17年前の恋♡

二十歳になったばかりの私は、恋愛よりも友人やバイト仲間との下らなくも楽しい日々を過ごしていた。


「いやーー、まじで!酒が飲めるっていいよねーー」

「ほんと、それな!!つうか、水瀬みなせちゃんがこんなに男っぽいって知らなかったわ」

「どういう意味か全くわからんのですが?」

「いやーー、見た目がTHE女子って感じだから……。中身もてっきりそうかとね」

「人を見た目で判断しちゃ駄目だから」

「だねーー」


バイト先の先輩である宮村信子みやむらのぶこさんと飲むお酒は、特別美味しかった。

信子さんは、毒舌な部分はあるけど優しい人で!

私は、信子さんが大好きだ!

ちなみに、水瀬とは私の旧姓である。


ピリピリ……。


「鳴ってるよ!水瀬ちゃん」

「えっ?はいはい」


今では、懐かしいと呼ばれるガラゲーの折り畳み式を持っていた。

折り畳みをかっこよく開ける仕草に憧れて、一段のスライド式から変更したのだけれど……。

どうも、使いにくいのだ。


「ほっ、はっ、ほっ」

「水瀬ちゃん、何やってんの?」

「あっ」


下らない事をしてるうちに電話は切れてしまった。


「何やってんのよ。かけ直しなよ」

「あーー、すんません」


当時は、今と違って通話料が高かった。

だから、相手から掛けてきてもらった電話に出なければ勿体なかったのだ。


着信履歴を見ると【早川結愛はやかわゆあ】と出ている。

まじかーー。また、男絡みか?

仕方なく結愛に電話をする。


プッ……プッ……プルルル……


「もしもし、一葉。今大丈夫?」

「えっ、あっ、うん」

「あのね、あのね。私、もう消えたいよぉぉぉーー」

「えっ?どうした?何かあった?」

しん君がね、真君がね」

「うん」

「とりあえず、今から来てよぉぉ。待ってるから」

「えっ?今から……わかった」


プー、プー。

電話を切って、私は信子さんに事情を説明して居酒屋を出る。

行きは漕いでやってきた自転車を押して歩くのが苦痛だ。

一時期、結愛と離れていたのに……。

結愛の母親が私と結愛を再びくっつけたのだ。


電話の内容は今でもハッキリ思い出す事が出来る。

【男に殴られて結愛が死にたいと言ってね、私と喧嘩になったの……。それで、家を飛び出したきり二日も帰ってこないの。一葉ちゃん知らない?】


結愛と離れられた私はせいせいしていたのに……。

母親の深刻そうな言葉には敵わなくて、仕方なく結愛に連絡した。

私からの電話に出た結愛は、何事もなくあっけらかんとしていて、お母さんが心配している事を伝えるとその日の晩には家に帰ったのだ。

結愛の母親は、一葉ちゃんの言葉だったら結愛はいつも聞いてくれるからと偉く感動し……。

結愛とずっと仲良くして欲しいと頭を下げられた。

その結果、私は結愛とまた友人に戻ったのだ。


「つうか、重い。めちゃくちゃ乗りてーー」

「乗ったら切符切らないと駄目になるからね。やめなよ」

「ゲッ……。は、はーー、乗りませんよ。押して帰ります」


いつの間にか、警官が後ろに居て驚いた。

仕方なく自転車を押して歩く。


「気をつけてね」

「は、はーーい」


ふらふらの体で自転車を押すとペダルが脛に何度も直撃して激痛だ。

結愛からの電話があるなら、飲まなきゃよかった。

自転車なら、10分もあればつくのに……。

しんどい重いをしながら、何とか結愛の家の下についた。


「はぁ、はぁ、はぁ」


息を切らしながら結愛にメールを送る。


【下についたよ】


既読されようがされまいがわからないのが不便だった。


「暫く待つかな……」

「あれーー、何してんの?」

「あっ、えっ、友達待ってて」

「へーー、そうなんだ。久しぶりだね!元気してた?」

「あっ、はい。あきら君も元気してました?」

「してた。してた。あっ、ごめん。彼女来たから行くわ!またね、バイバイ」

「バイバイ……」


さらっと傷つける一言を言って晃君はいなくなった。

高校に入学してから、私は晃君が好きだった。

何度か告白したけれど、フラれてしまい……。

何故か時々、こうやって会うと話しかけてはくれるのだ。


「友達でいたかったなーー」


本当は付き合えなくても、晃君の隣で笑っているだけでよかったのかも知れないと今さら思ってしまった。

涙がポロポロ流れ落ちる。


「ハンカチ……ハンカチ」

「はい」

「あっ、結愛。遅かったね」

「ごめんね。ちょっと寝てた」

「そっか、そっか。別にいいよ」

「一葉が泣いてるって事は、また晃君に会ったの?」

「あっ、うん。今さっきねーー。いい加減、前向けよって感じだよねーー。ごめん、私の話はいいよね。それで、結愛は何かあった?」

「真君が、浮気してたの!」

「えっ!マジ!あいつ最悪だな」


真君とは、私と結愛が一緒に取り合った男だった。

晃君にフラれて優しくしてきたのが、真君で……。

気付いたら好きになってて……。

そしたら、結愛も好きになったって言われて。

ライバル宣言して、お互いにやりきった結果。

選ばれたのは、結愛だった。


選ばれなかった私は、グループから離れ、結愛から離れ……。

信子さんと楽しい日々を過ごしていたのだ。


「一葉、どう思う?別れた方がいいかな?」

「最後に決めるのは、結愛だけど。そういう奴って一回許したら、またするじゃん。って、浮気相手にもよるかな?」

「浮気相手は、志乃しのちゃんなんだよ」

「えっ?マジ!そんなの一番最悪じゃん。私は、許せないわ。別れるね、絶対」


志乃ちゃんは、同じグループの女の子だ。

真君が志乃ちゃんと浮気したって事は、それを許してしまえばまたしちゃう可能性があるって事。


「ってか、真君。一葉の事、可愛くてやるだけならやっときゃよかったってさとし君に言ってたらしいよ」

「えっ?」


私は、今。

さらっと結愛に傷つけられた。


「うちと出会う前なら一葉だったわーーとかって言ってたって酷いよね」

「あっ、うん」


一葉だったわ?

何だそれ?

どんだけ自分をイケメンだと思ってんだよ!

クソが……。


「やっぱり別れた方がいいよね?」

「そんな奴、別れた方がいいよ」

「真君ね。本当に一葉を気に入ってたみたいだよ!顔がタイプだって、よかったね」

「よかった……?いや、別に私はもう何も思ってないから」

「だよね!一葉は、晃君だもんね。それを智君に話したら智君が真君に言って……。何かあのグループの中で、一葉パン子になってたよ」


マジで!何なんだ!あの男……。

誰がパン子だとこの野郎。


「まあ、別にあのグループに絡む事は高校辞めたからないからいいけど」

「だよね!あっ、うちも辞めるから真君と別れよう」

「結愛も辞めるんだ」

「一葉がいない学校なんか面白くないしね。あっ、それで話は変わるんだけど……。今週の日曜日暇?」

「日曜日?ちょっと待ってね」


鞄に入ってるシフト表を確認する。何故か今週の日曜日は、たまたま休みだった。


「バイト休みだわ」

「じゃあ、合コンしよう」

「合コン?」

「うん。って言っても、お母さんに飲みに連れられた先の人なんだけどね。失恋の傷には新しい恋がいいでしょ?一葉も晃君忘れて進まなきゃ!」

「あっ……うん。そうだね」


結愛に連れられて、出会ったのが凛音りおん君だった。

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