第24話 そうだ、京都へ行こう その5



薄暗がりの中、百匁蝋燭ひゃくもんめろうそくが立ち並ぶ。

 時代劇みたーい⭐︎なんて言ってる場合じゃなさそう。

 

 ククノチさんの勾玉を飲んだ俺は、ピカピカの復活を遂げてしまっている。いい加減慣れたがそろそろ打ち止めにしたい。……うっぷ。

 

 伏見さんがふらふら立ち上がり、そして座り込む。俺と違って消費したものを回復できる術がないからなぁ…。結構霊力消費したし、顔色が悪い。

 

  

「伏見さん、無理しないで。座ってやろう」

「すみません…では」


 


 俺たちの前に並んで座る伏見さんご一家。みんな同じ顔してるー!

 いいなぁ、いいなぁー。血の繋がりがある家族って素敵だなぁ。


「芦屋さんから向かって左側が父…是清これきよ、母のさくら、姉の真子まこ、私が末の長男清元きよはるです。古くから伏見稲荷大社を管理し、ウカノミタマノオオカミを勾玉と共に相伝しています」

 

「清元…」

「父上、既に初見で見破られています」

「そうだったのか!?」

「あらあら〜」

「……」

 

 お父さんが細い目をカッと見開き、お母さんがニコニコしてる。お姉さんだったんだな、明日俺に巫女舞を教えてくれる真子さんは困った顔してる。

 颯人もそうだけど、神様の名前をおいそれと話さないのは常識のようだ。初めからやらかしていたんだな、俺。

 

 そして伏見さんの名前を初めて知ったぞ。清元きよはるさんか、かっこいいな…。

 と言うかお母さんは一族の血が繋がってないはずなのに、なんで糸目なの?


 

 

「ウチは夫の親戚ですから。濃い血統なんで、みんな糸目ですよ。ウフフ」

「お母さんまで察せるの?!伏見家の血を感じるなぁ…んじゃこっちの紹介もします。

 俺は芦屋真幸。一般家庭出の一般人で陰陽師一年生です。バディの颯人、眷属のスクナビコナ…呼び名は魚彦、赤城山の山彦、タケミカヅチ、なゐの神、茨木童子とヤトノカミ、さっき契約したばかりのククノチノカミです」


「改めてお聞きすると戦慄しますね」 

「「「………」」」


 伏見さん以外みんな沈黙してしまった。今後は毎回こうなるのかも知れん。この反応がスタンダードだと思うことにしよう。



  

「あの…ご依頼通り、先程お稲荷さん…いや、アメノウズメノミコトのアトリエに社を建立しました。

 事前に相談すべきだった、と後から気づいたんですが…鹿島神宮の要石と、東京の素戔嗚神社、北海道の樽前山神社たるまえやまじんじゃにも仮で結界を繋いでます。もし…大丈夫でしたらククノチさんと契約したのでそのうち北海道とも完全に繋げるかもしれません」


 俺がモニャモニャしながら言い切ると、是清さんが立ち上がって俺の肩をガシッと掴んだ。

 アッ、怒る?勝手に繋げてゴメンナサイ。



  

「な、なんと…それは国護りの結界…国護結界こくごけっかいではありませんか!しばらくの間なくなっていましたが…為せる陰陽師がこの時代に生まれて下さるとは。我々にとっても僥倖ぎょうこうです。ありがとうございます!」


 頭を下げられて、冷や汗が出てくる。

 怒ってないならよかったけど、守りとかそう言う目的が第一じゃないから良心が痛む。稲荷五神の自由度をあげたかったからなんだもん。

 煩悩強めで訳もわからず繋げちゃったから、やはりゴメンナサイと思わざるを得ない。


 

 

「その辺も含めていろいろ教えてもらわないと…俺は何も分からないままやっているんです。国護りやら身のうちの五行やら、全然知らなくて…すみません。」

 

「一般のご家庭出身ならそうなりますよ。お気になさらないで下さい。

 明日は巫女舞の指南がありますし、予定通り霊力の計測やご先祖様を探りつつ、ご説明をすると言うのはいかがでしょうか」


「おお!そうしてもらえますか?」


 お父さんが首是して、伏見家の皆さんが一斉に立ち上がる。皆んな着物なんだねぇ…神主さんしてるんだしそうなるか。



 

「芦屋さんはこの水晶を持っていてくださいね」

「「はい」」

 お父さんから手のひら大の水晶を手渡される。おぉ、何かしゅごい。良くわからんけど。

 真子さんとお母さんは四方に棒を立てて、紙垂のくっついた縄で俺たちを囲んでいく。

  

 

「真子たちが今やっているのは祝詞とは違う種類の結界…この世の穢れと分離させるものです。簡易神域とでも言いますか…神降しの際に良く使われる物ですね」

「ほほおおぉ…」

 

 ほー、これってそう言う結界なのね一。いかん、妃菜の神降ろしの時にもあったのに気にもしてなかった。ちゃんと覚えておこう。

 


 

「私は芦屋さんの記憶の中に潜り、血でご先祖様を探ります。水晶を持ったままじっとしていて下さい。

 清元きよはる、後の説明を代わりなさい」

「はい」


 お父さんが結界の前に座り、脇に伏見さんが正座で座る。…伏見さん大丈夫かな。


「真子、さくらは外に龍神結界を」

「「はい」」


「では、はじめます。」



 

 是清これきよさんが静かに目を瞑る。

 水晶がほのかに紫色を灯して、なんともいえない色に部屋の中が染まっていく。

 む、ムーディー…だな。

 

 外からは雨が降る音が聞こえてきた。

たつ、たつ、と屋根を叩いた雨粒はザーッと一斉に降り注ぎ雨天特有の匂いが立ち込める。

 

 すごいぞぉー!伏見家は御一家みなさんで陰陽師できるのかぁー!いや、この場合は神職さん????

 俺はイマイチこの辺の線引きがよくわからない…。

 

 紫色の光がほわほわと俺の手から伝わってきて身体に染み込んでいく。

 わずかな耳鳴りの後、静寂が訪れた。

 


 

「これも陰陽師の術?」

「そうです。緊急性のないものですから、芦屋さんには教えるとしても全てを終わらせた後になるでしょうね。」

「そっか、わかった」

 

「さて…まずは、国土を守る国護結界についてご説明します。」

「お願いしまーす」


 伏見さんが頷き、語り始めた。


 

 

 ──かつて、日本の国土を守る国護結界こくごけっかいは日本が始まった頃、神話の時代から存在していたとされています。

 現行で私たち人間が確認できる書物の記録は平安時代から。

 安倍晴明あべのはるあきら蘆屋道満あしやどうまんなどの有名な陰陽師達がった時代。政治の中枢である中務に属した陰陽寮は、今と同じくれっきとした国家公務員でした。

 政界の吉凶を占う事や星占いによる予言、暮らしの清め祓い、国護結界の維持までが仕事とされていたんですよ。


 

 各地の神社仏閣、祠や道祖神…小さな塚まで、超常を抱えた全てを『つなぎ』として機能させ、それの『要』となる陰陽師や神職が神様に協力を得て結界を張り、天災を防ぐ物として国護結界を成し、日本全土を守っていました。

 

 そんな中、六世紀ごろ仏教が日本に伝播でんぱし、聖徳太子が広めました。仏教は神道と混じり、現在の日本の生活へ溶け込んでいます。

 手水舎てみずやや狛犬がある神社はその名残ですね。

人々に愛され信仰を集めた結界の『繋』が強かった頃は、大きな天災は殆どありませんでした。 


 

 明治元年、明治政府が神仏分離令を出し、仏教だけでなく神道も弾圧されました。

 敗戦国への抑圧、政治と宗教を分ける目的です。

 神を胸に宿した日本兵は、強かったのです。信念をもつ兵士たちは名誉のためにも死ねる人達でした。それを危険視された結果でしょう。

 

 さらに敗戦後の開拓などで、国護結界の繋ぎとなっていたものが少しずつ消えていきました。結界を繋いだ『要』の人も代替わりし、力の強いものは生まれなくなった。

 それに伴い国護結界自体も弱くなり、殆ど効力が消えました。陰陽師も絶滅期危惧種となっていますから、『要』として要所を繋ぐ人物が存在しなかったのです。

 大正時代には大きな天災が起こり始めていますから、奇しくもそれが証明になるでしょう。


 

 最終的には土地開発、そして後継がいない少子化問題が後押しとなって大小様々な『繋』がなくなっていき、残されていた祠や道祖神などはトゥイッターで囁かれていた通りに…壊してはいけない、最後の砦として僅かに稼働していた。

 

 それが一斉に壊されたその時、完全に国護結界は消えてなくなり天変地異が次々に起こりはじめました。

 芦屋さんがやっているのは純粋な鎮めや建立の筈でしたが、ワープポイント…『繋』の設置にもなり、それが結果として国護結界の作成になりつつある。

 現在のデータでは芦屋さんが訪れた場所は既に、天変地異が起きなくなっています──



伏見さんは語り終えてため息をつき、目を閉じる。いろんな気持ちが去来してる感じだなぁ…。

 


  

「私としては、まさかそんな陰陽師が現れると思っていませんでした。あなたが成してきたことは全て予想外でしたね…」

 

「ふーむ。詰まる所、国護結界を張り直せば日本は平和になる?」


「はい。国の統治、平和はまずもって危害が加えられないことが最重要項目になります」

 

「そりゃそうだよな…直しても直しても壊れちゃうからお金もなくなるんだし…俺が『要』となって『繋』を設置、それを増やして国護結界広げれば…日本もハッピー&ピースって感じでいいのかな」


 

「そう、お願いしたいとは思っています。今日の今日で判明した事ですが、それしかないとも思います。芦屋さんにおんぶに抱っこになってしまうのが心苦しいですが」 

 

「役に立つのは構わんのだけど…はっきりさせておきたいことが複数ある。わかってるだろ?」

 

「はい」


 

 

 この前の茨城の事件の犯人。

 誰が最後の祠達を壊したのか、

 陰陽師を教育しない政府。

 国護結界を作っていないこと。

 

 どう考えても最善策を施してない。俺みたいな素人が今の話を聞いても思う。

 

 日本を本気で立て直すなら、『繋』と『要』を…国護結界を最初に作るべきだ。天災を収めなければ何をどうしたって崩壊する一方だし金は際限なく消えていく。 

 『要』となる陰陽師が力不足なら、それを育てればいいだけだと思う。

 鬼一さん、妃菜だって成長してる。それなら陰陽師みんなが出来るはずの事なのに何故しない?


 伏見さんのつよい目は、何かを掴んでいると思わせる。きっとそれを話すためにここに来たんだ。


 


「じゃ、それは後ほどね。俺の強化のために京都に来たのもあるんでしょ?」

 

「はい。芦屋さんは実質上営業のトップです。これから先、様々な意味で困難が起こるでしょう…託宣を受けられましたね」

 

「あー、あれかぁ…」


 神器たちが言っていた『颯人と離れる、痛い思いをする』ってやつだ。こうなってくると妖怪や荒神達だけじゃなく、俺が考えている通りならお偉いさんからも狙われることになるかもな。

 

 『お前は知りすぎた』ってやつだ。そこから身を守らないといけないんだ。



 

「何となくわかったよ。俺は伏見さんのことを信じる。やる事やって、ハッピーエンドを目指そう。俺はそうしたいからさ」

「…っ…はい…はい!!」


 唇を噛んで、まだ何も伝えられずに居るだろう…色んなものを抱えたままでいる伏見さんが目を瞑る。

 俺のために言わないでいてくれたんだ。

 伏見さんも、もうずっと前から大切な仲間だったんだな。



 

「はぁ…芦屋さんは、私の第一印象をかき消していきますね」

「モサくて冴えないしょっぱい男ですいませんね」

 

「私は、あなたを尊敬していると言ったでしょう。あなたの全てを知っている。過去は…一部しか知りませんが。モサくて冴えない、しょっぱい人なんか知りません」

「んっふふ…その言い方いいな。癖になりそう」


 表立って褒めないってのが伏見さんらしいよな。大好きだよ、そういうの。


「…父はもう少しかかりそうなので、身の内の五行もご説明しましょう」

「はい」


 伏見さんが微笑み、俺も微笑みを返す。

 こういうのたまらんなぁ。んふふ。


 


「五行というのは木、火、土、金、水のこと。この五属性によって万物は成り立っています。陰陽師の基本でもあり神様にも属性があるのですが…勾玉によってあなたの身のうちに五行が完成しました。

 木・ククノチノカミ。火・颯人様。土・なゐの神。金・タケミカヅチ。水・スクナビコナ。このように分類されます。

 ククノチノカミ殿がご自身が必要だとおっしゃったのはこの為だと思います」

 

「ほっほ、そうじゃ。儂が入れば真幸は簡単に害されなくなるんじゃから」


「ぬー。ククノチさん…そういう理由で勾玉よこしたの?」

 

「皆そうではないのかな?突発的な事象が理由とはいえ、お前さんの中に入ればどのように生きてきたかわかる。その上で儂は契約したいと思ったのじゃよ」

 

「でも、前みたいに好き放題あっちこっち行けないだろ?俺が呼んだら来なきゃいけなくなる」

 

「それでいいんじゃよ。神にとって人の生は瞬きの間。お主に宿るのもまた一興じゃ。

 わしの膝を撫でてくれた…優しい暖かさを持つお前さんの過去は、胸が痛い。

 傍にいて支えてやりたい、と惚れ込むくらいの生き方をしているんじゃ。儂らの事など気遣うよしはないぞ」


 ちょっと恥ずかしいなぁ。碌でもない幼少期を知られてしまうのは。

 でも、それでも惚れ込んでくれるっていうなら…傍にいてほしい。

 俺を認めてほしい。

 承認欲求の化け物なんで、俺。


 


「そう言ってくれるなら…俺の力になって欲しい。ククノチさんが決めた事に甘えさせてもらうよ。よろしく頼む」

「応」

 

「…いいですね、私も死んだら妖怪にでもなりたいものです。芦屋さんの眷属になりたい」

「だーもう!そういうのいいからっ!そ、そんで五行が完成すると害されないってのはなんだ?」


 俺の顔は今きっと真っ赤になってる。あっつい。みんなして俺を持ち上げるんだから。やめてくれっ。


 


「褒められ慣れてませんね、そこがまたいいんですが。

 五行の完成は説明が難しいですが…人の魂は不安定なものです。精神的なもの、肉体的なもの、全てを環境に左右される。古代神話の日本のような存在なのですよ」

 

「あー、五行は国護結界結の『繋』とか日本にとっての要石と同じってことか…みんながふわふわした俺を繋ぎ止めてくれるんだな」


「その通りです。五行の勾玉はあなたの不安定な魂を固定し、命の座標を定め守ることであなたはさらに成長する。レベルアップというよりは…そうですね、転職的な感じです。遊び人から僧侶、魔法使いを経て賢者になるのと同じです」

 

「懐かしいな、そのゲーム。好きだったよ。やった事はないけどなぁ」


「その辺は、後で詳しくお話ししてほしいですが…時に任せます。あなたが何も聞かないように、私もお聞きしません」

「ふふ、ありがとな。はー、じゃあそろそろネクストステージか…明日は巫女舞…嫌とか言ってられないなぁ…」



 

「何故嫌なのだ。我は最初から舞わせるつもりだった」

「やっぱりか!颯人は確信犯だな!?」

 

「巫女舞は必要になる」

「妃菜が言ってたけど巫覡ふげきでもいいんだろ?巫女舞じゃなくて神楽があるじゃん」

 

「ならぬ。真幸は巫女なのだ」

 

「俺は男だって何回言えばわかるんだよ。魚彦もなんか言ってやってくれ」

「真幸、諦めた方が良い。此奴は元々人の言う事なんぞ聞いた試しがない」

 

「え、でも呼んだら来てくれるけど…」

「そりゃばでぃだからじゃろ?ワシも呼べば必ず応える」

「へへ…そうか。嬉しいよ」


 

 

 魚彦を思わず撫でると、横からヤトが割り込んで来た。

 

「ヤトも撫でて欲しいのか?よしよし」

「アゥン…」

「オイラも!順番待ちしてたんだぞォ」

「茨木もごめんな、おいで」


 茨木が向かい合わせで膝の上に座り、顔を寄せてくる。刈り上げかわゆ…思わずしょりしょりしてしまう。


 

「俺も渾名あだなで呼べよ」

「タケミカヅチだと呼び難いしな。なんて呼ぶ?」

暉人あきと

「お、かっこいい。じゃそれで行くか。なゐの神は?」

 

「今風な感じがええな。ワイはなうい男になりたいんや」

「ナウいは死語だろもう…うーん。地震は抑えてほしいしな…抑える…律する…」

「ふむ、震律でシリとかどうや?」

 

「えっ…ヘイSiriになっちゃうぞ」

「…あかんの?」

 

「あかんと思うからとか?フランス語で花が咲くって意味だよ」

「ええで!雅やな!!」

 

 

「オイラも茨木じゃなくてなんか違うのにしてくれよォ」

「茨木は…ラキってのはどう?」

「ヤトと似てるしいいな!そうしろォ」


 

 ニコニコしてると、袖が引っ張られる。山彦が小さな声で、「ぼくも」とつぶやいた。


「ああっ!可愛い!!山彦かわいい!!」

 

 赤城山神を真似て、額にチューチューしてしまう。

 控えめでおっとりしてて、甘えん坊なのがたまらん!


 

「我にはせぬ事を…恋してちゅーする約束はまだ果たされておらぬのに」

「山彦は子供だからいいの!額のチューは友愛のチューだ」

「ぬぅ…」


 颯人は放っておいて…渾名だ。

 山彦はやまびこだからなぁ…難しい。


 


「由来が欲しいな…暉人あきとは雷の様子が由来なの?」

「そうだな。光り輝く雷の神だからだ」

「颯人もそう言う感じだよな…うーんうーんうーーーん。」


 スマートフォンを取り出して、ウェキペディアを見てみる。

 赤城山の眷属だったし、そこから由来が欲しい。

 赤城山…黒い羽…うーん。赤黒…。

 胸赤黒浄海ムネアカクロジョカイが思い浮かぶ。蛍のことだ。

 赤城山にも蛍はたくさん飛んでるかな。いいかも…赤黒で…。


「赤城山と黒い羽で…赤黒あぐろは?蛍のことなんだけどさ、赤黒は控えめで優しいから…いいかな、って」

「それがいい!」

 

 山彦改め赤黒あぐろがぎゅうっと体にくっついてくる。

 あーかわいい。癒される。たまらん。



 

「じゃあ、タケミカヅチは暉人あきと、なゐの神は震律ふるり、茨城童子はラキ、夜刀神はヤトのままで、山彦は赤黒あぐろだな」


 全員がこくり、とうなづき謎の金色の光が身を包む。え?なにこれ。メタモルフォーゼ?



  

「あぁ…魂の結びつきですよ!あなたは神様と同じく、彼らを自らの眷属にしたんです」

「えっ!?何それ?」

 

「名を与えると言うのはそう言う事です。鬼一にヤトを下せませんね、これは」

「あばば…ヤバい。でも…うん。ヤトはあげられない。もう家族みたいなもんだ」


 キュウ、と鳴いたヤトが毛の色を真っ白に染めて、ラキと同じような赤いアイラインと額に紋様が浮かぶ。

 なんじゃこりゃ…家紋か?葉っぱがぐるっと一枚丸まってる模様が出てきた。


 


「そっ!!それは芭蕉紋!!そうか…彼の旅の始まりの地は千住大橋…颯人様との巡り合わせはやはり運命でしたか…」

「へ?何それ?ばしょう?」

 

「なるほどな。我が共に旅したのは松尾芭蕉という名の人間だった」

「え?松尾芭蕉ってあの松尾芭蕉?」

 

「松尾芭蕉は一人しかいませんよ。奥の細道を書いたあの人です。

 そうだ…確かに彼は1日50km移動していたり、人間であの歳の人にしてはおかしなことが多すぎる。颯人様と共に居たとしたら、合点が行きます」

 

「へ、へぇ?なるほど?」



 

 え、なにそれ。いきなりご先祖様?の話されましても。知らんし。

 松尾芭蕉って俳句の人じゃなかったっけ?ちょっと調べよ。


「我が真幸に惹かれたのはそれか。とてもよい。生まれ変わりなら尚のことよいのだが」

「何でだよ。俺なんも知らないし。今調べてもって書いてあるのに、そう言われてもわからん」


 

「それは後ほどな。我が教えてやろう」

「教えてくれるならまぁいいか。お父さん…まだかなぁ…」


 目の前で冷や汗をダラダラ流してる是清さん。大丈夫か?


 


「もう少しかかりそうですよ。よっぽど過去の事情が深いのでしょうね。」

「うっ…」


 なるほど、是清さんにはバレてしまうのか。うっかりしたな。


 

 

 背中に颯人が回ってくる。

 そこに体を預けて、ひっついてくるみんなを代わりばんこに撫でる。

 

 ラキはお化粧がちょっと派手になった。

 ヤトは尻尾の先と靴下みたいに黒を残して真っ白。ラキと同じようなお化粧してる。四脚尾黒よつあしおぐろ四脚尾白よつあしおじろは神の使いだけど、黒もなのかな?

 赤黒あぐろまでお化粧してる。

 暉人あきと震律ふるりは髪の毛がバッサバサに伸びてるし。何事なの。


 変わらないのは魚彦と颯人だけだ。

 二人にはこのままでいて欲しいな。

 

 

 

「真幸がそう望むなら叶えてやろう」

「そうじゃな、ワシもそうする」


「あのー。誰か忘れてないかのう…」

「はっ!?ククノチさん!!!」

「儂は新参じゃし…魚彦殿とキャラ被っとるし…いいけどのう…」


 のの字を書き始めたククノチノカミ。

 正直すっかり忘れてた。

 ククノチさんはククノチさんでいいと思う。サンタさんみたいな髭、好きだしそのままがいいな。


「真幸がそう言うならいいじゃろう」

「頭の中覗かないでくれよぉ…まぁいいか。みんな仲間だし。命を預け合うんだもんな」


 みんなで頷き合い、なんとなく面映い心持ちになった。

 





 

 

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