第3話

「そうだ、北海道ほっかいどうくん。ビールは飲めるかね」

 食事を進めていると、彼女の父親が缶を突き出してきた。訊いている体ではあるけど、断りにくい状況にしてきた。

「ちょっと、あなた。藤美とうみと同じ学年だからマズいわよ」

 ありがたいことに俺が返事をする前に彼女の母親が止めてくれた。彼女から話を聞いていて、それをちゃんと覚えていてくれたおかげで飲まされずに済みそうだ。醜態晒しかねない状況は免れそうだ。

「大丈夫よ。北海道ほっかいどうさんは1年浪人しているから、もう二十歳みたいなものよ」

 母親の援護射撃を打ち落とすな。せっかく断れるチャンスを不意にするな。

「そうなのかい」

「そうですね。来月で二十歳になりますが、今はです」

 法律を守りましょうという意味合いを込めて、年齢を強調して、質問に返した。この話を終わらせにかかった。ビールは1人で飲んでください、と口にするかのように彼女の父親に言った。

「でも、イブも昨日もお酒飲んでいたじゃない。私は飲んでいないけど」

 しかし彼女が邪魔をする。

 またしても余計な援護射撃をしてくる。

 2回もしてくると、これはワザとだよな。遅刻した腹いせをここに持ってきていないか。余程、許せないことなのか。彼女の両親の前で恥だったり、迷惑だったり、かけさせたいのか。

「いや、飲みはしたけど、それはだし。定員さんが持ってきたものを口にしただけだから。飲んですぐに気づいて、止めたでしょ」

 だからと言って、流されない。

 抵抗する。飲まない方向に話を持っていく。意図的に飲んでいないことを強調して、彼女の言葉を正していく。

「それに今日は帰す気はないから。危ない中、そんな真似はさせないから」

 止めを刺しにくる彼女。普段なら間違いなく嬉しいことなんだろうけど、それは自分の家で言ってほしくなかった。彼女の両親がいる前で気兼ねなくできない。激しいこともできないし、やったらやったで、お盛んな夜だったねえ、とも言われたくない。ハジケられないよ。

「それでしたら…その…いただきます」

 観念してビールを口にした。退路は断たれたようなものだから、彼女の父親から缶を受け取った。ヤケクソで仰いだ。

 もう頑張るしかない。下手に酔っぱらって、彼女の両親に嫌われないように心がけるしかない。タガが外れて、暴れないように気をしっかり持つしかない。俺と彼女との関係を終わらせにかかる要因を生まないよう、努力するだけだ。

 そう心に決めたのだった。

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