第19話 そうだ、京都に行こう その1



「賃上げを要求します!!!!」

「はい、そうしましょう」

 

「そうでしょう!そうだと思…えっ?」

「賃上げ、致しましょう。今の倍くらいで申請しておきます」


「倍!?いや、あの、そんなすぐ了承しちゃうの?俺まだ最初のプレゼン導入トークしかしてないのにっ!!」


 事務室に乗り込み、伏見さんに向かって叫んだ手前引っ込めなくなりました。

 


 

 

「あなたが賃上げと仰るのは、先ほど仰った神様達の飲食代でしょう。元々昇給の話は出ていましたから、すぐに通りますよ」

「マジ!?あいつら大喰らいすぎてもう…本当に…」


 頭の中で、茨木童子とヤトがしょんぼりしてる。

 違うよ、君たちではない。

 わんこのヤトもわんぱく茨木も沢山食べるが、そう言う次元じゃない奴がいる!!!


 

 

『オレはデカいからな』

「タケミカヅチ!お前颯人と大して変わらんだろ!」

 

『えー。背丈も筋肉も上だぜ』

『ワイは仕方ないやんな?天災やし』

「なゐの神は仕方ないじゃ済まないの!!タケミカヅチより燃費悪い!」

『えー。』


頭の中に響いているのはタケミカヅチとなゐの神の声だ。

 おかしいよな!?この前茨城県でさよならバイバイした筈だろ!?

 何で毎晩飯を食いにくるんだ!!酷い時は朝飯もだぞ!!!


 

 

「結局、全員芦屋さんの所に居るという事ですね。勾玉を下されたとはいえ、あれだけ距離が離れているのに…」

「そうなんだよ伏見さん!俺は切ない気持ちで別れを告げたのに!」

 

「真幸が規格外なのだ。作る食事も美味なのだから仕方あるまい」


 颯人がソファーに座ってため息をついてる。魚彦はその横で苦笑いだ。


 

 

「何で颯人はそこだけ納得すんの!?」

 

「真幸、めいんばでぃが颯人でそれと決闘をしてしまったからな…。

 タケミカヅチが言っていた軍門に降る、というのは眷属になるという事じゃ。

 さらに真幸の力を以て社を建てたじゃろ?それが原因で茨城とぜろ距離で繋がったんじゃよ」


「魚彦…マジ?」

 

じゃ。ワシもここまで真幸の力が強いとは思わなんだ。わーぷぽいんとと言うやつじゃのう」


 がっくし。俺のせいか…なんとなく納得できないが仕方ない。



 

「と言う事で賃金アップの件、本気でお願いします」

「かしこまりました。そう言う事でしたら食費は別で経費にしましょう。1日どの程度ですか?」


 伏見さん!神様!?流石ウカノミタマノオオカミがバディなだけあるよね!!

 俺は財布を取り出し、長ーいレシートを机に並べる。




 

「これが昨日の分、これが一昨日の分、それから…」

「………」

「これは帰ってきた日の分」

「帰宅したその日に来たんですか!?」

「はい。」

「今、顕現できます?」

「へ?できるけど…タケミカヅチ、なゐの神」

「「応」」

 

 二柱が姿を表し、顕現の時にだけでてくる金色の粒子が床に舞い落ち、消えていく。


 


「…芦屋さん、ちょっと待っててください。お二方はこちらへ」

 

「え?何でだよ」

「と言うか誰や?」

「私はあなた方の食費財布です。お話ししましょう。」

「「…はい」」


 二人を連れて奥の部屋へ入っていく伏見さん。なんか怖い顔してるな。食費財布て…。



 

「真幸、座れ。ここが空いている」

「膝の上は空いてるって言わないの」

「何故だ。我の膝は真幸の物だ」

「それこそ何でだよ…」


 テーブルを挟んで反対側に座り、山彦を喚んだ。颯人がむくれてるけど知らん。

 

「あるじ様っ」

「山彦、もふもふさせてくれるか?」

「いいよ」


 膝に乗せて可愛い癖っ毛を撫でて、癒しを感じてしまう。

 森の木々の香り…マイナスイオン出てるんじゃないか?


