかりはそのままの名前。
陰陽師営業課のみんなは『
神継はランクが設けられ、それぞれお給料や仕事内容が変わる。
下からいつゆび、よつゆび、みつゆび、ふたゆび、ひとさしとなる。
……覚えられるかなこれ。
「皆さんが覚えて欲しいのは芦屋さんが偉いことと、ランクのことだけで結構です。トップランクのひとさしは芦屋会長のみ、ふたゆびは
「……」
「ぷっ、真幸の顔みてや鬼一さん」
「心底嫌そうな顔してるな」
嫌に決まってんだろ!なんでもかんでも偉くしてええぇ……!!お任せした手前何にも言えないけど。
随所に散りばめられた何もかもが伏見一族の『フッ』という感じの気配がある。
ま、仕事が変わらんのなら何も考えることはないか。あずかりの伏見さんに全部任せればいい。俺は知らん。
「陰陽師から
「私達も含め全国の神職はあなた方を全面的にサポートいたします。お仕事の仕方はご存知かと思いますが、今後民間の依頼を請け負うため霊力のある一般の方・神職からもスカウトを行い人員を増やします」
「常に
研修生もお給料が出ます。また研修生用に専門学校を作り警察学校と同じく一年で卒業、その後神継としてのお仕事をしていただく国家公務員となります」
ほー、学校か!それは良いな。人が増えて、仕事も余裕が出てくると良いんだけど。
膝の上に乗った累を撫でる。この子には寂しい思いさせてるからなぁ……一緒にいる時間が欲しい。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「あの、真子さん。わたしはどうなりますか?」
真子さんの問いかけに不安そうな顔で安倍さんが手を挙げて、画面を覗き込む。
俺たちはパソコンの前から避けて、彼女を正面に座らせた。
「あなたは
「は、はい」
画面からざわざわとどよめきが広がる。真子さんが微笑み、安倍さんに目線を合わせた。
「あなたの仕事につきましても精査しておりますので、神継としてお仕事をしていただきますよ」
「でも、私の神様は……」
「お聞きしております。鹿目の人員からも管理部門からも問題ないとの結論が出ていますので、ご心配なく」
「あ、ありがとうございます。あの、中務はどうなるのでしょうか?」
「現在の中務は全員警察に身柄を移し、国家反逆罪を視野に入れた捜査が行われます。現時点では拘留ですが、逮捕は確定しています」
「そう、ですか。あの、あの……結局のところどなたが主犯として逮捕されるのですか?」
あ、そうだ。確かに。
伏見さんが言ってたな。それを知るならあずかりを辞さねばなりません、と。
もう動いてるってことは知ってるんだ。ちらっと目線を送ると真子さんが頷く。
「中務のトップは……
「ん?
「
「……マジか。マジかぁ……」
蘆屋道満は現在の兵庫県加古川市に生まれ、生まれた時から神通力を持っていた陰陽師。現代では
しかし、彼は生家の近隣住民を助けたという記録が残っている。政府に属さず自ら国のために仕事をしていたと。
年齢的にも安倍晴明と37歳ほど差があり、蘆屋道満の方が若かった。
なぜ彼が悪という存在になったのか。
それは政治的な要因が強い。
当時の朝廷に複数の子女を嫁として送り込み、権力を得た
彼自身がどうだったかの記載については驚くほど記録が少ない。
ただ、内裏で行なわれた安倍晴明との呪術勝負で騙されて負けたり、ライバルと言われながらもおちょくられてカモにされていた感じの……なんとも可哀想な逸話が多い人だ。
でもさ。もし生きてたらもう1000年以上生きてることになるんですけど。
そんな事ある?現人神って昭和天皇が自身を「人間だよ、わし」と宣言してから形式上でしかいないはずなんだが。
「皆さんが驚くのも仕方ないですが、これは現実です。
蘆屋道満は流罪になった原因の安倍晴明に少なからず恨みを抱いた事でしょう。安倍晴明直結の子孫である在清さんは、迫害を受けていましたね」
安倍さんが項垂れ、黙り込む。
