第2話

「口に合いますか分かりませんが、どうぞ」

 かまぼこ・数の子・黒豆・なます・栗きんとんなど、おせち料理が目の前に並べられている。お雑煮もあり、正月料理の定番と言えるものが揃っている。

 さらにハンバーグ・唐揚げ・ポテトフライなど、時期的に全く関係ない料理も机に置かれている。

 もう、これはあれだ。今日、彼女は俺を招く気満々だったようだ。俺は聞いちゃいなかったが、この用意のよさを見ると明らかだ。

 つまり俺が断れる選択なんて、始めからなかったわけだ。

 遅刻した後ろめたさに付け込む算段がなくても、俺を連れ込む算段はあったようだ。

 たくさんの料理を作ってあるから、私の家に来て。無駄にするのも悪いから、来ないなんてありえないよね。もし来てくれなかったら、どうなるか分かるよね。

 なんて展開が軽く思いつく。機嫌が悪くなる未来が想像できる。

 なんて悪辣なんだ。及び腰にならないよう、彼女は敢えて黙っていたんだろうけど、これは質が悪い。まだ事前に教えてくれていた方がよかった。心の準備をしておきたかった。どうせ招かれるのなら、きちんとした状態で臨みたかった。

「どうかしました?何か苦手の物でもありました」

 彼女の母親が心配そうに声をかけてきた。返事をしない、料理に手を付けようともしない俺を気遣ってくれた。

「ああ…いえ、そういうことでは…そう、ちょっと緊張してですね」

 黙ったままでいるのはマズいので、自分の気持ちを正直に言った。心証を悪くしないためにも言葉を紡いだ。

北海道ほっかいどうくん、遠慮することはない。どんどん食べなさい。ここを自分の家だと思って、畏まらず、くつろぎなさい」

 彼女の父親は俺を解そうと声をかけてくる。くつろぎにくそうな空気を変えようとする。

 しかしそれは逆効果だ。

 やりなさいと言って、どうにかできるなら、苦労はしない。余計、動きが固くなる。意識してしまう。

 こんな気まずい空気の中、ゆっくりとくつろげる奴がいるなら、連れてきてほしい。ちょっと見本みせてほしい。

 それよりもだ。俺の呼び名は、いつの間にか、北海道ほっかいどうに決まったようだ。迷った挙句、北海きたうみでも道三とうみでもなく、愛称にしたようだ。

 彼女と名前が被っているから、紛らわしくて、そっちで呼ぶことはないんだろうとは思っていたけど。なんでもいいわけだが。

「ええ…ではいただきます」

「「「いただきます」」」

 特に指摘することなく、俺が口火を切ると、彼女らも倣って、食事をし始める。取り皿に料理を移して、口にしていく。

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