「ヤトが泣いてた」

「ヤトは朝撫でただろ?順番にしような。今は山彦の番だよ」

「うん!」



 山彦も本当は甘えん坊なのに、どうも人に譲ってしまうんだよな…遠慮しいなんだ。かわいいなぁ…。

 

 俺の家のルールとして、颯人と魚彦以外は普段顕現しない事になった。

 いきなりフルメンバーは統制が取りにくい。みんな一斉に俺を守ろうとするから、わちゃわちゃしてしまった経緯があってそうなった。

 

 茨城から帰ってきて約一週間。

 茨城組の大喰らい以外は慣れてきたな。


 はー、遅くなったが…現時刻 7:30。今日は妃菜の神降ろしをする日だ。

 颯人が降りてきたあの場所で斎主さいしゅ審神者さにわが俺、介添サポートが伏見さん、鬼一さんて感じ。

 審神者は翻訳者なんだけど妃菜には要らんと思うんだが。

 他にも数人見学が来るらしい。…若干嫌な予感はしている。

 あそこでやったら一番近くにいる、あの神様がやってきそうで。



 

 トントン、とノックの音。

 巫女服姿の妃菜といつものスーツ姿で鬼一さんが現れた。


「おはよう。もう着替えたのか?」

「おはようさん。せやでー」

「おはよう。勢揃いだな」


「奥に伏見さんとタケミカヅチ、なゐの神も居るよ」

「「えっ!?」」

 

「俺があいつらの食費で相談したらこうなりました」

「大飯食いなのか…と言うか何故だ?この前の事件が終わった後、別れたよな…?」

 

「要石が俺に繋がってるからワープして来れるみたい」

「あー、また真幸のせいやん」

「言い草が酷いよ!若干納得してないぞ俺は」


 妃菜がにこにこしながら隣に腰掛けてくる。長い髪をゆったり後ろで一つに縛って、白い上衣うわぎぬと赤い袴を履いて目尻を赤くしてる。やっぱ茨木童子のあれは巫女さんの魔除けメイクなんだな。



 

「なぁ、何か言うことあらへん?」

「えっ?何かって…?」

 

「普段と違う服着てるやろ!鈍チン!」

「お、おおう…失敬。妃菜は巫女服似合うな、綺麗だよ」

「…ありがとうさん」


 何の気なしに返事すると妃菜が真っ赤になってる。頭から湯気出てきそうだけど大丈夫か?相変わらず鬼一さんは生暖かい目をしてる。



「はぁ…はぁぁ…はぁぁぁ…」

「鬼一さん、何でため息三段活用してるのさ」

「何でもない。そのままでいてくれ…」

「ぬーん?」


 

 

「お待たせしました。鬼一も鈴村も居ますね。準備できましたか」

 

 奥のドアからツヤツヤした伏見さんが出てきた。

神様二柱はしおしおしてる。…何した?


 

「芦屋さん、二柱が夕食に訪れるのは3日に一度になりましたので。食費はこのカードをお使いください」


 手渡されたのは黒いカード。

 …えっ、何これ。

 表示名も番号もないんだが。


「決済できるのは芦屋さんのみです。触れていないと使用できませんので、お気をつけて」

 

「は、はい」

「二柱の顕現解いて頂いて大丈夫ですよ」

「はい…じゃ、またな」

「「オウ」」


 茨城チーム神様の顕現を解く。

 声ちっちゃ。伏見さんに怒られたのかな。たまに事務所から出てきてこうなってる人を見たことあるしな。



 

「さて、では神下ろしに参りましょう」

「俺、車回してきます」

「やっとこさ本番やで!きっと可愛い神さんが来るはずや!!」


 

 