彼女には関係のない話なのにな。血脈だからって先祖の恨みを子孫で晴らすなんて碌でもない考えだ。
「私たちは、人間です。千年の時を
でも、きっと皆さんはそうならないと信じています。私たちがサポートするのはもちろんですが、芦屋会長があなた達の頂点に立つ人だからです」
画面に映るみんなが、俺を見つめてくる。安倍さんが笑顔で席を立ち、颯人と魚彦がグイグイ押してくる。
な、何だよぅ。やめてくれよぅ……。
妃菜も鬼一さんも何でニヤニヤしてんだよっ。画面の向こうのみんなもなんだか笑ってる。むーむー。
「ね、会長。あなたの背中をみんなが見ていますよ。長生きして真神陰陽寮をしっかり教育して下さい。あなた自身がこの国の和平の要なんですからね」
誰一人としてかける事なく裏公務員から神継になってくれた、みんなが期待に満ちた眼差しをくれる。
初めて陰陽師課のフロアに来た時はこんなじゃなかった。煙の中で、冷たい視線しか感じなかったのに。
俺だけが頑張っていたんじゃない。元々こんな風にキラキラした人達だったのに、そう出来なかっただけの事なんだ。
今新しい組織で、正しく働けるようになったのは伏見さんや神職さん達のお陰だ。みんなが、俺を受け入れてくれたから。
「俺が偉いっていうのはあんまり考えたくない……だって、俺たちは仲間だ。みんながみんな、一生懸命働いてくれてるから今があるんだと思ってる。
今まで通り神様と協力して、新しい組織で手を取り合って頑張ろう。
俺はみんなが幸せになって欲しいし、大切な人が暮らす場所を守りたい。
この世に降り立ってくれた颯人達……神様達が産んで守ってくれるこの国を、皆と一緒に大切にできたら嬉しい。これからもよろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げるとみんなが拍手してくれる。
熱が上がった頬を両手で抑えると、颯人が泣きそうな顔で寄り添ってくる。
「我が一番のばでぃなのだぞ」
「しょうがない奴だな……何回でも言ってやる。
颯人が一番で、唯一無二のバディだよ。俺の周りにいる人たちは皆んな大切だけど、颯人は別次元なんだからヤキモチ妬かないの」
「うむ、うむ……わかった」
「はい、では夫婦漫才に癒されたところでお話はここまでとなります。
新しいお仕事につきましては、今現在お持ちのアプリをアップデートして下さい。しばらくは外に出られない方もいますが随時連絡を取り合い、連携していきましょう。
外に出られる方も、身の回りに気をつけてください。何かあれば必ず緊急連絡のボタンを押すように。お疲れ様でした……では」
真子さんが微笑みながら終幕を告げる。一人、また一人とお疲れ様でした、とログアウトして行く。
真子さんの喋り方は伏見さんにそっくりだ。仕事の時は京言葉が抜けるんだな。
なんか、安心する。夫婦漫才はいただけないけど。
おおい……倉橋君なんで泣いてんの。加茂さんは良い笑顔。弓削君もピカピカのヤンチャな笑顔をくれる。
問題児三人組は……元、になったかな。あの子達とも早く仕事がしたい。
「……芦屋さん」
「ん?どしたの真子さん」
最後に残った真子さんは目を細め、真剣な顔になる。細い目が僅かに開き、鋭い目線が俺を貫く。
「あなたがいなければこの組織は総崩れになります。決して忘れないでください。何が起きても、生き残ると約束して欲しいんです」
文句言いたいところだけど、そう言う形にしたなら仕方ない。
そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
「そうだな、頑張るよ。真子さんありがとう」
鋭い視線が緩み、微笑んだ彼女を写し、初めての会議が終了した。
鬼一さんのなんとも言えない深いため息とともに、パソコンを閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます