第6話 オーバードーツの未来

 松前は笑顔で私に言った。

「今回の件で、僕は女性を大御所にあっせんするという悪者扱いだった。

 僕は、坂元ゆうじの隠れ蓑でしかなかったんだ」

 私は、首をかしげながら答えた。

「厳しいことを言うようだけど、マスコミの目には、松前ひできはその程度のタレントでしかなかったと、思われていたのね。

 これからは、坂元ゆうじクラスのスターになってほしいな」

 松前は、それに答えるように

「ビンゴだよね。僕もいつまでも、大御所の陰に隠れる程度のタレントに甘んじる気はさらさらないよ。まあ、そういったタレントは一年ももたないものな。

 これからは、オーバードーツや不登校の若者を笑わせるような、話術を磨いていきたいな」

 この頃は、不登校の生徒の新しい行き場所をテーマにした番組が登場してきている。松前の目のつけどころは、当っているに違いない。


 松前が解散の音頭をとった。

「今日の集まりが、明日からの活力になれば、幸いです。

 解散のための乾杯をしましょう」

 すると、ニューハーフは全員、水商売特有であるグラスを斜めに傾けて乾杯した。

 私もゆりも、そして松前も同じポーズの乾杯をした

 

 帰り道、橋本ゆりが告白するように言った。

「私、松木さんに初めてあって、掃除をするとき

「あんた、ここ掃いて」などと言ったでしょう。 

 あれは試し行動だったんですよ」

 試し行動というのは、大人に向かってわざと乱暴を言葉を吐き、大人の心を開かせるのが目的であり、ひとつの手段である。

 私はある疑問を、ゆりにぶつけてみようと思う先に、ゆりの方から口を開いた。

「オーバードーツを続けていれば、少年院に行ってたかもしれない。

 でもここのオーナーが、私の面倒をみるということで、私は更生真っ最中。

 もう二度と、オーバードーツはしないつもりよ。

 だって、私の身体はもう私だけのものじゃなくて、イエス様の宮だもの。

 私は半年前に、キリスト教会で洗礼を受けたのよ」

 私も、ゆりを励ますように言った。

「えっ、ゆりちゃんはクリスチャンなの? 実は私もよ。

 そうね。オーバードーツから麻薬へと走るケースが多いというし、悪党は女性を売春に利用するのが目的で、甘い言葉で狙ってくる。

 性病になると、目に見える梅毒だけではなくて、脳にくる場合もあるのよ。

 そうなっちゃ、廃人同様になっちゃうよ」

 ゆりは、元気よく言った。

「それと同じ言葉、オーナーから耳にタコができるほど、聞かされたわ。

 でも私には、イエス様がついているから大丈夫です」

 私は思わず、

 「誰でも一歩間違えれば、オーバードーツになる危険性はあるわね。

 勉強ばかりの秀才がなるケースもあるというわ。

 私もゆりちゃんも、リミットあるこれからの人生は神と歩んでいくしかないわね」

 

 私たちは、手を組んで祈りながら、ゴスペルを合唱した。

   私は主にふれられて 新しく変えられた

   イエスの恵みを ほめ歌おう 私は変えられた

   イエスの恵み、イエスの愛 なにものにも代えられぬ

   主を愛して主に仕えよ 新しい心で

   イエスの御名をほめ歌おう 私は変えられた

 

 ネオンの輝く街に、私たちのゴスペルは響き渡り、天まで届く予感がした。


 (完結)

 

 

 

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大物お笑い芸人のスキャンダルの真相 すどう零 @kisamatuma

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