 颯人と魚彦、俺は苦い気持ちになる。

可愛いと言えば可愛いのかな…うん。

 


「真幸?何でそんな顔してんの?」

「妃菜…オネェは好きか?」

「はい?何言ってんの?何の話やねん」


「「「はぁ…」」」


 三人でため息をついて、胡散臭い顔で笑う伏見さんを眺めた。

 絶対この人のせいだ。場所があそこになったのは。


 ━━━━━━



 


「真幸に釣られてきたら…小娘じゃないのっ!」

「はぁ!?あんた何言って…」

 

「うるさいのは好きじゃないわぁ〜真幸が良いのにぃ」

「何やて??あんたまさか…私かて真幸がええんやけど!!」

 

「あら、ライバルかしら?Aカップ卒業してからになさい」

「ちょ!あんた!乳のサイズバラすな!!私は成長期やの!!」

二十歳ハタチすぎて成長期??ないわ〜」

「ぐぬぬ…」

 


 現時刻、8:15。うん、予想通りだ。

 俺は白いフサフサ…大幣おおぬさって言うんだな。これで場を浄化して、祓い言葉を言い切る前に飛鳥が飛んできた。

 裏公務員の見学人は、途中で儀式が終わってびっくりしてる。

 参考にならなかったな、ごめんよ。

 


飛鳥あすか


 颯人が声をかけると、飛鳥大神アスカノオオカミがぴたりと止まる。

 ちろり、と横目で見てくる彼は相変わらず背の高いガチっとした感じだが、なんか唇がテカテカしてる。

 リップクリームでも塗った?なんで??


 


「お前と契約するのは鈴村だ」

「わかってるわよ」

「真幸のばでぃは我だ」

「わかってるわよ!!」


 妃菜と飛鳥大神のコントを見て、苦笑いしてしまう。颯人と一緒に祀られてるんだから仲良くしてくれよ。相変わらずだな。

 魚彦が俺の中に引っ込んでいるからツッコミ役がいない…俺がやるか。


 

「飛鳥大神、妃菜はいい子だよ。巫女さんとしての知識も陰陽師としてもちゃんと学んでる。会話できてるだろ?

 神様を降ろしてない状態でも任務を請け負って、頑張ってたんだ。協力してくれないか?」

 

「真幸が…言うなら仕方ないわ」


 眉を下げた飛鳥大神が渋々妃菜の元へ歩み寄る。

 二人でヤンキー座りしてヒソヒソ話し出した。ねぇ、神様みんなソレやるね?


 

 

「あんたもなんか」

よ。颯人に怒られるから言わないけどぉ」

「私は颯人様に言うたで。あんな、短期決戦は無理。あんたと私で同盟組まん?」

「根性あるわね…そう言うことならいいわ♡やりましょう」

「よし」



 どう言うことなんだ。何の話なんだ。

 鬼一さんの生暖かい眼差しを受けながら、俺はいつも通りハテナマークだらけになる。


「真名を鈴村妃菜。アタシの神力を与え主とするわん♡」


 飛鳥大神が光り輝き、姿を変えていく。

 ねぇ…何で光がピンク色なの?


 


「顕現はできるけど…ちびこいな」

「ふー。仕方ないわね。妃菜の霊力じゃこうなるわ。私が得意な物は知ってるわよね」

 

「知っとる。真実を見定めるってやつやろ?他に何ができんの?」

「バフがメインよ。暫くは我慢してあげるけどこのままのサイズだったら承知しないから」

「ハイハイ」


 肩の上にちょこんと飛鳥大神を乗せて、妃菜が走ってくる。一寸法師みたいだ!

 これならホントに可愛いな。颯人とも喧嘩しないだろうし、とてもいい!!


