第133話 セルフ国外追放
「勿論すぐには信じなかったから、信じられるように助言をしてあげたよ」
「…どんな?」
「実際に陛下を呪ってみて、その解呪に誰を求めるか試してみればいいと伝えたんだ」
陛下が君を愛しているなら、君に口付けを請うだろう。愛があれば呪いは解けると信じているのだから、愛があれば間違いなく君を求めるはずだ。
彼女はスタンの言葉に納得して、王宮へ向かった。
「そう、エヴァにこんなこと求めず、自分で証明すればよかったんだ。自分は聖女の末裔だと誇りを持つなら、自分で呪いに打ち勝てばよかった。そうすれば歴史に名を残したアルバート王と王妃イヴのように夫婦で歴史書に名を連ねることができるんだから」
それをしなかったのは、愛を信じるのが怖かったから。
真実の愛を娘に求めながら、自分はそれを避けていた。
だからスタンは親切に、魔女に王を呪うよう誘導してあげたのだ。
彼が真実の愛で呪いを解けるように。聖女の末裔だと誇りを守れるように。
(…どっちが魔女かわからないやりとりしてんじゃないわよ)
魔女を唆すってやっぱりこっちが悪役じゃないの。
「それって反逆にならないの? それを危惧していたんじゃないの?」
教唆罪っていうんでしょ。知ってるわよ。
「僕は真実の愛を確かめ合う男女の手伝いをしただけだよ」
とてもいい笑顔だけど、視界の端でモーリスが青い顔をしているからだめな奴じゃないの。
「…というか、魔女は放置なの? 捕まえた意味は?」
「陛下への処罰は彼女の協力が必要だったから、これでいいんだ。陛下には呪われ続けるエヴァの恐怖と疲労をしっかり味わって貰わなければならないからね。勿論、メイジーの分も」
しっかり怒って根に持っているらしいスタンは、晴れやかな笑顔だった。
「だから陛下には豚になって貰ったんだ」
晴れやかな笑顔でとんでもないことを言ったわこいつ。
スタンが受け取った報告書によると、スタンの言葉を疑いながらも魔女は素直に陛下に呪いをかけたらしい。
それは姿を変える呪い。一目で呪われたとわかる、上級の呪いをかけた。
呪いをかけられた陛下は仰天して、目の前の魔女から逃げた。
助けてくれと縋ることもなく、一目散に魔女から逃げた。
――――普通そうだ。呪いをかけた相手に近付くわけがない。つまり攻撃してきた相手なのだから、縋り付くわけがない。
しかしそんな当たり前が通用せず、スタンからの誘導で愛があれば解呪のため頼られると思っていた魔女は、そこに陛下の本心を見てぶち切れた。
そう、自分は愛されていないのだと。騙されていたのだと。ぶち切れた。
彼女は陛下にかけた呪いをそのままに、国外へと飛び出した。
国外逃亡だ。あっという間に城を飛び出し、国を出たと連絡が来た…らしい。
「…ちょっと、私そいつまだ殴ってないんだけど!」
「それはごめんね。でも同時に対応しないと逃げられるから」
「逃げられてんのよ国外に!」
「こちらとしては出て行ってくれて助かったかな」
「逃げられてんのよ!?」
「だけど魔女は、自然災害みたいなものだから」
「は?」
「呪いに精通している分、一つ二つと常識が抜け落ちているんだよね」
魔女は自然災害のようなものだと思っているスタンは指名手配だけして、追いかけなかった。
彼女への罰は、二度とこの国の土を踏めぬこと。指名手配は国内のみで、見つけた場合は処刑するとはっきり報せを出した。
他国に罪人として通達もした。問題を起こすようなら処して構わない、と一言添えて。
「呪いが重宝されているのはこの国ぐらいだ。他国で同じことをするならすぐ処刑されるよ」
ここで見逃したのは、最高権力者の命令に逆らえなかったと言われる可能性を考えた上での慈悲である。
そこから先は、魔女の責任だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます