第130話 思ってた以上のごり押し


 解された手をもう一度きゅっと握ったら、スタンの親指を握る形になってしまった。

 ちょっと退いてスタンの指。そのまま包むように握り込まないで。なんで大して力を込めていないのに動けないのかしら。私が手を負傷している所為?


 数秒無言で抵抗したけれど、スタンに笑顔で制圧された。この野郎!


「まず公爵。認知していなかった子供の存在は家庭の事情として説明されても、その後の対応がよくなかった。メイジーがマーガレット・エフィンジャー公爵令嬢として生まれ育った書類をねつ造したのは、経歴詐称に値する。素直に事情を説明して受け入れたらよかったのに、夫人が外に出ていた事実を隠蔽するために事実を偽装した。これは許されることではない」

「私の経歴を偽装したのはなんで?」

「都合がいいと考えたんだろうね。そんな娘は知らぬと突っぱねるより、娘と認めた方が君を僕に押しつけられると思ったんだろう。そして君が語る事情を家出娘の戯れ言にするため、君が公爵令嬢である証拠が必要だった。公爵夫人が駆け落ちをして子供を生んで育てたなんて、本当に君が公爵の娘だとしても疑惑と醜聞がついて回る。公爵はそれを防ぎたかった…つまり【妻のため】だよ。公爵が一方的によかれと思ってしたことさ」


 ちょっと前半言っている意味が分からなかったけど…ようは外で生まれて育った娘が公爵の子供とは限らない、なんて疑惑と醜聞がお母さんを苦しめないようにした処置、ってことかしら。

 本気でお母さんのことしか考えていないのね。お母さんがそれを望んでいたかとか、そんなことは関係ない…のよね。

 そんな男がお母さんと何の話をしているのか気になるけど、まずはそんな男の処分がどうなるのか知りたいわ。

 表向きはそのままって何よ。


「まず一つ。エフィンジャー公爵家の取り潰し」

「えっ」

「彼は最愛の妻のために偽装工作した。これからも書類偽装の疑惑はついて回るから、いっそいらない。急病のため長期療養を言い渡したよ」

「アンタ公爵に仕事して欲しくて今回色々動いていたんじゃないの」

「その通りだけど、仕事ができても信用できなければいらないな。公爵は病気になって自宅療養。跡取り教育に専念して貰うことにした」

「跡取りって…いるの? 私は拒否するわよ」

「大丈夫。わかっているよ」


 そう言って繋いだ手を軽く揺らした。

 放してくれない?

 というか取り潰しって言ったのに跡取りの教育って矛盾していない?


「分家はいくつか存在するけど、今回の件にまったく気付かなかった、もしくは諫めることのできなかった輩ばかりだ。そこから跡取り候補は選べない」

「貴族って血のつながりを重要視しているんじゃないの。教育って言うんだから、教育すればいいことじゃない」

「うん、血のつながりは大事だ。【王家との繋がり】がね。エフィンジャー公爵家は王女の降嫁や第二、第三王子の婿入りで【王家の血筋】を守ってきた家なんだ。だから、この家に王女が降嫁すれば面目は保たれる」

「…ううん?」

「公爵には養子をとって貰い、彼を跡取りとして教育して貰う。そしてその婚約者に王女…イヴァンジェリン王女を据えて、公爵家の目的である【王家の血筋の存続】を続行させる。事実上今まで続いてきたエフィンジャー公爵家は取り潰し、まったく新しい形で【王家の血筋】を公爵家で繋ぐことにする」


 ううん?


「簡単に言えばこの事件の有耶無耶でエヴァの恋人のピーターを公爵の養子…メイジーの義弟にして、エヴァを公爵家に降嫁させて、恋人達の身分差をなくして婚姻させようとしている」

「身分詐称がどうのとか言ってなかったぁ!?」


 これは詐称に入らないわけ!?


「エヴァが公爵家に嫁入りすればエフィンジャー公爵家の目的自体は遂行できるが公爵家には相手がいない。なら相手を作ればいい。ピーターは子爵家だけど、愚かではないから教育すれば公爵家の当主にもなれるさ」

「それは無茶振り過ぎない!?」

「王女を望むとはそういうことだからね」


 そうね身分差を気にしていたわね身分高いのはエヴァの方だったわけね!

 その解決法がごり押し過ぎないかしら!?


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