 

「おめでとう、妃菜」

「ありがとうって言っていいんよね?ありがとうさん」

 

「飛鳥大神とはまたすごい神を下ろしたもんだな」

「鬼一さん、一番まともなコメントだな。颯人もなんか言ってあげなよ」



 颯人は複雑そうな顔をして、妃菜に近付いてくる。


「…飛鳥を頼む」

「せやな、颯人様の側近やもんね?」

「そうだな」

「お任せください。あと、勝負はまだついてへんで」

「そうよそうよ!いいわよ妃菜!いけいけゴーゴー♡」


 

 うんざりした顔になった颯人が妃菜に背を向けて、俺に抱きついてくる。

 どしたんだ??


「魚彦に叱られる故、我も滅多なことは言えぬ」

「??何が?とりあえずこれで俺とマンセル組んでも大丈夫だな、伏見さん」

「はい、では早速」


 

 にこにこ笑顔の伏見さんがパサっと書類を渡してくる。またこのパターンなの…?



 

「巫女舞の研修・伏見稲荷へいらっしゃーい…」

 

「はい。芦屋さん、巫女舞を習いますよ。鈴村が得意ですから。それから、私の実家においでください。直接指名させて頂きます。」


「俺男なんですけど」

「私はかまへんよ!真幸と一緒なら」

「お、俺は?!」


「鬼一は私の留守居を頼みます」

 

「えっ!?ガックリ…」

「まさか…伏見さんも行かはるの?」

 

「ええ。鈴村の泊まり先は一旦ご実家へ。芦屋さんと颯人様、魚彦殿とその他は私の家へ逗留して頂きます」


 おぉう…伏見さんが出張るってことは結構な案件?まさか茨城の件で出てきた謎の陰陽師の話か?


 伏見さんが胡散臭いウィンクを飛ばしてくる。あー、これはどっちもな感じだな。理解した。


「今回は警戒しなくともよさそうだ」

「颯人、そう言うのフラグって言うんだ」

「ぬ…それは良くない」


 


 胡散臭い伏見さんの微笑み、妃菜と飛鳥大神の喜んでる顔、ガックリしてる鬼一さん。


 波乱がないといいんだけどね。

 手元の資料をめくり、ため息をついた。


 ━━━━━━


 

「次は16両編成の7号車です、こっちの階段が近いですよ」

「ハイ」


「チケットをどうぞ。特急券を無くさないように」

「ハイ」


「発車まで8分ありますので一服していきましょう」

「ハイ」


 


 カラカラコロコロ、キャリーカートに着替えを持って電車を乗り換え、最短距離で新幹線ホームへ。

 …何でこんなに細かく案内してくれるんだ。喫煙ブースの場所まで把握してるの凄いな。


「芦屋さん、マッチが残り少ないでしょう。どうぞ」

「あ、ありがとうございます…」

 

「良い加減突っ込ませてもらうわ!伏見さんどんだけ世話焼きなんや!?近いて言うても2.3分の違いやろ!?細かっ!!」


 ボーっとしながらタバコに火をつけると、妃菜が耐えかねたように叫ぶ。



 

「物事は効率よく行かないと。芦屋さんの貴重なお時間を頂いてるんですから」

 

「そりゃ、そうやけど。なんや真幸が一人でいるの珍しいから違和感あるし、伏見さんと仕事するのなんか初めてだし…落ち着かん!!」

「気持ちはわかるよ、うん」


 

 得意げにアメスピを口に咥え、ニヤリと笑う伏見さん。

 俺は素直に感心してしまっている。

 電車のどこに乗るとか考えた事なかったし。

 階段から近い車両とかどこから行けば最短距離とか何で知ってるんだ?

 伏見さんは車通勤の筈なんだけど。


 


「芦屋さん、私はあなたが来るまで馬車馬のように働いておりましたので。電車移動は慣れています」

「代わりに俺が馬車馬ってわけね」

 

「否定はできません。まさに感謝感激雨嵐ですよ。さて、そろそろ乗車しましょう。新幹線に乗ればゆっくりできますから」

「ハイハイ」

「真幸の周りは世話焼き女房だらけやんな…」

 

 うん、確かにそうかも。女の子は妃菜だけだがな!!



 

 今日は神様達みんな俺の中。電車乗り換えの回数が多いからだけど…仲良くしてるかな。颯人まで顕現してないのは初めてのことだ。


 伏見さんが新幹線の座席を向かい合わせに設置してくれる。手のひらで席を指して「どうぞ」された。

 えっ、窓側座って良い感じ?なんか凄い高待遇だな?


 

「芦屋さんの横は私です」

「なっ!?だ、ダークホース現る…」

「何なんだ?俺もそろそろ突っ込んで良いのか?何が起きてるんだ??」


 三人掛けの椅子を向かい合わせて伏見さんが横に詰めてくる。妃菜が悔しそうな顔で向かいに座った。



 

「六席とも押さえてありますから。お荷物はこちらへ。眠くなったら寝ても良いんですよ」

「ありがとうございます…てか妃菜じゃないけど何でそんな世話焼きなの?今回そんなヤバイ任務なの??」

 

「ヤバいと言えばヤバいですね。それは現地で説明します」

「ハ、ハイ…」



 

 現時刻 09:45 役所から電車を乗り継ぎ、東京駅から新幹線で京都に向かう所。 最終目的地は伏見稲荷大社…全国に3万社あるとされる稲荷神社の総本宮。そして伏見さんのご実家だ。

 新幹線のシートって結構ふかふかしてるんだな…背もたれに謎の枕がついてる。

 指定席だよな、ここ。何故6席取ったんだろう。

 

「こうするためです」


 伏見さんが立ち上がって柏手を打つ。

 あっ、そう言うことねー。結界張るならスペース必要だもんね。

 さっきから俺何も言ってないのに伏見さんは何故察してるの?颯人みたいに頭の中覗けるわけじゃないよな…?怖い。


 


「さて、京都駅到着は2時間8分後です。それまでに日程を確認しますよ」

「了解」


 カバンの中から書類を取り出し、伏見さんが肩を寄せて指を刺しながら説明してくれる。

 伏見さんやっぱ良い匂いするな…お香の匂いか?颯人の白檀とは違うすっきりした香り…。


 

「初日は稲荷山山頂の神蹟しんせきで社の建立です」

「あれ?神蹟に社がなかったのか…応仁の乱の焼失後、何度か建てた記録があったけど」

 

「よくお勉強されてますね。戦で焼け落ち、今は神蹟として残してあるのみです。あそこは何度社を立ててもダメになるんですよ」

 

「それで俺ご指名なの?」

「そうです。あなたが建立した要石の社は向こう千年は持ちますよ。さて、その後ですが…」


 千年か、そりゃ良かったよ。

 今回の任務は以下の通り。


 

 

 1 伏見稲荷大社にて神蹟しんせきに社建立。

 神蹟と言うのは社や祠の跡地のことだ。すぐダメになるなら何かしら理由がありそう。まずは調査かな。

 

 2 占い

 (先祖を辿る、現在の霊力測定、改善点の確定)…今回は俺の調査も兼ねてるみたいだ。

 

 3 はじめまして会

 説明がないんだが何これ。飲み会でもするのか?

 

 4 巫女舞修行 師範:伏見真子まこ、鈴村妃菜

 真子さんってのはご家族かな。

 いつかこうなるとは思ってた。運動は嫌いじゃないけど踊りなんかしたことないんだが。そもそも俺は巫女じゃない。でもなぁ、最初の武器がアレだったしなぁ…はぁ。


5 東京帰投前に三重県と千葉県に寄る可能性あり。…とんでもない移動距離だな…。ワープを提案しよう。そうしよう。こんな長時間電車に乗ったらお尻が三つに割れちゃうよ。

 どこでくだんの陰陽師話が出てくるかな…。



 

