元旦から始まる不幸②

M-HeroLuck

第1話

「この人、私の彼氏、北海道三きたうみとうみさん。それで北海道ほっかいどうさん、こっちは私のお父さん、お母さん」

 元旦の夜、彼女の実家、山岡やまおか家にお邪魔した俺に自分の両親を紹介する彼女。新年早々、家族水入らずの空間に全く面識のない俺が割り込むのは正直気まずい。

「は…初めまして。藤美とうみ…さんと、つ・つ…付き合わせていただいてます、北海道三きたうみとうみ…です。そのお、新年からですね…お邪魔して、申し訳ないです」

 すげえダメだわ。冷や汗出るわ。言葉遣い、なんか怪しいわ。

 いや、早すぎなんだよ。俺たち、まだ1ヶ月ちょいしか付き合っていないんだぞ。結婚前提で付き合っている関係でもないんだぞ。遊び目的ではないけど、わざわざ紹介する必要はないと思ってんだが。

「北の海に道が三つ、という字だから、北海道ほっかいどうさん、って、みんなから呼ばれているの」

 彼女の両親が混乱する中、俺の名前を彼女が解説する。こっちの気持ちを知らないまま、話を進めていく。

「ああ…なるほど、そういうことか」

 辛うじて、彼女の父親がリアクション取ってくれたが、どっちで呼べばいいか、迷っているじゃないか。

「北海道だけど、福岡出身だけどね」

 余計な一言のせいで状況をさらにカオスにしていく彼女。名前と愛称のせいでメチャクチャなのに、そこに出身地まで足すと、ホント、わけが分からない。

「ああ…」

 やっぱりじゃないか。俺のせいでスベッたみたいな空気になったじゃないか。

 どうすんだよ。耐えられないわ。一刻も抜け出したいわ。

 でも帰れない。

 彼女の機嫌を損なえないから。別れ話に持っていきたくなかったから、抗えなかった。受け入れるしかなかった。

 初詣デートでやらかしがなければ、拒否できたんだろうけど。

 約束の2時間近く、彼女を待たせ、怒らせなければ、家に行くこともなかった。それとなく、断る選択もできたはず。言うことを聞かざるを得ない状況でなければ、どうにか回避できたと思える。

 はあ、こんなことなら、彼女に任せなければよかった。

 お詫びを兼ねて、どこかに付き合うよ、と言わなければ、こういう流れにはならなかった。カラオケだったり、買い物だったり、食事だったり、でご機嫌斜めな彼女を宥めようとすれば、この展開だ。

 強引にでもこっちが引っ張ればよかった。元旦だから休みの店が多かったり、店が混みあっていたり、目玉イベントが終わっていたり、と行けるところが限られていたにしても、それでもこれよりかはマシだったと後悔する。

 そんなことを思ったところでもどうにもならないわけだが、それでも尚。

 遅刻した当てつけで招いたんじゃなかろうかと勘繰るほどに頭を悩ませる。この後、どう乗り切っていこうかと。

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