第134話 説明を終えた後の


「それで、豚になった陛下だけど」

「普通は聞かない言葉よねそれ」


 なかなかのパワーワードだ。

 太ったのだとしても暴言だし、本当に豚になるとは誰も思わない。


「小さな檻に入れて公爵同様の長期療養させることにしたよ。その間に色々手を加えるつもりだ」

「それ改革って言わない?」

「陛下が復帰するまでの一年間、代理で取り仕切るだけさ。乗っ取りじゃないよ。過去にも歴代の王太子が王位継承前に代行したことが何度かあるし、それと同じだよ」


 つまり、呪いは一年で解けるということだ。スタンが期間を明言したのだからそういうことだろう。

 しかしやっていることは政権の乗っ取りではないか。息子の立場らしいが、話を聞く限り方針はだいぶ違いそうだ。王太子が代行した前例があるとはいえ、果たして許されるのか。


「ええ…王妃はどうしたのよ。こういうときって王妃が代わりに政治をするんじゃないの?」

「ああ、やっぱりメイジーは知らないのか」

「何よ」

「まあそれはあとで説明するとして」

「今説明しなさいよ!?」

「そうそう、王妃が陛下の呪いをキスで解かないのは、エヴァの苦労と周囲の怒りを存分に味わって貰うためだよ。ちなみに僕に来た報せはこれだね。陛下が無事呪いにかかりましたって報告」

「だめな文面じゃないのそれ」


 無事に呪いにかかりましたって確実に悪役が使う言葉よ。しかも相手は最高権力者。見つかったら投獄されちゃうくらいの重罪。

 だというのにスタンの笑顔は変わらない。何こいつ。


「みんな見るに見かねていた、ということかな。大丈夫。然るべきときが来たら、ちゃんと陛下にお返しするさ。いずれ僕の座る椅子だけど、それは今じゃない」

「…元に戻った陛下にプチッとされるんじゃない?」

「そうならないようにこれから一年、陛下には反省して貰わなくちゃね」


 呪いが解けたあとに反抗しないくらい心を折るってことよね、これ。

 豚になっただけじゃなく、これからネチネチ虐められるらしい。しかしそれだけのことをしているのだから、同情するつもりはない。

 陛下という肩書きがあるのだから、それに相応しい言動を心がけてほしいものだわ。特別がどうとか言う前に。特別になりたいならそれ相応の結果を出すべきだし…それは娘のエヴァが担うところではない。

 陛下はそのあたりを、豚になったあとでもしっかり自覚して欲しい。


「さて、大部分は説明したかな。公爵夫妻のことは夫人が戻ってこないとわからないし」


 とか言いながら結果をわかっていそうな男、それがスタンだ。色々予想を立てて、お母さんがなんて返すかも想像がついているんだろう。私は離婚希望だからもうそれしか考えられないわ。


「まあ…だいたい聞けたかしら。聞いていないこととか、落ち着いてからじゃないと思いつかないわ」

「それもそうだね。いつでも聞いて…ああ、でもこれも気にしていたね」

「なんかあったっけ」

「王妃のことだよ」

「ああ」


 陛下が療養するなら政治は王妃の出番じゃないのか、という疑問か。

 疑問だった。だってこの国のナンバーツーに値するんじゃないの? 王妃様って。

 私の疑問に、スタンはにっこり微笑み。


「メイジーは王妃の条件を知っている?」


 その問いかけに。

 私とスタンはほぼ同時に立ち上がった。


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