「占いでは現在の力を測らせて頂き、芦屋さんの改善点を見つけます。先祖を辿って力の元をはっきりさせれば、実力も次のステージに行けますから。他は書いてある通りです」

「待って。この初めまして会って何」

「お分かりでしょう。狐は日本酒が好きなんですよ」

「やっぱ飲み会かー。わー。」


 日本酒、嫌いじゃないんだけどさ。

 酔っ払うと酷いからなぁアレは。気をつけなきゃ。


 

  

「芦屋さん、髪の毛邪魔じゃありませんか?ワックスでは髪の重さに耐えられていませんね…目が悪くなりますよ」

「ひぇっ!?」


 下を向いて資料見てるから髪の毛が下がってきてるんだけど。

 それを伏見さんの指で耳にかけられて、微笑んだままの細目がじっと見つめてくる。

 な、な、な…何してんの!?


 

「猫っ毛ですね、柔らかいです」

「か、彼氏ムーブやめて…ドキドキするだろ」

「おや、それは良いですね。颯人様がいらっしゃらないので手が出し放題です」

「むむむ…」


 妃菜ー。目が怖いぞー。なんで怒ってるんだー。

 

 

「半分だけ縛ったらいかがですか?ハーフアップと言うんです。私の予備を差し上げますよ」

「え、あ、ありがと」

「やり方はわかりますか?」

 

「いや、髪なんて結んだ事ないからわかんない」

「では私が教えます。耳の上から髪を掬い上げて、後ろに少し引っ張れば良いんですよ」


 そっと髪の毛を結ばれて、視界が広くなる。おお、こりゃ良いね。


 

「あまり強く結ぶと頭痛になりますからお気をつけて」

「わかった。ありがとな」

 

「ワックスよりこちらの方がいいですね。凛々しい目がよく見えます」

「なっ、なんだよ凛々しいって…目つき悪いだけだろ」

「そんな事はありませんよ。私はあなたの目が一番好きです」

「そ、そう?ふーん…」


 

 

「二度目のツッコミ入れさしてもらうけど!何やねん!イチャイチャしすぎや!」

 

「鈴村、うるさいです。私は芦屋さんと共にいられる時間が短いんですよ。今日こそ晩の同衾とおやすみをいただく予定ですから」


「だから何で同衾なの!?颯人と喧嘩するなよ??」

「そう言えば颯人様が毎晩ご一緒でしたね…取引をしなければ…」

「何の取引なの!?ヤメテ」


 

 妃菜は何だかプンスコしてるし、伏見さんはニコニコしてるし、頭の中では蹇々囂々けんけんごうごうでみんなが伏見さんに文句言ってるんだ。ええいやかましい。



 

「あ、そうだ。お昼は駅弁があります。芦屋さんは出っ張りタコ飯がお好きでしたね。」

「な、何でそれを!?えっ?いつ買ったの!??」

 

「先ほど東京駅で。お茶はwow!お茶の濃いめです」

「どうして好みのお茶まで知ってるの?!」

 

「颯人様達の分もありますから。神様達は交代しながら順に昼食を召し上がって頂きましょう」

「はえぇ…至れり尽くせり…」


 


「私の分は…あるんやろか」

「ありますよ。豚肉ど真ん中と御膳ティーの無糖です」

 

「私紅茶は飲まんし、お肉よりお魚が好きなんやけどぉ…」

「何でも良いでしょう。あるだけマシです」

 

「扱いの差!!伏見さん差別やんか!」

「私の恩人と、目の上のたんこぶとで同じ扱いが得られるとでも?」

「くっ!?」

 

「そもそも私は芦屋さん専属ですから。あなたの『あずかり』ではありません」

「くうぅ…なんも言えへん!」

 

 うーんうーん。よくわからんけど伏見さんに高待遇を受けるのは怖いよ。絶対今日何かあるよな!?

  


「芦屋さんが食事の時は私も一緒にいただきますから。ゆっくりで良いんですよ。はい、どうぞ」

 

 


 ツボに入ったタコ飯を受け取りながら、俺は戦慄するしかなかった。

 

  

   


 

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